413 「生きてるかも?(2)」
またも、いきなり情報の爆弾が投じられた。
確かにシズさんの仮説は、可能性としてはゼロじゃないかもしれない。
けど、シズさんにしては根拠が薄い気がする。
「シズさん、他にもそう考えた理由があるんじゃないですか?」
「そうだ。レイ博士とハルカは、こちらでの状態が違っていた。これは、向こう、リアルでの中途半端な状態、意識不明か植物人間の可能性を示唆していないか?」
「シズ、私、ぬか喜びはしたくないから、ゴメンだけどそう言う楽観論に縋りたくはないんだけど」
困惑顔のハルカさんの言う事はもっともだ。
しかしシズさんは、拘りたいという表情をしている。
「かもしれないが、私達の目的はハルカの向こうでの復活だ。不確定な要素は可能な限り確認をとっておいた方が良い。間違っている事を進めて問題が起きては、目も当てられない」
「向こうに寝たきりのハルカさんの体があるのに、別の場所で突然完全復活とか、確かにシャレにならないよね」
「確かに。そうなったら、ある意味最悪ね。それで、私は何をすればいいの?」
ボクっ娘の言葉にハルカさんが軽くハッとして、納得顔になった。
シズさんも軽く頷いてから、再び口を開く。
「ハルカの家の住所その他諸々。ハルカの友人なら知ってそうな話や情報。それとこれが一番大事なんだが、事故当時の同乗者の情報だな。
あとはリアルで手分けして調べれば、私の妄想かもしれない仮説も明らかになるだろ」
「そうね。それに確かに事故の時は、そこまで調べてもらってないわ。じゃあ、念のためという事でお願い出来るかしら?」
「勿論。それと追加だが、事故に遭った時の同乗者は同級生か?」
「運転手以外はね。車だから人数は4人。だから調べるにしても、そこまで手間にはならないと思うわ」
「了解だ。じゃあトモエは学校を」
「ラジャ。事故当時の事故に遭った人いるかとかだね。ハルカの家族はどうする? 私じゃ接点として薄すぎなんだけど、ハルカと親しかった同級生か先輩に頼んでみる?」
「まだそれは先でいいだろう。他にハルカが気付いた事とかないか?」
シズさんにそう問われて、ハルカさんがシンキングタイムに入り、眉間に少しシワが寄る。
「私の当時の同級生、あと藤原さんとか当時の生徒会の役員は、私の連絡先はスマホ関連以外は知らないわ。家に呼んだ事もないし、住所とか家族構成すら知らないわね」
「まあ、普通はそうだよねー。じゃあ全然?」
ボクっ娘の言葉にハルカさんが首を横に振る。
そして少し自嘲的な笑みを浮かべる。
「私、学校だと1年の時の学年のクイーン・ビー的ポジだったの。そのせいもあって、逆に家に遊びに来る友達いなかったのよ」
「あー、うちプロムやるもんねー。でも凄い、クイーン・ビーなんだ」
「凄かった。過去形にして。まあ若気の至りよ。って、また私、自分語りするの?」
流石に苦笑している。
みんなもどうしよう的な表情だ。
オレとしては別にどっちでも良いけど、一応確認させておくべきことがある。
「男のオレが席を外す方がいい話なら、しばらく外でもぶらついて来るけど?」
そう言うと、別の感情のこもった苦笑が帰ってきた。
「いいわよ。彼女と彼氏なんだし。まあ、復活に対する私の気持ちを知ってもらう意味も込めて、家の事くらいは話しとくわ。
それでだけど、父と祖父はどっちも優秀な外科医なの」
だから私も医者を目指して勉強してたんだけど。
そう苦笑しながら、話を続けていった。
「父と祖父は、アメリカで外科医として飛び回ってて、たまに会う程度。ワーカホリックなのよね」
「じゃあ、家はお母さんと二人?」
「いいえ。母は元CAで、弟が乳離れした時点でマナーコンサルタント会社の会社を仲間と共同で立ち上げて、そっちにかかりっきり。しかも、仕事優先で都心のホテルに住んでるも同然で、休みの日に会えれば運がいい方だったわね」
