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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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365「事件の真相?」

「これが先のノール戦役の遠因でもあるわけだ」


 ランバルト王国の都バルドルの王宮の崩壊した地下での、シズさんの言葉が色々な事件の答えを語っていた。


 死霊術師のネロが、亡者の力を自身に注ぎ込んでいたカラクリの設計図面とでも呼ぶべき魔法陣と実現化する魔導器が、崩れ去った玉座の間の地下に存在していた。

 これがここにあるから、死霊術師は動かなかった、もしくは動けなかったのだ。


 そしてそれは一つの装置を形成していて、元々は様々な魔力を集めるものを、死霊術師が亡者を経由して自分自身に効率よく魔力を集める装置に改造したものだった。

 装置自体は、どこかハーケンの地下遺跡の装置と似ている。


 そしてその装置が周辺から魔力を集めたのだけど、ノール王国で拡散した『魔女の亡霊』の切れ端や断片とでも呼ぶべき魔力を集めたのだろうというのが、装置と『魔女の亡霊』の紛い物に対する推論だった。


 ただし、あくまで残りかすを集めたに過ぎないので、色んな点で中途半端な能力や知識しか持たなかったのだろうというのが、推論上での結論だった。


 そして図らずも死霊術師は、自ら集めた『魔女の亡霊』の紛い物に精神を乗っ取られるか、もしくは強い干渉を受けるようになって、紛い物が求める行動を取ったのだろうというのは、その前にオレ達に披露した推論と同じだ。


 さっきの戦闘上での動きについては、最初は自らの残り滓の魔力も染み付いている死霊術師を完全に乗っ取ろうとしたが叶わず。かといって、今更離れる事もできず。

 そういった状態の時にオレ達が攻撃した上に、偶然にシズさん本体が現れたので、本能的に次の依り代にしようとしたのだろう、という事になる。


 そして後で聞いたシズさんの言葉だけど、その装置は生前の魔女フレイア、つまり以前のシズさんがノール王国で行っていたクロを使って行おうとしていた、急速に魔力を集める実験とも似ていたそうだ。


 それはともかく、まずは全員への説明だ。


「つまり、ランバルト王国は、半年程前に滅びたノール王国が発見した昔の魔導器の技術を以前から知っていたからこそ、ノール王国がそれを再現しようとしている事実に恐怖したし、何を持っているのかを多少なりとも知っていたという事になるな。事実は異なっていた訳だがな」


「狐さん詳しいですね」


「無為に『魔女の亡霊』に捕まっていたわけじゃないよ」


 オレ達も半ばモブ状態の多くの『ダブル』も聞いているその場で、シズさんが一連の種明かしを目の前の証拠を踏まえて推論している。

 そしてさらにもう少し話は続く。そうしている時のシズさんは、家庭教師をしている時と少し似ていた。

 伊達眼鏡にスーツが似合いそうだ。


「死霊術師は、いつからこの国に入り込んでいたと思いますか?」


「ネロの言葉を信じるなら、『魔女』が亡者となった後だ。これは、ランバルトの王宮務めの生き残りの証言とも一致する。

 生き残りの断片的な情報を加えた上で推測すると、ネロはランバルトの動きに何かあると踏んで、ノール王国が実現しようとした力を再現してやろうとでも言ってそれらしい魔法でも見せ、話を持ちかけたようだ。

 この装置は、元々この国が秘密裏に保有していたものらしいが、最近色々弄った形跡があるしな」


「それだけだと、死霊術師の行動が解せないんですが?」


「装置で魔力を集めた時に、滅ぼされて拡散した筈の『魔女の亡霊』を構成していた魔力を断片的に集めたと推測できる。

 そしてその断片が、一定の思考力と力を得て限定的に死霊術師を乗っ取り、一連の破滅的な悪事を行ったと言ったところだろう」


「で、結果がアンデッド・ハザードで王族ごと国が実質滅亡とか。シャレにもならねえな」


「この国はどうなるんでしょうね」


 ジョージさんとサキさんのごもっともな言葉と疑問だったが、本気で聞いている者はいない。それが「ダブル』だからだ。


「さあな、獣人の私には関係のない話だ。それに今の私は、ルカ様の従者に過ぎない。それに今の話も、ただの推論だ。どこかで話したところで、どこまで信じるか知れたもんじゃないだろう」


