402 「現実での作戦会議(1)」
それから3日間、トモエさんと二人きりの逃避行が続いた。
トモエさんは、冗談交じりにエロい事を言ってくる事もあるけど、流石に逃避行中に本当に実力行使に出てきたりはしなかった。
オレが気落ちしないよう冗談で言ってくれているだけだろうから、オレも軽口で返す以上はしない。
一方で、他の仲間と合流は叶わなかった。
しかし、事件翌日に起きるとすぐに悠里がオレの部屋に飛び込んできたので、お互いの状況はすぐに分かった。
こういうところは本当に便利だ。
この『夢』と現実の行き来と情報交換だけはチート、ズルで間違いない。
「それで、今そっちは街中で潜伏中か」
「うん。帝都の貧民街だからめっちゃ臭い。そっちはもう街の外かぁ。ライムの様子見に行けない?」
「無茶言うな。それにハルカさんの従者って事でライムとヴァイスは神殿に預かってもらってるから、流石に『帝国』も手出ししないだろ。逆に第三皇子の連中が、オレ達が近づかないか監視してるだろうしな」
「だよなー。みんなもそう言ってた。しばらく我慢だって」
「まあ、そっちはみんな一緒で、取り敢えず一安心だよ」
そこで妹様がジト目をしてくる。
「トモエさんと二人きりでも、変な事すんなよ」
「するわけないだろ。この緊急事態に」
「けど、映画やドラマだと、逃避行中に色々するのはお約束じゃん」
「お話じゃないっての。こっちは死にかけたのに」
「……三剣士ねぇ。そんなに強いのか?」
腕組みして考え込んでいる。
まだ秋口だから、夏のダブダブ寝間着なので、一丁前にのぞいている胸元には谷間が形成されている。
けどオレから見ると、ただの自然現象でしかない。
「トモエさん曰く、あの時のオレは魔力が激減してたらしいから、満タンならなんとかなるかも」
「あー、昨日は滅茶滅茶戦ってたもんなー。私、あんなの無理」
「竜騎兵だから、する必要ないだろ。ライムとの連携だけ考えとけ」
「うん。そうしたいのは山々だけど、今はライムいないしなぁ。もしそんなのが出てきたらどうしよう」
「ハルカさんなら防ぐのは十分可能だと思うけど、逃避行してる中に格闘戦が強い人いないのか? ゴード将軍は?」
「ゴード将軍は色々駆け回っているって。今、私らの側にいるのは、穏健派の逃げ隠れの上手い人で強い人じゃないみたい」
「まあ、単なる強さならオレ達の方が上だろうし、そんなもんか」
「そっちはトモエさん一人? 他の人は?」
「一応というか、仲間と合流は目指す予定。それにトモエさん魔法も色々使えるし、多分だけどすげー強いぞ」
「そりゃシズさんの妹さんなんだから、強くてトーゼンじゃん。けどいいなあ、トモエさんと一緒なんてー」
とそこで、スマホが振動した。
しかもオレと悠里のやつが同時に。
思わず顔を見合わせて、それぞれの画面を覗き込む。
「あっ、トモエさんだ」
「こっちも。週末会えないか、だってさ」
「私は半日くらいなら平気。そっちのバイトは?」
「土曜の昼2時以降なら」
それを聞くや、妹様が神速の指捌きで返信する。
そう、こういうものは、すぐに返事するのが女子の基本らしい。
オレもマナー違反にならないように続く。
するとすぐにも《りょーかーい。同時に返事とか仲良いねー》との返答があった。
そのせいで妹様が、「空気読んで、少しずらせよ」と軽くご立腹されてしまわれた。
そしてさらに続いたやり取りでは、出来る限り集まる事になるので、シズさんの神社の社務所に集合になるだろうとの事だった。
ともあれ、それは現実世界の明日の予定。
まずは今日一日を過ごさないといけない。
玲奈と落ち合って週末の学校に登校すると、電車の中で同じ高校の生徒、正確には女生徒の何人かに玲奈が見られていた。
こんな事に気付けたオレもちょっと褒めて欲しいけど、まあ大沢先輩の事で神経質になっているせいだろう。
そして最初は、玲奈が見られていると感じたのも、神経質になっているせいだと思っていた。
けど教室に入ると、それが確信に変わった。
今日はオレが少しタイミングを遅らせて教室に入ると、すぐにも姉御な伊藤にチョイチョイと指で呼ばれる。
側にはグループの女子と玲奈もいる。
「おはよー玲奈。なに?」
「私らに挨拶なしかよ。私らもしないけど。それより、この子がツッキーの妹ってマジ?」
提示されたスマホには、連休中に行って撮った動画が表示されていた。
もちろんシズさん、トモエさん、玲奈、妹様の写ってるやつだ。
オレとタクミは影すらない。
うん、完璧な動画だ。
と思うと同時に、事前に決めていた嘘設定を頭の片隅に思い浮かべる。
