411 「茶番の真相(2)」
「私は生きてれば3年生よ。でも、落ち着いてから話さない? 私にとっては過去形だから、急ぐ必要ないの」
「そうなんですか?」
「意外に驚かないんだな」
「完全異世界転生状態ってやつだよね。ネットでそういう事もあるって噂は見た事あるから」
シズさんの質問に答えるトモエさんは、自分で答えを口にしながらまだ半信半疑だ。
けどハルカさんが、小さく両手を叩く。
「この話は後ね。それで、話の続きいい?」
「あ、ああ、頼む。それで、オレ達が濡れ衣を着せられたのは、キューブを持ってるからで、キューブを狙う魔物を誘き出すのが本当の目的って事?」
「お、なかなかクレバーな答えね。けど、後半は不正解」
トモエさんの言葉のせいか、ハルカさんが少し大げさに反応する。
けど今は、それに乗ってあげるべきだ。
「そうか。急進派の第三皇子達が、最初に動いているわけだからな。けどそれだと、皇帝陛下もオレ達に濡れ衣着せた事にならないか?」
「そうよ。『帝国』としても、急進派を利用して私達のキューブを不当な手段で手に入れたくなってたのよ。
この事件自体は、私達がキューブを複数持ってるって情報が伝わってから計画されてきた話ね。『帝国」としては、簡単に求める物が手に入りそうだと考えたんでしょう」
「一方で、穏健派と『帝国』の神殿騎士団は、邪神大陸の魔物どもが、急進派と同じ理由で『帝国』内で暗躍している情報を掴んでいた。何しろ本体がキューブの聖女が居る神殿は、終始奴らに狙われていたからな。
そこで穏健派は『帝国』に不名誉な事をさせない為に、魔物に表に出て来てもらう事を考えついた。
何しろ、私達は神殿に属している。全てが闇に葬られでもしない限り、『帝国』と神殿は対立する可能性が十分にある」
「この時点で皇帝陛下とその直属は、急進派の話に乗った振りをしつつ、穏健派に乗り換えた。だから皇帝暗殺は、真相を知る誰にとっても茶番になった。
けど、急進派と私達を追う魔物達に悟られるわけにはいかないから一芝居打って、表向きは私達を悪者にして何も知らない急進派に追い立てさせて、悪魔達が出てくるのを待ったの」
「一応だけど、私もその悪巧みの被害者みたいなもんだよ。私は、みんなを助ける以外聞いてないから」
「そりゃそうだろ。でないと悪魔どもを欺けないからな」
トモエさんの言葉をシズさんが補足するが、オレとしてはトモエさんが命を張ってくれた事は十分に理解している積りだ。
「なるほどねぇ。じゃあ、ゴード将軍が何かにつけてオレ達によくしてくれたのも、マーレス殿下が親しくしてきたのも、オレ達を守る為と考えていい?」
「マーレス殿下は、個人的感情はともかく、ショウの強さを確認して実際多少の点数稼ぎを目論んだみたいよ。
けど、ゴード将軍としては、ハーケンの時点で私達を騒動に巻き込んだように思っているらしいわ。しかも立場や忠誠から、私達を『帝国』に連れてこないわけにも行かなかったわけだしね」
「中間管理職の悲哀だねぇ」
「私らにしてみたら、何にせよ迷惑なだけじゃん」
ボクっ娘がおかわいそー的なゼスチャーを添えるけど、その程度で妹様は許す気はないようだ。
みんなも苦笑しているけれど、その気持ちは同じだ。
「まあ、そう言わないであげましょう。ゴード将軍は、出来る限りの事はしてくれたんだから。
それで続きだけど、魔物の動きが露見した時点で二重の茶番はおしまい。
急進派に、神殿と神殿騎士団が皇帝陛下に緊急の面会を求めて、皇帝陛下とその側近達が姑息な手段をしている場合じゃないって見せたのよ。何しろ、急進派から見ても、魔物に横からキューブを掻っ攫われかねないわけだものね」
「なるほどね。それで『帝国』は、この後クロ達を買い取りたいとか言ってくるかな?」
本来なら、大国なんだからそうするべきだろう。それに、これでレールは正常に戻ったんだから、オレが偉い人なら一回くらいは話を持ちかけるだろう。
まあ、ここまでゴタゴタに巻き込まれたんだから、幾ら積まれても御免被るけど。
そしてオレの思いは、みんなも共通のようだ。
