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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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148「黒いキューブの覚醒?」

 逃避行のあと、ハーケンの街から4、5時間ほど飛行すると、昼も大分回った頃にランドールへと戻って来る。

 そしてオレたちの帰りを、初めて見る人物が待っていた。


 完璧な着こなしの黒い執事服なのだけど、猫の耳と尻尾が生えていて違和感半端ない。

 顔立ちが、ちょっとシズさんっぽい黒髪ロンゲのちょーイケメンだ。一見、乙女ゲーやボーイズラブな作品に出てくるキャラっぽい。


「お帰りなさいませ、我が主」


 聞き覚えのある落ち着いた雰囲気の声だ。その姿を訝しんでいた3人も、目を丸くしている。オレもそうだ。

 『帝国』を警戒して、念のため屋敷に残しておいた、魔女の本体となっていた真っ黒なキューブ状の魔導器の声だったからだ。


「えっ、もしかしてクロ? 自前の肉体を作ったのか?」


「はい。クロにございます我が主。ご質問にお答えさせていただきますと、厳密にはこの体は魔力で作った擬似的な体にございます。上辺だけですし、このように簡単に崩す事が出来ます」


 そう言うと、左腕の肘より前がドロッとなったと思うと、さらに塵のように霧散して消える。

 そして逆回しのように元の腕に戻った。

 その際、服も一緒に消えたり再生されている。


「便利ー。それにファンタジーっぽい!」


「それで、なぜその格好なの?」


「それと能力なりを教えろ」


 ハルカさんとシズさんは意外に冷静だ。


「はい。服装については、この周辺で最も多い服装の男性用と同じにさせていただきました。獣人の姿なのは、私が人の詳細な情報を持たないためです。

 能力は、保有魔力量によって左右されますが、現在は一般の人と同程度です」


「増えた情報などはないのか?」


「この場で収集した情報以外にございません。ですが保有魔力が増えれば、私の同類との連絡が可能になる可能性がございます」


「それは朗報だな。で、人のままなのか?」


「魔導器内に魔力を納める事で、基本形態に戻る事は可能です。しかし今の魔力量では、新たな『客人』の肉体を作り出すには全く足りておりません。

 こうして人の姿をとり、皆様の身の回りの世話をさせて頂くのが精一杯にございます」


 殊勝な態度で殊勝な事を言う。そして嘘を言っているようには到底見えない。


「へーっ。じゃあ、もともとは人の世話なんかもしてたのか?」


「左様にございます。『客人』の皆様はこの世界に対して不慣れな事が多く、生活面などを補佐させていただいておりました」


「昔のバージョンの方が、今よりサポートしっかりしてたんだね」


 ボクっ娘の言葉は、もっともだ。


「もっとちゃんとした名前を付ければ良かったな」


「とんでもありません。私はこの名前を与えて頂いた事、この上なく感謝しております、我が主よ」


 クロが恭しく一礼する。完璧な仕草で実に様になっている。耳と尻尾が無ければ、だけど。

 しかしシズさんが、俄に顔をしかめる。


「ところで、その姿をこの屋敷の者以外の誰かに見られたか?」


「私の感知する限りございません。また保管されていた部屋から外に出るのは、これが初めてにございます。屋敷の者もこの場にいる者以外は見ていないかと」


「あの部屋、魔法含めて鍵かけたりしてたけど」


「内からだと魔法は意外に効果がないんだが、これは盲点だった」


 シズさんの溜息まじりな言葉を受けて、クロがまた恭しく頭を下げる。


「大変ご無礼ではございましたが、鍵などは魔法にて解除させていただきました」


「魔法使えるの?」


「第一列の補助魔法と生活魔法程度は使えねば、『客人』にお仕えする事は難しくございます故」


「格闘戦や攻撃魔法は?」


「保有魔力量が増えれば、最低限のお勤めを果たせる程度に果たせる様になります」


「戦う執事にもなれるんだー。おもしろーい」


 ボクっ娘のテンションはかなり高い。

 ちょこちょこ動いて、クロの姿を色んな方向から見入っている。


「面白いって問題でもないでしょ。取りあえず、私達、いえあなたの主は生活に支障はないから、普段はキューブ状で過ごして欲しいんだけど」


「という事だ」


 ハルカさんの目線を受けてオレが命じる。

 すると「畏まりました。必要とあればいつでもお声がけくださいませ。それまで私は、出来る限り魔力収集に力を割きたく存じます」と答えると、全身がスライムみたいにドロドロになって、さらに塵となって体の中心にあったキューブに吸収されていった。


