381 「仇討ち?(2)」
そしてその後は、若い騎士の隊長格、ラウムさんの元同僚、友人などが次々に挑んできた。誰もが気合十分。目にもの見せてくれようと、やる気満々。
恨まれはしてなさそうだけど、殺気に近いものを発散させている人までいた。
そうした中には単に腕試しのような騎士まで居て、おかげで10人以上連戦させられ体は疲れないけど気分的に随分疲れた。
相手の中には、技量がオレと互角くらいの人は居たけど、魔力総量が違いすぎるらしく次々に撃破していく。
これが中学の頃していた剣道の試合なら、二段、三段と簡単に昇段できたなあと思わず現実逃避しそうになってしまうような有様だ。
前の剣の持ち主の元同僚、友人辺りは最初はこちらも警戒したけど、ノヴァで相対した悪魔ゼノ以外の上級悪魔より弱いくらいだった。
アクセルさんとでは、特に技量面で比べるべくもない。
ラウムという人はどれくらい強かったのか、宝剣だと言うこの大剣を持つに相応しい強さだったのかと、ちょっと疑問を感じそうになった。
(けど、殿下と呼ばれる人が色々心を砕くんだから、この大剣は相当の業物で、ラウムって人も凄かったんだろうなあ)
一通り倒して次が現れなくなって、練兵場の中央で物思いに耽っていると、マーレス殿下の元気な声が再び響いてきた。
「流石流石、見事の一言に尽きる。騎士達も、ショウ殿ほどの剛の方相手によく戦った。と、これで終わっても良いのだけど、ショウ殿やルカ殿達に帝国の者は斯様に不甲斐ないのかと思われるのは、ワシとしては少しばかり本意ではない。そこで、最後にワシがお相手仕ろう!」
そう言うや、審判の位置からオレの前へと移動してくる。
装備はオレと同じく大剣。大剣はかなりの業物だけど、鎧などは着用していない。
よほど自信があると見るしかないだろう。
もっとも、周りの『帝国』の人は「おやめください」「せめて鎧を」などと大騒ぎ。
けれども、浴場での一件でも思ったが、この人は周りの空気を無視する、もしくは敢えて読まない時があるようだ。
「いいんですか?」
「無論。男児に二言なし。存分に参られよ」
「けど、その格好じゃあ、不公平ですよね」
そう言って、とりあえずすぐに脱げる鎧をその場で外す。
それをマーレスさんは、楽しげに見返してくる。
「お待たせしました、じゃあ始めましょうか」
「とその前に、ルカ殿、審判をお願いしたい! 恐らくこの場で、ワシの次に剣筋を見極められるのは貴殿だ!」
「分かりました」
観覧席で見ていたハルカさんが、そう言うとすぐに駆け出し、そのまままるで闘技場のような有様の練兵場の中へと身軽に飛び降りてくる。
目の前で戦いを見せられて、少し気が高ぶっているんだろうか。
「これはこれは、まるで戦女神だな。では、審判をお頼み申す」
「承りました。それと、怪我をしたら私がその場で治癒いたしますが、宜しいですね?」
(なるほど、その為に二つ返事で降りて来たんだ)
「これは願ってもない。しかし、なるべくならお手を煩わせないように致しましょうぞ。では!」
「はい。それでは始め!」
ハルカさんの気合の入った言葉で、マーレス殿下との模擬戦が開始された。
始まると同時に、マーレス殿下は躊躇なく真っ正面から突撃して来る。まるで薩摩の示現流のように、大上段から大剣を豪速で振り下ろしてくる。
その速度は、大剣をまるで細い木の棒を扱うかのように軽々としていて、見た目以上にマーレス殿下の魔力総量が多い事を伝えている。
けど剣筋が見えないわけじゃないので、それをこっちの大剣で受け流しつつ、相手に次の攻撃をさせる前に牽制の一撃を見舞う。
そしてそのままコンボを組んで、有効打を浴びせようと二手、三手を叩き込む。
けど、その程度は予想済みとでも言いたげに軽くあしらわれ、逆に予想外の位置からの攻撃を受けてしまう。
その後も激しく動きながら模擬戦が続くけど、マーレス殿下の戦い方はアクセルさんのような綺麗な型はない。
変幻自在、天衣無縫などの四字熟語が頭に浮かびそうな、自由で変則的で、予測がつかない。
しかも大量の魔力総量に任せたスピードとパワーの攻撃で、その点は鏡を見ているようだった。
