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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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436 「飛行船の中(1)」

 エルブルス、シーナの街の朝は早い。

 いや、早いのは、中身が玲奈なレナだ。

 何しろ、巨鷲のヴァイスが起きるタイミングに合わせて活動開始する。

 ボクっ娘なら単なる日課だけど、玲奈はよくやっていると思う。


 かく言うオレも今朝は早起きした。

 やる事が色々あるし、気も逸っているからだろう。

 ここから次の目的地ノヴァトキオまで2日かかるのが、今日中に出発準備を済ませてしまわないといけない為だ。


 そして今日のオレは、午前中は飛行船の内部と能力の把握。午後は操舵の練習になる。

 必要な物資の積み込みなどは既に始まってて、そうした事は家臣の人たちが頑張ってくれてる。

 けど早く起きすぎたらしく、飛行船の格納庫に人影はまばらだ。


「お早う御座います、ショウ様」


 まばらな人影の中に、一際違和感バリバリな姿が飛行船の側で待っていた。

 昨日の夜、朝から案内を頼んでいたスミレさんだ。

 この時点で居るとは思わなかったけど、一体何時から待っていたんだろう。


「お、お早う。早いね」


「元主人様よりショウ様を優先するのは当然で御座います」


「相変わらずだな。けど、レイ博士だけに仕えてくれて構わないから」


「畏まりました。それで本日は、どこからご案内いたしましょうか?」


「お任せコースで。ってわけにもいかないよな。まずは軽く全部見て、その後重要そうな場所を重点的に頼めるかな」


「畏まりました。それではご案内させて頂きます」


 そう言って船の外の階段を示される。

 オレに先に登れと言う事だ。

 この点だけはちょっと安心した。先に登られていたら、超ミニの中が丸見えどころじゃない情景を見なければならない所だった。


 それはともかく、台座のようになってる船体より大きな浮遊石を登り扉をくぐると、そこは飛龍が休む厩舎だ。かなりの広さで、片方で2体ずつが休める。

 これが『帝国』の大型船だと、この船のように船体内に動力部もないので二倍の8体が休める。つまり搭載できのだそうだ。


 そしてその倉庫の脇にある階段を上がり、船体沿いに伸びる細い廊下を前に進んだ先にあるのが、この船のブリッジ。操舵室だ。

 なんだか映画などで見た事ある円形をした舵輪と言うやつと、何かの魔法的な装置、それに真鍮でできた伝声管という、船内各所の声を伝える装置が幾つも据えられてる。

 普通の飛行船は、ここまで近代的ではないそうだ。


 ブリッジは右側の船体にあり、左側にある似たような空間は、見張所や戦闘時に弓矢や魔法を射かける場所になる。

 また船体の外の上部の四隅には円形の塔のような場所があり、そこには大きな弩が据えられてる。

 魔力で威力や射程距離を増せる上に、この船の場合は、それをレイ博士の屋敷にもあった弩戦闘に特化した脚のないゴレームが操作する。

 しかも24時間体制で周囲の監視もしてくれるので、乗組員が大幅に削減できているらしい。


 ゴーレムは、他に近接戦と荷役作業などの簡単な雑用が出来る中型ゴーレムを6体載せる。

 このゴーレムは大樹海での戦闘で使った、鉄筋コンクリートのプラモデルみたいなゴーレムだ。

 そしてこのゴーレムは、普段は飛行甲板の下にある広い倉庫に搭載される予定らしい。

 今は外にあって、博士の次の命令を待ってる。


 次は厩舎を出て、船体の真ん中にある飛行甲板に出る。

 飛行甲板は、飛龍が翼を広げても大丈夫なように、幅は15メートルほどある。長さはその倍以上で、この船が四角く、そして平たく見える最大の理由となっている。

 そしてレイ博士が言った「空中空母」と言う呼び方が、相応しいと思わせる場所だ。


 甲板には飛行甲板の幅一杯ある大きな魔法陣が一つと、それよりも小さい4つの中くらいの魔法陣をひし形に配置して組み合わせた複雑な魔法陣が一つある。

 大きな魔法陣は、飛龍の発着の際に補助的な魔法を使う為のもので、複雑な奴は防御魔法用だ。

