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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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442 「復路(1)」

 現実では、2学期の中間試験が徐々に近づいているくらいで、ここ数日特に事件はない。

 ハルカさんのお母さんからの返事を待つくらいだ。


 一方で『夢』の方は、『帝国』に向けての旅が始まったけど、往路ほど簡単ではなかった。

 何しろいくつかのチェックポイントがある。


 まず目指したのは、ノヴァ郊外のレイ博士の館。

 ここで博士が長期の旅で必要なものを色々と積み込んだ。

 中には貴重な魔導器、試作型のゴーレム、かなりの量の純度の高い魔法金属などがあった。

 けど滞在時間は1時間ほどで、屋敷を厳重に封印した上にゴーレムの警備を増やして再出発となった。

 そしてそこから2日かけてウィンダムを目指す。


 本格的な航海の始まりだ。

 けど、そこから航路短縮を狙って魔の大樹海を進んだら、魔物の群れに襲われてしまった。

 最初は燃え続けている樹海の絶景を楽しんでたけど、10体以上の魔物が操る翼竜と獅子鷲の群れが襲いかかってきた。


 見る限り、どうも慌てて攻撃してきた感じで、軍用飛行船の出現をノヴァの軍の新しい行動と勘違いされたのではないかというのが、レイ博士やホランさんの推論だ。

 けど、結果として大した事はなかった。


 不意に発生した空の戦いは、魔力が一気に増えたボクっ娘とヴァイスの独壇場だったからだ。

 そしてボクっ娘自身も今の自分の力を測りたいからと、オレを背に乗せずに戦いにいった。


 それでも当初の作戦では、飛行船におびき寄せて弩や弓、魔法で数を減らす予定だったけど、その必要すらほとんどなかった。

 ヴァイスが魔物の群れを機敏に通過する度に、1騎また1騎と数を減らしていった。

 途中から飛行船側の迎撃組が、ただはやし立てるだけになっていたほどだ。


 それでも魔物は3騎がかりの挟み撃ちを仕掛けてきたけど、ヴァイスの方が戦闘速度が大きく優っているので、獅子鷲では相手にもならなかった。

 速度だけなら翼竜が対応できるけど、翼竜は格闘戦能力が低い。


 そして半数以下になると魔物の操る空の騎士達は逃走に入ったけど、速度差が違うのでさらに追撃を続行。

 結果として獅子鷲乗りの全滅を始め、8割ほどを叩き落としてしまった。

 その間わずか10分ほどの出来事だ。



「なんだあの強さは?」


「ですね。シュツルム・リッターの戦いは初めて見ましたけど、ショウさんの話ってむしろ控えめなくらいだったんですね」


 レイ博士とリョウさんが、口をポカンと開けてる。


「まさに白い悪魔。『圧倒的じゃないか、我が軍は』であるな」


「なんです、その厨二病なセリフ」


「有名な古いアニメからの引用なんだがな」


「でも、『帝国』で8騎のドラグーンを一瞬で全滅させたのも、本当だったんだね。これを見たらそうだって思えるよ」


「あれはオレ達自身も少し驚きました。魔物側が、こっちの手を初見だったから出来たんだと思います」


「いや、初見で戦闘など戦争ではよくある事だから、ガチで圧倒は十分以上に凄いぞ。もう、『第十三独立部隊』を名乗るしかないな。母艦もできた事だし」


「それ前も聞きましたけど、やっぱりアニメネタですか?」


「うむ、そうだ。船の名前も木馬とかホワイトベースとかに変えんか?」


「何話してるのー!」


 艦橋で男三人が駄弁ってたら、戻って来たボクっ娘が並行飛行してきた。


「ご苦労さん! レナが凄いって話してたんだよ!」


「ボク自身も驚くくらいだよ。これがSランクのパワーなんだねっ!」


「そうなのかもな。それより魔物は逃げたし、船に戻れよ!」


「そーするー!」



 戦いはそれだけで、念のため樹海上空では高度を高めにとった事もあって、樹海を抜けるまで何事もなく過ぎた。

 そしてさらに一日後、オレにとって二度目のウィンダムへと到着した。

 けどここでやる事は、この旅の間はキューブ状態で運んでいたアイを覚醒させる事にある。

 そして『帝国』でのミカンの覚醒の例からすぐに終わる予定なので、すぐにも出立予定だった。


