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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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398 「脱出(1)」 

 オレの部屋に窓から侵入しようとしていた何者かに対して、オレは一気に行動に移した。

 今日大活躍の愛剣ではなくアクセルさんと交換した魔銀ミスリルの短剣を握ると、ベッドから一気に駆け出して窓へとダイブ。


 普通なら窓を破壊するかぶつかっておしまいだけど、クロにこっそり鍵を開けさせてあったので、そのまま押して外へ。

 床から2メートル以上ある窓は、窓ではなくこの部屋専用の小さなベランダに出る扉でもあるので、出た先は空中じゃなくてそれなりの広さがあるベランダだ。

 そして窓の片方だけ押し開けて、そのまま急反転。反対側の窓でオレの部屋を伺っていた人影に襲い掛かる。

 そのまま押し倒して組み伏し、そして喉元に短剣を当てる。


 ここまで思惑通りきまるとは思ってなかったけど、相手が油断していたからだろう。

 これが仲間の誰かの夜這いなら大歓迎なんだけど、と思ったところで違和感どころか既視感を感じた。


(えっ? マジ夜這いなのか?)


 部屋はすでに明かりを落としていたし、外の月明かりも今日は乏しいのでかなり暗めだ。

 だから相手の顔は分かりづらいのだけど、輪郭や体つき、それにこの感触に覚えがあった。

 いや覚えどころじゃない。


「えっ? えっ? シズさん?!」


 一瞬手が緩んだ隙にスルリと逃れられ、今度は逆に手で口を押さえられてしまう。

 ほぼ暗がりながら顔も目の前だ。


「(シッ! 静かに。でも、魔力抑えて気配消してたのに気づくなんて、凄いね)」


(あ、シズさんじゃない)


 暗がりでも分かったけど、目の前の顔は確かにシズさんソックリ。しかし獣人ではなく人のシズさんに。

 暗がりでも判る瞳には、面白がるような感情がこもっている。


「(せっかく、サプライズな夜這いしようと思ったんだけど、まずは部屋に戻ってくれる。それと、音立てないでね)」


 コクコクと頷くと手が口から離れ、すぐに部屋へと戻りベランダへの扉を閉める。

 そして窓から外を素早く確認した後にカーテンを完全に締め切り、周囲の魔力の気配を感じとる。

 そこでようやく部屋の中に視線を巡らせると、身軽そうな格好のシズさんソックリの女性が、机の上に置いたままの軽食を口にして、グラスに寝酒用のワインを注ぐところだった。


