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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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366「友の告白」

 そしてそれから数日後の週末。

 『夢』の向こうでは、のんびりと『帝国』の飛行船で大西洋を横断中の事だった。


「お兄ちゃん! 早くこっちのやつ運んで! 私達じゃ無理!!」


「ちょっと待てって。こっちも手が離せない。タクミ、いっせーのーせで行くぞ」


「了解。じゃあ、いっせーのーせ!」


 タクミと二人で、タンスを担いで再び移動を開始する。

 何をしているのかと言われると、引っ越しの手伝いだ。

 誰のかと問われれば、シズさんの引っ越しだ。


 そう、シズさんの引っ越しを、オレ、悠里、玲奈、それにタクミで手伝っている。

 そしてさらにもう一人、この家の先住者も手伝いに参加していた。


「やっぱり男子は凄いね」


 シズさんそっくりの、シズさんの妹の常磐 ともえさんだ。

 同じようなロングヘアーと相まって、本当に双子みたいだ。

 けれど、シズさんが落ち着いた感じの女性らしい服を好むのと違って、ボーイッシュと言うかアクティブな雰囲気がある。

 最初は引っ越しだからと思ったけど、学生服以外はパンツルックなどアクティブな服が多いらしい。


 髪型も、オタクっぽい作品にはありがちながら、普通に生活していると意外に見かけない頭の高い位置でまとめた長いポニーテール。

 当人は「サムライみたいでしょ」と笑っていたけど、アクティブな雰囲気と合わさってとても似合っていた。


 そして学生というだけに、オレ達より一つ上の高校2年生で、今は有名進学校に通いやすいという名目で一人暮らしをしていた。

 手伝いに来た時点で家の中は奇麗に片付いていたので、生活スキルも相当高そうだ。


 そしてこの家は、シズさんが今までの稼ぎの一部で援助している事もあって、シズさんもたまに使っていると言う。

 物件自体は、かなりゆったりした2LDKの間取りだ。


 そして既に、一人ではなく二人でそれなりに生活出来るように家電製品も揃えてあるし、一部家具等も既に置いてあったので、引っ越しの荷物自体はそれほど多くはない。

 だから引っ越し業者は、一部の家具の運搬だけの最小限にして、こうしてオレ達が有志として動員されたというわけだ。


 それにしても妹の巴さんは、高校生で一人暮らしとか、まるで小説の主人公みたいだ。しかしそれにも、相応の設定、じゃなくて理由があった。

 その答えは、オレが荷物運びの邪魔でどけようとした雑誌の山にあった。


 偶然、一番上にシズさんが掲載されている雑誌を含めた雑誌の束が置かれていたのだけど、その雑誌を含めて数冊を崩してしまい、そしてその雑誌の一部ページがパラパラと開かれる。

 そして飛び込んできた写真を見て、「アッ」と思わず声が出てしまった。


「どうしたショウ?」


「これ見てみろ、シズさんじゃない。巴さんだ」


「おっ、せーかーい。良く分かったね。凄い」


 近くで棚を整理していた巴さんが、悪戯が成功した子供のようにオレに笑いかけてくる。

 「ニッ」と歯並びのきれいな歯を見せて笑うように、シズさんと顔だちはほとんど同じだけど、笑い方とか色々と少しずつ違っている。こういうところは、玲奈とボクっ娘の違いに少し似ていた。


