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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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360「『魔女』の成れの果て」

 燃え盛る王宮への突入は、雷龍のライムの雷撃咆哮ライトニングブレスで始まった。

 けれど、ライムも悠里と一緒に王宮内に突撃するわけではない。


 峠は過ぎていたけど、王宮の人為的な大火災はまだ続いている。

 燃え盛っていて上昇気流などはまだかなり激しく、上空で飛ぶ事や空中戦が難しいので空からの突入は無理だ。

 それに、王宮内部は広いとはいえないので、ライムやヴァイスが十分戦える環境ではない。


 だからボクっ娘も、巨鷲のヴァイスを火災の影響の少ないほどの上空で飛ばしているだけだ。

 もっともヴァイスは、何かあれば緊急突入してすぐにも救援できる場所に位置している。

 それは中に入るボクっ娘と魔法でつながれているので、中の様子を知る事も出来るからだ。とは言えそれでも、緊急事態に備えてに過ぎない。


 そしてギリギリの距離からのライムの一撃で、ついに跳ね橋も兼ねていた王宮の門扉、城門が完全に粉砕された。

 合わせてその辺りで倒れていた亡者の残骸も、ほとんどが吹き飛ばされる。

 そしてその向こうには、可燃物が減って火勢が衰えたとは言え、まだ燃えている王宮の景色が広がっていた。



「私はまず魔法を撃つから、後ろに回るわね」


 ハルカさんの言葉を受けて、手早く当面の陣形を決める事にする。


「ああ、前はオレが。クロ」


「はっ、お供いたします」


「アイも私を守るだけでなく臨機応変にな」


「ハイ。お任せを」


 二体のキューブゴーレムが、恭しく一礼する。

 何時もの事だけど、こうも恭しく接されると自分が偉くなったと勘違いしそうになる。


「ボクは適当な射点から援護に回るけど、大技とかの期待はしないでね」


「ボクも前でいいかな?」


「見届け人なんでしょ。後ろにいなさい」


 アクセルさんにハルカさんがぴしゃりと言う。けど譲る気はないようだ。


「いや、せめて前に出させてもらうよ。よく見ておきたい」


「じゃあ、真ん中はオレがもらうんで、右をお願いします」


「心得た」


 オレの言葉に、アクセルさんが自分の胸を軽く叩く。

 芝居がかった仕草も嫌味無くできてしまうのが、イケメンの得なところだ。


「お待たせしました。えっと、私も前じゃなくていい?」


「敵の様子を見てからだ」


 悠里がライムから降りて合流したので、一通り言葉の掛け合いが終わると、いよいよ突入だ。


「そうね。まずは魔法をありったけ叩きつけて、ショウの魔力相殺でどういう反応を見せるか、ってところね」


「それと耐火魔法は、保って10分程度だ」


「それじゃあ、飛び越えるわよ!」


 シズさんがアイにお姫様抱っこされる他は、長さが10メートル近くある跳ね橋が崩れて途切れた状態の橋を軽々と飛び越えていく。

 高い魔力持ちの身体能力がなければ出来ない芸当だ。それにこの程度なら、飛行組が持っている浮遊石の結晶を使うまでもない。


 そして城門を抜けるまでは、後ろから『ダブル』の魔法職とアースガルズの弓兵が、敵の攻撃に備えて援護してくれる。

 とはいえ、そこからでは王宮の奥への攻撃は難しいし、何より敵の姿が外からは見えていない。

 分かるのは、王宮の中心辺りに何となく大きな魔力の反応があるという事だけだ。




「流石『煉獄』。まだよく燃えてるねー」


「それより、ネロは待ち構えてないみたいだな」


 ボクっ娘が軽口を叩きつつも、真剣な眼差しで敵を探す。

 シズさんはまだアイに抱っこされながら、探知魔法を幾つも放っている。

 そして少なくとも、燃える亡者以外の姿はない。


