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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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145「買い物(2)」

「これは暗闇になる前にランドールに戻るのは無理かなあ」


 ボクっ娘が大きく傾いた大陽を見つつ口にする。

 夏至を過ぎてかなり経つので、もう白夜の頃のような事は無く、相応な時間に日没を迎えつつある。


「やっぱり、夜は危ないのか?」


「鳥目だからね。でも、飛ぶだけなら何とかなるよ」


「ヴァイスにも弱点があったんだな」


「流石にねー」


 ボクっ娘は気楽に言っているが、街などで巨鷲を襲うバカは普通いないからだ。


「ストーカーを警戒するより、夜空を飛ぶ方が危ないだろうな」


「てことは、予定通り明日の朝出発か」


「ふむ。じゃあ宿はどうする? 『帝国』に頭を下げに行くか」


「それは格好付かないわよね。偉そうな事言ったし、どこか適当なところ取りましょう」


 と、そこで全員が少し沈黙する。

 オレたちを尾けてきている存在が消えていないからだ。襲ってきたりしないのが、かえって不気味に思える。


「用心を考えたら、安宿には泊まれないよね」


「せっかく金もあるんだ、豪勢なところに泊まろう。警備もしっかりしている筈だ」


「さっきの人たちと一緒に夕食する? 魔力持ちだらけだと、襲ってくるバカはいないでしょ」


 ボクっ娘の提案に、全員が同意と言える表情を浮かべた。


「それも一つの手ね。食事くらいゆっくり食べたいし」


「あのさ、神殿か冒険者ギルドは泊まれないのか?」


 オレの言葉には、ハルカさんが少し眉をひそめる。

 あまり世話にはなりたくないようだ。


「あーなんかゴメン。神殿はなしで」


「謝る事はないわよ。神官だけど苦手なのよね、神殿の雰囲気って」


「となると、次の候補は冒険者ギルドか?」


「冒険者ギルドは、職員の滞在場所や宿直室くらいしか無かった筈だな」


「あと、地下牢があるわね。バカを放り込んだ事あるわ」


 ハルカさんが言葉とともに軽く肩を竦める。

 やはりハルカさんには、風紀委員属性がありそうだ。


「魔力持ちの組織だから、街の自治組織にも属しているんだっけ」


「では、宿を取った後に冒険者ギルドを覗いて、誰か引っかかったらその人たちと食事だな」


 シズさんの言葉で、おおよそ決まった感じだ。


「迷惑はかけたくないし、余計な事話さないようにね」


「話して情報手に入れるのも手だと思うぞ」


「事は慎重にする方がいいと思うわ」


「そうだよねー」


 そうして街の中心にある大きな宿に行き、手付金とチップを渡してしておいてから冒険者ギルドに行くと、とりあえず預け入れ金をさらに入金した。

 魔石などの買い取り価格が思ったより多く、買い物してもかなり余っていたからだ。


 そしてロビーの方に向かうとカフェはバーに変わる頃で、それなりに人はいた。

 ただ、少し期待したウェーイ二人組は見かけなかった。

 代わりに、向こうから小走りで女子4人組が黄色い声とともにやってくる。


 「シズ様」「ルカさん」「レナさん」と女性陣に用があるようで、オレは付属物程度にしか思われていないらしい。

 どうもAランク、Sランクの女性は、『ダブル』の女性の間では憧れの対象らしい。


「どうされたんですか?」


「お金を預けに来たの」


「じゃあ、これから発たれるんですか?」


「いいや、もう微妙な時間だから、今日もハーケンに滞在予定だよ」


「晩ご飯は?」


「まだだよー」


「じゃ、ご一緒しませんか」


 女子同士の間で、どんどん進んでいく。めっちゃ疎外感だ。

 けれど、ここは気を利かせる方がいいだろう。

 陰キャでもそれくらいの事は分かる。


「女の子同士で行ってきたら。オレここで適当に済ませて待っ……」


 言い終わる前にハルカさんに、グイッと首もとを締め上げられてしまう。


「個人行動してどうするの! 意味ないでしょ」


「けど、ここに居れば安心だろ」


「まあ、そうだけど。どうしようか?」


 彼女がオレの首もとを締め上げたまま、周りに問いかける。

 ならば、オレがもう一言添えておくべきだろう。


「ここにいたら、誰か顔見知りが来るかもしれないし。それとなく話聞けるかもしれないだろ」


「待つのはともかく、それは止めて。ショウだけだとロクな事なさそう」


 締め上げた上に、さらにグッと顔を近づけてくる。

 目の前の顔は可愛いけど少し怖い。


「あ、あの、私たちは皆さん一緒で全然構いません」


「大丈夫大丈夫。女子同士の方がいいでしょ」


