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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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143「『ダブル』との交流(2)」

 そうして、格式張った神殿でのまどろっこしいやり取りのせいで意外に時間がかかり、神殿での用事を片付けると神殿の尖塔にある鐘が、ちょうどお昼を告げるところだった。

 そしてオレたちが神殿から出てくると、その視線の先の街の中央にさっき知り合った『ダブル』たちの多くが既に待っていた。


「マジ神殿行ってたんだー」

「俺、神殿ってなんか苦手なんだよねー」

「あ、分かるー」

「私は寺院の静謐な感じ嫌いじゃないけど」

「ゲームみたいに簡単に怪我治してくれる訳じゃないけど、行かないわけにはいかないんだよなー」

「アイテムは役立つけどね」

「治癒薬はマストアイテムっしょ」


 挨拶もそこそこに、ちょっとした事でも盛り上がっている。

 と言っても、盛り上がっているのは半分くらい。と言うより、ウェーイ二人組と女子4人組だ。


 残りは1人きりの新人君と、テンプレのようなパーティー構成の地味な男性4人組だ。他に後で誘ったもう1組が来る予定で、20人ばかりで名目上はオレの歓迎会なるものを行う予定だ。


 主導権を握っているのは、相変わらずパーティーピーポーっぽいウェーイ二人組だ。


「そういや、名前なんだったっけ?」


「オイオイ、自己紹介は食べる前だろ」


「おっと、これはヤバい。でも、みんなオレらの名前とかも知らないっしょ」


「それもそんときなー」


 ポンポンと言葉を交わすので、振ってくれないと会話に入れない。

 しかし、そういうタイミングも十分に分かっている人達だ。流石陽キャとしか、オレには論評のしようがない。

 今も視線と間で、オレにちゃんと呼び水をしてくれている。


「こういう事、よくしてるんですか?」


「どうだろ。週1くらい? 先週はカールの歓迎会だったよな」


「へーっ、じゃあ先週こっちに?」


 オレ並みかそれ以上に会話に入れないでいる新人君の方を向く。そうすると、何故か強く見返された。


「あっ、いえ、2週間くらい前からです」


「そっかー。オレもまだ二月くらいだ」


「二ヶ月。……どうしたら短期間であんなに強くなれるんですか!?」


 オレ以上の新人君は、凄い食いつきだ。


「焦んな焦んな。それに彼ちょーヤバいぞ。俺なんか5年になるけど、全然勝てないっしょー」


「陽気に言う事かっての。ま、俺もだろうけど」


「だけど、弱いと何もさせてもらえません」


 新人君は、明らかにしょぼんとした感じだ。

 新人君の反応は何か新鮮だ。というより、オレが本来通るべき道を歩いているようにも見える。

 オレの場合、ハルカさんがいたお陰で、一気に駆け上がって違う道を進んでいるからだろう。


「ギルドだとそうなんだ」


 思わずそんな言葉が出てしまった。

 その言葉はみんなには印象深いらしく、少し注目を集めてしまう。


「あー、えっと、やっぱ名前聞いていい?」


「あ、はい、ショウです」


「ありがちネーム系じゃん。多いから気をつけないとねー」


「ハハハっ、同じクラスにもいますよ」


「そういうのも禁止な。こっちでも身バレはヤバいから」


 そう言って、ウェーイな二人組のうち一人が軽く肩を組んできた。

 動きが自然だから、ごく普通に受け入れてしまう。

 陽キャの貫禄というやつなのだろう。

 おかげでというか、素直に言葉も出てしまう。


「はい、気をつけます」


「ヤバっ。強いのに素直とか、マジカワイくない」


「気ーつけろ、こいつゲイだから」


「ひどっ、ただの後輩想いだっての」


 ウェーイは、主に二人で盛り上がっている。

 オレにばっかり話しかけているけど、マジでゲイだったらどうしようと思ったが、あっちでは女性同士で話し合っているので、気を使っているのだろう。


 地味なテンプレ男四人組も、こっちに来て少し離れた場所で話を聞いている。ただ、あまり交わりたそうな雰囲気をしていないが、地味なだけでなくシャイなんだろうか。

 どことなく、クラスの陰キャグループを思わせる。


 そうして最後の一組も来たので、店への移動となった。

 ウェーイ二人組が確保している店は、オープンカフェスペースもある、あっち世界で見かけるようなイメージのお洒落な店だ。

 そしてそう感じたように、『ダブル』が経営しているイタリアン風レストランだった。


「はいはーい、できるだけ男女交互に座って座って。だーけど、セクハラ厳禁だから、そこんとこよろしくー。楽しくいこうねー」


