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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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399 「脱出(2)」

 どちらが先か内心焦りつつトモエさんを待っていたけど、タイムオーバーが先だった。

 少し先から大きな声が響いてくる。


「そこに居るのは分かっているぞ罪人め!」


(随分な言われようだ。この距離だと、体の魔力を察知されたんだろうな。闘技場であれだけ目立ったんだから、魔法でも使われたら隠れようもないか)


 そう思うと、不思議と度胸が据わってくる。

 だからなるべくゆっくりと物陰から出る。

 オレの動きと、多くの兵士が走り寄って来るのがほぼ同時だった。


「ほほう、罪人にしては潔いではないか。いや、単に逃げ場をなくした鼠と言ったところか」


 なんか、追っ手のリーダーらしい奴の口調が気に入らない。

 オレを蔑む気持ちが声色にありありと乗っている。


「何か言ったらどうだ。もしかしたら、減刑されるかもしれんぞ」


「なんの減刑だ?」


 取り敢えず情報がなさすぎるのでトボけてみるが、最初に返ってきたのは嘲笑だ。


「皇帝暗殺未遂の罪に決まっているだろ。もっとも、公開処刑に拷問が付くかどうかの差だろうがな」


 そう言ってあざ笑う。

 取り敢えず、濡れ衣だという事は分かった。

 しかし高位の神官、いや神殿相手によくそんな罪をでっち上げたものだ。

 下手しなくても、どえらい事になるんじゃないだろうかなどと、オレがしなくてもいい心配までしてしまう。


「つまり、何をしても、オレの処刑は変わらないって事だな」


「左様。意外に物分かりが良いな。引っ立てろ!」


「誰が簡単にお縄につくと言った!」


 そう言って、取り敢えず近づいて来た兵士の剣を、2、3人分へし折ったり、弾き飛ばす。


「は、歯向かうか! さらに罪が重くなるぞ!」


「処刑確定なんだろ。今更だよ!」


「こ、この痴れ者が! もう良い、この場で殺してしまえ!」


(なんか、三文芝居を見ている気分だな)


 4、5人なら戦える広さがあるので、一斉に10人ほどが前後に別れつつ襲いかかって来る。

 その中に魔力持ちは1人しかいない。しかもその魔力もショボい方だ。

 動きもスローモーに見える。


 取り敢えず、こっちからも数歩詰め寄って、大剣の腹で当たるを幸いに薙ぎ払う。

 2、3人地下水路に落ちたけど、知った事ではない。

 真っ二つにしなかっただけ、感謝して欲しいところだ。


「ば、化け物。魔人めっ!」


「悪鬼以外から魔人って言われたのは初めてだよ」


 怯んでくれたので、取り敢えず煽っておく。

 勿論だけど、トモエさんを信じての時間稼ぎの為だ。

 案の定、兵隊の皆さんは一旦後ろに下がり、前進しようとしなくなった。

 良い傾向だ。

 けどそこに、さらなる一団が駆けつけて来た。


「こ、これは三剣士のラムサス卿!」


「兵を下げろ。無駄に死なす事になる」


 ラムサス卿とやらが、来るなり仕切り始める。

 見た感じ、完全武装の絵に描いたような全身甲冑の騎士様だ。

 兜のせいでご尊顔は見えないけど、身長180オーバーの男性という事は分かる。


 そして強キャラなのも確かなようだ。

 気配や動きが他と格段に違う。

 魔力の方はあまり高くは見えないけど、放射を抑えるアイテムを付けているんだろう。

 それはこっちも同じだけど、闘技場の件を見ていたらバレバレだろう。


「さて、確かショウ殿だったか? この者の言葉は無視してもらいたい。私は皇帝陛下直轄の近衛騎士、三剣士が一人ラムサス・カーン。

 皇帝陛下は、神殿との関係悪化を懸念しておられる。卿が大人しくしてくれるのなら、皇帝陛下の名代として私が責任をもって卿の身分と安全を保障しよう。

 勿論、卿の主人ルカ殿と連れの方々の身分と安全も保障する。神殿としても、『帝国』との関係悪化は望まれまい。我と共に参られよ」


(うわっ、スッゲーまともな人が登場してしまった。こういう時は、さらに性根のひん曲がった悪党が出て来るもんだろ。けど、ここは時間稼ぎの一手だ)


「ラムサスさん、いえラムサス殿。あなたの言葉は有難いが、我が主人の言葉を直接聞かない限り、捕まる事はできない」


「勘違いされている。まだ真実は明らかになってはいない。事態が事態なので、事実上の軟禁は受け入れてもらわねばならないが虜囚ではない。この点は、我が名と神々に誓おう」