 どちらも、魔法陣に魔力を注ぐ魔法使いがいないと意味がない。


 そして魔法陣を横目に見ながら船体を前から後ろに進んで、途中で扉をくぐる。

 その先は昨日も来た動力室だ。

 ここでもおさらいの説明を軽く受けると、今度は船体内の扉を開くと船室になっていた。


 そしてさらに扉を開くとまた厩舎に出て、艦橋に向かったのと同じ階段を登ると、今度は途中にある扉をくぐる。

 そしてその先も船室になっていた。

 下の階に2室、上の階には扉が7つ。一番奥の扉の先は半円形の広い部屋で、豪華な内装から何の目的の部屋かはすぐに分かった。


 映画などでも見た事のある、帆船に付き物の船長室というやつだ。

 そしてスミレさんには、オレの船室になるとも紹介された。

 けどベッドがダブルベッドなのは、どういうわけなのだろうか。

 それを聞く気にもならないので案内を続けてもらう。


 下の階の船室の先には、動力室との間も部屋になっていて、そこには、動力室の動力を一部借りた大きな洗濯機が2台あった。

 現代社会のものとは比較にならない大掛かりで原始的と言える構造だけど、この世界で自動型の洗濯機があるのにはかなり驚かされた。


 次に階段を二階降りると、飛行甲板の下へと至る。

 外に出る事なく、二つの船体を行き来できるようになっているのは、飛行中の風対策だ。

 そして飛行甲板の下の前半分は倉庫。後ろ半分は、乗組員用の区画になっている。特に水回りが集中してて、浴室とトイレしかも男女用に分かれて設置されてる。

 他に、かなりの広さの医務室もあった。


 そしてそこを通過してもう一度上に上がると、反対側の船体の上部も船室になっていた。

 

 そしてこちら側の下の階の船室の奥には、動力室に連動して博士やドワーフ達の仕事部屋とも言える作業室もしくは工作室になっていた。

 動力を必要とする色々な機械や工具も据えられていて、ちょっとした工場のようだ。


 そしてその上は、魔法が使える事を前提とした様々な道具が据えられた厨房と、作戦室を兼ねたかなりの広さの食堂、さらに余剰空間に船室もあった。

 厨房には、魔法陣と連動した充填式の魔石による冷蔵庫や冷凍庫すらある。


 あと、厩舎の下あたりは浮遊石を削ったような形の船倉になっていて、倉庫と水タンクが置かれている。

 水は魔法で浄水してしまえるので、洋上だと海の水を得てもいいけど、積みこめるだけ積み込むのが飛行船の基本らしい。

 何しろ空の上では、水を確保する手段が雨雲の中にでも入るしかないからだ。


 そしてこれで一通り見たわけだけど、かなりの違和感のある内装だった。

 『帝国』の飛行船と随分違うからだ。

 まず固定式のベッドの数に比べて、船なのに部屋の間取りが広い。それ以上に、風呂とトイレ、厨房など生活につながる設備が現代風だった。

 医務室だって、様々な医療器具を含めて現代の病院っぽい。


「この船、内装はめっちゃ改造したのか?」


「はい。いいえ、ショウ様。内装の多くは、わたくしの知る限り最初からほぼこの状態でした。恐らく、以前使っていたのが『ダブル』だった為かと。各所に改装した痕跡が御座いました」


「なるほどね。まあ『帝国』の飛行船は狭かったから、これは楽ができそうだよ」


「皆様そうおっしゃられています。なお各船室ですが、船体の向かって右側が女性用、左側が男性用、下部が家臣用だそうです」


「えっ、それだと船長室のオレダメじゃない?」


「領主なのですから、問題は皆無かと」


「えーっ。ま、まあ、その件は人が増えてから考え直してもいいだろ。ともかく、案内ありがとう。よく分かった」


「勿体ないお言葉で御座います。ご用命とあれば、いつでもお命じください」


「その必要はないよ。な、クロ」


「はい、スミレのお陰でわたくしも把握する事ができました。スミレの手を煩わせる事は今後ございませんでしょう」


「そうですか。それは残念。ではクロ、くれぐれも新たな主人様を頼みます」


「勿論ですとも。スミレは、心置きなくレイ様に尽くして下さい」


 丁寧口調での会話が続くが、どこか張り合う感じがする。

 キューブ同士、何か思うところがあるんだろうか。たまに見せる人間臭さは見ていて面白い。


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