 首を伸ばしてハルカさんの顔の横から、女子4人組に話しかける。

 さらに「いいんですか」と聞いてはくるが、もう決定したようなもんだ。

 ハルカさんも、そのやりとりで諦めてくれた。

 締め上げた首を解放してくれたが軽い溜息の後なのは、ちょっと悲しくなるけど。


 そして3人を見送った後、オレは胃に溜まる酒のつまみを幾つか頼んで、バーになっているラウンジでのんびりとする。

 考えてみれば一人っきりは珍しいので、たまにまこういうのも悪くない。


 けど、期待した顔見知りが冒険者ギルドに顔を出す事はなかった。逆に、怪しいヤツが絡んで来る事も無かったし、監視されているような気配も感じなかった。

 仕方ないので人間ウォッチングや、1階ホールの色んなものを見て回ったりしたら、意外に時間を潰すことができた。


 そして何も無かった旨の報告にハルカさんのホッとしたような顔お拝んで、既に予約してある宿へと一緒に向かう。

 部屋は高級宿のスイートのような多人数が一室で泊まれる部屋を取ったのだけど、それはある意味オレの願望を、昼間の会話を具現化するような状況だった。


「えーっと、いいのかな? オレも一緒で」


「ショウ、夢が叶って良かったね」


(だからサムズアップなんてすんな。望んでるけど望んでない)


 ボクっ娘がからかい半分の凄くいい笑顔だ。

 そして他の二人は、むしろ当然といった面持ちだ。


「まあ、間取りはゆったりしているし間仕切りもあるから、私は我慢出来るわよ。もちろん、ショウが突然 獣物けだものにならないのが大前提だけど」


「夜の番を交替でするんだから、これしかないだろう」


「そう、ですね。まあオレは、寝る時はこっちのソファで横になりますよ」


「いや、夜の番はここで過ごすだろうし、ちゃんとベッドで寝なさい」


 オレの紳士としての発言は、ハルカさんがビシッと指指しつつ即座に否定された。


「ショウと同じ番の娘が、一番離れたベッドで寝ればいいんじゃない?」


 そうしてグッパで決めたオレのペアはハルカさんだった。

 「もう運命を感じる組み合わせだな」と茶化されたが、このくらいは単なる偶然だ。それに誰とペアになっても、オレにとって外れはない。


 また、寝たあとというか向こうでの一日過ごす間、オレとシズさんが連絡取らないようにする。

 接触すると、記憶の抜け落ちや記憶のロック現象が起きて、意外に不快なのだそうだ。


 その後、お湯をもらって体を拭いて、順番に寝ることになる。

 けど、寝間着などに着替えたりせず、突然の襲撃にも対応できるよう出来る限り装備を整えた上で寝る事にする。

 当然だけど荷物も手元に置いておく。

 そして早番のオレとハルカさんが寝る前に、最後の打ち合わせをする。



「今夜何事も無かった時なんだけど」


 ハルカさんが、真剣な口調でみんなに問いかける。

 対して、オレを含めて3人はもっと気楽な気持ちだ。


「その時は警戒だけして、朝に飛行場直行でいいんじゃないの?」


「そうだな、この4人なら襲われても返り討ちにできない相手は早々いないだろう」


 二人はそう言うが、ハルカさんには違う意見があるようだ。

 オレには特に意見はないので、まずは話を聞くべきだと感じた。


「何がしたいんだ?」


「相手を捕まえて、多少なりとも情報を得たいわ」


 声も表情も一見普通だけど、これは内心怒っている時のハルカさんだ。


「まあ、神官にちょっかいかけてきた連中だしな」


「となると、今夜中に襲ってきてくれる方が手間は省けるね」


「そうね。で、今夜何も無い時だけど、レナと誰かが飛行場直行でヴァイスの安全とすぐに街を出る準備。

 残り2人が買い物をする振りをして街中をうろついて、どこかで気づいて逃げる振りをして袋小路とかで追っ手を捕まえて、そいつらを絞りあげるって感じで考えてるんだけど」


「となると、対人戦に向いているハルカとショウが捕まえる役だな」


「決まりだね。じゃあ、ボクは追っ手が二人の手に余る場合に備えて、脱出の段取り整えとくね」


「それじゃあ、何があるにせよ5つの鐘の終わりに北門西側の城壁を飛び越えるから、そこで拾ってちょうだい」


 窓から見える景色を見ながら、ハルカさんが指差している。察するに、来るときに見えた地形も思い浮かべているんだろう。


「アクション映画みたいだな。オレにそんな事できんのか?」


「暴れるドラゴンゾンビの頭に飛び降りる方がよっぽど難しいわよ」


「だよねー。けど、このメンツだと飽きなくていいよーっ」


 ボクっ娘はかなり上機嫌だ。流石、冒険を求めているだけの事はある。

 そしてそれで話は決まり、遅番のオレは早々に床に付いた。


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