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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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431 「竜の里への帰還(2)」

「石臼ではなく発電装置だ。災害用に手で回す自家発電装置があるが、あれのデカイヤツと思ってもらって良い。

 発電機はノヴァでそれなりに使われとるが、量産には程遠いのが現状だ。精密な金属部品が多数必要なので、手練れの錬金術師やドワーフの職人技に頼っているからな。

 そしてこれは、稀代の錬金術師である我輩手製の装置であるぞ。

 ……あの、少しは褒めてくれないか? 頑張ったんだし、な?」


「あ、はい、すいません。色々して下さった事には、凄く感謝してます。けど、全然理解が追いつてなくて」


「ま、まあ、それは仕方ないな。しかし、レナ君はいつにも増して反応が薄くないか? そんなに訳の分からんものに見えるか?」


「い、いえ。でも何がどう凄いのか、全然、その、ごめんなさい」


「いや、そこまで恐縮されても、こっちが困るんだが。それより、どうかしたのか? 体調でも悪いなら、すぐに休んだ方が良いのではないか?」


 玲奈の様子がいつもと違う事に気づいているし、一応気遣いもできるところは善人なのだけど、レナの事は前に一度話したのにそこに考えが至れてないのは、隠キャだからだろうか。


「あのレイ博士、今レナはこっちとあっちで人格が入れ替わってるんですよ。前にちょっと話しましたよね」


「お? おーっ! マジか! マジでそんな事が起きるんだな。なるほどー。言われてみれば、納得だ。いや、すまんな、妙な事言って。しかし、自分らの周りは相変わらず妙な事ばかり起きとるなあ」


 妙に感心されてしまった。


「い、いえ、全然。あ、そうだ、初めまして」


「お、そういう事になるのか。うむ、初めてまして。なんとも妙な気分だな。で、また元に戻るのか?」


「戻って欲しいですけど、いつ戻れるかは全然」


「まあ、解離性障害だものなあ。任意で簡単に入れ換われたりしたら苦労はないわな」


 腕を組んで一人納得のご様子だ。

 こういうところは、博士らしく学のある人っぽい。


「それより説明はもう終わりですか?」


「あ、ああ、聞いてるれ聞いてくれ。というか、スミレ頼む」


「はい、元主人様。ショウ様、レナ様、では元主人様に代わり、不詳スミレがご説明させて頂きます」


 そう言って図面片手に説明してくれた。

 今まで他の人にも説明してきたらしく、専門用語も噛み砕かれてたのである程度理解できた。


 要するに手動の発電機で電気を起こして、電気モーターでプロペラを回して進むという仕組みだ。

 けど、今この世界にある技術はまだ未熟なので、エンジン一つにプロペラが4つも付いて推進力を増す構造になってたり、どこかスチームパンクっぽさがある。

 しかし、この世界の飛行船と違って、尾翼や舵が飛行機の技術が応用されてたりと、随所に現代知識が活かされてもいるらしい。


 そして発電機を回すゴーレムは充填式の魔石で動くので、この世界だと補給いらずなのだそうだ。

 ただし、蓄電バッテリーの技術はまだまだ未熟なので、動力室に隣接するバッテリー庫の電気では数時間しか動かせないので、基本発電装置を動かし続けないといけない。


 しかも常時稼働はお勧めできないしマメに整備も必要なので、一日中進むのは難しいそうだ。

 だからこの世界の一般的な飛行船と同じく、飛行船を牽引する飛行生物が夜に休むように、夜間の一定時間は空中か地表で停止する事になる。


 それがスミレさんの、言葉を噛み砕いた説明のあらましだ。


「だいたい分かりました。それで、どのくらいで『帝国』の『帝都』まで行けますか?」


「ふ、普通なら二週間くらいかかりますよね」


「ほう、入れ替わってもシュツルム・リッターの知識は受け継がれているんだな」


「あ、はい、知識と技術は全然問題ありません。戦闘はダメですけど」


「我輩も戦闘はダメダメだから、気にすることはないぞ。それより時間だったな。普通に飛べば10日ほどだ。何しろ並みの飛行船より速いからな。多少無理をすれば一週間で行けなくもないぞ」


