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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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302/402

420 「眠り姫?(1)」

「ルカ殿は、原因不明の非常に深い眠りについています」


 幾つもの魔法を行使したあと、聖女二グラスがオレ達に冷静な言葉で告げた。


 緑色の髪を持つ猫系獣人の姿を持つ聖女二グラスは、本当は300年前に「異界」から「客人」を呼ぶ際のサポートしていた高度な魔導器が、魔力を用いて獣人の姿をとったものだ。

 そして魔導器なので、主人から命じられない限り嘘はつかない。


 そして聖女二グラスにヴィリディと名付けたのが、直ぐ側で聖女の守護者をしている神殿騎士のゼノビアさんだ。

 この一連の魔導器の主人となるには、『ダブル』が勝手に定めた基準でSランク級の魔力総量を有していないといけない。

 つまりゼノビアさんは、それだけの強者という事だ。


 なお、戦闘中に突然倒れたハルカさんは、直ぐにヴァイスの背に乗せて『帝国』の『帝都』ゾディークにある、聖女二グラスがいる大神殿に運び込んだ。


 ハルカさんが戦闘中に倒れた事と、魔物の襲撃、戦闘と撃退の報告は神殿の従者などに告げると、数刻後には『帝国』の第三皇子のマーレス殿下が、ロクに近習も付けずに飛馬で駆けつけてきた。

 しかも、自身に属するとはいえ、治癒魔法師、魔法を調べる魔導師など、連れてこれる限り連れてきてくれた。

 魔法使い達は、遅れてさらに何人も来たほどだ。


 けど、魔法使い達の治癒も探知などの魔法も無駄だった。

 しかし、治癒のエキスパート集団である神殿の神官達、さらには聖女の姿の高性能魔導器がダメだった時点で予測はついていたので落胆はない。

 マーレス殿下の心遣いにお礼を言う余裕も戻っていた。


 けれども聖女二グラスは諦めす、これだけ魔法使いが集ったのだからと、より高度な魔法陣が5つもある儀式魔法を構築し、ハルカさんを調べてくれた。

 その様は、まるでCTスキャナを機械を透かして見るようだ。

 けれど、そこまでしても聖女から出てきた言葉は、原因不明の深い眠りだった。


「眠っているだけなんですね。いつ目覚めるとか分かりますか?」



 ハルカさんの穏やかな寝顔を見ながら、なるべく冷静に問いかける。


「眠っているのは確かですが、非常に深い眠りです。ほとんど意識を感じる事が出来ませんでした。また、いつ目覚めるかは、私の力では全く分かりません。しかし、短期間で目覚める可能性は相当低いと考えられます」


「じゃあ、魔法とか使って、多少強引でも目覚めさせる事は出来ますか?」


 その言葉に、聖女が首を静かに横に振る。


「可能性のある魔法は幾つか試しました。ですが、あまり強引に目覚めさせようとするのは危険です。今言える事は、体自体は完全だという事です。それと、体内の魔力も良好に維持されています。魂も体の中にあります」


 そこでシズさんが小さく手を挙げる。

 表情は能面に近い。


「このまま眠り続けた場合、体はどれくらい保つ?」


「普通の方なら、魔法による力の供給をしても2週間程度。魔力の多い彼女なら、倍の1ヶ月程度は問題ないでしょう。それ以上は分かりません」


「そ、それじゃあ、ノヴァから点滴の装置と看護師さんよべないかな? 点滴なら寝たきりでも大丈夫でしょ」


 ボクっ娘は、こう言う時のメンタルの弱さを感じさせる言葉と雰囲気だ。

 けれど、言った事は有効に思える。

 だからオレもシズさんを見た。


「一つの手だとは思う。ただ、ノヴァ以外で大量の点滴液を製造や保存できるのか疑問だな。それに、持ち出す事自体が難しいんじゃなかったかな? あれは、この世界だとまさにチート技術の一つだ」


 オレ達にだけに分かる言葉だけど、この場には聖女なヴィリディさんとゼノビアさんしかいないので気にするほどでもない。

 それよりも、シズさんの言葉の方がはるかに重い。


「せ、聖女の力で、なんとか出来ないんですか?!」


「魔法で延命期間をある程度は伸ばす事は出来ます。それ以上は、期待しないでください」


 悠里の切羽詰まった言葉にも、本当は魔導器である聖女二グラスの言葉は冷静だ。


「クロ」


「はっ、我が主人」


 袋の口を緩めると、言葉と共に人の姿をとる。


「ハルカさんの魂は、この体の中でいいんだな」


「はい。ですが、希薄になっております」


 念のための確認でクロに問いかけたが、オレにとっては聖女二グラス以上の情報だ。依り代、肉体を生み出す能力は、伊達じゃないと思いたい。

 それにオレとしては、最悪クロに体を作り直させて魂を移せばいけるんじゃないかという期待もあったけど、肝心の魂の方が問題あるとか、それはマジヤメてほしい。

 泣きそうになる。

 けど、まだ泣く場合じゃない。


「詳しく」


「はい。このような場合を認識するのは初めてですが、以前のハルカ様より通常の「客人」の状態に近いと認識出来ます」


「ん? つまり、オレ達の世界とこっちが、ハルカさんの中で繋がってるって事か?」


「明確には違いますが、近い状態と言えます」


 またも爆弾発言だ。

 これが、トモエさんの生きてるかも発言がなければ、大爆発な爆弾発言だっただろう。

 そして似たような事を、オレより高度なレベルで考えついたシズさんが、少し思考した後に口を開く。


「つまり、向こうの体で意識が覚醒しつつあるという事なんじゃないのか? やはり、ハルカは死んでない可能性が高い、という事だろう」


「わたくしには異界の事は分かりかねます。ですが、こちらに意識を全て持ってこない限り、こちらでお目覚めになる可能性は相当低いかと」


 そう言って慇懃に礼をする。

 クロがあえて数字を言わないくらい、このままではハルカさんがこっちで目覚める可能性が低いという事だ。

 そして理由や原因はどうあれ、魂の状態が不安定だという事だ。


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