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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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367 「空のクルージング」

 今日も絶景を眺めている。

 『夢』の向こうで過ごす、醍醐味の一つと言えるだろう。


 しかも今までとは少し違う絶景が、眼前に広がっている。

 何しろここは大海原の真っ只中。

 そして立っている場所は、この世界に存在する浮遊石を用いた飛行船の上、つまり海の上に加えて空の上だった。


 速度は時速に直すと50キロくらい。一般道を車で走るくらいなので、外にいるとかなりの風を感じる。

 もっとも、浮遊石は浮く以外に出来ないので、飛行船は鯨のような姿の空飛ぶドラゴンが曳いてる。しかも4体も。

 そして巨体を持つ雲龍と呼ばれるドラゴンが4体も必要なように、乗っている飛行船はかなりの巨体だ。


 全長50メートルに達し、しかも二つの船体を平たい甲板で繋いでいる。他にはない珍しい形で、飛龍ドラゴンを操る竜騎兵ドラグーンを8騎搭載し、離発着もできる構造をしている。

 この船を運用する『帝国』では空中巡航艦と呼んでおり、この世界屈指の戦闘艦艇の一つなのだそうだ。

 竜騎兵を載せる以外にも、大きな弩のようなものを据えたお城にある塔のようなものがあったり、乗っているのも騎士や魔導師だ。

 

 なんでそんな物騒なものに乗っているのかと言えば、『帝国』の好意で乗せてもらっているからで、行先も『帝国』だ。

 そして『帝国』にあるという空皇と呼ばれる神様を祀った聖地を巡礼するため、向かっているところだった。



「このままノンビリと旅が続けばいいな」


「トラブル吸引機がそれを言う?」


 安全用の手すりに手をかけながらの呟きに、ダメ出しが入った。

 今まで姿がなかったけど、言葉とともにオレの横に並ぶ。


「ハルカさん、それちょっと酷くない? 好きで吸引してるわけじゃないのに」


「そうだったかしら?」


 涼しい顔に小さく笑みを浮かべているので、もちろん全部本気じゃない。


 ダメ出しをしたのは、ダークブロンドのロングヘアと碧を思わせる深い蒼の瞳を持つ美しい少女。

 スラリとした肢体で、動きに無駄がなく洗練されているので、見ていて気持ちが良い。


 今は、珍しく軽めの服装に身を包んでいるのは外の風が強いせいだけど、飛行船の外はともかく中は狭いので、戦闘でもない限りゴテゴテと着込んでいても仕方ないという理由もある。

