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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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397 「晩餐会(2)」

「まあ、後は寝るだけか。明日はどうする?」


「そうねえ。レナ、疾風の騎士と竜騎兵だけで、地皇の聖地に行くのは危険なのよね」


「上空はともかく地表は止めた方がいいかな。このメンツなら、何とかなると思うけど」


「油断大敵、だろ。じゃあ、明日から邪神大陸の沿岸まで行ってくれる、2体を載せていけるだけの飛行船探しだな」


 シズさんの言葉に、オレはピンと来た。

 そう、飛行船と言えば、である。


「あのさ、ひと月くらいあれば、エルブルスの飛行場にあったやつが動かせるかも」


「本当? リアル情報?」


「うん。オレ、リョウさんとメッセージやり取りしてるんだけど、エンジンの据付とか順調に進んでるらしいんだ」


「だが、エルブルスからここまで来るのに、さらに2週間くらいは必要だろう。それまで待つのか?」


「まあ巡礼自体は急がないし、安全第一で考えれば一つの手ね。けど、飛行船を動かすとなると、沢山の人を巻き込む事になるわね」


「リョウさんやレイ博士は、飛行船を出すのならむしろ来たがってるけどな。後、領地の人達も、オレとハルカさんを気にしてるってさ」


「まあ、こんな奴でも領主が危ないところ行くんだから、みんなも気にするよなー」


 悠里の言葉に、ちょっと懐かしむ感じがある。

 思い返せば、エルブルスの人達と別れて早一月近く経っていた。


「けどさ、竜人って竜騎兵でも長期間はエルブルスを離れちゃダメなんだろ」


「うん。けど獣人は傭兵でもあるから、関係ないっての。あと、矮人のおっちゃん達も」


「そうなると、ここに来るまでは竜騎兵も載せない事になるから、少し不用心だな」


「そうだけど、その件はここでの飛行船の手当てが付かなかったら考えましょう」


「じゃあ、今日はお開きだねー」


 ボクっ娘の言葉で、居間を出てそれぞれの寝室へと向かう。女子は2人ずつで、オレは一人寂しく個室にしけこむ。

 しかも男女の宿泊場所は別棟なので、廊下伝いだとかなりの距離がある。

 これは『帝国』の習慣というより、この世界では普通の男性優位、男尊女卑の考えからだ。


 夫婦の場合は別だけど、このだだっ広い宮殿の中だと夫婦棟というさらに別の場所に泊まる事になってしまう。そこは女性棟から遠すぎるという事で、妥協した結果だ。

 それと、悠里の天沢さんな玲奈の方への義理立てもあるので、その辺をおもんばかった結果でもある。

 しかし悠里は、ハルカさんにも義理立てというか申し訳ない気持ちがあるので、二人きりの時間を作ってくれた。




(まあ、できた妹だことで)


 そんな事を思いつつ、部屋のソファーに腰掛ける。

 そこはオレ用に用意された寝室だけど、貴賓用の豪華で広い部屋なので、オレんちのリビングよりずっと広い。

 そしてその部屋には、本来悠里と相部屋のハルカさんが、晩餐会の素敵な格好のままでお邪魔しに来てくれていた。


「何考えてるの?」


「別に。悠里も色々気を回しすぎかなって」


「そうよね。悠里ちゃんに感謝ね」


「それは同意。二人っきりって、意外に久しぶりだしな」


 そう、ちょっとイチャつくくらいの時間は、みんなの見て見ぬ振りもあって確保していた。けど、こういう個室での二人っきりは随分久しぶりな気がする。

 常に行動を共にしているから焦る必要がないとは言え、ちょっと欲求不満が溜まりそうだ。


「ランバルトの時はバタつきっぱなしだったし、飛行船は狭かったから相部屋だしね」


「こっちでもな。それより、体調どう?」


「それはこっちのセリフ。私はむしろ絶好調。そっちは?」


「あれくらい全然平気。治癒後の違和感もなし。いつでも全力発揮可能。ただ、魔力はかなり減ってるかな。あ、そうだ、決闘前のあれって何?」


「魔力供与、だと思う」


 少し曖昧な答えだ。


「けど、魔法じゃないよな」


「うん。気がついたら出来るようになってたの」


「へーっ、オレ以外で試したのか?」


「ショウで試してる。て言うか、ショウが眠りこけている間にこっそり抱きついてたら、出来るのが分かったの」


 ちょっと恥ずかしそうだ。

 ハグした事自体より、こっそりした事に対してだろう。

 男女逆だったら男は変態扱いされそうだけど、女子は得な気がする。


(話した時点でこっそりじゃないだろ。それに彼女がオレが寝ている間に抱きついてたって事なら、エルブルスに居た時かな?)


