414 「待ち伏せ(1)」
夢の向こうで寝て目が醒めると、こっちでは九月最後の週明けの月曜日。
憂鬱な一週間の始まりだ。
だからと言うわけではないけど、ハルカさんが生きているかどうか、と言うより昏睡状態の眠り姫なのかどうかの調査は、主にトモエさん任せだ。
今朝も、《こっちは任せといて。運動会で待ってるね》とメッセージが入っていた。
それにお願いしますとしか答えられないのは、彼氏としては少し歯がゆい。
なお、トモエさんの学校の運動会と文化祭には遊びに行く予定だけど、それ以外となると男のオレだけでは実質手が出せない。
けど幸いと言うべきか、トモエさんの高校の運動会は次の日曜だ。そしてその日は、本来なら玲奈と過ごす予定だったので、デート先をトモエさんの高校に変更する予定を早々に組む事になった。
そしてその辺りの事は向こうでも少し話していたので、それをボクっ娘経由で聞いている玲奈とは、登校の間に話をまとめられた。
玲奈もハルカさんにまた逢いたいと言ってくれたのは、素直に嬉しいところだ。
そしてこの辺りから、オレ自身の方も学校は俄かに忙しくなる。
古いスケジュール体制なままの学校なので、10月の体育の日辺りに体育祭、後半に中間テスト、11月半ばに文化祭と、イベント目白押しだからだ。
そして今日は、体育祭の各人の出場競技のうち、前回埋まらず、そしてその後も立候補者が無かった枠を埋める為の最後のクラス会だった。
うちの学校の場合、嘘くさい横並び教育より得意分野を奨励する向きが強いので、運動会は運動部の為の祭りと言える。
そして文化部は文化祭に全力を傾けるのが流れなので、オレとしてもそうしたいところだ。
けど、どうしても立候補がない場合は、体育測定の順番で推薦されて、推薦者の中から立候補が出ない場合、クラス内での多数決と言う流れになる。
運動が出来ない奴が無理やりやらされるよりはマシだけど、もう少しなんとかならないのかと思う。
そしてオレにとって嫌な流れは、玲奈から始まった。
「それでは、この競技は天沢さんに決まりました」
パチパチパチとどこか他人事な拍手。
生贄を捧げ終わった、クラス全員の総意だ。
玲奈は体育測定で走るのが早かったので、運動部では埋まらなかった短距離走の走者に推薦、そして多数決で選ばれてしまった。
玲奈の脚が速いのは確かだけど、今学期に入ってからの注目度の高さが多数決に響いたとしか思えない。
そして、まだ埋まっていない競技が幾つかあるのだけれど、オレへの注目が心なし高まっているように感じる。
彼氏なら仲良くお前も犠牲者になれ、というわけだ。
そして体育測定の結果がそれなりに良かった事が災いして推薦され、多数決で拒否権もなく決められる。
しかも選ばれた競技は、よりにもよってやりたがる者が少なかったクラス対抗リレーだった。
うちのクラスに運動部所属が少ないのも影響していたけど、隠キャ連中がこぞってオレに挙手していたのは、向こう半年忘れないと心に刻みたくなる。
そしてクラス会も終わった放課後、リレー参加者が一角に集められる。
みんな運動部で、しかも複数競技参加予定。我がクラスの猛者達だ。更に言えば、クラスで2つある陽キャグループ内からの選抜メンバーと言える連中ばかり。
(うわっ、場違いもいいところだ)
もうそうとしか思えない。
「そんな顔すんなよ。まあ、一緒に頑張ろう」
陽キャグループのリーダーの近藤は、いつでも前向きだ。
「まあ推薦とは言え、仕方ないよな」
「うん。それで、最低でもバトンの練習くらいしときたいけど、今週放課後時間取れるか?」
「金曜くらい。あと土曜も午前中なら」
「ツッキー、再来週運動会だってのに、空けとけよなー。って、急に押し付けられてそりゃ無理かー」
とっさに名前が思い浮かばない、いかにも体育会系の陽キャが気軽に声をかけてくる。
こういう、相手が誰でも気にしないタイプの陽キャにオレもなりたいもんだ。
「マジ、選ばれるとか思ってなかったよ」
「まあ、彼女いない奴の僻みだ、諦めろ」
「いいよなー。天沢どんどん可愛くなってね?」
とか、隠す気がないのは、いっそ清々しい。
好感はあまり持ちたくないけど。
けど近藤は、前向きな事を探すのがうまい。
「でもさツッキーって、中学の頃剣道部だったんだろ。同じクラブの友達から聞いたぞ」
「今は文芸部だよ」
「そうだったな。でも、今も鍛えてないか?」
「軽い運動くらいしかしてないけど」
「アレ、そうなのか? 夏くらいから動きがキビキビしてるから、何かしてると思ってた。俺の勘違い?」
「うん、勘違い。けどまあ、早朝ランニングくらいは、するようにしとく」
「うん、それくらいで良いと思う。でも、よろしくな」
(うわっ、陽キャな笑顔が眩しすぎ)
そうして解放されると、玲奈も女子のグループから解放されたところだった。
伊藤さんは、オレがいない間もちゃんと玲奈をガードしてくれてたようだ。
「お互い大変だな」
「ホントそうだよ。でも、ショウ君もリレーでちょっと嬉しかった」
「オレは見てるだけでいいよ」
「でも、向こうでのショウ君の動きを見てると、全然いけそうに見えるよ。こないだの空中戦も凄かったし」
「あれは向こうのすげー体だから出来るだけだよ」
「でも、凄い度胸だよね。私じゃ全然無理」
「体が出来るって分かってれば、別に怖くないぞ」
「それはショウ君だけだって」
そんな事を話しながら部室棟に向っていると、ちょうど部室棟の階段の2階の踊り場に差し掛かった辺りで、何故か大沢先輩が立ち塞がってた。
凄い形相だ。
それで気になり階段の上下を見ると、数名の男子が実質的に階段を封鎖してる。
当然、他に人はいない。
「ツラ貸せ」
「嫌です。通して下さい。何かしたら大声出しますよ」
「んだとっ!」
こっちが言う前に、向こうが大声をあげる。
これで一手間省けたと言うものだ。
そして玲奈を壁側にかばいつつ、更に小声で加える。
「(スマホ準備して。動画撮影でも110番でもなんでも良いから)」
「(う、うん)」
そのやり取りの間に、すげー表情の大沢先輩が上からズンズンと階段一段飛ばしで降りてくる。
階段の上下からも、1人ずつが加わるべくやって来る。
強引にどこかに連れて行こうと言うのか、最初から実力行使のつもりだったらしい。
「てめえらのせいで、俺は大恥かかされた。その落とし前をつけさせてもらう。付いて来い!」
「嫌です。自業自得でしょ。落とし前とかダサすぎ」
オレの言葉に真っ赤になる。
多少は冷静さを失わせる方が良いと思ったけど、この程度でやりすぎだったかもと少し後悔する。
が、遅かった。
衝動的になった大沢先輩の右拳が飛んで来る。