 そしてフワフワとキューブは浮かんで動き、オレが広げた手のひらの上に収まった。


「この状態でも前みたいに話せるのか?」


「はい、問題ございません」


 キューブの一部が淡く光って振動している。なんかオモチャみたいだ。それとも音声で命令を聞いてくれる端末ぽいかもしれない。

 それよりも、だ。


「それじゃ、この場に居る4人以外が話しかけない限り、勝手に喋らないようにしてくれ」


「あと、勝手に動かないで」


「それと、これからはこの4人の命令を聞くように」


「全て畏まりました。それでは我が主並びに皆様のご命令をお待ちしております」


 そう言うとキューブは沈黙した。しかし以前と違い、僅かだけど魔力を感じる事ができる。

 気づかれたりしたら面倒なので、何か魔力の放射を遮断するアイテムを今度買った方がいいだろう。


「ビックリだねー」


「本当だ。しかし、じっくり研究してみたくもあるな」


「これを調べるのも、この世界の謎を解く一環にはなるでしょうけど、まずは私達の諸々を片付けてからね」


 3人とも、まだオレの手のひらの上にあるキューブを見つめている。


「そうだな。それにしても、『ダブル』が沢山いるとゲームっぽい雰囲気だったけど、一気にファンタジー世界に引き戻されたな」


 そう、『ダブル』がいない状況でのイベント発生の方が、この世界独特のファンタジーっぽさを感じることができると思う。

 けど、みんなはオレの感想とは違っていた。


「いや、私の知っているこの世界のファンタジー的常識に、クロのようなものはないぞ」


 シズさんの言葉に、ハルカさんも首を縦に振っている。


「そうかな? 魔力でできた体とか、魔物にちょっと近いじゃないですか」


「……なるほど、一理あるな」


「シズ、ショウの戯れ言に流されないでよ」


「シズさん、考えるより先に買ってきた荷物の整理とかしよう」


 ボクっ娘のシズさんの扱いが、意外にぞんざいだ。

 どうもハルカさんとボクっ娘の間で、シズさんは何だか少し残念キャラ扱いのような気がする。

 確かにマッド・マジシャンな傾向は見えるけど。



 その後、巨鷲のヴァイスから荷物を降ろしたりして、アクセルさんに借りている部屋へと入る。

 荷物持ち状態でもあるので、今後の相談も兼ねて彼女たち3人の部屋に入る。


「そういえば、こっちの部屋入るの初めてだ」


「それじゃ十分堪能してね。どうせもう直ぐしたら、また移動で引き払うから」


「と言っても、本格的な旅にはもう暫くかかるだろうな」


「動けるのは、アクセルの国での儀式以後よね。今週中くらいにフリズスキャールヴの大神殿に行って、面倒ごとは済ませておきたいけど」


「それはともかく、今日はこの後ゆっくりしようよ」


 言うなり、ボクっ娘がロングソファーにダイブする。


「そうだな、さすがに疲れたな」


「同感」


「そうか?」


「脳筋は黙ってる」


「いてっ」


 言葉と共に、ハルカさんにおでこを軽く指で弾かれてしまう。

 微妙な力加減なので、地味に痛みを感じる。


「それでは、今日は早めに食事を用意してもらって、早々に休もうか」


「その前にサウナしたいわね」


「それ、さんせー」


「リョーカイ。じゃ、オレ部屋戻ってるな」


 オレはそれだけ言うと、部屋を出ようと再始動する。


「いいの?」


「サウナするし、着替えとかもするんだろ」


「ショウ相手だと、あんまり羞恥心感じないけどね」


「なんだかんだで、ウブだものね」


「そんな事言ってると狼になるぞ」


 顔と手で「ガオっー」てポーズして、軽く笑い合いながら3人の部屋を後にした。

 そしてちょっと休憩と思ってベッドに寝転がったら、そのまま寝てしまっていた。

 意識が高ぶっていたのか疲れは感じなかったが、体は存外疲れていたようだ。


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