 けどおかげで、伸びやかな肢体が強調されている。

 とは言えこの世界の流儀に従い、肌はあまり見せていないのが少し残念なところだ。


「今度は何? ガン見して?」


「いや、そういう軽装も似合うなって」


「当然でしょ、と言いたいけど、軍艦の上で着飾っても仕方ないから、全然オシャレしてないんだけど」


「それでも、その、綺麗だと思うよ」


「ハイハイお気遣い有難う。それで、二人は?」


 オレの精一杯の言葉を軽く流して、横に並びつつ空へと目を向ける。

 当人は何となく視線を流しているだけだろうが、それでも慣れた感じで、周囲へスキなく視線を送っている。



「まだ戻ってない。『帝国』の竜騎兵も」


「そ。まあ、雲龍を見つけたからって、簡単には捕まえられないわよね」


「だが、狩りの様子を目の前で見られたら、かなり貴重な体験になるぞ」


 続いて側にやって来たのは、黒に銀の混ざった尖った耳と5本ものフサフサの尾っぽを持った、黒狐の獣人だ。

 獣人と言っても耳と数が多すぎる尻尾、そして獣っぽい縦長な瞳孔の金色の瞳以外は人とほぼ同じで、一見コスプレに見えなくもない。

 しかも、長身で手足が長くスタイルも良い。

 その上に立ち姿、歩き姿が綺麗なので凄く絵になる。思わず、どこかにカメラがないか探しそうになるほどだ。


「お疲れ様です、シズさん。魔力供給、終わったんですね?」


「ああ、流石『帝国』の軍艦だ。良い魔石と魔道器を使っている」


「けど、同乗者にまで魔力を求めるなんて、この船、船員の数に比べて図体が大き過ぎるんじゃないかしら?」


「だろうな。しかし、少しでも早く着くのなら、協力もやぶさかじゃない、と言うやつだろ」


「そうね。明日は私がするわ」


「それが良いと思う。『帝国』魔導師は単に数が少ないだけじゃなくて、思いのほか質が低いようだからな」


「魔法属性の多い魔力持ちは神殿と魔導師協会が囲ってるから、その辺はどの国も苦労してるみたいよ」


 オレがぼーっと聞いている間に、メンバー内の智者二人の間で話は勝手に進む。

 知識も知性も足りてないオレは、聞いて覚えておくくらいの事しか出来ないのが情けないところだ。

 しかしそれを二人や、単なる役割分担や得意分野の違いだと言ってくれる。


 それにゲームのようなチート(ズル)が殆どない世界なので、突然頭が良くなるわけもない。だから、それぞれが出来る事をしていくしかないと言うのは、オレにも理解できるし納得も出来る事だ。


 もっとも今回は、状況の進展がオレに助け舟を出してくれたようだ。



「雲龍、追いたててきたみたいだぞ」


 オレが向けた視線の先の空に、いくつかの「点」が見えた。

 オレのかなり高性能な目は、それを雲龍と3体の飛龍、そして巨鷲おおわしと認識している。

 そしてそのうち4騎が連携して、雲龍をこっち、飛行船に追い立てている。


「相変わらず良い目ね。あ、アレね」


「私にはまだ見えないな」


「どんどんこっちに来てますよ」


「そうか。じゃあ、これからが見ものだな。雲龍同士の会話が聴けるぞ」


 そう、野生の雲龍の捕獲の最終段階は、飛行船を牽いている既に飼いならされている雲龍の側に野生の雲龍を追い立て、飼い慣らしている雲龍に説得させるのが、最も穏便な捕獲方法なのだそうだ。


 そして仲間が居る事を見つけた野生の雲龍は、もう少し近づいて来た段階から俄然速度を出して、飛行船の側へとやって来た。そして4体が並んで居る真ん中の下に位置する。

 そうなるように、飛龍と巨鷲が追い立てた結果で、飛龍と巨鷲は少し離れた場所からしばし様子を伺う。


 そして雲龍達は、互いの距離が近づいた時点で呼び合い始める。けど、多くが人の耳には捉えられない高周波なので、一見鳴いているとは分からない。

 この鳴き声は、一部の獣人には聞こえるそうで、獣人のシズさんの耳が微妙に動いているのが分かる。

 『帝国』の船乗りの中にも一定数の様々な獣人がいて、同じように聞き耳をたてている。


 その後、側まで来る頃には、人の耳にも聞こえる周波数の鳴き声というより「声」になり、周囲は5体の雲龍の話し声で満たされてしまう。

 なお、飼いならされている雲龍は、魔法使いの一種である召喚師の魔法で契約を結んでいるので、余程の過酷な命令でもない限り契約者に逆らうことはない。


 だからこそ説得も出来るわけで、野生の雲龍を捕まえるのも召喚師の仕事だ。

 こうして側まで雲龍が来れば、その気になれば魔法で従わせる事ができるそうだ。

 けど、無理強いには高位の魔法が必要だし、雲龍の精神面にも良くないので、まずは仲間に説得させるというわけだ。


「思ったより穏やかでノンビリした狩りね」


「けど、この音? 声? は地味に五月蝿いなあ」


「これが醍醐味なんだがな。とはいえ、ショウには雲龍が何を話しているのかは分からないんだな」


「エッ? シズさん分かるんですか?」


「龍は高い知性があるから、人のように複雑な言語を持っているぞ。今も、4体が『帝国』の厄介になったら楽だぞ、と甘い言葉をかけているところだ」


「へーっ、流石シズ。私はそこまで分からないわ」


「ハルカさんも分かるんだ」


「多少はね。けど、龍語は竜騎兵や龍使い、それに魔法使いの領分で神官の領分じゃないから、ちゃんと勉強してないのよね」


 そう、この世界では、ゲームのように簡単に技術や知識を得たりは出来ない。何事も勉強と鍛錬あるのみだ。

 そんな事を頭の片隅で思いつつ見物していると、召喚師が近づいて魔法を行使する。


 魔法陣は2つ浮かび上がっていたので、第二列、セカンド・スペルの魔法だ。

 この世界の魔法は、魔法陣の数が多いほど高度になり、最大5つまで魔法陣を構築する場合がある。2つなら、専門家ならごく普通の魔法という事だ。



 そして一通り終わると、雲龍を追い込んできた竜騎兵と巨鷲が、飛行船の真ん中の広い甲板に順番に降りてくる。

 船への着陸に慣れていない蒼い飛龍が一番最初で、次に巨鷲そして『帝国』の2体の飛龍が危なげなく降り立つ。

 

