430 「竜の里への帰還(1)」
「お帰り、お待ち申し上げておりました」
先導の竜人が駆る竜騎兵に先導されてシーナの飛行場に降り立つとと、竜人のバートルさん、ガトウさん、獣人のホランさん、矮人のラルドさんと、エルブルス領の幹部がほぼ揃っていた。
上位龍の『まだらの翼』さんは不在だったけど、世界竜エルブルスの元に行っていると先導から伝えられていた。
そして飛行場には、他に人の姿もある。
チノパンとルネッサンスを足して二で割ったような出で立ちのリョウさんだ。
「わざわざ出迎えありがとうございます。また数日しか滞在できませんが、宜しくお願いします」
「概要はリョウ殿より伺っております。それにしても、「客人」の秘術は大したものですな。どんなに離れていても、簡単に連絡が取れてしまう」
代表してバートルさんが、丁寧にお辞儀をする。
「かなり限定的で万能でもないですけどね」
「しかしこうして、先触れもなくお出迎えもできます」
「そうですね。手紙じゃあ、この早さは無理ですしね」
「はい。しかもショウ様は、その手紙を運ぶ中でも最速中の最速でご帰還とあれば、「客人」の力に頼る他ありません」
「まあ二人とも、堅い話は後でいいだろ。まずは、飯にしようぜ。領主様の顔も腹が減ったって書いてあるぜ」
そう言いつつ、狼獣人のホランさんが相変わらゴツい歯を見せ、迫力満点な笑みを見せる。
けどオレと玲奈は、腹を満たすより先にする事がある。
「飯もそうなんですが、それより先に、用を足したいんですが……」
「これは失礼しました。さ、お急ぎを。レナ様も」
さっきから玲奈が沈黙状態なのは、生理現象を我慢していたせいだ。
ノヴァでの夕食で少し美味しい食事をしすぎたのと、ノヴァからシーナの距離が今までより少し短いので油断してたせいだ。
それはともかく、バートルさんからの言葉を受けるが早いか、二人して飛行場の近くの厠へとダッシュする。
周りは少し微妙な雰囲気になったけど、背に腹は代えられない。
そしてなんとか落ち着けたけど、夕食自体はまだ準備中なので、先に最優先の目的を果たす事にする。
この為に飛行場でレイ博士の出迎えが無かったのだ。
そしてレイ博士とキューブゴーレムのスミレさん、飛行船技師らしい矮人のフェンデルさん達が色々と弄くり回している飛行船へと向かう。
以前シーナに居た時は野ざらしだったけど、どうやって作ったのか少し謎な巨大な格納庫の中だ。
リョウさんからのメールやメッセージだと、レイ博士はメカは格納庫から発進するべきだと、ノヴァからゴーレムやら資材やらを船を使って運び込み、そして作り上げたのだそうだ。
高さ以外は奈良の大仏殿ほどもある大きさで、現代技術を応用したプレハブ構造で、一部鉄筋を使ったりしているので、見た目はかなり現代的だ。
そしてその中に、魔法の明かりに照らされた飛行船が鎮座している。
飛行船は双胴型で、真正面から見ると太いH型をしている。そして二つの船体の真ん中が、飛龍が発着する飛行甲板になっていた。
左右の浮遊石の上に設置された構造物も、半分以上は飛龍のための厩舎、というか格納庫だ。
船体や甲板の各所に魔法陣が描かれているけど、これは他の軍用飛行船と同じで、魔法使いが防御魔法や攻撃魔法を構築する際に使われる。
他に、突風を起こして船足を速めたり飛行船の操作の際に使う魔方陣もある。
一方で、船の四隅に大きな弩を備えた櫓の様なものもあるので、この船が軍艦、戦闘艦である事を見た目で伝えている。
船体自体も頑丈に出来てるので柱や壁などが太く、中に入ると意外に狭く感じるらしい。
船体の大きさは、全長約40メートル、全幅約30メートル、全高約15メートルくらい。双胴船で真ん中が飛龍が離発着する広い甲板で繋がれている形なので、数字ほどずんぐりは見えない。
また、翼とかプロペラを除いた大きさなので、見た目はもう少し大きく感じる。
全長で言えばもう5メートルほど大きい。
船体の下にある船を浮かせる為の浮遊石は良質のものを使っているので、普通の飛行船の様なずんぐり型ではなく、少し分厚いサーフボードっぽい。
その上に木製主体の船体が乗っかってるので、オレ達の世界にあるホバークラフトにイメージが少し近いらしい。
この辺りの構造も、他の軍用飛行船と同じだ。
けど他の飛行船と違って、雲龍などの飛行する魔物が引くのではない。プロペラで動くのが最大の特徴だ。
プロペラ推進は、ノヴァトキオや『ダブル』が保有する飛行船の一部で既に使われている。けど、まだ量産できるほどの技術ではないので、この世界の国や商人は殆ど保有してない。
物凄い金を積み上げて技術を購入した『帝国』ですら、実験段階だそうだ。
「と言うわけで、これが我輩の技術の粋を結集した、ゴーレム型動力装置であるぞ!」
「いつもいつも、下らないものでお目汚しをしてしまい、元主人様に成り代わりお詫び申しあげます、新たな主人様。いえ、ショウ様」
いつもの凸凹コンビが、その飛行船の前で出迎えてくれた。
ゴーレムマスター(一応自他共の公称)のレイ博士と、その助手のスミレさんだ。
レイ博士はいつものチノパン、チェック柄のシャツの上に高性能の魔導器という白衣を羽織っている。
見た目はまさにヒョロガリオタクで、メガネがトレードマークだ。
このメガネも『ダブル』が持ち込んだ技術で、しかも博士のメガネは高度な魔導器らしい。
そして出迎えの一声では、オタクっぽい派手なポーズを決めてくれたのだけど、これがまた微妙に様にならないところまでが様式美だ。
一方のスミレさんは、慣れないと目のやり場に困るほど露出度の多い、風俗店にでも居そうなメイドスタイルをしている。
しかも淡いバイオレットの髪の猫獣人で、耳と尻尾が生えている。
しかしその実態は、クロと同じくキューブ型の古代の魔導器で、物品を生成する能力を持つ自律した意思を持つ知性体だ。
そして一通り挨拶した後で案内されたのが、飛行船の両方の船体の後ろに据え付けられているエンジンの前。
自信満々なレイ博士が右手を広げてかざす先には、ビジュアル的には微妙な絵面がある。
端的に表現すれば前衛芸術。石臼の様なものを4体の首なしな簡易型の形状のゴツいゴーレムを回す感じだ。
そしてその石臼に連動して、縦に置かれた丸い塊があるが、石臼から動力を伝えるというくらいしか理解が及ばない。
「なんですかこれ?」
「ゴーレムで石臼を回す?」
玲奈も、これがなんなのか全然見えていない。しかもオレと似た認識だ。
それに対してレイ博士は、「チッチッチッ」と口の前で指を左右に振る。
地味にイラっとくる。





