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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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424 「運動会(1)」

 10月最初の日曜日。

 今日は別の高校に来ている。

 トモエさんの母校であり、ハルカさんの母校だった高校。私立の進学校で、オレから見れば雲の上の存在だ。

 しかし今日は運動会。学外の人も見物に来る事ができる。勿論無条件ではなく、招待した者だけだ。


 そして今日は、トモエさんの招待枠、家族枠を使って、シズさんの車でやって来ている。

 一緒に来たのはオレ、玲奈、悠里、それに車も出してくれてるシズさんになる。


 タクミは、ハルカさんの事は知っていても真実は知らないし、何より今日はバイトをフルで入れているので誘わなかった。

 しかもタクミには、急遽オレの午前の分も今日の代わりに入ってもらったので、どこかで埋め合わせをしないといけない。



「意外に普通の学校ですね」


「見た目はな」


「シズさんもここに?」


「いいや、私は公立に通った。トモエは、仕事を見越して都心に出やすい場所を選んだんだ」


「そんな基準で選べるのが凄いですね」


 そんな事を話しながら学校内の一般観覧エリアに向かっていると、遠くから大きく元気な呼び声。

 トレードマークの頭の高い位置から長く伸びるポニーテールが、元気に揺れている。

 更に言えば、健全な男子を喜ばせる最重要パーツも揺れている。しかも夏の体操服姿なので、短パンから伸びる長い脚も凄く魅力的だ。

 と言うか、油断すると見てはいけない場所に目線が固定しそうになる。

 この人は、冬用のジャージでいるべきだ。

 

「待ってたよーっ! あ、こっちは友達達ね。ホラ、ちゃんとシズに来てもらったよ」


 「シズだ」「ホント、シズ様だ」「キレー」「写真以上にトモとそっくりー」などの黄色い声が上がる。

 そして、その次に取り巻きのオレ達に視線が向く。

 それに対しても、トモエさんが如才なく紹介していく。


「女の子二人は、シズの教え子ね。この彼氏もそう。あと彼氏はこの子の彼氏で、見ての通り荷物持ちの為に呼んだだけだから」


 名前を紹介しないので、そういう事だと割り切り軽くお辞儀だけする。

 向こうもお辞儀を返すけど、小声で「あの写真の子たちだよね」「マジ知り合いだったんだ」などと言い合ったりしてる。

 これに玲奈が少し引いてしまい、オレの後ろに隠れ気味になる。

 それを見たのかトモエさんが、「私とシズのだから、手を出したらダメだからねー」と混ぜっ返していた。

 そして友達に襲いかかり、逃げ出す友達を追う直前に「昼休みねーっ!」と一声だけかけて去って行った。


「賑やかな人ですね」


「その賑やかな人と、三日間も二人っきりだったんだろ」


「あの時は、騒いだり遊ぶ暇もありませんでしたよ。それに、流石にトモエさんも静かでしたし」


「どうだか。絶対なんかあっただろ」


「そ、そうなの?」


 妹様の余計な一言で、玲奈にまで向けられたくない表情を向けられてしまう。


「話しただろ、最初に不審者だと思って間違って組み伏せたくらいだって」


「トモエを組み伏せられる時点で、ショウの凄さを実感するよ」


 思わぬところから、言葉が返ってくる。


「トモエさん、やっぱり何かしてるんですか?」


 聞いたのはもちろん武道についてだ。

 しかし確かモデルで忙しいとか言ってた筈だ。


「小学生の頃は空手、中学は合気道。どっちも2、3ヶ月と長続きしなかったが、合気道は一応黒帯だ」


「今はしてないんですか? 動きとか凄くキレがいいですよね」


 悠里が少し憧れ目線で聞く。

 そして悠里の言う通り、トモエさんはシズさんとほぼ同じ外見ながら、立ち姿や振る舞いの方向性が違う。

 敢えて言えば、シズさんは優雅で綺麗だけど、トモエさんは立ち姿こそ似ているけどアクティブで動きにキレがある。


「さあ、事務所でのレッスンくらいの筈だ。だが、何か興味を持って初めている可能性はあるな。あっちでも日本刀を振り回していたから、剣術でもしてるんじゃないか?」


「知らないんですか? て言うか、そう言うのしてたら家に道具とかありますよね」


「うん。マンションには無かったから、してないと思うよ。まあ、トモエなら向こうでの鍛錬だけで十分だろ」


「トモエさん、やっぱり凄いんですね」


「だよなー」


 玲奈の憧れマックスな言葉に、悠里がいいなーって感じで同調する。

 悠里の場合は、自分もうまく剣を使いたいと言うやつだ。

 そしてその気持ちはオレも同じだ。1、2ヶ月の差なのに、技のキレとかはトモエさんの方が確実に上だからだ。


 けど、文武両道というかスポーツもなんでも出来てしまえるタイプなのに、トモエさんは欠員が出ても大丈夫な団体競技に出場してただけだった。

 と言っても、今日は別にトモエさんを見に来たわけではない。

 トモエさんがアポを取ってあった、ハルカさんと親しかった友達の人と合うためだ。

 その為に、こちらの関係まで架空の設定を作って、既に概要が伝わっている。


 けれど、会う予定は体育祭が終わった後の夕方なので、普通に競技を観戦して、昼はトモエさんとそのお友達を加えてのランチになる。

 そしてオレ以外全員女子というのは、もはやオレにとって拷問だった。

 しかも玲奈までが、トモエさんのお友達のトークに巻き込まれていたので、本当に居場所がない。

 ジュース買ってくるとか言い訳して、かなりの間席を離れていたほどだ。


 ただ、連休の遊園地での写真の効果の高さを改めて実感させられた。玲奈と悠里も、すっかり高い知名度を獲得している。

 席を離れる時に、4人に興味のある学生達に呼び止められて名前とか聞かれたくらいだ。

 もちろんはぐらかしたけど、玲奈も全然リラックスできてなかったみたいだ。

 それでもなんとか昼食タイムも切り抜けて、運動会も無事に閉会式を迎えお開きとなる。

 そしてそこからがオレ達にとっての本命だ。


「その人たちが、遥のゲーム友達?」


 上下ジャージ姿のままの、いかにも頭良さそうなメガネ女子が、少し怪訝な表情でオレ達を値踏みするように見てくる。

 そしてこういう時に頼りになるのは陽キャだ。


「初めまして、月待悠里と言います。山科さんとは3年ほど前にネット上で知り合って、最近になって私の家庭教師をしてもらっている常磐靜さんの妹さんの巴さんが、遥さんと知り合いだったって知ったんです」


 うん、お手本通りの完璧な応対だ。

 少し言葉足りない気もするが、完璧過ぎるより逆にいいだろう。


「オレは、こいつの兄で翔太と言います。こっちはオレのクラスメートの」


「天沢玲奈です。よ、よろしくお願いします」


「玲奈ちゃん、緊張しすぎ。私は付き添いのようなものだから、気にせず進めて下さい」


 シズさんがやや丁寧口調なのは、この人と面識がない事を態度以上に伝えている。

 そしてそれは、目の前の人も似た感じだった。


「私は遥と同じクラスだった水卜みうらです。それで、遥のご家族に伝えたい事があるから連絡手段がないかって事ですよね、常磐さん」


 そう言えば、普通は名字しか名乗らないし名字で呼ぶ方が普通だ。向こうに行けば下の名前をモチーフにしている事が多いので、オレ達は少し感覚がズレていたのかもしれない。


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