「お疲れー。どうだった?」


「……」


 最初に蒼い飛龍が降りてきたが、ワンピース状の龍の鱗で出来た鎧を着込んだ乗り手には見事にスルーされた。地味に、蒼い飛龍がオレに同情してると感じるほどだ。

 けど、何か悪い事をしたんだろうかと考えるが、思い当たることはない。


 しかし謎はすぐに解けた。

 オレに続いてハルカさんとシズさんの労いの言葉には、語尾にハートマークが付きそうな程の返答だ。

 つまり、オレより先に二人に声をかけられたかったんだろう。

 付き合いの一番長い相手なので、回答に至るのは容易だった。そして察せなかった己が未熟を、極僅かに悔いた。

 我が妹ながら、扱いづらいったらない。


「どーしたのー?」


「なんでもない。それよりお疲れ」


 オレの言葉に軽く手を上げて答えながらも、白く大きな鷲の首元から身軽に降り立つのは、レナと名乗る主語がボクの闊達な少女だ。

 少しシャギーがかったショートヘアの中性的で小柄な少女なのだけど、どこかアニメやゲームを連想させるオタクっぽさがある服装をまとっている。

 しかしその姿は、彼女のアイデンティティーの一つらしい。


「大した事してないけどねー。まあ、領地にある飛行船用に捕まえる時の参考くらいにはなったと思うよー」


「え? 龍の事なら、エルブルスにお願いすればいいでしょ」


「確かそれだと、領地から遠くには行けないんでしょ、ユーリ」


「あ、そうか」


「ユーリも、ハルカさんが頼んで自由行動の許可もらったでしょ」


「だったね」


 ボクっ娘はオレの妹の悠里に親身になることが多い。他の二人もそうだけど、同じ目線や同格といった雰囲気が強いので悠里も素直だ。

 というか、オレ以外の仲間には凄く素直だ。

 一方のボクっ娘だけど、他にも何か言いたげだ。


「レナ、どうした?」


「うん。ちょっと気になる事があって」


「気になる事?」


 シズさん、ハルカさんが寄って来た事で、仲間全員がちょうど円状に集まったのを待つようにボクっ娘が全員をぐるっと見回す。


「雲龍を追い込んでいる時、近くで飛行船が飛んでいるのを見たんだ。雲の合間で、すぐに雲に遮られたし、チョツト距離もあったから『帝国』の竜騎兵に一言言っとくだけで追いかけなかったんだけどね」


「単に近くを航行していたんじゃないと?」


「うん。なんだか、隠れて飛んでいるみたいだったから」


 シズさんの言葉に、少し懸念を込めた声で返す。

 それに他の4人もつられて、少し考える表情などを浮かべる。


「『帝国』と戦争状態にある国はない。軍艦を襲う国はないだろう」


「そうよね。空賊が居るとしても、相手を選ぶでしょうし」


「空賊なんているんだ」


 何となく胸踊るキーワードだったので、思わず口に出てしまう。

 それにみんなも苦笑する。


「飛行船自体が高価で数も少ないので、逆にそれを襲う者も皆無じゃない、というところだな」


「なるほど。けど、だとしたら強敵っぽいですね」


「空賊だとしても、『帝国』の軍艦を襲ったりはしないわよ。返り討ちが関の山だもの」


「まさに大船に乗った積りで、ってところだな」


「そう思っていると、大抵足元掬われるんですよね」


 シズさんの言葉にいつものように返した、苦笑がさらに広がる。


「じゃあ、掬われないように、『帝国』の船員にもう少し注意を促して、クロとアイにも警戒を強めさせておきましょう」


「そんなところだな」


「それにしても、今回もノンビリ旅とはいかないのかなぁ」


 『夢』の向こうにある剣と魔法、冒険の世界と言う人もいるが、オレのこちらでの今までを思い返すと、愚痴の一つも言いたくなるというものだ。


 もっとも、この時はその後の大変さなど、思いもよらなかった。


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