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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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147「待ち伏せ(2)」

 あとはどちらかが口火を切るかというところで、連中の背後から弓矢が1本飛来し、石の道で「カキンッ!」と跳ねる。

 ちょうど両者の中間位置なので、狙ってその場に射かけたのだ。

 全員に緊張が走るが、少し遠くから聞き覚えのある声も響いてきた。


「はーい、そこまでそこまで。どっちも武器を納めてーっ!」


 そう叫びつつ全速力でやってきたのは、武器だけ持ったウェーイな二人組と、昨日の歓迎会に参加していた目立たない男女混成組だった。

 弓を射たのは、男女混成組の中の一人だ。よく見ると、全員揃いの腕章を付けている。


「いやーっ、間にあってよかった。誰も怪我してないよね」


「ていうかさ、ショウもルカも血の気多過ぎ。で、お前らマナー悪すぎ。牢屋入ってもらうかんな」


「それと後ろの君ら消えてくれる。オレら冒険者組合の自警団だけど、この数の魔力持ち相手だと無事じゃ済まないよ」


 突然の展開に、オレたちの背後の街のゴロツキといった連中が唖然とし、そしてそのまま形勢不利と判断して慌てるように逃げ散っていった。

 さらにテンプレ4人組が、抵抗の意思がないことを示す仕草を見せて、実質的に決着はついた。


「お、俺らは、こいつらにそそのかされただけだ。それに何もしてない」


「けど、加担したのは確かだろ。ギルドの決まりには従ってもらうかんね」


 トールさんの言葉に、4人組が大きく肩を落としてシュンとなる。

 4人組の主体性の無さは、どんな場面でも変わらないらしい。


「にしても、君らガキすぎでしょ。マジ情けない」


「俺らは、このクソ生意気な奴らをしつけてやろうとしただけだ!」


 因縁3人組の一人が、弁解がましく言う。

 まあ弁解にもなってないので、ウェーイな人が鼻で笑った。


「躾けるって何様だよ。ルカは君らよりずっと立派な神官だよ」


「それにストーカーした上にゴロツキ雇って完全武装で囲むって、犯罪いくつ重ねてるっての」


「ついでに言えば、俺らがあと少し遅かったら、君ら死屍累々だったよ。それくらい分かるようになれよな」


 それはあんまりだ。けどハルカさんは、オレを半目で見ている。


「あのー、オレらそんな風に見えますか?」


「そりゃ、あの模擬戦見てればね。ショウってばさあ、剣筋に躊躇とまどいなさすぎ。人も斬ってるっしょ。俺も同じだから分かるんよ」


「こいつらじゃあ、数が増えたところで二人の相手にもならなかったと思うよ」


 見た目ウェーイで軽薄なイメージだけど、相当な熟練者のようだ。

 一緒に来た人たちも、さっきの弓の腕は正確にオレ達の間に落ちているのだから、かなりの腕前の筈だ。


「戦闘が未遂で済んで良かったです。ありがとうございました」


「俺ら結構やるっしょ。見直してくれた」


 ハルカさんの頭を下げてのお礼に、ウェーイの片割れのトールさんの態度が一気に砕けた。

 全身で褒めて褒めてと言っている。

 それに対して、ハルカさんはおすましの営業スマイルだ。全然ガチじゃない。


「ハイ。本当に助かりました」


「じゃあさ、オレとの」


「その件とこの件は違いますよ。それに」


 とそこまで言ったハルカさんが、オレの腕に自分の腕を絡ませて軽く寄り添った。


「彼とはこういう関係なんです」


 「まあそうだよな」とウェーイ二人組の相方、ハルトさんが言いながら、相棒の肩をポンポンと叩いている。

 相棒のトールさんは、見たくなかったものを見たという表情の後、ガックリと肩を落とす。


「だから言ったろ」


「んでもよ、めーッチャ好みだったんだよーっ!」


 両手ブンブン振って、まるで駄々っ子だ。

 不快さを感じないのは、人徳ってやつなのだろう。

 その隣で相棒のハルトさんが、片手でこっちを拝んでウインクする。


「当人の目の前で叫ぶことないだろ。あっ、ゴメンね。ただの愚痴で、よくあることだから」


「ハルトはいいよな。彼女いるから」


「だから協力はしただろ」


 二人の場違いな掛け合いで、場がすっかり弛緩してしまっていた。

 オレたちをどうにかしようとしていたDQNな因縁3人組も、毒気を抜かれている。これがウェーイ勢の作戦なら大したものだ。

 で、オレまで毒気を抜かれているわけにもいかないので、いまだハルカさんに腕を絡まれつつながらも事態を進めようと思った。