「多分、想像してるのと違うわよ。飛行船の時よ」


「狭い部屋ですし詰めの時? よく皆んなにバレなかったな」


「短い間だけだもの。て言うか、もっと別の反応があるでしょ!」


「うん。光栄です。けど、出来ればオレが起きている時にプリーズ」


「いやよ。恥ずかしいし」


 寝てる時ハグなら比較的よくされてるので、何か他のことでもしてたのかと勘ぐりたくなるけど、聞かないのが武士の情けだろう。


「今更何を、って話逸れたな。皆んなにバレないように抱きついたらから、短時間で魔力が移せるって分かったって事か」


「それで正解」


「けど、魔法でもないのになんで?」


「さあ。二度目の主従契約をした影響かしら。隠しコマンド的な?」


「何そのゲーム的な解釈。まあ、便利だけど。なら逆はどうだ?」


「試してみる?」


(おっと、いきなり挑戦的な表情)


 ハルカさんに直に言ったらお仕置き確定だけど、まさにメスの顔ってやつだ。

 ちょー嬉しい。

 だから感情の赴くまま、立ち上がって彼女の方へと足を進める。


(とは言え、キスしたら怒るかなあ)


「ハグするだけよ」


 機先を制され、ちょっとキツ目の表情だけど、赤面しているので効果半減だ。

 けど、取り敢えず真面目にしないと後が怖いので、まずは昼間のようにハルカさんをゆっくりハグする。

 上等な絹ごしの彼女の肌の温もりと柔らかさが心地いい。


「で、この後どうするんだ?」


「私の事を強く想って。私はそうしたから。あと私は、昼間は魔法だって考えないようにしたわ。何かの魔法の構築が始まったら面倒だったから。けどショウは、そういう心配いらないわね」


「だな。それじゃあ」


 少し強めに抱いて、彼女の事を強く思う。

 けどエロい事を思ったらダメそうだと考え、とにかく真面目に考えつつ魔力が移るイメージも重ねていく。

 彼女の方も、自分からより密接になるように腕の力が少し強まる。

 まさに至福のひと時だ。


 そうしていると、数十秒か1分程したら、オレから彼女に魔力が流れていく感覚が起き始める。


「出来たみたいね。……やっぱり、ショウの魔力は気持ちいい。相性がいいのよね」


「昼間ハルカさんから貰った時、オレ鳥肌たったよ」


「ブルってたものね。あの時は、ちょっと笑いそうになった」


「えーっ、それ酷くない?」


「男女逆だとこんな感じなんだって思っただけよ。今の状況、かなり性的でもあるでしょ。それに女性から男性に注ぎ込むって、普通はないじゃない」


「エロい事ばかり言ってると、エロい事するぞ」


「全部はダメよ。すぐに部屋に戻るし、戻ったあと悠里ちゃんに取り繕う自信ないもの」


「分かってるよ」



 その後は、健全なお付き合いのギリギリを二人で過ごし、オレが彼女を部屋まで送る事で久しぶりのご褒美もおしまいだ。

 そしてその余韻に浸りつつ、寝床についてすぐの事だった。


「我が主人、まだ起きていらっしゃいますか?」


 肌身離さず持っているクロのメッセージだ。

 『帝国』では可能な限り勝手に動かないよう指示してあったので、恐らくエマージェンシーだ。


「どうした?」


「時間から考えて、周囲の人の移動が多すぎます。また、この部屋に建物の外から不自然に接近する者が一名御座います」


「暗殺者とかか?」


「不明です。ですが、相当の手練れです」


「それに魔力も相当だな」


 どうやら今日はまだ終わりじゃないらしい。


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