 お店でもウェーイ二人組が仕切っている。ちょっと苦手だけど、こういう人がいると助かるのは確かだ。

 席はテーブル4つに分散。今日登録したオレとシズさんが、名目上の主賓なので中心に。他は、二人の采配でいい感じにばらけている。

 女性は最後に来た組にも2人いたので9人になり、男女比はほぼ半々だ。


「えーと、飲み物いったー? そういやお酒ダメな人いないよね。いたら言ってね。……それじゃ、まずは新たな仲間にかんぱーい!」


「「かんぱーい!」」


「ウェーイ!」


「ハイっ、お約束の言葉いただきましたー!」


 ドラマなどで見た事のある大学生の飲み会といった感じで、いきなりテンション高い。

 実際、見た目や雰囲気から大学生かそれくらいの年の人が多そうだ。

 『ダブル』は中学生からが多いと言われるが、こちらでは最低でも15才状態の肉体で出現するので、新人君も見た目の年齢はオレと変わらないように見える。

 歓迎会は、まずはそれぞれの自己紹介をしたが、オレとしては少し意外だった。


「ランクはだいたいBかCなんですね」


「Aは全体の5%くらいのレアキャラって言うよな」


「なのにシズ様は、看做しとはいえSなんて凄過ぎです」


「私には、高く評価された以上に、今ひとつそのランクというものが分からないんだがな」


「そんな謙遜も素敵です!」


 オレの隣のテーブルにいるシズさんは、主にぐいぐいくる女の子相手に無難にこっちの人を演じている。

 シズという名前も、オレたち風につけた通り名という事にしてある。

 そしてオレも、周りからはAランク扱いされているようだった。


「そういや、あの因縁付けてきた3人組の事は気にすんなよー。あいつらも、ちょっとしたジェラシーってやつだからなー」


「はい。けどオレの方こそ怪我をさせてしまって、ちょっと申し訳なかったです」


「鉄の盾が腕ごとまっ二つだもんねー」


「あれは流石に予想外でした」


「短期間で、どうやってそれだけ鍛えたのかな。ブートキャンプでもしてた?」


「僕も知りたいです!」


 ウェーイAもといハルトさんの言葉に、少し離れた場所の新人君が如実に反応した。


「ルカさんに付いて、辺鄙な所で野営しながら魔物退治して回ってました」


「えっ、何、修行の旅?」


 振りかもしれないけど、軽く戸惑っている。

 しかしマジっぽい。となると、ハルカさんのようにビギナー鍛えるのは珍しいのだろう。

 そう思いつつ、言葉を選んでいく。


「ルカさんは神殿巡察官で、辺境の村の医療巡察と雑多な魔物の鎮定してたんです」


「ヤバっ。神殿巡察官って上級職じゃん、マジよくなれたな」


「けど大変そうですよ。アンデッドの村とかもあったし」


「アンデッドの村? これ状態?」


 オレの隣の大学生っぽい雰囲気の女の子が、腕をカマキリのように構えて、お約束のポップなゾンビポーズをする。軽く踊る姿がいい感じに可愛い。


「はい。二人で2、300体ほど鎮魂しましたね」


「最近?」


「えっと、もうひと月以上前ですね」


 自分で言って、もうそんなに経っているのかと、軽く遠い目になりそうになる。


「じゃあ、出現2、3週間くらいでゾンビの群れと戦ったって事か?! マジヤバいな」


「ほとんどスケルトンになってましたけどね」


 かなり驚いているから少し訂正したが、それでも驚かれてしまう。どうも認識にズレがありそうだ。


「それでもヤバいって。普通逃げるだろ」


「逃げたら、周りの人襲ってゾンビが大量発生するから、逃げられないでしょ」


 そこで全員が納得したようだ。何に納得したのだろう?


「カールぅ。ショウの真似はするなよー。ショウは見た目と違ってマッチョすぎー」


「……ですね。地道にいきます。やっぱり、この世界にチートはないんですね」


 新人君がガックリと首をうなだれている。

 そんな感じで話していたが、どうにもオレとハルカさんの旅と、オレの周りの三人は普通の『ダブル』の常識からは外れているらしかった。

 オレ自身まで、「オレ、何かやっちゃいました?」とでも言わないといけない気すらしてくる。


 もっとも、オレ以外の3人は無難に話をこなしていたようで、オレのこっちでの常識の無さが浮いただけだった。

 その後歓迎会は、途中で席をごっそり入れ替わって違う人たちと話たりして、それぞれの人とそれなりに親しくなることができた。


 こちらではIDやアドレスの交換ができないので、こういう直接の交流が少なくとも『ダブル』の間では重要視されている。

 そう言えばジョージさんたちも、この辺は似た感じだった。


 そして歓迎会が終わると、「またハーケンきたら連絡よろー」とかの別れの挨拶をして別れる。

 オレの予想外に、ウェーイな二人は普通に良い人なだけだった。


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