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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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351「突入開始(2)」

 そうしてしばらくすると、オレ達は手持ち無沙汰になっていた。


「『熱核陣』で、町ごと一撃なら楽でいいんだがな」


 シズさんがポツリと言葉をもらす。


「生存者を救出した後ならいいじゃないですか」


「ダメに決まってるでしょ。この国の都を壊したら大事よ」


「靄も晴れてきたし、私はライムと戦いたいなあ」


 暇なので、うちの物騒な女の子達が一仕事終えたので様子を眺めつつ好き勝手に話している。

 目の前の状況は、既に残敵掃討って感じだ。


「それにしてもあのネクロマンサー、自分の力の源になる亡者が一方的に倒されてるのに出てこないな」


「傭兵団の時は前に出てくるのに時間がかかっていたし、あの手はそうそう使えないのかもな」


 オレの質問に、シズさんがおとがいに手を当てながら推察している。

 一見冷静だけど、状況はどうあれ元敵だった国の都を攻撃しているのだから、心中穏やかではないだろう。

 さっきの『熱核陣』の言葉も、冗談ではないとしたら、本心がポロリと零れたんじゃないだろうか。

 そんな事を考えたところで、タイミング悪くシズさんと視線が合ってしまった。


「どうした?」


「いや、何でも無いです」


 と言った側からシズさんに苦笑された。


「何か思っている表情にですぎだ。まあ、察しは付くから言っておくが、今してる事に過去の怨恨えんこんを込めたりはしていないよ。ショウが思ったのは、そんなところだろ」


「……はい」


「? まだ何かあるのか?」


「えーっと、さらに言いにくい事なんですけど」


「言ってしまえ。こっちがモヤモヤする」


 ちょっと目尻が上がっているのは演技じゃないだろう。

 確かにスッキリしていた方がいい。


「『轟爆陣』や『熱核陣』、それに『煉獄』って、戦場に影響を与える程の大魔法じゃないですか」


「そうだな。だから、以前は使わなかったのか、か?」


「は、はい」


 オレのやり取りに、ハルカさん達も興味深げだ。

 みんなハーケンの時から、それぞれ同じ事を思っていたのだろう。


「『煉獄』と『轟爆陣』はAランク、『熱核陣』はSランク級の魔力総量がないと、魔法を覚えていても使えないんだ。少し前のハルカも、大量の魔石かショウからもらった魔力がないと、魔力切れになる程だっただろ」


「確かに。じゃあ、前はあんまり魔力無かったんですか?」


「ああ。以前は精々Aランクあるかどうかだった。

 自分で言うのもアレだが、私は魔法オタクで魔法だけは沢山覚えていたが、実験以外で使えない魔法も多かった。

 しかもあの時は、本当に追いつめられるまで、魔力不足で大した事は出来なかった。

 どうしようもなくなった後、魔力は完全な暴走前のクロから得られたんだが、今度は手元に触媒がなかった。かといって、自分たちの街で『煉獄』は使えない。だから、湖の水から魔法で地道に採取した触媒での中途半端な威力の『轟爆陣』1発が限界だった。そしてそれも、遅きに逸した一発でしかなかった」