いつしかオレは無意識に、そして無我夢中になり、頭を空っぽにして戦いを続けた。
そして気がついたら、首元にマーレス殿下の大剣が寸止めで添えられていた。
ハルカさんの「それまで!」と言う言葉も、その一瞬の後だった。
それだけマーレス殿下の剣が速く、そして殿下自身が強いと言う事だ。
「……参りました」
「なんの。こちらも何度も肝が冷える一撃をもらっている。寸止めの模擬戦でなければ、先にこちらが切り刻まれ負けておったところだ」
「勝者、マーレス殿下!」
ハルカさんの言葉に、周囲が一斉にドッと湧く。
見れば、模擬戦を始めた時よりも随分ギャラリーが増えていた。
皇太子など、さっき話していた男性皇族の多くも見物に来ている。
ただ、ハルカさんの表情は真剣だ。
硬いではなく真剣なので、オレが負けた事が原因ではなさそうだ。
「ショウ、殿下の側に。今から二人まとめて治癒します」
そう言われて初めて気がついたけど、オレもマーレス殿下も軽傷ながら切り傷と打撲跡だらけだ。
口の中も鉄の味がするし、服もボロボロだ。
そして舌で口の中の傷を探している間に、ハルカさんが手早く小ぶりの魔法陣を形成して二人まとめて治癒魔法を施す。
セーブして方法も分かって来ていたので、聖人、聖女の証の一つとなる治癒魔法発動中のキラキラも出る事はなかった。
「これは見事な治癒魔法だ。生傷の絶えぬワシの配下に欲しいくらいだな。さて、皆の者、これで納得いったであろう! ショウ殿ほど、この宝剣の持ち主に相応しい者はいない。それは、このマーレスも深く認めるところである!」
そう言い切ると、オレの方へと体ごと向けて、そしてそのまま抱擁する。
この世界で握手は殆どなく、親しい者、認めた者などとの間では抱擁しあう。
オレ達の世界のヨーロッパのように、頬を寄せ合ったりキスをする場合もあるけど、高貴な者だと公の前で抱擁以上は滅多にしない。それに位の高い者からの抱擁は、褒美ですらある。
だからこちらも抱擁を返し、その返答としないといけない。
ただ、礼儀以上のものを感じる。
てか、スッゲー力で抱擁じゃなくて抱きしめるを通り越えて、プロレス技並みの力だ。
「いやいやっ! 実に愉快愉快。これほどの強者と戦うのは久しぶりであった。感謝するぞショウ殿。そしてまた必ず剣を交えようぞ!」
「それは全然構いませんが、他の人はこんなに強く抱きしめない方がいいと思いますよ。それとオレ、殿下の正式なお名前やご身分をいまだに存じ上げないんですが」
オレの視線の先では、ハルカさんが半ばジト目ながら、ちゃんと聞いた事については評価してくれていた。
「おおっ、そうであったな。ワシは『帝国』第二皇子マーレス・ド・アトランディア。間に名前やら階位やら諸々が10ばかり入るが、ワシも覚えてないので気にするな。それと、ワシのことは公の場以外では、マーレスと呼ぶがよいぞ。我が友よ」
(いきなり友呼ばわりか)
と思えど、抱きしめるのをやめて肩をバンバンと嬉しそうに叩くマーレス殿下を見ていると、まあいいかと思えた。
それに、これでこの世界で二人目の友達だ。
「オレは面倒臭い名前はないので、ショウのままで構いません。マーレス……」
「敬称はいらんぞ。いや、ここは一応公の場であったか」
そういって豪快に笑う。
つられて笑って青春しそうになったけど、目の前の殿下はエライ事をのたまっている。
「それより、第二皇子殿下だったんですね」
「ウム。真面目な兄と馬鹿で嫉妬深い弟に挟まれ苦労しておる。姉や妹も嫁いで久しいし、皇族内でのワシの癒しは甥御、姪御と戯れることくらいぞ」
「じゃあ、滞在中の僅かな間ですが、また機会がありましたら剣のお相手をさせていただきます」
「ウム。その言葉忘れるでないぞ。で、今後の予定は?」
「明日、聖女様に御目通りする予定です」
「ならば今日は、もう飯を食って寝るだけだな。では、我が館へ参いられよ。旅の話、武勲など是非に聞かせてくれ!」
その言葉を聞いて、案内役や接待役の役人の人が凍りついていた。
第二皇子の言葉を覆したりは出来ないんだろう。
可哀想に。





