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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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357「友の悩み(2)」

「本職でもそうなら、我慢するしかなさそうですね」


「だが、こっちに来て数日で相手取れるだけでも大したものだ」


「ありがとうございます」


 シズさんの言葉にタクミも嬉しそうだ。

 しかし嬉しそうな顔もすぐに真顔に戻る。


「でも皆さんは、明日の朝はそう言った連中のボスキャラと戦うんですよね」


「この状況は流石に捨て置けないからな」


「本来なら、神殿騎士団の1方面軍以上が出張るほどの大事件だから、彼らが今すぐに来てくれるなら喜んで譲るんだけどね」


 ハルカさんが肩を竦める。


「ハルカさんにしては消極的だな」


「にしては、って何よ。私だって、みんなの安全を考えたいわよ」


 ハルカさんがオレのジョークに軽く怒ってみせるが、本気ではない。


「だが、私達より強い神殿騎士は何人いる? それに神殿騎士団は魔導士も少ないだろう」


「お話の中みたいだけど、中央所属には本当に凄い人が何人も居るわよ。逆に各方面だと、強い神殿騎士はいても数人ね。

 それよりも、澱んだ魔力の浄化装置とか、対魔物、対亡者専門の武器とか色々あるわね」


「道具だけでも、今欲しいところだな」


「ショウでもそう思うのか?」


「楽に倒せるに越したことはないだろ。もう穴だらけにされるのはごめんだよ」


 オレの軽いジョークに3人が愛想笑いをしてくれる。

 しかし、そのままハルカさんの右手がオレの左頬に伸びてピタリと当てられる。

 少し冷たい手が心地いい。


「少しくらいの無茶はいいけど、致命傷だけは避けてね。生きてれば、なんとかするから」


「えっ? そんなに厳しい敵なんですか?」


 オレとハルカさんのイチャイチャをスルーするほどタクミが驚いている。


「Sランク級の敵相手の時は、私はいつもそれくらいの気持ちでいるわよ。気楽に考えているのは、この無鉄砲玉くらいでしょうよ」


 そのまま頬に手で軽くペチペチとする。

 なんだか飼い慣らされている気がしてくるが、まあいいかと思ってしまう。


「ショウは、いつも戦いの事も淡々と話してくれてましたけど」


「怖くないんですか、か?」


「は、はい」


 タクミの言葉をシズさんが先取りしたので、タクミは少しバツ悪そうだ。

 けど、答えなど最初から決まっている。


「ショウ、言ってあげたら」


「えっ? それって恥ずかしいセリフになるから、オレが笑われろって事?」


「そうよ。こっちはベテランとか言われてるのに、今更言えないわよ」


 言葉の最後で、オレの頬をペチペチとするのを止めて、最後にムニッと頬を甘くつねる。

 戦闘前のご褒美はおしまいらしい。

 仕方ないので道化になろうと思ったけど、先にシズさんが話し始めた。


「フフフっ。かもしれない。まあショウの代わりに答えるなら、怖くない者はいないよ」


「どれだけ恐怖を抑え込めるか、とかでしょうか」


「それもあるな。だが、強くなりたい、誰かと一緒だから、何かを守りたいから、そんな在り来たりな想いがあるからだ。

 だからタクミ君も『冒険者』を続けていくのなら、信頼できる仲間や相棒、本当に守りたい人を見つけるといいかもな。体が独りでに動いてくれるものだ」


 一国の滅亡を体験したシズさんの言葉だけに一層重みがあるけど、単に怖くないと思うだけで感情をねじ伏せられたりはしないというのは確かだ。


「こっちに来て十日でそれはハードル高そうですね」


「そうか?」


 思わず言葉が出てしまった。そうするとタクミがたまらず苦笑する。


「ショウはちょっとおかしいよ。で、疑問の答えは?」


「いや、だって、可愛い子の前で良いとこ見せたいだろ」


 多分ウェーイ勢な人や陽キャなら納得の答えだろう。

 いつからオレは、こんな事を平気で言える様になったんだろう。これを成長と言うのか退化というのか、誰かに聞いてみたいところだ。

 けどその答えは、オレの彼女さんの表情が雄弁に物語っていた。


「相変わらず欲望がそこかしこに溢れる言葉ね。キモイとウザイのどっちの罵声をご所望?」


「男なんて、そんなもんだと思うけどなあ」


 いちおうとぼけておくが、彼女の表情を見るに効果はないみたいだ。


「女はどうすれいばいいんだ?」


 しかもシズさんからも、追い打ちを受けてしまった。


「オレに分かるわけないでしょう。女子の考えが簡単に分かれば、陰キャなんてしてませんよ」


「アハハハ、ショウらしいな。なんか馬鹿馬鹿しくなってくるよ」


 たまらずタクミが笑ったが、それでいいと思う。


「それでいと思うぞ。考えても、答えなんてそうそう出ないだろうし」


「それと一つ付け加えるけど、Sランクかそれ以上の化け物相手の戦いなんて、私はショウと出会うまで一度もないの。滅多に出会うものでもないしね。だから、怖いとか深刻に考えた事は殆どないわ」


「それに大抵の『ダブル』は、何でもない戦いでやられてドロップアウトしていく。だから、必要以上に深刻に考えたりしない事だな」


「分かりました。ありがとうございます。なんかちょっと楽になりました」


 そう言って軽く笑ったタクミは、話しかけてきた時よりも少し晴れやかな表情になって立ち去っていった。



「まあ、タクミはこれからだし、支援隊なら明日も危険はないだろうから、これでとりあえず大丈夫だろ」


「何ベテランみたいなこと言ってるのよ。それにフラグクラッシュだったっけ? ゲン担ぎはしなくていいの?」


 そう言って、今度はオレの額を小突く。


「フラグクラッシュってのは、対象が絶体絶命のピンチの時にひっくり返すもんだから、今出来ることじゃないよ」


「なら、さっさとラスボス倒して、タクミ君のもとに駆けつけてあげないとね」


 こういった話はハルカさんは全然乗り気じゃないので、どこか他人事というか突き放した言い方をする。


「そうだよな。明日は速攻で倒してしまおう」


「確か、変な予測とか戦闘の結末の宣言とかもフラグの一種じゃなかったか?」


 意外にオタクなシズさんの返しだけど、その姿はタクミの後ろ姿を追っていた。


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