「狐さんは、ここのアイテムとシステムが理解出来るのに、どこかに売り込んだりしないんですか?」


 誰かが言ったその言葉に、シズさんが軽く肩を竦める。

 ついでに耳を動かすのは、獣人と接する機会の少ない『ダブル』へのサービスだろう。


「今言ったように、多くが推論だよ。それに、正確に知りもしない力を弄んだ結果がこれだ。過ぎたる力は碌な結果にならないのだから、誰かに勧める気にはなれないな」


「研究したりしないんですか?」


「少し興味があるが、この手の技術は私の趣味じゃない。君たちのご同郷の魔法使い達に教えてあげてもいいんじゃないか?」


「それだと狐さん達の手柄を取る事になりませんか?」


「今の私達は神々の僕だ。亡者が鎮定されたなら、それで十分だよ。それにこの町を救ったのは皆の手柄だ。アクセル卿に話を通せば、文句を言う者もいまい」


 シズさんの言葉に、近くにいたハルカさんも頷いている。その側にオレ達も居る訳だけど、別に異論はない。

 例のキューブな魔導器が転がってなくても、関連する知識や情報が存在する場所があると分かっただけでも、棚からぼたもち的な十分以上の余録を得ている。


 悪魔に成長するまで強くなった魔物達とネロと名乗った死霊術師が具体的にどこまで協力していたのか、今回の事件に魔物達が関わっていたのかなどまでは分からなかったが、それでも死霊術師がある程度ペラペラと喋ってくれたおかげで収穫ゼロと言う訳でもない。


 この辺りの事は、オレ達に関わる事を抜いた報告書を、ハルカさんが神殿に提出する予定だ。

 似たようなものは、シズさんが書いてノヴァにも送られるので、どちらかもしくは両方が対策を取る事だろう。


 タクミがこっちに来てすぐにドロップアウトしたのは凄く残念だけど、それでも魔女の成れの果ての行動を阻止して、シズさんを守っての事だから納得もいく。

 また、オレ達は余計な事に首を突っ込んだに等しいが、『帝国』も関わった事件でもあったので、これから『帝国』に向かう事を思えば寄り道でもないしプラスも小さくないだろう。


 そう言えば『帝国』兵の亡者は、ゴードさんら『帝国』の竜騎兵と騎士達が倒したそうだ。

 そしてその『帝国』兵の亡者は、死霊術師の魔法が集めた魔力に当てられて亡者化したうちの一部に過ぎないと言うのが、推論上での答えだった。

 その証拠として、通常より強い上に正常な亡者でもなかったそうだ。

 『帝国』も関わった件の後日談になるので、因果応報の一例と言うところだろう。


 そして一連の戦闘で、ランバルト王国寄りの旧ノール王国南部とランバルトの魔物、亡者も多くが鎮定できたので、後はアースガルズ王国の本隊が来て落ち穂拾いをしたら、諸々は完全終了だと見られている。


