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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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356「友の悩み(1)」

「おーっ、靄が晴れてくぞ」


「ビンゴだったみたいね。流石シズ」


「二人で考えた事だろ」


 オレのガキっぽい感想をよそに、居残りの女子二人が互いを讃えあっている。

 たまに少し緊張した雰囲気になる事もあるけど、仲が良いと言うより互いに認め合っている関係なのがよく分かる情景だ。

 しかし美少女同士が微笑して見つめ合っていると、どこか同性愛的雰囲気は拭えない。


 そして二人の世界を作られると普通は入り込みにくいのだけど、そこに割り込むのもオレの日常だ。


「けど、時間が微妙だな」


 オレの言葉に、二人がこちらを向く。

 しかし表情は少し違う。ハルカさんは懸念を、シズさんは楽観を表していた。


「そうね。二人は今日中に戻って来れないわよね」


「今夜中なら大丈夫だろ」


「どうやって? って、飛行船に載せてもらうのね」


「そうだ。こういう事態も見越しての事だろう」


 そうした会話をしているように、日が暮れようとしている。

 昼過ぎに出発したので、戦闘の場所はそれほど離れていないのか、戦闘が短時間で終了したかのどちらかだ。

 逃げ出したヴァーリ傭兵団が、昨日の夜中に亡者に襲われ始めたと考えると、逃げたのが午後遅くなのでそれほど離れていない筈だ。

 つまり、戦闘は相応に大変だったと見るべきだろう。


「どっちにせよ、全力で攻撃となると早くて明日の朝だよな」


「そうね。今日は今から警戒を強めて、王宮の中の死霊術師を封じ込めておかないといけないわね」


「死霊術師も、自分が不利になった事は把握しているだろうからな」


「攻撃して来るならまだマシだけど、入り江の方から逃げ出したりしないかな?」


「それは大丈夫だと思うわ。亡者は水が苦手だもの」


 今まで聞いた事は無かったが、意外な言葉だ。


「オレ達の世界の伝奇ものにも水に弱いアンデッドはいるけど、こっちも同じなんだな」


 オレの言葉にハルカさんが軽く肩を竦める。


「ごく単純に物理的な問題のせいよ。水は肉が腐りやすくなるし、そもそも死体や骨だと浮かべないでしょ」


 それは納得だ。だから一度は頷く。しかし亡者はゾンビタイプだけじゃない。


「幽霊だと浮いてるから、どこでも一緒じゃないのか?」


「その手の亡者で、人にとって危険なのは滅多にいないから大丈夫よ」


「なるほどなあ。けどさ、だとするとあの死霊術師って、とんだ間抜けじゃないのか? 自分で苦手な場所に籠ってるようなもんだろ」


 オレの言葉に、苦笑こそないが二人もその通りという表情になる。

 何か理由があるのだろうと思うしか無いし、その理由こそが魔力を集める装置なりマジックアイテムの存在を、この場所に予感させている。

 だからその事をシズさんが総括する。「なぜ不利な場所に籠ったのかは、全部暴けば分かるだろう」と。



 そうして日暮れまでに魔力の靄はほぼ晴れてしまったが、王宮内に動きは見られなかった。

 夕暮れの中で沈黙する王宮は、半壊しているのもあってホラーな雰囲気ばっちりだ。


 そして夜こそが亡者が活発になる時間なのは、オレ達の現実世界でのお約束とあまり違わないので、警戒は一層強められた。

 夕方の時点でかがり火が煌煌と焚かれ、堀に架かる橋など重要箇所では丸太を交互にくみ上げた巨大なキャンプファイアー状態の大きなかがり火までもが用意された。

 そこに、魔法の明かりも各所に灯される。

 入り江の方も、軍船が煌煌と照らしているのが遠望できる。