(ああ、決め台詞が出てしまった。信じないわけにいかないじゃん。でもでも、)


「我らは断じて皇帝暗殺未遂に関わってなどおりません。例え嫌疑とはいえ、無実の罪でこの身を『帝国』に委ねる事は出来ません」


「強情な奴だな。仕方ない、少し痛い目を見てもらうとしよう」


 言うや全身から剣呑な雰囲気を発散する。

 しかも最後の言葉は、さっきまでと違ってオレをディスる感じ波長が有り有りと感じられた。

 そしてオレの全身で鳥肌が立っていた。

 闘技場の剣闘士と同じか、それよりヤバイって事だ。


 初撃を受け止められたのは、半ばまぐれだった。

 いや、相手が型通りの剣筋だから、体が反応して受け止めてくれたのだ。

 考えてから反応していたら、少なくとも腕の一本くらいは持っていかれてただろう。

 今日暴れ回ったせいで体が重く感じる。


「ホウ、我が初撃を防ぐとは、面白い」


 そう余裕かまして、さらにラッシュを叩き込んでくる。

 流石の強さで、防戦一方に追い込まれる。

 その剣戟のおかげで、オレの体内に残ってる魔力が随分少ない事が分かったけど、逆に何もできない事を自覚しただけだった。


 その後、何秒、どれくらいの時間戦ったのかも分からないけど、徐々に隅に追い込まれていった。

 そして相手の動き、パワー、スピード、テクニックのすべてがオレを上回っているので、切り返したり仕切り直したりも出来ない。

 気がつくと、背中が壁に当たっている。


「よくぞ我が剣をここまで防いだ。闘技場での活躍も、マーレス殿下と互角というのも嘘ではないようだな。その強さに免じて、今一度機会を与えよう。降れ」


 最初は騎士道バリバリな誠実な人かと思ったけど、その雰囲気を含めてかなり傲慢な性格らしい。それに兜の間から覗く瞳は、どこか嗜虐的しぎゃくてきだ。

 それに言葉を思い返せば、所々オレに対してどこかぞんざいだった気がする。

 ただ今は、相手の性格どころじゃない。


(進退窮まったって奴だな。さて、どうする……ん?)


 起死回生のチャンスがないかと一瞬周囲を見渡すと、すぐ側の地下水路に俄かに渦巻きが発生しているのが見えた。

 まだ誰も気づいてない。

 けどその渦巻きは、一瞬で竜巻のように噴き上り、凄まじい勢いでラムサスに叩きつけられる。しかも、さらにそのまま後ろにいた兵士も押し流していく。

 大きな放水銃のようだ。


「ショウ君、飛び込んで!」


「っ!!」


 水の中からトモエさんの声だ。

 だから何も考えず水路に飛び込む。

 三剣士ラムサスも、一度水に弾かれているのでオレを追いきれない。

 それにいかに魔力が多くても、完全武装の甲冑姿で水に飛び込む事はないだろう。


 もっとも、水中は真っ暗。水の流れはしれていたけど、暗中模索もいいところだ。

 けどすぐに、オレの手を取る者がいた。

 間違いなく女性の手で、しかもシズさんソックリの手だ。

 そして一瞬安堵したオレをグッと強い力で引き寄せると、何かが唇に強く接触する。

 この感触は誰かの唇。この場に二人しかいないのなら、間違いなくトモエさんのものだ。


 一体何事かと思ったが、今度は別の手がオレの唇を強引に開かせて、トモエさんの口の中からオレの口へと何かが移される。

 何か硬い球体のようなもので、反射的に吐き出そうとしてもトモエさんの唇に阻止される。

 しかし次の瞬間、トモエさんの声が響いてきた。


《もう聞こえてる? 口移しに入れたのは、時間限定の水中呼吸アイテム。水や空気に接触させたらアウトで、他人にはこうするしか渡せないんだ。

 それを咥えてる間は、同じものを咥えている者同士、近距離の意思疎通もできるんだよ。ていうか、最初からこうすれば良かったんだよね。反省、反省》


《わ、分かりました》


《それと、少し視界も見えてきてない?》


 言われてみると、目の前にトモエさんの瞳が分かる。そして徐々に、さらに見えるようになっていく。

 だから小さく頷く。


《見えたみたいね。じゃあキスはこれでおしまいだけど、絶対に吐き出さないで。口も開かない事。それと、右下の魔力の反応分かるでしょ。あれの背中に捕まって》


 見れば、水底に何かのシルエット。

 一見ワニのようにも見えるけど、アースガルズにいた時に本で見た水龍ソックリだ。

 確かにこんな奴だと、地下であっても宮殿内に潜めるはずもないだろう。


 お陰で、なんとなく納得しつつの脱出となった。


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