「ああ。前にも言ったと思うけど、一つ下の妹の悠里だけど」
「マジなんだ」
同じグループの女子がハモるように唸る。
そして伊藤の質問攻めが始まる。
「どういう関係? 玲奈は近所の友達って話だけど」
「悠里の家庭教師の先生がシズさん」
「シズをさん付けとかって! えっ、ツッキーも知り合い?」
「玲奈、どこまで話してる?」
伊藤を無視して玲奈に顔を向けると、玲奈の方も外野を気にするでもなくこちらに顔を向ける。
「えーっと、私がシズさんトモエさんの近所で、子供の頃からお世話になってるって。悠里ちゃんの事は、まだ」
「じゃあ、今ので全部」
「ツッキーの事が抜けてる」
「中三の女子を、夜に一人で出せないだろ。妹のお迎えで、二学期から顔見知りになってるよ」
「ああ、なるほど」
少し間の抜けた感じで呟く。
「ツッキー、意外に妹想いなんだ。で、玲奈の送り迎えは?」
「複数だから玲奈んちで勉強見てもらってるから、お見送りされる方だな」
「そりゃ道理だね。で、どれくらい知り合い?」
「サインとか頼むなら、玲奈の方がずっと二人と親しいぞ」
「あっ、その言い方はトモとも知り合い?」
「あ、ああ。玲奈んちに遊びに来てたから、その時」
「……ツッキーのくせに狡い!」
「狡いとかの問題じゃないだろ」
「けどマジかー」
「いいなぁ。ねぇ玲奈、ちょっとでいいから二人に会えたりしない?」
「サインだけでももらえないかな?」
「ふ、二人とも忙しいから、会うのはちょっと無理だと思う。でも、サインくらいなら頼んでみるよ」
「さっすが玲奈、大好きー!」
オレの眼前で女子トークが続く。
当然オレは無視で、しかも最後にグループの一人に玲奈が抱きつかれている。
やっぱり玲奈は抱きつきやすいらしい。
まあ、それはともかくだ。
「なあ、オレもういい?」
「まだ」
とりあえず、こんな場違いなところから逃げ出したい一心で訴えてみるが、現実は無情だった。
「妹さんが遊びに行く話は聞いてた?」
「オレが家族用の土産代金とか資金援助した」
「意外ー。えっ、ツッキーてシスコン?」
「なんでそうなる。こいつ、オレの事クソ呼ばわりだぞ」
「でもさ、迎えに行ったりお小遣いあげたりとか、普通にシスコンじゃん。まあ、この可愛さなら納得だけど」
「いやいや、玲奈の方が断然可愛いだろ」
「……あのさぁ、流石に聞いてるこっちが恥ずかしいんだけど」
「あっ……」
伊藤のグループだけじゃなくて、クラスのかなりからもクスクス笑われてしまっている。
玲奈も顔を赤らめている。
穴があったら入りたいけど、言ってしまった以上、玲奈の為にも引き下がっている場合じゃない。
しかし、伊藤の表情が少しマジになった。
どうやら本当に言いたい事が最後にあるらしい。
「まあ、だいたい分かった。で、これは玲奈へなんだけど、これ見てる学校の女子は結構居ると思うよ。すっげーバズってるし」
「そ、そうだけど、嫉妬とか、されるのかな?」
「まあ、それもあるだろうけど、それより、そこのへっぽこナイト!」
「オレの事?」
「他に誰がいるんだよ。玲奈の事、もっとガードしろよ。あと、妹さんも! 分かった?!」
「そりゃあ言われるまでもないって」
「まあ、玲奈は無自覚だから、その分ツッキーが気をつけな」
なんだかんだ言って、姉御な伊藤はお節介焼きのようだ。
けど、そのお節介のおかげで、少なくともクラスの男子全員にも、女子4人が写っているネット上の写真や動画を知られる事になってしまった。
むしろ火に油注いでないか? 伊藤さんよ。
しかしその日は、それ以上特に何もなかった。
念のため少しだけ部室に寄ると、鈴木副部長もちょうど顔を出していて、副部長の前兆夢の進捗状況の確認のついでに、大沢先輩の事を聞く事もできた。
大沢先輩は登校も部活もしているけど、クラスでも部活でもかなりハブられ気味なんだそうだ。
自業自得とはいえご愁傷様だ。
けれども、こいつには一つ罪が残された。
玲奈の事が、学校中に広まる発端となったからだ。
しかも、今回のシズトモと一緒に遊びに行って動画や写真が、少なくとも学校内で一層際立ってしまったのは間違い無いだろうからだ。
まあ、週末に突入したのは、せめてもの救いだった。
これで少しは沈静化するのを期待したいところだ。
その願いが多少は通じたのか、その後は何事もなく過ぎ去っていった。
一方、『夢』の方では、双方とも逃避行継続中。
詳しい情報は分からずじまい。
オレとトモエさんの手に手をとっての逃避行も続いているが、大規模な追跡と山狩りが始まっていて逃げるので精一杯だ。
ハルカさん達の方は、街の脱出の手筈を進めているらしい。





