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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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359「王宮炎上(2)」

 そうして、東の地平線に太陽の輝きが現れると同時にアクセルさんの「作戦開始!」の号令があり、魔法の構築が開始される。

 シズさんの魔法の構築自体は手馴れたもので、すぐにも4つの魔方陣が出現している。


 けど、支援される魔法、消費される魔力が膨大なので、魔法の効果範囲だけじゃなくて、シズさん自身も炎を纏ったかのように活性化した魔力が赤く光っている。

 もう光るではなく輝くという表現が相応しい。


 その輝きは魔法の構築に参加したすべての人にも波及し、そして全ての魔法が完成すると、シズさんが瞳を開けてアクセルさんに頷くことで合図を送る。

 そうすると「第二陣、かかれ!」と号令が出される。


 次々に射かけられる火矢、空や堀の外から投げ込まれる油等の可燃物。

 中でも圧巻は、ライムの最大火力での雷撃咆哮ライトニングブレスだ。

 しかも今回のブレスは、収束して放たれる事で高い熱を持っていて、煉獄との相乗効果で凄まじい熱線となる。

 本当に怪獣映画みたいで、おどろおどろしたBGMの一つも欲しいところだ。

 周囲からもどよめきと言える歓声が起きる。


 そしてさらに、煉獄の支援を終えた魔法職の一部と、待機していたマリアさんなど炎の魔剣を使える数名が、魔法の炎の攻撃を加える。

 タクミは一見出番がないけど、木で組まれた城壁や建物の中に空気を送り込む風穴を開ける役目があるので、そっちで頑張っている。


 そうしてすぐにも盛大な炎が立ち上り、そして一気に燃え広がる。

 『煉獄』の効果だ。


 効果範囲内を高温状態に引き上げ、可燃物が燃えやすくなる。さらに魔法、通常を問わず熱、炎の効果を大幅に引き上げる。

 ぶっちゃけ可燃物さえあれば、あっという間に大災害を生み出すことができる。

 そして急速に拡大して激しく燃える為、空間内の生き物は短時間のうちに酸欠になってしまう。


 しかも完全密閉でない限り、建物内にも効果を及ぼすので、今回の場合はうってつけだ。

 それでも建物に風穴を開けるのは、さらに燃えやすくするように空気を送り込むためだ。


 魔法発動は長時間にわたり、5分もするともはや自然鎮火以外の鎮火は不可能な火災へと発展。これでオレ達も、鎮火するまで中に入ることすら出来ない。

 最初の段階で油や松明を投げ込んでいた飛行職が操る魔獣達も、熱による上昇気流を警戒して早々に上空から引き揚げている。



「この規模だと、30分もしたら可燃物も無くなる。そのあと、水を操れる魔法使いがいるので、この辺りの海水を大量にかけてもらってから突入だ」


「珍しい魔法使いが居たんですね」


 この世界は無から有を生み出したり出来ないので、戦闘時に水の魔法は珍しい。

 近くに水があれば例外で、術者の能力が高いと非常に強い威力を発揮するが、見るのは初めてとなるだろう。


「なればこその今回の作戦だな」


「水辺だと一番強いのよね。水の第四列魔法が使えれば大災害すら起せるって」


「そういえば水皇の聖地で勉強してたんだっけ?」


「私は水皇の属性ないから、勉強したのは治癒関連だけね」


 シズさんやハルカさんもオレと駄弁っているように、作戦開始から30分も経っていないのに、最早消化試合状態だ。

 目の前ではランバルト王国の王宮が、煉獄の効果で普通では有り得ないほどの勢いで轟々と炎を上げている。

 王宮をめぐる堀と堀の前にある空間を含めて相応に離れているけど、風向きが反対側なのに強い熱を感じるほどだ。


 それまでに、燃え始めてから少しして城壁や半ば崩れた王宮の城門に、燃えながらの亡者の一部が姿を見せたけど、脅威の高そうなのはマジックミサイルと魔力の籠った矢などで射倒してしまい、無害なゾンビは掘に落ちるに任せた。