「巴さん、でいいんですよね」


「そうだよ。こっちでもトモエね。気持ちカタカナかアルファベット風にヨロシク。でもさあ、夜這いして押し倒すつもりだったのに、逆に押し倒されちゃったね。ホント凄い」


「ご、ゴメンなさい。それで、色々聞いても?」


「その前にフル装備に着替えて。時間ないから急いで」


 飄々とした感じだけど、急がないといけない事はその瞳の真剣さから理解できた。


「分かりました。クロ、頼む。あと、他の仲間にも連絡を」


「畏まりました」


「そっちは大丈夫。他の仲間が行ってる。私は、ショウ君にイタズラがてらサプライズしに来たから単独だけどね。おっ、良い体だね。凄い」


 クロが装備を持てっくる間に、ちょうど一度半裸になったところだったけど、トモエさんは全然恥ずかしがっていない。

 こっちも半裸くらいハルカさんや仲間に見られ慣れているので、気にせず着替えを続行する。


「呑気ですね。何か起きてるんでしょ」


「察しがいいね。もうすぐ、ショウ君達を捕まえに来るよ」


「誰が?」


「追い詰められて、慌てて起死回生に出た第三皇子の息のかかった連中。表向きは『帝国』の正規兵だろうけどね。もしかしたら、近衛兵って可能性もあるかも」


「トモエさんは、どういう所属とか陣営なんですか?」


「どうだろうねー。一応穏健派?」


 なぜか疑問形だ。

 けど、シズさんの妹さんだ。今は信じるしかない。

 もっとも、チラ見するとオレの荷物を漁っている。


「何を探してるんですか?」


「とりあえず必要そうなもの。残りは後で取り戻せる筈だから。これは絶対って、ショウ君のリクエストある?」


「いや、武具と魔導器以外は特に。要る物は、身につけられるもんばっかですね」


「確かに、中身が潔いくらい空っぽだね。ショウ君って断捨離アン?」


「まあ、物欲は少ないかも」


「けど、性欲は凄いんだって?」


「かもしれませんけど、そこまで辿り着けてません」


「アハハっ、そりゃご愁傷様。落ち着いたら、私がお相手仕ろう。おっ、着替え完了。早い早い。あと、ここの食べ物を、胃に入れといて。次、いつ食べられるか分かんないから」


 色々喋った中に不穏当な発言もあったけど、他の言葉の方が重要なのでここはスルーだ。


「つまり次は逃避行ですか?」


「ゴメートー。あと、その執事君はキューブに戻して魔力遮断できそうなものに隠しといてね。多分だけど、道具か何かで追跡されるから」


「だそうだ、クロ」


「ハハッ。我が主人ご武運を」


「おう。また後でな」




 そしてトモエさんが魔法陣二つの幻術の魔法を構築する事で姿を消し、扉を少し開けただけで締めて、そのままダイビング。

 確か3階だったけど、今のこの体だったら気にもならない。

 それよりも、仲間の魔力の気配なりを感じ取れないかと周囲を見渡すも何もなし。


 するとその時、上の方から喧騒が聞こえる。

 さっきまでオレ達が居た部屋だ。

 「誰もいないぞ!」「まだ遠くには逃げてない筈だ!」「探せ探せ!」と、お約束な声が響いてくる。


 その後トモエさんの案内で、なんだかお約束とばかりに宮殿の地下へと向かう。


「(お約束の地下水道からの脱出。映画みたいだよね。一回してみたかったんだ)」


「(また呑気な……)」


 動きや身のこなしは超真剣なので、オレの緊張をほぐそうとしてくれているのは分かるけど、TPOは少し考えて欲しいところだ。

 しかも、すでに追っ手が迫ってきていて、地下水路、下水などが入り組んだ地下の逃走ルートも限られつつある。


 その上、一部が災害か何かで崩壊したり、行き止まりもある。

 そして遂には、完全な行き止まりの袋小路。

 お魚にでもなれば水路に入れるだろうが、人間様はそうはいかない。

 けどトモエさんは余裕の表情だ。


「(ちょっと悪いけど、そこの影にでも隠れてて。脱出手段を外から連れて来るから)」


 そう言って魔法陣を2つ出して何かの魔法を構築すると、そのまま目の前の地下水路へと音もなく入っていく。

 そしてオレが一瞬不安になりかけたタイミングを見計らったように、頭を沈める前に振り向いた。

 すごく真剣な表情だ。


「(私は魔法で水中でも見えるし空気もいらないけど、この魔法は他人には施せないんだ。すぐとは言い切れないけど、絶対に迎えに来るから、信じて待ってて。時間はかからないから)」


「(分かりました。信じます)」


「(うん。ありがとう。じゃ)」


 そう言って水面下に消えた。

 だから、泳ぎやすいように軽装だったのだ。

 そしてオレが相応の重装備でも問題ないような迎えが来るって事だ。

 事前にここに来てないのは、ここだと見つかるので外の近くで待たせてるとかだろう。


 そんな事を考えていると、ますます追っ手が迫って来る。何かしらの明かりの動きは、もはや逃げ場がない事をオレに教えている。

 そして今オレの居る場所は、宮殿内の水路の終着点。そこからは人が歩ける場所のない水路が外へと伸びている。

 そしてこの場は、メンテナンスなどの為だろう、かなりの広さがある。

 周りから見えにくい柱の影や窪みがあるのも、空間が広くそれを支える為だ。


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