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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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144「買い物(1)」

「そんなわけないでしょ」


 それが街中を歩きながらのハルカさんの第一声だった。

 ウンザリ気味の声で機嫌もちょっと悪そうだ。


「じゃ、ナンパされてたんだ」


「ボクにはそこまで露骨じゃなかったけどねー」


「私は獣人だから、敬遠されたんだろうな」


「私、グイグイ来られたわ。初見からオーラ全開だったじゃない」


 ボクっ娘はそうでもないが、ハルカさんはかなり嫌そうな表情だ。

 シズさんは、少し残念そうな感じがしないでもない。恐らく、もてあそび損ねたくらいに思っているんだろう。


「で、どこで? 全然気づかなかった」


「ショウの見ていないところ全般ね」


「特にトールさんがアプローチ強かったよね」


 二人がちょっとウンザリな顔をしているが、いつもの事って感じもする。

 まあ普通男なら、ハルカさんに興味を向けるだろう。


「幹事してたハルトさんは、意外にショウとばっかり話してたわね。ショウは男の人に好かれるのかしら?」


 なぜかオレが攻撃されている。

 ちゃんと見てなかった事への罰なのだろう。

 けど、オレにも言いたい事はある。


「オレはノーマルだぞ」


「アクセルとも、すぐに仲良くなってたじゃない」


「マリアさんたちの男組とも息合ってたね」


 そう立て続けに言われると、そうなのかもと思いそうになる。


「中学時代に部活してた影響で、オレが男の方が話しやすいってのはあるかも」


「へーっ。けど、私とレナには、普通どころかタメで話してくるわよね」


 そう言うハルカさんは、少し半目気味だ。

 今まで態度に出した事は無かったが、多少は気にしてたのかもしれない。


「多分それは妹がいるからかも。中学の頃に友達にも言われたけど、親しくなった女友達にはそんな感じだって」


「妹さんいるんだ。どんな娘?」


「それはもう一人の天沢さんの情報にもないなー」


「私も初耳だ」


 3人とも興味津々だ。

 けど、聞かれて思ったが、どんな妹だろう?


