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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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377 「空皇の聖地(2)」

 そしてその日の午後3時頃、一度迎賓館に戻って万全の身支度をした上で聖地へと入る。

 そして何事もなく大巡礼用のアミュレットに2つ目の石を橙色に染め、聖地巡礼は呆気なく終わった。

 オレ達にとっての表向きのメインイベントの聖地巡礼だけど、一番何事もないのはなんとも皮肉を感じる。


 しかも今回は、着飾るのも『帝国』が色々と手伝ってくれたし、至れり尽くせりだ。

 『帝国』としてはテルマエでの警備の不手際があったので、尚の事オレ達に気を使っていたので銅貨一枚使う必要も無かった。


 なお、ここリーンにある空皇の神殿は、街以上に神殿自体もウィンダムと似ていた。

 ハルカさんは、神殿にある聖杯が聖女の反応を示す事をかなり警戒していたけど、自分達だけになった時にシズさんが一時的に移したおかげで、今回も何とか乗り切る事ができた。

 ただし、ウィンダムの時よりも全員の魔力がさらに増えていたので、ユーリがいなければヤバかったというのがシズさんの分析だ。


 最初の聖地巡礼から数えると、ノヴァ郊外の西方、エルブルスの北、ノヴァ中央北部、そして大樹海内陸での戦闘、ランバルト王国の都での一連の戦闘と、魔物との大きな戦いだけでこれだけしてきていた。

 鈍感なオレでも戦いすぎだと思うし、しかもどれも規模が大きく、倒した魔物の数、魔物から放出された魔力の量も桁外れに多かった筈だ。


 大規模な戦闘では、オレ達以外にも沢山居合わせていたけど、それでも戦いの中心に居たことが多いオレ達の魔力量の増加は、かなり大きかったと見るべきだろう。

 その証拠に、オレが見ても悠里の魔力総量の増加が分かるほどだ。そして自分自身の増加も同様に。

 それでも今回は聖杯をクリアできたので、今は神殿内の休憩室で次の問題というか、これからの問題を話し合っているところだった。



「ボクは、このまま一気に浮遊大陸を横断して、邪神大陸に行くのが一番だと思うな」


「聖地巡礼も終わったし、一応大きな風呂にも入ったし、『帝国』にはもう用もないもんなー」


 年少組はお気楽でいい。

 ボクっ娘は、そうはいかないと分かった上での発言だろうけど、気持ち的にはオレもこのまま『帝国』を通過したいところだ。

 けど、案の定と言うべきか、年長組は二人の言葉に少し困り顔だ。


「そうはいかないだろう。これだけ厚遇されたのだから、『帝都』の然るべき人物にお礼の一言も言わないと、向こうの面子を潰す事になる」


「そうよね。けど、私もなるべく早く『帝国』を通過したいのは、みんなと同じよ」


「なんか、面倒ごとに巻き込まれかけてるしな」


 そしてオレの一言で浴場で中断した会話に戻した。

 全員も少し表情を改める。

 それを見てシズさんが口を開く。


「空賊と浴場の襲撃は、恐らく『帝国』内の有力者の私兵だろう」


「『帝国』自体じゃないんですか?」


「うん。断言はできないが、これが国ぐるみなら、もっと手際が良い筈だ」


「『帝国』の内部で幾つか対立しあう勢力があって、その一派がボク達を優遇している一派の勢力を削ぐために、中途半端な襲撃をしてきたとかって辺りかな?」


「私もある程度はレナの意見に賛成。けど、襲撃者の目的は、どう解釈すればいいのかしら」


「うん。襲った奴らの目的は、嫌がらせでないならキューブだよな。クロ、取り敢えずでいいから、周辺にお前の同類を察知なりできるか?」


 言葉の半ばから、袋の口を開けて問いかける。

 そうすると袋の中の黒いキューブが地味に振動する。


「このリーンの街に、わたくしと似た存在はありません」


「そっか。けど、お前達を察知できる何かを、オレ達を襲ってきた連中は持ってるって事だよな」


「もしくは、どこかで見られたのかも」


「『帝国』が関わる時はクロを外に出した事ないぞ」


「アイの方も、甲冑姿なら外からの察知は無理だとレイ博士が太鼓判を押していた。甲冑に細工もしてあるそうだ」


「この橙色も、誰かが知っている筈ないわね」


「けどさ、クロが察知できない距離からバレたんじゃないなら、やっぱりどっかで見られたんでしょう?」


 悠里の言葉に、多少不本意ながらみんな頷くしかない。

 そして小さく溜息が出たところで、ハルカさんが胸の前で小さくパンっと両手を叩く。


「推測だけしても仕方ないわ。『帝国』の誰かさんがキューブの存在を知っていて、そのキューブを奪ってでも欲しがっている、って前提でこれからは動きましょう」


「そうだな。だが、クロやアイ、それにハルカのヤツに何の用があるんだろうな? 『ダブル』以外には用途も限られているだろうから、理由なりが分かれば対処もしやすいんだが」


「その辺は、ゴード将軍の言葉を信じる限りでは、触れない方が良いでしょうね。だから私達は観光旅行だと浮かれずに、警戒しつつ『帝国』を超えて邪神大陸に行く事を考えましょう」


「それしかなさそうだな」


 そう言ってお茶に口をつけたが、せっかくの美味しいお茶も、すっかり冷めてしまっている。

 つられてみんなもお茶を口にしたが、全員が半ば諦め顔で小さくため息をつく。

 それでも気を取り直さないといけない。

 そしてそういう時、最初に言葉をかけるのはハルカさんだ。


「じゃあ、これからしばらく就寝時は、飛行船以外はなるべくまとまった部屋にしてもらいましょう」


「あと、装備も出来る限りつけられるように頼もう。向こうも二度も襲撃される不手際があったんだから、拒絶もできないだろう」


「そうですね。それにしても、邪神大陸までは気楽かと思ってたけど、どうしてこうなるんでしょうね」


「そりゃ、ショウがそういう星の元に生まれたからでしょ。少なくとも、この世界の空の下ではね」


「ホント、そうとしか思えないわね」


「疫病神かよ」


「まあ、退屈はしないがな」


「返す言葉もない、と言いたいけど、オレ悪くないだろ」


 一応冗談めかして、みんなの弄りに応対する。

 ただ、帰ってくる反応は今ひとつだ。

 と言っても、別にオレを本気で非難したいのではなく、これからの旅路の面倒さに少しばかり気が重いのだ。

 オレだってそうだ。


 そして話がひと段落した頃、部屋に連絡が来た。

 ゴードさんからの伝言だ。

 曰く、『帝都』にて皇帝陛下が私的に会いたいのだそうだ。


「今度は皇帝陛下か。もう何でも来いってんだ」


「ショウ、そういうフラグは立てない方がいいよ」


「ホント、マジバカなんだから」


 妹様の手厳しい言葉は、かなり身にしみる。


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