「無理や止めて下さい。そのあと、最低でも邪神大陸に行きますから」


「そうであったな。まあ、普通に飛ぶ分には世界一周でも楽勝だ。吾輩が整備で乗り込むからな」


「俺達もな」


 それまで黙ってた矮人のフェンデルさんが、当然とばかりに博士に言葉を合わせサムズアップを決める。

 息もピッタリで、すっかり意気投合している。


「構わないんですか? 危険もあると思いますよ」


「禄は出るのだろう。なら、どこで働こうが同じだ。それに、念願のこの船が動くんだ。整備してきた俺達が行かないでどうする」


「そういう事でしたらお願いします。給料、禄も危険手当込みで弾ませてもらいます」


「その言葉が聞きたかった。仲間も喜ぶだろう。まあ、後は乗組員の選抜で良いな。では俺はこれで。後は同郷で話し合ってくれ」


 それだけ告げるとフェンデルさんは出て行った。早く言ってくれれば、もっと早くこの件を話せたのに、会話だと受動的な人なんだろう。

 そして入れ替わりに、リョウさんが入ってくる。

 動力室が狭いせいかと思ったけど、違ってた。


「レイ博士、艦橋の調整終わりました」


「おお、ご苦労さん」


「リョウさんも手伝ってくれてたんですね」


「一応魔法使いの端くれだから、魔力の調整とか出来ることだけね。凄いのはレイ博士だよ」


「そう褒めるでない。リョウ君も、魔力稼ぎと絵描きの傍、尽力してくれておる。特に自分から連絡を受けてからは、魔力も多少増えた事もあって助かっておるぞ」


「あ、もう魔力増えたんですね」


「万年CランクがBランクになったくらいだけどね。でも、魔法の矢は2本が3本になったよ」


「威力も増しておるし、並の相手なら十分に戦えるであろう。先週くらいからは、パワーレベリングから魔物狩りに移ったしな」


「でも全然だよ。ショウ君達の話とか見てると、差が有り過ぎて恥ずかしいだけだし」


「いやいや、ショウ君らみたいなガチ勢と一緒にしちゃいかんぞ」

 

「そういう博士も、十分Sランじゃないですか」


「我輩はたまに遠くから魔法の矢を使う以外、自分で戦闘した事ないから自分と変わらんぞ。魔力なんか、地道にパワーレベリングしてたら、そのうち溜まってくる」


「パワーレベリングって地道にするもんなんですか? ある意味パワーワードですね」


 思わず突っ込んでしまった。

 隣で玲奈もクスリと笑ってる。

 けどレイ博士が、雑談も終わりとばかりに真面目モードに入る。

 ただし誤魔化し半分なので、今ひとつ緊迫感に欠ける。


「そ、そうかもな。それはさておき、そろそろ自分らが『帝国』から運んだと言うブツを見せてくれんか」


 もう少し弄ってもよさそうだけど、これが本題というか本命だ。


「はい、このカバンと」


「このカバンの中にあります」


 二人してアタッシュケースのようなカバンを掲げる。


「2つずつ入ってるという事か。では拝見をば……良い品だな。……最高級品だぞ、これ。自分ら、『帝国』にどんだけ吹っかけられた?」


 そそくさと仕事人の勢いで、レイ博士がオレが持ってたカバンを開けて驚く。

 すぐにも、魔法陣2つ使う上位の鑑定魔法をすぐにも構築し、さらに手に取って色んな角度から見入っている。

 こう言うところは熟練の錬金術師を感じさせる。


「『帝国』のマーレス第二皇子から頂きました」


「そうか、リョウ君が伝えてくれた通りか。しかし、どんだけ『帝国』に恩を売ったんだ? これだけで並の大型飛行船が買えてしまうぞ」


 なるほど、マーレス殿下が自慢げにくれたわけだ。


「そうなんですね。まあ、悪魔とか魔物が操る竜騎兵とか結構倒したし、何より向こうのゴタゴタに巻き込まれたから、お礼とお詫びでしょう」


「オクシデント最大の国の恩人かぁ。上級悪魔を呆気なく倒した事といい、もはや自分ら勇者一行並だな」


「そのオレ達の勇者様が倒れて困ってるんですから、博士も助けて下さいよ」


「アレ? ショウ君が勇者枠じゃないの?」


 リョウさんがさも不思議そうな表情で問いかけてくる。

 何を言ってるんだ、この人は。


「ハルカさんが勇者枠に決まってるでしょ。オレ達の主人なんですから」


「それにハルカ君は、攻防走、もとい、剣、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法とオールラウンダーだからな。まさに、古典のゲームで言う所の勇者と言えるだろう」


「なるほど」


「確かにそうかも」


 リョウさんと一緒に玲奈まで感心している。

 まあ、昔のゲームを例に出されてもオレには分からないが、そういう能力的な事ではないとは思う。

 けど、わざわざ違うと言うほどの事でもないし、そもそも勇者とかどうでも良い。

 今はとにかく、みんなの協力を得てハルカさんに無事目覚めて欲しいだけだ。


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