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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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437 「飛行船の中(2)」

 そうしてその日は色々な物を積み込んだり、各部が問題なく動くかどうかの最終確認をしたりした。

 中でも最大のイベントは、すでに何度も行なってるという飛行船自体の試験運転だ。

 特にオレ達が浮遊石の結晶を持ってくるまで、高く浮上したり激しい動きが出来なかったので、そうした点を確認する。


 そしてオレは、まずはリョウさんの側で動かす様子を見続ける事となった。

 何しろ動かし方を覚えないといけないからで、レイ博士的には船長たるもの船の一つも操舵出来て当然らしい。

 まあ、ハリウッド映画でも船長が舵輪を握っている事があるから、絶対にエンタメの影響でそう言っているだけだ。

 船長は周りの状況をよく見て正しい指示を下すのが一番の仕事の筈だ。


 けどこの飛行船の動きは、かなり男の子心をくすぐるものがある。さらには厨二病心もくすぐってくれる。

 加えて言えばデカイは正義だ。

 世界竜の胴体ほどもある船を動かすのは、かなり面白い。

 面白がってばかりもいられないけど、リョウさんに付いてもらって動かした限りでは、着陸以外は普通に動かすだけなら意外に簡単だった。


 そうして飛行船の試験飛行をしていると、伝声管から無機質な声。

 塔にいる見張りゴーレムの声。クロ達以外で喋るゴーレムというのも、なかなかに新鮮だ。

 しかしその内容の方は、少しばかり緊張を強いた。


「巨大ナ飛行物体ガ、右後方上空ヨリ急速接近中」


 報告を受けて報告してきた方角を注視すると、しばらくしたら見た事ある影が見えた。

 さらに感じた事のある強い気配も。


「なんだよ、真なる主人様じゃねえか」


 ブリッジで見物していたホランさんが、ため息交じりに回答を口にする。

 オレや他の人達も、ほぼ同じに正体に気づいたが安堵したのは間違いない。

 そしてしばらく飛行していると、巨大な竜とそれよりかなり小型な竜、それでも普通の飛龍より巨体な龍が並行飛行してきた。


《おおっ! エルブルスの領主ショウではないか。久しいな》


「お久しぶりです、エルブルス様! この船を使う用事が出来たので、一時的に戻ってきました!」


《なるほどのお。それで、急ぎ旅立つのか?》


「そうです。ハルカさんが大変なんで、急いで戻らないといけないんです!」


《なんと! 我に出来る事はないか。ハルカは我が恩人。何でも言ってくれ》


「それじゃあ、下に降りてからで構いませんので、邪神大陸の世界竜デナリについてと、邪神大陸で知っている事を教えて下さい!」


《容易いこと。それでは下に降りられよ》


 そう言って意外に俊敏な動きで、巨大なドラゴンが先に地表へと降りて行った。




「まずは、ノヴァのお土産です。たったこれだけですが、どうぞお召し上がり下さい」


《お、おおっ! 獅子屋の羊羹ようかんではない! これはかたじけない》


 そう言うや、オレが急いで館から持ってきた、大きな木箱いっぱいに敷き詰められた10キロ以上ある羊羹の塊を箱ごと器用に摘んで、中身をポイっと大きな口へ放り込む。

 首や尻尾が細長いとは言え、飛行船ほどもある胴体を持つ巨大な竜なので、10キロ分の巨大な羊羹の塊も小片ほどでしかない。

 平べったい木箱ごと3つ買ったけど、あっという間だ。

 それでも美味しそうに堪能している。


 そしてその顔は、相好が崩れると言う表現が似合うほどで、やっぱり甘いものが大好きなだけの好々爺にしか見えない。

 ノヴァに寄った時に無理して買って正解だったと、報われる気分にさせてくれる。

 側の玲奈も、「ホント、お爺ちゃんみたい」と目を細めていた。


《うむ。思わぬ甘味に出会えるとは、神々とショウに感謝だ。そうそうショウよ、レイ殿を寄越してくれた事、心より感謝しておるぞ》


「飛行船の件ですか?」


《いや、このシーナに、甘味工房を建設してくれることだよ。今日もその進捗度合いを見たくなったのだ。

 何しろ工房ができて職人と材料の手配が済めば、出来たての甘味を楽しめると言うではないか。もう、今から楽しみで仕方がない。こんなに心踊るのは、一体いつぶりだろうかのう》


 エルブルスの言う通り、レイ博士はかなりの数の建設用ゴーレムをシーナに持ち込んでいるのだそうだ。

 そしてノヴァからの物資の流れが船便で出来たし、シーナ北部の魔物が一掃されたので、ノヴァや南部の獣人の領域から人が流れ込んで来ているのだそうだ。


 けど目の前の巨大なドラゴンは、そうした人の営みよりもお菓子の工房が大事らしい。

 お菓子工房が竜の財宝と知れ渡ったら、この世界の人たちはどう思うんだろう。


(ああ、もう完全にお爺ちゃんモードだ。家臣に威厳を見せなくなってる)


 そう思って周りを見たが、オレの思ったことなど家臣の人達は端から承知していたようだ。小さく苦笑している人もいる。


《おっと、イカンイカン。それで邪神大陸とデナリの奴のことだったな》


「はい。あと、もしご存知でしたら神々の塔についても」



《あい分かった》


 そう言ってエルブルスが色々と話してくれたけど、世界竜の主観ではあまり役立ちそうになかった。

 世界竜にとっては、悪魔だろうとゴブリンだろうと、似たような人型の魔物でしかなかった。

 人から見ての、同じような害虫程度でしかない。

 神々の塔については、世界竜は近くまでしか行ってはいけないらしく、遠目に見たことがあるだけだった。


 それでも世界竜は、どれも礼儀と礼節さえ守れば問題なさそうだと分かった。少なくとも、理由もなく襲ってくるような事はないらしい。

 そしてデナリとアコンカグアに出会った時の場合に備えて、何かの魔力を込めた鱗を2枚もらった。


《それを見せれば、多少の融通は聞いてくれるだろう》


「ありがとうございます」


《何の、大した事も出来ず面目次第も無い。だが、旅の息災をここから祈らせてもらおうぞ》


「重ねてありがとうございます」


 そう明日の朝には、『帝国』目指しての旅立ちだ。



 そしてその日の夜は、明日に備えてみんな早めに就寝した。

 オレと玲奈も例外じゃないけど、玲奈の方はオレよりもヴァイスとの別れを惜しんでいた。

 その日はヴァイスと一緒に寝てしまったほどだ。


 ちょっと寂しい気もするけど、玲奈とは現実世界でいつでも会えるのだから、玲奈がヴァイスを優先するのは当たり前だと、心に言い聞かせて眠りについた。


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