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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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432 「船員選び(1)」

 その日の少し遅めの夕食。

 色々話をしていたら遅くなってしまった。

 しかしヴァイスを一日休ませたいので、明日一日を使って準備を進め、さらに明後日早朝の出発という事で用件を先に済ませ、なんとか夕食にありつけたところだ。


 少し懐かしくすらある、シーナの一応オレの館の広間での食事だ。

 ここではテーブルは使わないし、基本的に分厚い絨毯の上で円座になる。

 元来の住人である尻尾や翼のある竜人に合わせたものだけど、オレとしてはこっちの方が気楽でいい。


 食事を一緒にするのは、オレと玲奈以外だと、ここの実質的な領主というか宰相格のバートルさん以下、ガトウさん、ホランさん、ラルドさん、それに飛行船担当のレイ博士、リョウさん、フェンデルさんだ。

 龍の取りまとめ役と世界竜に直接仕える上位龍の『まだらの翼』さんは、戻るのが明日の予定なのでこの場にはいない。


 さらに、オレ達が広間の真ん中で、その周囲にも、色々な種族の人達の輪が出来てて、合わせると4、50人くらい居るだろう。

 当然だけど、それぞれの前には料理が盛られている。



「まずは、我がエルブルス辺境伯領の領主ショウ様の一時ご帰還を祝って乾杯!」


「乾杯!」


 杯を捧げるほどの事かと思うけど、こういうものだと受け入れるしかない。

 それに『帝国』の宴会と違って堅苦しさはないので正直助かる。

 けど一応領主になるので、みんなに対して何かを言わないわけにもいかない。

 ゆっくりと立ち上がり、まずは軽くお辞儀する。


「領主のなったばかりなのに出たり突然戻ったりで、皆さんにはご迷惑おかけします。今回戻ったのも、飛行船を大巡礼に使う為ですから、またすぐに出る事になります。

 大巡礼が終われば落ち着く予定ですので、それまでは我儘をご容赦下さい。宜しくお願いします」


「そんな辛気臭セー事はどーでもいいぞ! それより、武勇伝と旅の話を聞かせてくれ!」


 ムードメーカーでもある狼獣人のホランさんが、ジョッキを空けながらオレよりもずっとデカイ声ではやし立てる。

 他の人達も同じ感じだ。

 だから、北欧のランバルトでの事、『帝国』での事を色々と話す事になった。

 なんだかリアルでの『アナザー』講演会みたいだ。


 そして、いつもしてる事と似ているので、オレとしては慣れたものだった。

 ただ、稽古を付けろとか剣舞を見せろなどの声が警備隊の面々から強いので、明日少し見せる事を承諾しないと収まりがつかなかった。



「それで、飛行船に同行してくれる面子についてなんですが」


 食事とオレの話がひと段落したので、ようやく本題へと入る事ができた。

 明日話し合ってもいいが、気になる事もあるので切り出した。


「それなら、もうある程度選ぶのは済んでおるぞ。ちょっと待っててくれ」


 そう言ってレイ博士が立ち上がり、少し席を中座する。

 レイ博士は、扱い的にはまだ客人なのでこの館の一室で寝泊まりしているので、部屋から何かを持ってくるのだ。

 そして待つ間に、バートルさんが場つなぎしてくれた。


「既にご存知の事と存じますが、我ら竜人は長期間ここを離れる事が出来ません。ですから、」


「分かってます。気になさらないで下さい。それより、ここの守りと運営はお願いします」


「お言葉痛み入ります。領地の事は我らにお任せを」


「まあ、辛気臭い話は抜きだ。そういうわけで、船には俺達とフェンデル達、それに博士と絵師さんが乗る事になるぜ」


「まあ、そういう事だ。ワシは留守番と街なんかの建設をするから、矮人はどうしても飛行船に乗りたいって連中だけだ」


 ホランさんとラルドさんが、領地の側の立場としての言葉を加える。

 けど、気になる事も多い。


