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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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393 「陰謀の露見(2)」

 突然叫んだのはゼノビアさんだ。

 やっぱり、そういう想いがどこかにあったのだ。

 そしてそれにマーレス殿下が首を静かに横に振る。


「五百年も昔の皇室秘伝の古文書に、我が祖先達が同じことを行い、見事神々の塔に至った記録がある。そしてそこには、神々は大地をどうこうできる力はないとの事だ。そして大地を大切に扱うようにとの助言があったとも伝わっておる。

 だが、そんな言葉は皆忘れてしまい、オクシデント最大の大国だと驕り高ぶり乱開発した結果が、今日の危機、緩慢な滅びの道というわけだ」


「そ、そうなのですか」


「悪いな聖女の守護者よ。いや、この場なら聖女の主人で良いのか?」


「主人はおやめ下さい」


「だが、この者達と同じなのであろう。まあ、それは良い。ところで、ルカ殿と従者の方々、一つ相談がある。いや、お願いがある」


 まだマーレス殿下の真面目モードが続くようだ。

 と言うか、こっちが普通なんだろうか。

 などと半ば現実逃避してる間にも話は進む。


「ですから頭をお上げください。それと、まずはお話をお聞かせください。でなければ是非も言えません」


「うむ。それなんだが、ショウ殿に明日行われる『帝都』での御前闘技会に出ていただきたいのだ」


「全く話が見えないのですが?」


「であろうな。まあ、急くな。順に話す。だが原因の一つは、ショウ、貴殿にあるのだぞ」


「えっ? オレ何もしてませんよ」


「しただろ。ワシと戦う前に、並み居る騎士どもを千切っては投げ千切っては投げしたではないか。

 あの中には、名のある騎士も少なく無かったのだぞ。それを模擬戦とは言え、ああも簡単に倒されてはワシの騎士団の面目もクソもない。おかげでワシ自らが相手せざるを得んかったのだ。まあ、久方ぶりに随分楽しめたがな」


「それは申し訳ありません」


「謝る事ではない。だが、その話がそこら中に飛び火していてな。鎮火しようとしたのだが無理だった。

 で、皇帝陛下までもが、ショウの鬼神の如き腕を見てみたいと申してな。だが、この話には別の事情がある」


「マーレス殿下。念の為申し上げますが」


「分かっておる。巡礼中の守護騎士と人とを戦わせたりせん。相手は魔物か魔獣、もしくは地龍だ」


「まあ、人相手じゃないなら」


「ウムっ! 流石はショウだ!」


「いや、そんな」


「ショウ、そこ照れるところじゃないよ。言質取られただけだから」


 ウンザリげにボクっ娘からツッコミが入った。

 見れば、ハルカさんもオレの事を目で非難してる。

 そしてマーレス殿下は「いい笑顔」だ。

 ただ、ちょっとだけ疑問がある。


「あの、ただの模擬戦なら人と戦っても問題ないんじゃあ?」


「そうでもないのだ。ルカ殿は最初からお気付きのようだが、此度の『帝都』での御前闘技会は戦いで血を流すのが目的だ。

 まあ、一種の伝統的神事という奴でな、戦いの中で神々に供物を捧げるのだ。古代の昔など、神事の為に戦争までしたほどだ」


「荒々しい行事なんですね」


「ウムっ。ワシは好きだがな」


「それで、なぜ我が守護騎士が参加しなければ? 皇帝陛下が望まれたとしても、我々は神殿に属する者。人の血すら流す行事に参加をするわけには……」


 とそこで、マーレス殿下が手を上げてハルカさんの言葉を止める。


「ショウが持つ大剣は、長年我が国が有していた宝剣の一つであった。それがこの時に一時的であれ帰ってきたのであれば、神事に用いるべしと言う意見が出てな。

 だが、一度戦さ場で他者の手に渡ったものを借受けては『帝国』の沽券に関わる。取り上げるなど以ての外。となると、曲げて参加をお願いするしかない、という我が国の我儘だ。故に、お願い申し上げる次第だ」