「どうだろうね。ボク達は神殿所属でその神殿が見ているんから、神々に関する事に金で解決って話にはならないんじゃないかな?」
「でしょうね。協力を求めてくる、くらいが妥当なところじゃないかしら?」
「ついでに言えば、今の戦いで『帝国』の兵より私達の方が活躍したところを大勢が見た事になる。神々の塔に向かうにしても、私達が持ち歩く方が安全だと説得するのは難しくないだろうな」
「あと、キューブの主人になるには相当の魔力総量が必要な事、ちゃんと伝えてあげたらいいんじゃないの? 三剣士であの程度だと、相応しい人って殆どいないでしょう」
「トモエ、魔力が要る事をよく知っているな」
「まあね。聖女様とかも私知り合いだし」
「そうなのか」
トモエさんのこちらでの事は、シズさんもあまり知らないご様子だ。表裏のなさそうな人だけど、意外に秘密の多い人なのかもしれない。
それより、雑談が出始めたって事は、ようやく話も終わりだろうか。
「話はこんなもんか?」
「そうだな。まあ結果としては、終わり良ければという事だ。振り回された身としては、納得できないがな」
「そうよね。けど、第三皇子が焦って急に動き出したのは、誰にとっても予想外だったらしいわ。だから穏健派も後手後手に回ったの。私達がバラバラに逃げる事になったのもそのせいね」
「そうだったんだ。じゃあ、オレのせい?」
「かもね。第三皇子の派閥を素寒貧にしたんだから」
少しばかり笑いが広がるけど、そこにオレ達の居る天幕に近寄る人影があった。
内輪での話が終わるのを待ってくれていた感じだ。
「さて、お話は済みましたでしょうか。本来なら私がお話ししなければならない事なのですが……」
「二人には話すと言ったのは私どもです。むしろ、我儘を聞いて頂きありがとうございます」
「とんでもありません。我々こそ、この度は我が国の揉め事に巻き込んでしまい、謝罪のしようもないほどです。
また、先ほどの魔物殲滅に多大なご協力をいただき、感謝致します。あれ程の戦力を魔物が『帝国』内に持ち込んでいたとは予測しておらず、もし皆様がいらっしゃらなければ我が軍は大損害を受けた上に、魔物どもを逃していた事でしょう」
「魔物に関しては、神殿に属する者として鎮定できた事は幸いでした。私達がこの場に居合わせたのは、神々のお導きあっての事でしょう。神々に置かれては、この事を予見されていたのかもしれません」
(ああ、なんかハルカさんが、心にもない事言ってる)
そうは思えど、見た目にはおくびにも出ていない。
ハルカさんも、なかなかのタヌキだ。
もっとも、そんな事を口にしたら、タダじゃあ済まないだろうけど。
けどオレとしては、そんな上部のことよりも、聞き足りてない事があった。
「ゴード将軍、少しだけ質問いいでしょうか?」
周りが「まだ何かあるのか?」的な目線を送る。
「これで魔物は全部ですか? 竜騎兵を倒した現場に、上級悪魔が逃げてきました。逃げる積もりだったのかもしれませんけど、どこかに報告なりに向かう積もりだったのかもと思ったんですが?」
「流石、慧眼ですな。ショウ殿のおっしゃる通りだと、我々も考えております。そしてその事も、これよりお話しするところでした」
「強い魔物が、まだこの近くに?」
「恐らくは。一部取り逃がした魔物を現在追跡中です」
「敢えておびき寄せて囲んだ上に、さらに敢えて見逃したのだな」
「左様です、シズ殿。近日中、私どもの予測では一両日中に判明すると見ております」
「そうですか。では、乗りかかった船です。最後まで見定めたく思いますが、構いませんか?」
「もとよりそのつもりです。また、我らの力が及ばない時には、ご助力をお願いするやもしれません」
「回りくどい言い方はおよし下さい。魔物鎮定は神殿の役目。喜んで、あまねく人に仇なす者達を鎮定いたしましょう。宜しいですね、我が従者達」
「ははっ!」
「誠に忝い」
ゴード将軍の言葉や雰囲気が映ったのか、なんだか時代物のやり取りになってしまったけど、これで次の予定も決まりだ。