 そして荷物を置いて、改めて雑誌をパラパラと開いてみると、何点か載っていたシズさんだと思っていた写真のうち半分くらいは巴さんだった。

 道理で掲載数が多い訳だ。


「自分でもちょっと驚いてますけど、多分シズさんと一緒に行動しているからだと思います」


「へーっ。まあそれはともかく、私もモデルの仕事してるんだ。本当は、しばらくは静の隠れ蓑も兼ねる予定だったんだけどね」


「それでシズさんが、氏子にバレないって考えてたんだ」


「うん。それもあるね。まあ、私らを子供の頃から知ってる氏子の爺婆には通じなかったけどね」


「ボクは全然気づかなかったよ」


 タクミが雑誌よりオレを見ている。そして不思議と小さく苦笑していた。


「タクミはシズさんとは、まだあんまり会ってないもんな」


「何の話だ?」


「私の謎を一発で見破られたんだ。凄いよね」


「ほお」


 別の荷物を持ってシズさんがその場に現れたが、改めて見ると双子のようにソックリだけど、雰囲気以外も少しずつ違っている。

 その違いを確認するべく、思わずジロジロと二人を見比べてしまった。


 そして見比べているのはタクミも同じで、男二人で失礼な状態となってしまった。

 おかげでシズさんと一緒に来た玲奈に、服の裾をクイクイと引っ張られてしまう。


「あ、ごめんなさい。つい」


「いいよ。だがよく判かったな。判からない者の方がずっと多いのに」


 シズさんは、オレにかなり感心している。


「一緒に行動しているからだってさ。靜はそんなにショウ君と仲良いんだ」


 男女仲を探るような言葉だけど、カラっとしていて全然そんな声色じゃない。


「そうでもないよ。ああ見えて、ショウは向こうでも彼女持ちだからな」


「へーっ、それは楽しみ。あ、玲奈ゴメンね。くらいで、いいんだよね?」


 そう言って巴さんが、玲奈に片手で拝む形を作る。


「あ、はい、大丈夫です」


「ホント凄い。公認なんだよね」


 レナの顔を覗き込みつつ素直に感心している。

 落ち着いたシズさんと違って、表情の変化が大きい。


「お、お互いに」


「そうなんだー。後で話きかせてね」


「ち、ちょっとだけなら」


 玲奈が恥ずかしそうにしているが、全部受け入れているし、拒んだりもしていない。

 それに二人の間の関係が良好なのも伺える。


 それよりも、なんだか色々と推測させる言葉を巴さんが口にした。

 口ぶりからすると、単に『夢』の事をシズさんから聞いているのではないみたいだ。


「そんなに考えなくてもいいよ。私も向こうの住人。あーあ、着いてから驚かそうと思ってたのに」


 そう言ってリアクション大きめに天を仰ぐ。

 それよりも、だ。


「着いてからってことは、巴さんは今『帝国』に居るってことですか?」


「それでほぼ正解。あとはお楽しみね」


 仰いだ顔をそのままオレに向けて来て、ウインクが飛んでくる。

 表情だけじゃなくてリアクションの幅も広い人だ。


「はい。楽しみにしてます。けど、そんな事があるんですね」


「ショウに言われたくはないがな。あ、そうだ巴、ショウ君だけじゃなくて悠里ちゃんもご同輩だ」


「じゃあ、この場は『ダブル』ばっかりだね。凄い」


「嘘だ〜っ!」


 タクミが思わず嘆き、さらに膝をついて崩れ落ちる。気持ちは良く分かる。

 思わず肩をポンポンと叩いてしまうほどに。


「あ、そうか、タクミ君はドロップアウトしたばかりなんだっけ?」


「シズさんから聞いてたんですか?」


 シズさんが話しているのは少し意外だった。

 それに、巴さんが『ダブル』なのだとしたら、そのうち色々と聞いてみたい事が思い浮かんでしまう。

 けど、そうした表情を読まれたようだ。


「うん。静を守ってくれて本当にありがとう。それと、私が向こうの話をしても平気だって言う程度に聞いてる。……じゃあ、この話はこれで終わり。あとはお互い、向こうでのお楽しみって事で」