「そう、だったんですね」


 みんなも、シズさんの話を静かに聞いている。


「ああそうだ。だから気にするな。今の体は望外の幸運で得たようなものだし、気にいってもいるよ」


「分かりました。じゃあ、存分にやってください」


「煽ってどうするのよ」


 最後に側で聞いていたハルカさんに、ペチンと額を弾かれてしまった。

 それに周りの喧騒も、そろそろ下火になりつつある。

 目に見える限りのアンデッドは、ほぼ掃討されていたからだ。

 ボクっ娘も弓を構えてはいるが、もう矢はつがえていない。


「昨日のあいつ、もう逃げてたりして」


「魔法で監視しているし、町の反対側の入り江の方はランバルトの軍船、上空は『帝国』の竜騎兵が見張ってるのに、それはないわ」


「空で待機してるヴァイスも何も言ってこないよー」


 そういえば、ヴァイスも上空で何か変化がないかを単独で見張っている。そしてボクっ娘は、魔法で時折ヴァイスと連絡を取っていた。

 第一撃を見舞ったライムも、今は単独で空の上だ。


「さっき使った探知魔法にも、高い魔力の反応があった。まだあの中だろう」


「けど、他の亡者を倒しきるまで、魔力の高い方には近寄らないんですよね」


「昨日酷い目にあったから仕方ないでしょ。それに、もうすぐ前進と散開しての亡者の掃討が始まりそうよ」


「最初に固まっていてくれて、むしろ助かったな」


 そうして話していると、ハルカさんの言う通り動きが出た。

 少し後ろにいるオレ達のところに、二組のグループが近づいてきた。マリアさん達とタクミ達だ。

 タクミはマリアさんに先を譲ったので、まずはマリアさん達だ。


「相変わらず兄弟達は余裕だな」


 ジョージさんもそうだけど、マリアさん達も余裕のある雰囲気だ。


「亡者の相手は、それなりにしてますからね」


「でも昨日はネクロマンサーに苦労したんだろ」


「配下の亡者からの魔力供給がなければ、一撃でケリを付けるよ」


 男子二人組の言葉に、シズさんが静かに断言する。

 オレ達もその言葉に同意するか、軽く肩を竦める。


「期待させてもらうわ。でも、話の発端っていう『帝国』騎士のアンデッドは見つかってないのよね」


「そうよね。あと、この中には神殿騎士が最低でも1個小隊。それに『帝国』の調査隊もいるわ。無事ならいいけど、亡者になってたら厄介ね」


 マリアさんの質問に、ハルカさんが溜息まじりに答える。


「死霊騎士か。完全武装だと、最低でも俺達くらいないと、安全マージンは取れないだろうな」


「魔力持ちのアンデッド化は厄介だからな」


「神官の魔力浄化とかで、弱体化ができるって聞いたことがありますが」


「この広さは無理よ。ねえ……」


 マリアさん達の言葉は、4人で自己完結してしまった。

 ハルカさんもあまり答える必要はなく、軽く苦笑いを浮かべるしかない。


「そうね。もっと神官がいて、魔導器とかの準備も必要ね。この面積だと、1方面軍の総力が必要だわ」


「浄化の結界みたいなものがあるのか?」


 オレの質問に、ハルカさんが目線を向け片眉をあげる。


「あるわよ。澱んだ魔力の清浄化は、亡者の鎮魂と似てるのよね」


「アイが正常に機能するようになれば、似たようなこともできるのかもな」


 そういえば、甲冑姿のキューブゴーレムのアイの本来の能力は、魔力の収集と選別、供給だった。確かに選別の段階で、何かできそうな気はする。 

 しかし二人の言葉は、この場に便利な無力化手段がないことを語ってもいる。

 今の話も、その再確認程度だ。


「さて、チートがないと分かった以上、私達はそろそろ行くわ」


「先鋒よろしくね」


 マリアさんとハルカさんが、そう言ってグータッチをする。


「ウルズの時みたいだな」


「あの時と違って、味方は沢山ですけどね」


「敵もな」


「それじゃあ、本命はよろしくね」


「ええ。任せて」



 主にハルカさんと話していたマリアさん達が立ち去ると、入れ替わりにタクミ&ビギナーズが近づいてきた。


「タクミ達はどうするんだ?」


「ボクは2回目だからマシだけど」


「歯切れが悪いな。言っとくけど、聞こえたかもしれないがチートはないぞ。亡者は物理で鎮魂が基本だ」


 言ってるそばから、タクミ以外がゲンナリしている。それ以前に、近づいてくる時から青い顔だ。

 それを見てハルカさんが、懸念顔で口を開いた。

 

「ねえタクミ君、ビギナーは何人くらいが突入に参加できそう?」


「そうですね、半分もいればいい方かな?」


「リアルゾンビは無理っす」


 ハルカさんに稽古をつけられた事のある男子Bが、逃げ出しそうな顔で本音を吐露したが、表情がもうダメダメだった。

 口は軽いが、逆に分かりやすくいていい。

 みんなも仕方ないという表情だ。

 そしてタクミだけど、確かに他のビギナーよりは平気そうだ。


「それで、ショウ達は後詰?」


「一番強い人たちは指揮で手が回らないから、オレ達がボス戦の予定だ。手の内もある程度分かっているしな」


「ショウ達より強い人がここにいるのか?」


 少し驚いている。まあ、強い人は指揮官で戦ってないから、魔力やその人の動きを見るしかないので、こっちに来たばかりじゃあ見分けるのは難しいだろう。


「居るも何も、アクセルさんと、タクミ達を運んでくれた『帝国』の将軍だよ。何ていうか、動きが違うだろ」


「そういうもんか? でもまあショウが言うならそうなんだろうな」


「こ、怖くないんですか?」


 後ろのビギナーズの女子Aが、うちの女子達に強い視線を注いでいる。


「亡者の相手は、慣れる人はそのうち慣れるわ。

 けど、これからも冒険を続けていくのなら、矮鬼とか格下の魔物を相手に心身共に鍛えてから、数の少ない時にチャレンジした方がいいわね。ここで無理をしてメンタルをやられてドロップアウトとか、つまらないでしょ」


「そ、そうですね」


 ハルカさんは、性分なのでたいていは気遣いに満ちている。

 思わずウンウンと頷いてしまう。


「ベテランみたいにしているけど、ショウも試用期間抜けたばかりなんだろ」


「オレは、厳しい場数を潜り抜けたのが、他の人より断然多いらしい。それにこいつもな」


「えっ、私も?」


 突然振られた悠里が、なぜ振られたか分からないと言った感じだ。

 つられて、他のビギナーズは意外そうな視線を注ぐ。


「竜騎士さんも、こっち来てまだ短いんですか?」


「う、うん、三ヶ月……半くらい? けど私にはライム、雷龍がいるから平気だった」


「……そう、ですか」


 悠里の返答には、色んな意味で羨ましいという声色と表情ばかりが返ってくる。

 激レア職だから、そう思われるのは仕方ないだろう。

 けど、魔物ばかりか人も亡者の相手も平気というは、相当な肝の座り具合だと我が妹ながら感心するしかない。それとも、あそこの竜人と獣人のお陰と解釈するべきなのだろうか。

 まあ、それはともかく、だ。


「で、タクミはどうするんだ?」


「いける奴らだけ集めて支援隊を編成するって言うから、そっちに参加する予定。みんなは、せっかく鍛えてもらったのに実質リタイアなのを謝りに。

 まあ、もしかしてチートがあるかもって期待もあったんだけど」


「アンデッド相手じゃあ仕方ないって。けど、この世界は出現してからのチートはないからな」


「だよな。食い物一つ用意してくれない不親切設計だもんな」


 タクミが苦笑する。恐らく他のビギナーに聞いてくれと言われでもしたんだろう。


「そういうことだ。ま、とにかく、無理すんなよ」


「むしろこっちのセリフだ。いつも話聞いてると、無茶苦茶してるくせに」


「だよな。結果オーライだからいいものの、気をつけるよ」


「気をつけても、ショウらしくないだろ。じゃ、行くな」


「おう」


 グータッチをしたら、タクミとビギナーズは二手に分かれて去っていった。

 あとは、出番を待つだけだ。


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