「本当に、相手は魔物か地龍なんですね」


「そこは必ず。ただし参加されるからには、厳重に注意されたい」


「お話を伺っても?」


 緊張度合いが増したハルカさんの声がオレの耳にも響く。

 殿下の顔も真剣度合いを増す。


「この話を強く持ち出しのは、バッコスの卑怯者だ。

 我が騎士達を倒した者を、己が魔物で倒せばワシに恥をかかせる事ができるからな。

 しかし、一時的であれルカ殿の側から一人でも従者を引き離すのが目的やもしれん。

 それどころか、闘技場でショウを殺そうとするかもしれん。そうすれば、ショウの持つ「きゅーぶ」の主人の権が浮く事になる。恐らくその可能性が一番高いだろう。恐らくバッコスは、闘技場に保有者に相応しい魔力持ちを用意しておる筈だ」


 エライ話になってきた。

 しかもオレ達くらいの魔力持ちが、マーレス殿下とゼノビアさん以外にも居ると言う。


「あの、『帝国』にはマーレス殿下ほどの魔力持ちは、ゼノビアさん以外にあと何人くらいいますか。そして、どのくらいの数が闘技場に来て、バッコス殿下の配下なんでしょうか?」


 ハルカさんも気になるようだ。

 と言うか、全員気になってるのは間違いない。


「そうだな。ちと、ルカ殿達も魔力封じの指輪を外してもらえんか?」


 『帝国』に来て一度も外したていない魔力の放射を抑える指輪を、それぞれが外す。

 そして周囲に魔力の気配が濃厚に満ちる。


「ホウホウ、これは大したものだ。やはり膨大な魔力量を持つのは、ショウだけではないのだな。さて、取り敢えずだが、ワシが知る限りこの場に居る数より少ない。とは言え、陛下や他の皇子が隠し持っておるのは確実だ。

 あと、お主らと同じ客人の中にも、数人似たくらいの魔力の者が西の街に居たんじゃないかな?」


 最後の言葉は、浮遊大陸の冒険者ギルドの人達だろう。

 しかし、マーレス殿下の言葉通りなら、表立っての『帝国』のSランク級は、片手で足りる程度ということになる。隠し球を足しても、多くはなさそうだ。

 もっと沢山居ると思ったけど、この場合は騎士や戦士職の人の事を言っているんだろう。


 けれど、その辺は予備知識程度だ。要はオレが負けたり殺されなきゃいいだけだし、魔物や地龍ならどうにでも出来るという、それなりの自信もある。

 しかし、もう一つ引っかかることがあった。


「あとオレからもう一つ聞いていいですか?」


「何でも言ってくれ。ここなら他に聞く者もない」


「ありがとうございます。それでなんすけど、殿下の方が第三皇子より格が上だと思うのですが、それでも断れないのでしょうか?」


 オレの素朴な疑問に、マーレス殿下は珍しく苦笑する。


「ワシは継承順、血統順であのクズより上だが、政治権力というやつが弱くてな。ワシはこの通り、暴れ者の粗忽者。皇帝陛下からも、一人のツワモノとして以外は精々軍人としての評価しかない。

 そしてワシの客としてルカ殿達をもてなしたので、ワシが其方達に頼む事にもなってしまった」


「それは真実かな?」


 もっともらしいマーレス殿下の言葉に、シズさんの言葉が鋭く切り込まれる。

 そして数瞬シズさんとマーレス殿下が見つめ合うが、折れたのはマーレス殿下だった。


「ルカ殿は、良い従者をお持ちだのお。その通り、話が出た瞬間にワシが説得を買って出た。もちろん、ルカ殿達の立場や権利を最大限尊重するという目的もある。だが真実は、ちょっとした点数稼ぎだ。何しろワシは、今言った通り政治権力がないからな」


 言葉の最後には、マーレス殿下はちょっとションボリしてる。

 しかし次の瞬間には大真面目な顔に戻った。


「だが、ワシがルカ殿、いやショウを最大限守るのはお約束しよう。これはマーレス個人の言葉でしか約束出来ないが、我が名と神々に誓おう」


 その言葉にハルカさんとシズさんが少しの間、マーレス殿下を見つめる。

 そしてハルカさんが小さく溜息をついた。


「分かりました。神事への参加、正式にお受けさせて頂きます」


「感謝する。ウムウム、ルカ殿なら受けて下さると信じておりましたぞ!」


 豪放磊落ごうほうらいらくな感じの人で自分で政治力は無いというけど、こういうところはやっぱり権力に属する人だ。

 それでいて憎めないのは、マーレス殿下の人徳なんだろう。


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