「ハァ。こんな事があるなら、あの時ノーって言うんじゃなかったかも。……あ、ボクの事は気にしないで下さい。ただの愚痴なんで」


「気になるけど、まあ心のケアとサポートは靜の担当なんだよね」


 巴さんの悪戯っぽい言葉に、シズさんが軽く肩をすくめる。

 そしてこのタイミングを前に、シズさんに聞くべきと思い至る。

 それに何かを聞くなら、こっちでの事を聞くべきだ。


「あの、」


「なぜこの時期に引越しを、か?」


「はい」


 すっかり予測されていたらしい。


「ホントはもう少し早くと思っていたが、8月はショウと悠里ちゃんの勉強もあっただろ」


「けど、向こうでは、タクミの言葉の影響で決断したとか言ってましたよね」


「ボク何か言いましたっけ?」


 タクミは精神的にまだ立ち直れていなかったけど、予想外の言葉に反応していた。


「色々と、な。タクミ君の言葉で、私もモデル業に力を入れる為、邪魔をされないように家を離れる心の踏ん切りがついたんだ」


「だからって、私のところにしけこまなくてもいいよね」


「私もここの払いを一部出しているんだからいいだろ。それに一番手っ取り早い」


 澄まし顔でそう言い切る。

 相変わらず合理的だ。文句をつけた巴さんも「靜らしい」と陽気に笑っている。

 ただもう一つ、シズさんには言っておくべきことがある。

 まあ、あくまで冗談としてだけど。


「理由は分かりました。けど、いいんですか? 男二人に手伝わせるとか。シズさんって、こういうところ結構大胆ですよね」


「ショウも言うようになったな。だが、力仕事は男手に限るだろ。とは言え、私達は気の許せる男友達はいなくてね。それに二人は、これで私の家を早々に知る事ができた訳だ」


 そう言ってニヤリと笑う。

 経験値の差が大きすぎて、まだまだシズさんに口では上回れそうになさそうだ。

 タクミもオレも思わず苦笑いだ。


「それじゃあ、家庭教師はこっちに来ればいいんですか?」


 オレ達の内心に構わず、悠里が思った疑問を口にする。

 しかしその件はオレも気になっている事だ。


「普通家庭教師は、先生が訪問するものだろ。私が玲奈の家に行くから、ショウと悠里ちゃんは悪いが玲奈の家に通ってくれ」


「ハイっ」


「う、うち、部屋は余ってるから」


 顔を赤くして答える玲奈だけど、否定的な感じはない。

 それに玲奈の家なら、間違いなく空き部屋がありそうだ。


「頼むなレナ」


「う、うん」


「じゃあ私も、勉強教えてもらおーかなー」


 言葉とともに巴さんが、シズさんと玲奈の後ろから両腕を回して軽く抱きつく。本当に仲がよさそうだ。

 それに巴さんを見るシズさんが半目状態なのは、なかなかに珍しいショットだ。


「私が教えるような事はないだろ」


「えーっ、仲間外れはいやだなーって、タクミ君は?」


「ボクは塾に通ってます」


「そんなんだと、静をショウ君に取られるよ」


 二人にもたれかかりながら、巴さんがからかい口調で言葉をかける。

 初対面なのに、オレはどう思われているのだろうかと問いただしたくなる。

 しかしタクミは、意外にすっきりした表情だ。


「構いませんよ。ボクはシズさんに少し憧れていただけだって分かったから。それにボクは、ショウの友達である以上にファンなんですよ。だから外道な事をしない限り、何でも応援します」


「えーっ。ファンとかキモい」


 思わず心からの言葉が漏れてしまった。


「えっ? ボクの告白にその返事とかないだろ」


 冗談だろうが悲痛な表情と声で抗議してくる。

 けどその手に乗ってはいけない。


「いやいや、男からの告白なんかいらないって。オレ、ゲイでもバイでもないし」


「じゃあハーレムはいいのかよ」


「向こうでは普通にありだだぞ」


 二人の掛け合いに、シズさんがしれっと爆弾を投下する。

 そしてその言葉を聞いたオレの顔を見て、巴さんが「ハーレムマジあるんだ。凄い」とケタケタと楽しそうに笑ってる。

 巴さんの方が陽性だけど、姉妹だけに根底が似てる気がする。


 それよりオレとしては、玲奈の反応が気になるところだけど、玲奈は仕方ないなあ的な表情を浮かべている。常磐姉妹に対してかオレに対してかは、少し気になるところだ。

 悠里は微妙な表情を浮かべているけど、まあいいだろう。


「ハーレムとかマジないですよ。そりゃあ、女の子に囲まれて嬉しくない男はいないですけど。それだけです」


「そうなのか? 私は馬脚を現してタクミ君に呆れられたところだから、慰めてもらおうと思っていたのに。残念だな」


「え、いや、ボクは今でもシズさんは素敵だと思ってます。でもまあ、ショウには勝てないってのも分かりました。だから、これからは観客に戻りたいって感じですね」


「タクミ、いい感じに話をまとめた顔してるけど、フォローになってないし、向こうの話する事含めてオレの負担減ってないだろ」


「仕方ないだろ。それがショウのポジションなんだから」


 いい感じにオチを付けられたが、オレが『夢』を見始めて一番客観的に見てきていたのは、なんだかんだ言ってタクミだ。

 タクミがそう言うのなら、そうなのかもしれない。

 だからオレとしては、わざと溜息をついてこう返すしかなかった。


「タクミには敵わないよ」




第四話 了


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