「何首ひねってるの? それと酷いこと言っちゃダメよ」


「そうじゃなくて、どう話せば分かりやすいかなって」


「意外に家族の説明って難しいよね」


「そうだな、どう呼ばれている?」


 流石シズさん。それなら簡単だ。


「お前、くそ、オタク、キモい、ウザい、死ね」


 言いながら、思わず指折り数えてしまう。他に何があったかな。


「うわーっ、反抗期だ」


「ある意味健全だな」


「けど、汚い言葉は大体オレに向けてだけど」


「お幾つ?」


 オレへの妹の罵声も特に気にした風もなく、ハルカさんが自然に問いかけてくる。


「中三。一個下ね」


「年子かぁ、兄貴に反発しそうよね」


「アニメやラノベだと、妹って不必要にお兄ちゃんに親しいけどね」


「いや、あんなのあり得ない。幻想だ! オレ妹萌ものは嫌いだし!」


 思わず力が入ってしまったが、これは真実だと断言出来る。

 けどボクっ娘は、少し寂しそうな視線を向けてきた。


「……夢持とうよ」


「夢って言うなら、今のこの状態が夢みたいだよ。可愛い女子3人とこうして普通に話してるなんて、2ヶ月前のオレじゃ有り得なかったからな」


 本当にそう思う。隔世の感ありというやつだ。

 ちょっとトオイメすらしそうになる。


「随分言い切るな。3人というところがなければ、口説かれているみたいだぞ」


「一見ハーレムパーティだもんね」


「一見、だろ」


「けど、そんなに陰キャだったの? 初対面の時そんな印象は、……まあ少しあったか」


「あれでも頑張ったんだけどなあ」


 相も変わらず他愛のない話をしつつ歩いているが、いつしか4人とも静かに目配せしている。

 そして普通の会話をしながらも、互いに他の3人にだけ分かるように『念話』の魔法で話し合う。

 シズさんの魔法で近距離でしか使えない魔力を用いた糸電話に近い原理もので、尾行に気づいてからこっそり使っていた。


「(何か見られてないか?)」

「(魔法の監視はされていないな)」

「(たぶん複数。主に後ろだね)」

「(小さな雑踏のさらに後ろよね)」

「(逃げるか?)」

「(街中で面倒は避けたいわ)」

「(できれば相手を見極めたいな)」

「(おびき寄せて捕まえるか?)」

「(まあ、今すぐ手出しする気もなさそうだし、買い物済ましちゃおうよ)」

「(そうね。最悪『帝国』の商館かどこかに駆け込めばいいだろうし)」

「(とりあえず、固まって動こう)」


 そこで二つの平行する会話を止めて、相手への注意をしつつという前提だけど、表向きは無視して買い物にいそしむ事にした。

 まずは、神殿と同じく大広場にある魔導師協会だ。

 魔石の売却と、ハルカさん、ボクっ娘も持っている「浮遊鞄」を購入する為だ。


 他にも幾つか、ここで購入出来る汎用マジックアイテムと、後で加工する予定の魔力の籠った布や魔物の糸で作られた布を買うつもりだった。

 また、不要な魔石を売り払うのも忘れてはいけない。


「ゲームによく有る、いくらでもアイテムが入るバックや袋ってないんだな」


「アイテムストレージとかだっけ? あったら便利でしょうね」


「飛行生物と合わせれば、物流が激変するだろうな」


 シズさんがいきなり夢のない話をするが、確かに人一人が大量の荷物をストレス無く運べたら色々と便利だろう。


「浮遊石があるだけでも随分違うけどね」


 ボクっ娘が一番現実的だ。多分だけど、普段は「郵便屋さんのバイト」をしている影響なのだろう。


「そういや、飛行場にあった空飛ぶ船って、浮遊石を大きな岩の固まりのまま使ってるんだな」


「精錬して小さくした方が便利だけど、精錬が手間で結晶は高価だからな」


「魔力を送り込んで浮くのは同じなんですよね」


「ある程度は周りの魔力の影響で自力で浮くがな」


 それなら以前、廃鉱山で見たやつだ。

 しかし、空に浮く岩を馬が引っ張るという絵面は、やっぱりシュールだ。


「けど、馬みたいに飛行生物に牽かせるのは安直だよな。プロペラみたいなものはないのか?」


「ノヴァに行けば、蒸気機関のやつがあるよ」


「へーっ、蒸気だとギリでファンタジーだな」


「電気動力も一応あるよ。発電やバッテリーが問題だとか言ってたけど」


「電気はファンタジーの雰囲気壊れるなあ。魔法で何とかして欲しい気がする」


「というわけで、ファンタジーの総本山、魔導師協会だ」


 尾行を必要十分に気にしつつも、だべりながら魔導師協会の扉までやってきた。

 魔導師協会は公に解放されておらず、許可無く入る事はできないので、まずは正面扉の横の小さな窓口でハルカさんの身分と寄付金で入館を許可してもらう。


 そうしてようやく扉が開いて中に入るが、冒険者ギルドと違って中はこの世界の雰囲気を濃厚に発散している。

 また商店ではないせいか、薄暗いし客を迎える感じでは無い。この点は、神殿とも大きく違っている。

 対応もぶっきらぼうで不親切で、売ってやる、買ってやるという態度満々だった。

 そこでちょっと小声で仲間に聞いてみた。


「この応対の悪さが、龍石売らない理由ですか?」


「理由の一つだな。だけど今回の品なら、見せたら一瞬で目の色が変わるだろうな」


「とはいえ、他で売れるところって神殿かどこかの国だけど、どこもここより安いのよね」


「良い品なら、持ち過ぎじゃない限り自分たちで使う方がいいよね」


 取りあえず、相手の心証を良くするため、既に回収している分の飛龍の角や牙、鱗をいくらか同じように売り払う。

 もちろん、その一部を袖の下として渡す事も忘れない。

 おかげで、かなり良い状態のそれぞれの品を売る事ができた。また、魔力の放射を抑える魔力封じの指輪など幾つかの品を購入する。

 そしてそれ以上用もないので、さっさと魔導師協会を後にする。


「そう言えば、シズさんは魔導師協会に登録しないんですか?」


 魔導師協会の建物を少し振り返り、何となく聞いてみた。


「以前属していたが、あまり益が無いんだ。寄付とか求めるばかりで、今ひとつ特典や恩恵がないからな。持っている知識も出し惜しみだ。何と言うか、閉鎖的な大学っぽい気がするな」


「そういう事なら、神殿の方がマシに聞こえるわね。たいていは寄付や賄賂次第だけど」


 言いつつ、ハルカさんが小さく苦笑する。


「ボクらは、これからハルカさんとの繋がりで神殿に属するようなもんだから、魔導師協会の門は叩かない方がいいよね」


「そうだなレナ。それで、後何を買えばいいんだ?」


「生活用品や着替えでしょ。あと服も色々見繕った方がいいんじゃない?」


 ハルカさんがやや呆れ気味だ。しかし次のシズさんの次の一言は少し重かった。


「そうか、そうだな。ここ2年ほどは、こちらでは身の回りの品は勝手に用意されていたんで、うっかりしていた。……あっ、今の言葉の後で言うのもなんだけど、私の事は気にしないくれ。そんなだと、これからもお互いやり辛いぞ」


 何となく口にしてしまった感じだけど、シズさんにしては失言だ。けど、気にするなと言うのは、無理がありすぎる。


「そ、そうだね。でも」


「でもはなしだ。そう話し合っただろ」


「えーっと、その話は知らない気がします。まあ、何となく分かりますけど」


 オレと女子の寝室は別なので、仕方ないとは言え大切な話は伝えておいて欲しい。

 その気持ちを込めたが、それは伝わっていた。


「そうか、ショウの居ない場所で話している事もあるから、言い忘れていた。とにかく、私の過去の事で気にしなくていいよ。私はもう克服できているから」


「分かりました」


「そう言えば、シズが来てからショウは蚊帳の外が増えたかも」


「気をつけないとだねー」


「いっそ、私たちと一緒の寝室にするか? ハルカだけの時は同じ場所で寝てたんだろう」


 シズさんが悪戯っぽく言ったが、ハルカさんはシズさんの肩に手を置く。


「お子様をからかわない。ショウには、ちゃんと話すようにするから」


「お、おぅ。まあ頼むよ」


 ちょっと微妙な雰囲気になったが、その後も少し気後れした。何しろシズさんの下着とかまで買い始めたからだ。

 しかもハルカさんとボクっ娘も、同じように買い足したりしたので、オレはすっかり女子組の買い物につき合わされた彼氏か家族状態だ。

 女子たちは、とても楽しそうなのも似た感じだ。


 しかし、獣人になって尻尾が沢山生えたシズさんに合う衣服や下着はなかなか見つからず、ようやく獣人が経営してる店で手に入れるまでにかなりの時間をかけてしまった。


 ハーケンの街は自由都市で種族も雑多なところがあるが、それでも人が中心なせいだろう。

 さらにアクセルさんやジョージさんへの土産なども、忘れずに買って行く。

 そして買い物が終わる頃には、日がかなり傾いていた。


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