 そしてオレ達は、この国を実質的に併合しそうなアースガルズ王国に、さらにもう一つ恩を売った事にもなるだろう。

 ただ、必要以上にアクセルさんの負担になってもいけないので、ハルカさんはアクセルさんを最大限立てる報告や文書を出す事にしている。

 神殿と神殿騎士団も、ハルカさん以外が何も出来ず不甲斐ない結果に終わったので、他に対してハルカさんを立てた上に、ハルカさんの言葉を鵜呑みするしかない。




 当座の後始末と種明かしなどが終わってしまえば、オレ達がここに留まる理由はもう無い。

 しかも『帝国』の飛行船が、ハーケンに戻って整備点検を済ませたら本国に帰るという。

 そして便乗して聖地巡礼の為に『帝国』に行くのが本来の目的なので、乗らない訳にはいかない。


「それじゃあまた」


「うん、また会おうショウ。ユーリさんもね」


「ハイっ!」


「うん。今度はボクの領地に遊びに来て欲しい。歓迎するよ」


「必ず行きますっ!」


 悠里はアクセルさんとはあまり交流出来なかったが、取りあえず満足そうで良かった。もっとも、芸能人と会った程度だと思えば、こんなものかもしれない。

 それに、また来る事予定なのだから、別れも辛いものではない。


「後追いになるけど、アクセル推しの報告書や書面はハーケンか『帝国』から神殿とアースガルズに送りつけておくわ」


「騎士としては必要ないと言いたいところだけど、正直助かるよ。こんな大事になるとは考えもしなかった」


 アクセルさんはいつもの笑顔だけど、それも少しお疲れ気味な感じだ。

 宮仕えは色々大変なようだ。


「戦争でもないのに、国一つが実質滅びたんだもねー」


「私としては、こんな事で仇敵が滅びては、心に区切りを付けざるを得ないよ」


 そう言ってシズさんが力なく笑って肩まで竦める。

 そんなシズさんに、アクセルさんが手を差し出す。そしてシズさんとしっかりとした握手を交わした。


「無理につけるものでもないと、ボクは思うけどね。では、お元気で」


「ああ、ありがとう。アクセルとその一族に、神々のご加護が有らん事を」


「皆さんに、神々のご加護が有らん事を」


 シズさんが最後に言葉を送ると、それが別れの合図になった。

 アクセルさんもそれに答えるのみだ。

 見れば飛行船の船員が、搭乗口で早く乗って欲しそうにしている。

 それに甲板で『ダブル』達が鈴なりで様子を見ているので、別れもこのくらいで切り上げざるを得ないようだった。


 だからその後すぐに出立し、飛行船に四半日ほど乗ってハーケンに戻った。

 そして明後日にはオレ達が同じ飛行船で『帝国』に向かうという事で、その日のうちにドロップアウトしたタクミと他数名の残念会を兼ねた『大規模イベント完了』の宴会を冒険者ギルドのホールで行った。


 その席でタクミは、オレ達の説明でラスボスの最後の悪あがきを阻止したという事で、今回の事件のMVP、つまりちょっとした英雄として讃えられる事となった。

 もうこっちに来る事は出来ないが、これで名前はハーケンの冒険者ギルドに残ったので、タクミが『アナザー・スカイ』に確かに居た証にはなるだろう。

 

 ・・・


 次に目を覚ますと、みんなと雑魚寝している冒険者ギルドの仮眠室ではなく、いつものオレの部屋だ。

 そして意識がはっきりしてくるまでに、枕元のスマホを手に取る。


 案の定、タクミからのメッセージがあった。

 先にドロップアウトしているからではないが、思った通り先に起きていた。

 もっとも、メッセージ自体は短かった。


《臨死体験が一番貴重だった気がする》


 (他に色々あっただろ)と思いつつも、《何言ってる。タクミが今回の戦いのMVPで、名前はハーケンのギルドに残されたぞ》とだけ書く。

 すると、すぐにも返事があった。


《うわっ、恥ずかしい。まあ二人きりの時にマジ話聞かせてくれ》


《二人きりとかゲイっぽい言葉使うなよ。了解》


 その後一往復やり取りしたが、結局それで話は一旦おしまいだった。


 その週の文芸部での講演会でも、タクミの事は伏せたまま終わった。

 あの場にタクミを知る者も他に居なかったので、タクミの物語はオレ達以外は知らないまま終わりを告げたけど、その名だけが残されたことになる。

 これはこれで、短いとは言え物語の終わりとしては悪く無い気もする。


 ただ、オレにとってその後の小さな問題は、タクミが再びオレに話を聞かせろとがっつく様になった事だろう。


 まあ、元に戻っただけと言えば、それだけの事だ。

 そしてそれこそが、タクミの物語が終わった事をオレに実感させた。


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