「あ、弟さんいるんだ。どんな人ですか?」
「名前は颯太。仲が良い悪いという以前なくらいの間柄」
普通に考えれば、弟とは関係が悪いって事なのだろう。
けど、そういう口調でもない。
「えっと、じゃあ家だと弟さんと二人? 家事はハルカさん担当とか?」
「いいえ。毎日、家政婦さんが来てたわ。それと颯太は、小学生の頃からアメリカでインターナショナルスクール通い。だから、父や祖父と同じで、たまにしか会わないの」
想像以上に家族はバラバラだ。
社会的には立派な家かもしれないけど、『夢』の彼方に現実逃避もしたくなると言うものだろう。
「えっと、お爺さん以外の……」
「父方の祖母は既に他界。母方の家とは疎遠。最後に遊びに行ったのと来てくれたのは、小学生の間まで。うちってそんな感じ。
しかも父や祖父は、弟が医者になれば良いって考えてて、私は好きにしろって放任主義。だから颯太には、私が男だったらって地味に恨まれてる。周りの期待から、嫌でも医者にならないといけないからね」
そこで小さくため息だ。
そしてオレの方を向く。
「ああ、そうだ。颯太の年はショウと同じよ」
「だから気になるとか?」
ボクっ娘の空気を軽くするためのジョークにも、ハルカさんは苦笑気味だ。
「そうね。けど、多分だけど、最初の頃は代償行為も少しあったと思う。私、颯太に姉らしい事はロクにしてないから。
あ、でも、友達から見たら、下級生や年下相手には誰に対しても似た感じらしいわ。だからショウは、特別でもなんでもないから」
「へーっ、そういう背景があったんだ」
「アラ、落胆しないのね」
「まあ、大して期待してない人生だったからな。特に、女子からの反応には」
その言葉に苦笑する仲間が多いけど、ハルカさんはジト目だ。
けど、オレの下らない言葉で多少でも自重から抜け出せたなら、オレとしてはそれで問題ない。
他のみんなも、再びハルカさんに顔を向ける。
「しかし、よくそれで家族が維持できているな。それに、家族ごと海外住まいでも良いくらいに思えてしまう」
「だよね。うちも今は一つ屋根の下ってわけじゃないけど、ハルカんちは色々凄いね」
常磐姉妹が半ば呆れている。
ここは別々に住んでいても家族仲良さそうだから、尚更なんだろう。
しかも悠里までウンウンと同意してる。
そしてハルカさんは、再び苦笑と自嘲だ。
「うちはそれなりの名家らしくて、他の親族から家はなるべく日本に置けって感じね。家も祖父のものだし。
それと私が言うのもなんだけど、私の家族って家族の優等生なの。だからみんな、自分は家族を愛していて、家のために頑張ってる気持ちは本物だと思う。私も家族に恥はかけられない、くらいには思ってたし。
……さあ、これで恥を含めた自分語りも終おしまい」
自分の言葉が過去形なのが少し悲しい。
けど、そんな家庭でどこまで復活したいと本気で考えているのか、疑問は感じなくもない。
けれど、そんなオレの気持ちは彼女に見透かされていた。
そして強い視線がオレに注がれる。
「何考えているかだいたい想像付くけど、復活するのは私にとって大前提。それは動いてないわよ。これって、ショウがそうさせてる一因でもあるんだから、しっかり動いてね」
最後に少し冗談めかした口調に少しホッとする。
みんなも同じみたいだ。
「オレにとっても大前提だから、出来る限りの事はするよ。とはいえ、男がハルカさんの友達の周りとかうろつけないよな」
「完全、変態かストーカーだよねー」
「まあ、その辺はみんなに頼むわ。クラスメートとか少し親しかった人たちの情報を書いてくわね」
「ああ、話を聞いたんだし、今度はこっちが動く番だからな」
オレが言葉を返したが、常磐姉妹が頼りだろう。