 寄付を積んで儀式に必要な聖堂の一つを借り、クロが指示を出してハナさんとレイ博士が処置を行うと、ものの数分で覚醒が完了。


 そうして人型にさせてみると、今まで人型になっても甲冑姿だったものが、美しい女性の姿となった。

 容姿はやはり他のキューブ同様にどこか人形めいている。

 一瞬だけ、藍色のお尻を超えるほどの超ロングヘヤーとなったけど、人型になる過程でその髪が半ばひとりでに髪型を形成して、器用に編み込んだ形になる。


 それなら最初からショートヘアなりで構わないのではないかと思うけど、初期設定のようなものの筈だから、文句をつけても仕方ないだろう。

 それに害もないし気にしても仕方ない。

 また、魔力で作った仮初めの衣装の方は、ずっと甲冑姿だった影響か騎士の普段着だ。

 ついでに言えば、腰に剣を差してる。




「それでアイ、前に言っていたように魔力の調整、収集はできる様になっているか?」


「ハイ、ショウ様。これでシズ様に本来の力でお仕えする事が出来ます」


 今まで以上に人らしくなっていて、声も嬉しいと言う感情がこもっていた。


「そうだな。けど、シズさん以外にも頼まれてくれるか?」


「ハイ、勿論でございます。ご用がありましたら、いつでもお命じ下さい」


「我輩の命令も聞いてもらえるのか?」


「レイ様は、限定的であれわたくしを目覚めさせて下さいました。シズ様よりも、ショウ様達と同様に尽くすように命じられております」


「うちらは?」


 半ば見物に来ていた、ルリさん、ハナさん、それにショウさんも興味深げにアイを見ている。


「申し訳ありません。状況は理解しておりますが、シズ様より命じられておりませんので、従うわけには参りません。ご容赦の程を」


 言葉の最後に慇懃に礼をする。


「さよか。けど、おもろいなぁ。マジックアイテムやのに、ごっつ精巧なんやね。しかも他にもあるんやろ」


「今オレ達が知ってるのは、黒色、菫色、藍色、橙色をオレ達が持ってます。あと『帝国』の聖女様が緑色、それに行方不明で黄色があるらしいです。

 それと、神々の色と同じ9種類あるんじゃないかってのが、今のところの推論ですね」


「それにしても『帝国』の聖女様が、マジックアイテムだったなんてねえ。世の中面白いわね」


「おもろいで話済ましなや。せやけど神々の色なあ。ハナ、あと何色が足らへんの?」


「えっと、白、赤、青ね。本当に9色、9種類あるのならだけど」


「3つか。ウチにもチャンスあるかな?」


「あるわけないでしょ。強い悪魔の核になってる事もあるのよ。でもあれよね、女の子の姿が多いのね」


 ハナさんとルリさんのトークが続いていたけど、確かに言われてみればクロ以外は、人の姿を取ると女性型ばかりだ。


「クロ、お前だけ特殊なのか?」


「わたくしのみが男性型という点を特殊とのご質問でしたら、現状では肯定せざるを得ません」


「つまり、残りが全部男性型の可能性もあるのか」


「分かりかねますが、可能性はあるかと」


「確かにな。まあクロはこのままで居てくれ。その方が気楽だ」


「チーレムがよく言うのぉ。まあ、我輩もスミレは今のままが良いがな」


「仮に変われと言われましても骨格が御座いますので、むしろ現状以外の姿が取れないのですが?」


「へー、博士のロリっ子は骨格あるんや」


 そう言えばルリさんは、スミレさんの外見を普通に受け入れている。それどころか、一応メイドルックなので、食事の準備とか違和感なく命じていたりする。

 オタクなのか気にしないのか神経が図太いのか、機会があれば聞いてみたいところだ。


「わたくしの骨格は、元主人様が製作されたもので、魔力などを馴染ませて定着させております」


「しかも高純度のミスリル製であるぞ。アホほど金がかかったがな!」


 ここぞとばかりにレイ博士のドヤ顔&自慢げなポーズが入る。


「レイ博士はノヴァきっての富豪ですものね。いつもお世話になっています」


「……う、うむ、戻ったら寄付金は増やすので、今の言葉はあまり外では言わないでほしい」


 スミレさん自慢は失言だったらしい。

 そして博士の言葉ににっこり笑顔なハナさんなのだけど、オレにはそれが素なのか営業スマイルなのかが分からない。


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