表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

244/402

362「『魔女』との戦い(2)」

 そして自らに注意を向けるべく、シズさんの声が『魔女』の成れの果てに向けられる。


「私はここにいるぞ。紛い物が何をしている!」


 その言葉に『魔女』の成れの果てが如実に反応し、前に出つつあるオレ達を無視した視線が、さらにその先に「キッ!」と注がれる。

 そして次の瞬間、夜叉のようだった表情がほぼ普通に戻る。

 そうして見えた表情は、確かにこの世界のシズさんだ。いや、魔女フレイアだった頃のシズさんの姿だ。随分久しぶりに見た気がする。


 けれども、正気に戻ってシズさんに吸収されるとか、消滅はしてくれそうにはない。むしろ逆の雰囲気をバンバン発散している。

 吹き出るような魔力も澱んだままだ。


「紛い物? 異な事を言う。私があの愚物ぐぶつを使って、復讐に必要なものを集めたのだ。そうしてやって来た貴様こそ、その紛い物の体を私に寄こすがいい」


 言われてみれば今のシズさんは獣人なので、確かに昔のシズさんの記憶から見れば、今のシズさんの方が紛い物ということになるだろう。

 そして『魔女』の成れの果ての話は終わりではなかった。


「貴様の事は、あの愚物を通して、樹海の時から我が新たな肉体に丁度良いと目を付けていた。愚かな魔物と愚物の会話も聞き及んでいる。だからこそ、あの愚物に急がせてランバルトへの襲撃、いや復讐を急がせたのだ」


「貴様が裏で糸を引いていたとでも言うのか?」


「そんな三文小説のような事を言わないでくれ。

 だが、愚物や魔物を利用したのは事実。そして愚物は、自身の為だと思い込んでよく働いた。

 貴様らは、不要となった愚物を私が押えつけている間に処理し、さらには私の為にその体をここまで持ってきたというわけだ。

 よくできた話だろう。こんなに順調に事が進むとは思わなかったぞ」


 そう言って笑っている。

 そしてシズさんとの短くも濃い付き合いから、それがシズさん特有のハッタリと演技に似ていると感じた。


(デッドコピーが、シズさんっぽい真似をしてるけど、殆どは結果論を勝手に繋ぎ合わせて法螺を吹いてるだけだろ)


 そう思うと思わず「プッ」と吹いてしまったら、『魔女』の成れの果てに睨まれてしまった。めっちゃ怖い。

 物理攻撃されるより怖いところは、シズさんの紛い物だけの事はある。

 もっとも、オレの事は一瞬睨んだだけだった。


「まあ、経過などどうでもいい。さあ、その体を寄越せ。そうすれば、他の者は楽に死なせてやろう」


 言うが早いか、炎の魔法が飛んで来る。けど多くは対策済みだ。

 対抗魔法、防御魔法、さらにはシズさんが同じ魔法を相手のタイミングに合わせて叩き付けることでの相殺。

 そしてオレ達がその防御の中を突撃すると、ボクっ娘の弓とハルカさんの光槍の束が飛ぶ。


 これには『魔女』の成れの果てもたまらず、「オノレ!」という個性のない罵声の後、シズさんの「振り」を止めて暴走状態に戻った。

 所詮残留思念の寄せ集めなので、シズさんの振りをするにも色々と足りてないのがよく分かる。

 そして魔法ではなくて、溢れ出る澱んだ魔力の奔流による攻撃に切り替わった。


(やっぱ紛い物だな。馬脚を現したと言ったところか)