 けど目の前の即席コントより、すぐそばのハルカさん方がオレにとって破壊力が大きかった。

 四六時中一緒なのに、こういうシチュエーションは殆どなかったからだ。


 などと若干テンパっていると、ハルカさんから自然と腕をほどいて少しばかり姿勢を正した。

 残念ながら、もう真面目モードだ。


「それで、なぜこんな事をしたんですか?」


 そう言って因縁3人組を冷徹に見つめる。目力が違うので、これをされると相当心にくるはずだ。

 場全体も一気に引き締まり、ウェーイ二人組も真面目に戻っていた。

 3人組も明らかに萎縮して、言葉すら発せなくなっている。冷や汗すらかいているようだ。


「まあまあ、ここは俺らに任せてくれない。ハーケン冒険者ギルドの名にかけて、ちゃんと処罰もするから」


「あと、お連れから伝言頼まれてるよ」


「レナとシズから?」


「そっ。予定通りって。俺ら、あの二人を街の中心辺りで見かけたから声かけたらさ、近くのオープンカフェに誘われてこりゃラッキーとか思ったのもつかの間、いきなりヒソヒソ声で重い話してくるから、こりゃヤバいって仲間集めて駆けつけたってわけ」


「それとあの二人には、昨日一緒にお昼した女子4人組に飛行場までついて行ってもらってるから」


「それはありがとうございます。それじゃ私達急いで合流したいので、申し訳ないのですが」


「分かってる、分かってる。こいつらは俺らで対処しとくよ」


 口調は軽いが表情は真剣だ。

 普段は態度も軽い二人組だけど、ちゃんとしているところはちゃんとしている。だから自警団でも中心人物なんだろう。


「それにしても、もうちょっとちゃんとお別れしたかったけど、またハーケン来てね。俺らだいたいここのギルドにいるから」


「はい。ありがとうございます。必ず来ます」


「ああ、そんじゃあね。あ、そうだ、もう一つ情報。こいつらがみんなの情報集める為に、この街の方々のマフィアに、あんたらが大金持ち歩いているとか言いふらしたり、懸賞金かけたり、金渡したりして無茶苦茶してるみたいだから気をつけて」


「未確認だけど、君らが町を出るって話も伝わってて、そこら中に監視するヤツや刺客みたいなのが出てるってさ。

 四方の尖塔から、街をのぞいてる不審者を見たって情報もきてるくらい。まあ、二人なら余裕っしょーって感じだけどな」


「本当なら送ってあげたいけど、急すぎて人手が足りないんだ」


「お気遣いありがとうございます。普通の人相手なら、走って逃げますから」


「アハハっ、若いっていいね」


「いやいや、俺らも十分若いっしょ」


 相変わらずなやり取りの後、オレとハルカさんは頭を下げると素早く分かれて移動開始する。



 しかし現場から離れてしばらくすると、また尾けられている気配がした。

 しかも今度の方がガチな気がする。

 何度か巻こうとしたが、複数から尾行されているらしい、というところまでしか分からなかった。


「本物のアンダーグラウンドの連中にとっては、これからが本番ってところかしら」


「やっぱそう思う?」


「どうする? 走る?」


 彼女の真剣な瞳が、オレに注がれる。


「走る方がいいよな。もう結構時間押してるだろ」


「4つ半の鐘が鳴って、だいぶ経つものね」


 鐘と聞いてふと鐘の塔を軽く見上げ、一つ思いついた。


「で、提案があるんだけど」


「ロクでもないことね。いいわ、何でも聞いてあげる」


 そう言って、彼女が挑戦的とも言える表情を向けて来る。心なしか楽しそうだ。


「雑踏の中を逃げるのはオレらにとって不利だし、通りを抜けていく地の利は絶対敵側にある」


「先を続けて」


 その言葉に促されて上を指差す。彼女も顔を上に上げて、そして不敵な笑みを浮かべた。


「ショウといると飽きないっていうレナの言葉に同意ね」


「せっかく便利な体なんだし、使わない手はないだろ」


「それもそうね。それじゃ、魔力総量Sランクの実力を、不埒者に見せてやりましょう」


 こういう時のハルカさんは、雄々しさも相まってすごく凛々しい。

 思わずこっちまで強気の笑みがこぼれてしまう。


「おうっ。それじゃ合図したら、あの1階の屋上に飛んで、そんまま一気に屋上屋根まで駆けあがろう。そっからは空のランニングだ」


「アクション映画がどうこう言ってた人の言葉とは思えないわね」


「オレもそう思う。それじゃ、アー・ユー・レディ?」


「いつでもどうぞ」


この後の場面が、「119「再始動」」になります。

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