 ライムのブレスで僅かに残っていた亡者もほぼ一掃され、実体のない幽霊を中心にした残りの一部も、あっという間に倒した。

 向かう先の魔力が濃いので詳細は判からないが、残すは死霊術師だけの筈だ。

 状況確認のため、オレはクロに視線を向ける。


「クロ、判かるか?」


「反応は二つ。どちらもあちらです。距離は約25メートル。しかし片方は地下になります」


「私の探知魔法も似たような反応だ」


 そしてクロと魔法で確認したシズさんが示したのは、今いる王宮内の中庭の先にある王宮の唯一石造りの建物の中。

 他は燃え盛っているけど、そこだけは燃えつつも健在だ。

 とはいえ、天井は木造なので、すでに壁を残して崩れ落ちている。

 『煉獄』は密閉度が高いほど効果が高いので、よく燃えたのだろう。


「あいつ以外にもいるのか。片方は玉座の間かな?」


「あの建物の中の構造は単純だ。正門から入ると、ロビーと短いが広い廊下、その先が広間になる。何しろあの大きさだ」


「そうだね。玉座の間も広いとは言えないな」


 オレの言葉に、シズさんが答えアクセルさんが首肯する。

 共に来た事がある口ぶりだし、実際そうなのだろう。


「確かに中は広くなさそうですね」


「ああ狭いぞ。この数だと、十分な接近戦ができないかもしれない」


「じゃあ、私とシズ、レナはロビーに布陣かしら?」


「外でもいいくらいだ。もう、扉も何もかも焼け落ちているしな」


「問題は地下の方か。何か知ってますか?」


 相手は既に亡者となっているし、ラスボスの死霊術師はそっちだろう。

 シズさんとアクセルさんが、共に首を傾げる。


「普通なら地下倉庫、地下牢の類いは、あっても別棟だ」


「地下に部屋は普通設けないからね」


「ウルズの王宮みたいに地下遺跡があるんでしょうか?」


 オレの言葉にシズさんが少し考え込む。


「かもしれない。この辺りも、ウルズの遺跡と同時期に同じ国が統治していたからな」


「何でもいいよ。とにかく玉座の間の反応を確認。敵なら倒す。それで全部でしょ」


 ボクっ娘が少し焦れていた。下手な考え何とやらと思ったのだろうか。

 それとも、いつも厄介ごとが発生するので、ウンザリしているのかもしれない。

 シズさんも同じ様に思ったようだ。


「どうかしたかレナ?」


「どうもしてないよ。余計な事は考えない方がいいでしょ」


「その通りだな。ありがとうレナ」


「ううん。それより、さっさと片付けようよ。熱くないけど熱いのは慣れないし」


「オレも同感。外道野郎はさっさと倒してしまおう」



 と、仕切り直しで意気込んでみたものの、既に奥まで見えるので建物の外から中の様子をうかがう。

 それなりの広さの部屋の中心に死霊術師は居たけど、待ち構えていたわけでも、隠れていたわけでもなさそうだった。

 しかも様子が少しおかしい。

 ただ、魔力の反応だけが高い。


「なんかアイツ、苦しそうだな」


「それに何か重なっていないかい?」


 アクセルさんも同意見のようだ。

 二人の錯覚でなければ、一昨日に戦った死霊術師ネロに、魔力の膜のようなものが重なっている。

 燃えてもいないので防御呪文かもしれないが、苦しそうなのは解せない。

 それに良く聞いてみると「やめろ!」「離れろ!」など意味不明の事を低く喚くだけで、敵意を見せていなければ、こっちすら見ていない。


「私達を迎え撃つ、と言った雰囲気ではないようだな」


 シズさんの寸評だけど、全員が同意した。


「クロ、何か判るか?」


「魂は一つですが、魔力で構成された別の何かが重なっています。判別は不明。またどちらも、生者の反応はありません」


 直立不動のクロが、正確に相手を分析する。


「手駒を増やそうとして、亡者の制御にでも失敗したんだろう」


「だと思う。因果応報ね」


「なら、一気に叩こうよ」


「賛成。って、私剣だから突っ込みたいんだけど」