 城門の辺りでは、風の魔法を使って風圧で炎の中に押し戻したりもした。


「これで終わりかしら?」


「それフラグ」


 炎を見つつ、ハルカさんがなんとなく口にしたので即座に返してしまった。


「そうなの?」


「やったか! てのが一番ダメなセリフだけど、倒せたのを完全に確認するまで言わないのがお約束だな」


「むしろあえて言う方が、お話上でのお約束だけどねー」


「何の約束?」


 飛行組も、相棒を少し離れた安全圏に置いてやって来たところだった。

 そして『ダブル』歴も浅くてオタクじゃない悠里には、通じない話だったらしい。


 けど、その説明をしている暇は無いようだった。

 王宮の宮殿になっている石造りの建物の辺りで、急に高い魔力が感じられたからだ。


「って、フラグ立っちゃったよ」


「マジでこんな事あるんだな」


「言霊というヤツかもな。さあ、第二ラウンドだ!」


 オタク組はフラグなど誰も本気にしていないので、すぐにも動き始める。

 けどそうじゃない二人が、一瞬行動が遅れた。


「は、ハイッ、シズさん!」


「えっと、私の責任?」


「違うよ。それより戦闘準備を」


「え、ええ。ちょっと待って!」


 ハルカさんが、冗談を半ば本気にしているのが少し可笑しい。

 とはいえ、仲間内でなんとも間抜けなやり取りをしてしまったもんだ。

 しかし、急激な魔力の高まりは、魔力持ちなら誰もが分かるほどで、オレ達以外の腕利きの人達も王宮にかかる木橋のたもとにそれぞれ集まって来る。



「中のヤツ、激オコみたいだな」


「行くのか兄弟?」


 支援のためだろう、ジョージさん達も城門前の橋の袂まで来ていた。


「やっと出番みたいですからね」


「そうか。オレ達は、念のための後詰待機だ」


 そう言って「頼むな」と後を続ける。


「こっちこそ、危なくなったら援護頼みます」


 言いながらサムズアップを送る。

 そうすると、ジョージさんと側にいたレンさんも同じ様に親指を立てて返してくれた。


「おう。だが楽な戦いを期待してるぜ」


「じゃあ、エールのジョッキ片手に観戦できるような戦いを願っててください」


「そうしたいところだが、少し難しそうだな」


 言いつつ王宮の方に目をやる。

 自然とオレも、そちらに視線を向ける。

 依然として燃え続けているし、少なくとも楽観出来そうな感じは無い。


「みたいですね。じゃあ行ってきます」


「おうっ。先鋒は頼んだ」


 ジョージさんの言う通り、状況自体は楽観していいのか微妙だ。

 死霊術師が昨日と同じくらいの強さなら、魔力の供給さえなければゴリ押しで簡単に押し潰せる。


 けど、シズさんの言うように、何かの装置から大量の魔力を供給されているのなら危険だ。

 装置への供給源が絶たれたと言っても、今まで蓄えた分が残っているかもしれない装置の近くにいたら、昨日より強い可能性も高いだろう。


 けれども作戦はすでに立てられていて、火災後に敵の反応が多い場合は腕利き総動員で突入する事になっている。

 この場合、『ダブル』のベテラン勢とオレ達に、アースガルズの腕利きの騎士達を合計して30人ほどになる。


 ビギナー中心の残りの『ダブル』と、アースガルズ、ランバルトの兵士は、強敵相手には足手まといでしかないので、防御体制を固めた上での支援や包囲にとどまる。

 それにビギナーの魔法職の一部は、早朝の攻撃で早くも魔力が空っけつになっている者もいた。


 腕利きの方は、全員『ダブル』基準でBランク以上で、個々のレベルだと『ダブル』のベテランの強さが分かる。

 マリアさん達のようなAランクも、他に数名居る。