「ホランさんは、ここの警備隊長ですよね。それに、あんまり沢山獣人を連れてくと、ここの守りや魔物対策が手薄になりませんか?」


「領主は心配性だな。北の魔物の森はまだ燃えてるし、こないだの戦いで魔物は激減した。隊長というか将軍代理は、ニオに任せる。覚えてるだろ虎獣人の」


「あ、はい。で、人数は?」


「フッフッフッ、その点の懸念は無用であるぞ。何しろ、戦闘要員の主力は我輩の最新ゴーレム達だからな」


 そう言いつつ、急いで戻ってきたらしいレイ博士が、やや息を切らせつつオレの前に紙を広げる。

 そこには色々と書き込まれていた。


「こっちが、普通の龍巣飛行船に必要な頭数。で、手前側が、我らの船で必要な人員や役職だ。あ、そうそう、領主にはその前に決めてもらいたいものがある」


 レイ博士はそう言うと周りを見渡す。

 そうすると、家臣の皆さんも小さく頷いたりしている。


「なんですか? 乗員希望者が多すぎるとか?」


「まあそれも多少あるが、決めて欲しいのは船の名前だ」


「名前? 前のままで良いんじゃあ?」


「それがなんだったのかは、俺達にも分からない。だから今までも、単に双胴飛行船などと呼んでいた。だから領主殿に決めてもらいたい」


 船匠の欄に書かれているフェンデルさんの口ぶりは、何か重要な事を決めろと言ってる感じがする。


「えーっと、名前を付る事に、それ以上の意味ってありますか? 例えば儀式的な事とか魔法的な何かとか?」


「いいや、そんなものはない。しかし名前がなくては困るぞ。これから外に出て行くのだから、所属、船名は必須だ」


「そうであるな。所属はノヴァトキオ評議会、エルブルス辺境伯領になるから、二つの紋章はもう船に描いてある。旗も用意した。あとは名前だけだ」


「名前ねえ。博士、何か良い名前ってあります? この際だから多少オタクっぽくても良いですから」


 レイ博士は手回し良く進めているので、もしかしてと思って聞いてみると、隠そうとしているけど凄く嬉しそうに別の紙を取り出す。


「その言葉、待っておったぞ。幾つか、相応しいであろう候補を考えておいた」


 そう言って出した紙には、意外にまともな名前が並んでいた。

 ただし一部は漢字で、《飛龍》とか《蒼龍》《雲龍》とか書かれている。

 けどこれは、オレ達が空を飛ぶドラゴンを頭で認識する文字そのものなので、これは却下だろう。

 紛らわしいので、咄嗟の時に間違えそうだ。

 そしてそれを見越していたのであろう、博士がさらに続ける。


「我輩的には、この一番上をお勧めなのだが、どうだろうか?」


 その指の先には、どこかで見たような名前が幾つか並んでいる。


「《アルビオン》って、イギリスの古い呼び名の一つですよね。何か船と関連があるんですか?」


 一緒に覗き込んでいた玲奈が、博識、恐らくオタク寄りな知識を披露してくれる。


「ん? いや、その、あの船に使っている浮遊石は、普通よりも白っぽいであろう。そこで、白亜の国という名はどうかと思ったのだ。なかなかに洒落ておるだろ?」


 良い事言ってる気がするのに、なぜかシドロモドロだ。多分、オタク的な由来もあるんだろう。

 それに名前には白に関する名前と、あとなぜか馬っぽい名前が多い。何故か競走馬の名前まで幾つか並んでいる。

 けど、動物で曳くわけでもないから馬系は却下だろう。

 そして結局、選択肢は一つしかなかった。


「やっぱり、これにしましょう」


「だ、だがそれは、ここの主人に許しを得ないとダメだろうし、我輩的にはこちらなどすごーくお勧めなのだが」


「エルブルスさんなら、きっと許してくれますよ。ダメならまた別の名前考えましょう」


「では、飛行船の名は《エルブルス》で決まりだな」


「はい。世界竜のお膝元なので、彼の方への敬意を示すって事でオレは良いと思います」


「うむ。この名なら乗り込む領民の士気も上がろう」


 横で静かに聞いていたバートルさんの言葉もあって、名は《エルブルス》と決まった。

 そして次は乗組員だ。

 一般的な方には、色々と書かれている。


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