 うん。女性陣は容赦ない。

 そしてオレの後ろでは、すぐにも魔法の構築が始まる。ボクっ娘も、威力の高そうな魔法の矢をつがえている。

 全てが放たれると同時に、クロとアイを後衛の護衛に残して接近戦組は突入だ。

 中衛だった悠里も、前に出てきた上に体の魔力を高め始めている。


 そして弓矢、『光槍撃』、『炎槍』が一瞬の差を置いて突き刺さっていく。

 弓矢などは、狙い違わずネロの首を射抜いた。

 『光槍撃』は10本の槍で蜂の巣の串刺しにする。


 そして、火災現場な上に『煉獄』の効果のせいで、シズさんの『炎槍』はいつにも増して痛そうだ。

 突き刺さった途端に、松明どころかテッシュペーパーに火をつけたようなレベルで派手に燃え盛った。

 思わずウルズでの戦いを思い出すほどだ。


 普通の化け物なら、これだけで十分致命傷の筈だ。

 けど一昨日の事もあるので、接近戦組も魔法の投射と同時に一気に駆けて、オレ、悠里、アクセルさんの順で斬っていく。

 突入直前に、簡単なゼスチャアで決めた順番だ。


 オレが最初なのは、魔力相殺を載せているからで、アクセルさんは今回の戦い用に国から対亡者用の魔法の剣を借りて来ているからだった。


 そして魔法と矢が突き刺さり、複数の剣でズタボロに切裂かれる。

 一昨日のような元気はまるでなく、敵意どころか意思すら感じられないほどだ。

 けれども、近づいて始めて判った。

 死霊術師と重なっていた存在が、死霊術師がオレ達の出迎えどころかまともな動きを見せなかった回答を教えてくれた。


「『魔女の亡霊』だ!」


「ああ、間違いない!」


「えっ、シズさん?」


 死霊術師がオレ達の攻撃で滅びる直前、重なっていた何かが明確に人の形をとり、そして半透明ながら見知った姿となって、そしてオレ達に一度妖しい笑みを見せ、スーっと足下に消えた。


 消えると同時に、死霊術師の魔力が一斉に下に向かう。そして足下の魔力が急速に増大し、石造りの床がガタガタと揺れ始める。

 しかも地下からは、強い魔力の反応も感じる。

 死霊術師だったものは、もはやバラバラで燃えるだけの「もの」でしかない。


 「外へ!」というアクセルさんが叫んだ時には、建物の中に入っていた3人は一気に飛び出し、遠距離から攻撃していた3人と2体も外へと急ぎ逃れる。


 そしてそのまま王宮の中庭まで後退した時には、王宮内で唯一の石造りの建物が内側に向けて崩れていく。

 丁度地下が崩落して、そこに建物の壁等が飲み込まれていくイメージだ。


 崩れる時にかなりの煙と衝撃の風が起きて、周囲の火災を吹き消す。そしてその煙と風は、澱んだ魔力を多分に含んでいた。

 一見ゲームでラスボスを倒した直後のようだけど、この場合は出現シーンで間違いないだろう。


 しかし後衛では、のんびり敵の出現を待つどころではなかった。



「我が主よ!」


「シズさん、大丈夫?!」


「シズっ!」


 オレ達が後衛に追いつくと、シズさんがアイにお姫様だっこのまま抱えられ腕の中でうずくまっていた。


「何があったの?!」


「重なってた幽霊みたいなやつが、『魔女の亡霊』に見えた」


 そして合流したオレ達に、ハルカさんが困惑した表情で問いかけてきた。

 後ろからは『魔女の亡霊』は見えてなかったようだ。

 けれども「やはり、そう、だったか」と、アイの腕の中でシズさんが顔を上げ少し苦しげに口を開いた。

 顔色が蒼白だ。


「大丈夫、そうじゃないわね」


「取りあえず、魂なり心なりは持って行かれてないと思う。けど、さっきは、強い思念のようなものが頭を貫くような感覚があって、一瞬頭が割れそうだった」


「仕切り直ししたい感じですけど、詳しく話を聞く時間もなさそうだ」


 そう、目の前の状況は刻一刻と変化しつつあった。


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