 後ろのシズさんも「どっちが紛い物だ」と憤った声で呟いている。

 そして判った事は、『魔女』の成れの果てがやはりシズさんしか見ていないと言う事だ。


 けどそれでも、溢れ出る澱んだ魔力の奔流が強く、簡単には近寄れない。

 強さはキューブな魔道器が暴走したのとほぼ同じくらい。よほど魔力を集めたと見える。


「魔力の暴走ってヤツはワンパターンだな!」


 もう見慣れてきた魔力が束になった鞭のような攻撃が主にシズさんを目指すも、近寄る者に叩き付けられる。

 後ろでは、ハルカさんとシズさん自身が、二人合わせたマジックミサイルで迎撃を試みている。

 そしてこれはうまくいっているらしく、魔力の塊同士がぶつかり合う派手な音が響いてきている。

 それに、ハルカさんが構築した防御魔法は完全に機能していて、後衛に紛い物の攻撃は届いていない。


 シズさんと紛い物の間に立ちふさがる形のオレ達に向かってくるものも多いけど、そのうち幾つかはボクっ娘の魔力の籠った矢が、相殺の形で射落としてくれる。

 クロは相変わらず、自爆攻撃のように我が身に受けて、そのまま何本もの魔力の鞭を自らに取り込んでいく。

 そしてこれで血路が開かれた。


 アクセルさんは流石に見事としか言えない動きで、立派な魔導器の盾も使ってギリギリのところを避けつつ、『魔女』の亡霊に最初の一太刀を浴びせる。

 そして、死霊術師同様に亡者に効果の高い魔法の剣は、『魔女』の亡霊相手にも有効のようだった。

 個性の無い『魔女』の亡霊の意味のない罵声が、効いている事を教えてくれる。


 そして意外なのが悠里だった。

 悠里はリアルで陸上しているだけあってか、脚力自体はこっちでも一番だった。

 それでも最初に一太刀浴びせられなかったのは、攻撃を遅らせたのではなくて、敵の攻撃を避けながらの接近に手間取ったからだ。

 とはいえ、アクセルさんの技量の高さと比べるのは公平じゃないだろう。


 それでもボクっ娘の軽業とは違う、魔力による高い身体能力に任せた動きで、まるで忍者みたいな走りをして一気に近寄り、すれ違い様に痛そうな剣で『魔女』の亡霊の体をザックリと切裂く。

 かなりの重装備なのに動きが軽やかというのは、かなりのギャップを感じるところだ。


 で、最後に『魔女』の亡霊に到達したのはオレとなった。

 言い訳としては、真っ正面から突進したからだ。

 そして走るのには専念せずに、剣で襲って来る魔力の束を魔力相殺で次々に斬りながら進んだせいだった。


 これで後ろのシズさんを守るハルカさん達の負担も多少は減る筈だし、こっちに多少は引きつけようと言う思惑もあった。

 そしてその思惑は多少は成功したらしく、本来ならシズさんに向かう攻撃の何割かがオレに向かってきた。


 紛い物が、ちゃんとオレを邪魔だと認識してくれたのだ。

 激しい攻撃なので、その攻撃は全て裁ききれないが、当たっても急所への攻撃じゃなければ十分耐えられる攻撃だったので、致命的な攻撃以外は切り払わず一撃を叩き付ける事を目的としてつき進んだ。


「ドンっ!」


 接近しつつのオレの渾身の一撃は、前座の死霊術師の時と同じだけど、より魔力を込めた一撃を叩きつけた。

 目の前の『魔女』の成れの果てに、以前の『魔女』の戦いの記憶は無いようだけど、出来るだけ一撃で滅ぼす必要があると感じたからだ。

 しかも既に2人の大きな斬撃で動きが鈍っていたので、オレの大ぶりの一撃も敵を捉える事が十分できた。


 そして狙い違わず、魔力相殺を思いっきり載せた一撃は、『魔女』の成れの果ての体を十分以上に切裂いて、魔力を不活性化させていった。

 これが人間だったら、まっ二つになっている筈だ。


 同じ様に思ったのだろう、前衛を固める2人と1体も続けざまにより強く激しく攻撃を行う。

 さらにそこに、「避けろ!」という鋭い声と共にシズさんの炎の槍の魔法が2本突き刺さる。

 それを最後に、断末魔の叫びと共に『魔女』の成れの果ては形を失って霧散していった。

 思ったより呆気ない最後だ。これも核とかがないせいだろうか。


 けど、思いの外呆気ないのには理由があった。

 この辺りは、流石シズさんを模倣しているだけのことある。

 思わず感心しそうになったほどだ。


 『魔女』の成れの果ては、崩壊するときに大きな衝撃波を発生させ、紛い物を構成していた澱んだ魔力の塊が、形を維持出来なくなり霧散ていく中で、ニヤリとコチラを見て笑った。

 『魔女』の成れの果ては、自らの体を囮に使ったのだ。

 袋叩きで攻撃されるのも計算の内だったのかもしれない。


 そこで咄嗟に、さらに強い一撃を魔力の炎で燃え盛る紛い物に叩き付けたけど、既に遅かった。

 最後に何か太い塊がオレの脇を抜けていった。

 それでもそれも見当違いの場所に放たれただけだったので一瞬安堵したのだけど、それは間違いだった。

 オレ後ろで聞こえた悲鳴が、非常事態が起きた事を教えてくれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