 合計するとBランク以上が25名になり、小国では集められない戦力だ。実際、アースガルズだと10〜20人くらいしかいない。


 オレ達以外のSランクはアクセルさん一人だけど、アクセルさんは特殊な例で、Sランクの騎士など普通は大国にしかいない。

 アースガルズが尚武の国として有名で、魔物も少なく無いせいというのもあるけど、それでも『ダブル』が調べた限りだけど、この世界の人でSランクは少ないらしい。

 飛行職を除けば、100人どころかその半分もいれば多い方だろうというのが一般評だ。

 少なくとも『ダブル』達は、そう判断している。


 話が少し逸れたけど、現状で敵の反応は大きいのが1つだけなので、精鋭を投入してまずは中の状況を把握。

 行けそうなら、そのまま倒してしまう。

 精鋭、つまりオレ達以外は、偵察後の突入に備えている。他に、精鋭が後退する場合、増援や援護を求める場合、他が現れた場合にも備えている。

 また、『ダブル』のベテラン勢が最初から一斉に攻撃しないのは、昨日はかなり遅くまで戦っていたので、魔力がまだ十分戻っていない者がいる上に、疲労も相応に溜まっているからだ。


 それにひきかえ精鋭とされたオレ達は、十分に休息を取っていて元気いっぱいだ。

 ボクっ娘も悠里も、昨日はそれぞれの相棒の能力と魔力で主に攻撃しているので、相棒はともかく当人達は消耗していない。

 メンバーは、オレ、ハルカさん、シズさんが中心で、相棒から降りているボクっ娘と悠里、それにクロとアイが補助に回る。

 しかしもう一人、突入すると言う奇特な人がいた。



「アクセルさんも行くんですか?」


「こう言う場合、見届け人がいるだろ。よろしくね」


 何とも気軽に言って、しかもウインクまで飛んでくる。

 そのせいで悠里は、目の中にハートか星が浮かんでそうな喜び具合だ。

 けどシズさんは、やや鋭い言葉でツッコミを入れる。


「見届けではないだろう」


 しかしオレにはその理由が分からない。その表情を見て、シズさんがごく短く苦笑した。


「この国はもうだめだ。となると、誰かが英雄になれば、後釜に座る国は色々とやりやすいだろ」


「そういう訳だショウ。本当に申し訳ないけど、今回も便乗させてもらうよ」


 とアクセルさんが、半ばヤケクソ気味な爽やかな笑みを見せる。

 それでアクセルさんの意図が見えたので、オレとしては頷くしかない。

 あとの面倒を背負ってくれるんだし、むしろこっちが願ったり叶ったりだ。


「なるほど、了解です。まあ、オレ達のポケットには大きすぎるものなので、好きにしてください」


「アハハ、相変わらずだね。功績や武勲はいいのかい?」


 アクセルさんがいつもの様に軽やかに笑う。

 悠里の顔が笑み崩れてしまう程の甘い笑顔だ。


「オレはハルカさんの守護騎士ですからね。仮にそういうのがあっても、我が主人のものですよ」


「いらないわよ、私も。その代わり、面倒は全部背負ってもらうわよ」


「功績と実益に比べたら、お安い御用だよ。でも本当にいいんだね」


 一転してアクセルさんの真剣な眼差しが全員に注がれる。


「主人がそう言っている。是非もなしだ」


「わ、私も全然構いません」


「こんな国じゃあ、お宝もなさそうだしね」


「そういう訳よアクセル。総取りしてもらっていいから、しっかり見ておきなさい」


 ちょっとキメ顔なハルカさんの言葉に、アクセルさんが恭しく一礼する。

 その情景は、もはや一幅の絵のようだ。


「聖女の言葉とあれば、謹んで」


「聖女って言わない!」


 ハルカさんの小声での叫びに、みんなが苦笑した。

 相変わらずアクセルさんは、空気を和ませるのがうまい。


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