 さらに半壊した王宮の城門に対しても、サーチライトの要領で、常時強い魔法の明かりが灯されるように手配された。

 出来る男アクセルさんに、その辺りの手配は抜かりない。


 そしてオレ達は、待つのが仕事だ。

 この場に居る事で牽制する意味があるのだけど、何かが出て来ない限り動く予定も無いので、実のところ昼からずっと手持ち無沙汰だった。

 靄が晴れた時は動きがあるかと緊張もしたけど、夕食が用意される頃にはすっかり弛緩していた。


「ショウも、そうしてるとただの高校生だな」


「この格好で高校生は無いだろ。こっちじゃだだの壁役だよ」


 王宮にかかる橋から少し離れた場所で待機していると、タクミがやって来た。

 今日の朝から支援隊に属しているが、王宮の包囲組に組み込まれたのでオレと同じ様に一日を過ごしていた筈だ。


「こんばんはタクミ君。どうぞ」


「こんばんは、そちらはどうだ?」


「ありがとうございます。支援隊の方も、みんな退屈してますよ」


 ハルカさんが進めた椅子に腰掛けると、これでダブルデート状態だ。

 こんな状況じゃなければ、タクミももっとはしゃいでいた事だろう。

 少なくとも、逆の立場ならオレの気分は少し浮かれる筈だ。

 とはいえ、浮かれてばかりもいられない。


「それで情報収集か?」


「そういう事。偉い人達と知り合いなんだから、何か聞いてこいってさ」


 そう言って軽く苦笑する。


「偉くもないし、大した事知らないぞ」


「そうね。伝令の戦果報告と飛行船が夜明け前に戻るって報告くらいよね」


「じゃあボク達が聞いたのと同じですね。魔法で遠くと話せたりは無理なんですよね」


 この世界に遠距離通信の魔法がないのは知られているので、敢えてシズさんに話を振った感じだけど、どの程度の距離が可能なのかとか本当に知らないのかもしれない。

 二人の女子も、そんな風に受け取っている。


「妨害がなくても、視界の届く範囲が限界ね」


「一般的には500メートルくらい。召還などで従属の契約をしていると、その倍くらい届く場合もあるな。だから魔道師は、鳥や烏の使い魔を偵察や連絡の手段にする」


「それで不便だって、ノヴァでは科学技術を何とか再現出来ないかって、頑張ってる人達もいるわね」


「技術というと、電波を使うとかですか?」


 タクミが少し嫌そうな表情を浮かべる。

 まあ、科学技術はファンタジーに似合わない派だから当然だろう。


「そういうのは無理らしいわ。この世界って、電気? 電子? とにかくそういう物の流れがおかしいか酷く妨害されていて、装置を再現してもダメだったて聞いた事があるわ」


「有線通信はある程度成功しているぞ」


 こういった事は、現場に居た事もあるシズさんの方が詳しい。

 しかしタクミは、有線と言われてもピンときてないようだ。オレもあんまりイメージが浮かばない。


「有線?」


「そうだ。電話線のようなものだな。コード用の丈夫な絶縁体の大量確保が問題だとか言っていたな」


「便利かもしれないけど、異世界なのに夢のない話ですね」


「まったくだ」


 タクミの諦め半分な言葉にみんな軽く笑うが、笑いもすぐにおさまる。

 それでも状況が好転しつつあるので、気持ちが楽になった証拠だ。


「それでタクミは、今日はどうしてたんだ?」


「街中の方で、はぐれアンデッドとかと戦ってた」


「戦えたか?」


「何とかな。けど、キモさは強烈だな。ショウの言った通りだったよ」


 少し苦笑まじりの答えだ。大変だったんだろう。しかしそんな事を聞いてはいけない。


「だろ。あの潰すときの独特の感覚とか、いまだに慣れないよ」


「私でもそうだもの、仕方ないわ」


 ハルカさんが励ます様に笑みを浮かべる。

 オレも初アンデッドの時は、色々言われたものだと、少し物思いに耽りそうになる。


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