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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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141「冒険者ギルド(2)」

「なあビギナー、今の話は聞き捨てならないな」


 声の方を見ると、見るからに不機嫌そうな冒険者風の男が3人いた。

 加えて、こっちが座っていて向こうが歩きながら振り向いた形なので、見下ろされている格好だ。


 そして3人は、見た目からしてオレが苦手なタイプ、いや、嫌いなタイプだ。

 チャラくはないが、チーマーとか半グレな雰囲気がちょっとする。でなければ、このオーラはいじめっ子タイプだ。

 しかし、こっちでのオレは相応に肝は太くなった自覚もあるので、気負わず応対する。


「何か失礼でも?」


「当たり前だろ。試用期間中のど素人に、このギルドの訓練教官の何が分かる」


「オレは、ただ打ち合った感想を仲間に言っただけです。失礼があったのなら、そこは謝ります」


「その感想自体が問題なんだ。生意気すぎだろ」


 予想通り会話がまるで噛み合わない。

 とんだ因縁野郎だ。

 しかも言い合っていると、周りの注目を集めるばかりか人が集まり始める。

 そして男3人組は、ギャラリーが集まった時点で自分たちの優位を確信した感じだ。あまりいい表情ではない。


 女子3人は、一見無表情だけどそれぞれ「面倒くさ〜い」という表情を僅かに浮かべている。そして、余程のことがない限り、オレが対処しろと視線で命じていた。

 だから早期収拾するべく、俺は立ち上がった。


「判りました。先ほどの試験官の方に、事情を説明して失礼があったことを謝罪してきます」


 そしてその場から立ち去ろうとしたのだけど、すれ違いざまに荒っぽく肩を掴まれそうになる。動きは見えていたのでその手は避け、そして男たちに向き直る。

 肩を掴もうとした男は一瞬驚いたが、ギャラリーや他の仲間の手前すぐにも表情を戻した。


「まだ何かあるんですか?」


「そうだ。礼儀がなってない」


「いきなりBランクで、調子乗ってんじゃないかって言ってるんだ」


「美人3人と一緒だから、いいとこ見せたいのは分かるが、限度ってもんがあるだろ」


(うざっ。めんどくさ。中身のランクはD、Q、Nってやつだ)


 と思ったのがモロに顔に出た、と思う。3人組の表情がさらに不機嫌になっていく。

 けど、そこで助け舟がやってきた。ギルドの職員だ。


「何があったんですか? 組合員同士の揉め事は厳禁ですよ」


「こいつの礼儀がなってないから、教えてやろうとしただけだ」


「じゃあ、どうするんですか? 教えてくださいよ」


 仲裁相手にも調子を変えないのなら、もうこっちも喧嘩腰だ。

 しばし睨み合う形になるが、ギャラリーはますます集まってくる。

 『ダブル』でも、冒険者をしている人は血の気が多いみたいなのはドラゴンゾンビの時も感じたが、ここも同じようだ。


 そして因縁野郎三人組は、嗜虐的と表現出来る表情を浮かべている。


「そうだな。実戦形式の模擬戦で俺に勝ったら、能力は認めてやる」


「生ぬるいだろ」


「そうだな……俺ら3人抜きすれば全部チャラ。それが嫌なら、ここで謝罪しろ」


 言っていることが、もう苛めっ子レベルだ。

 この世界で多少は揉まれてきた身としては、鼻で笑いたくなる矮小さだ。

 けど、それもできないので、怒りの沸点がぐっと下がった。


「なんであんたらに謝る必要があるんだよ。オレこれから用事あるんで、なんなら3人まとめてこいよ」


 そう言って、一人で裏手の円形模擬戦場へと足を向ける。

 「ちょっと待て」などと怒鳴り声がしたが無視した。

 ギャラリーもあるから、逃げはしないだろう。



 そして、突発的な模擬戦の準備をする間に、円形模擬戦場の観覧用の区画は、シズさんの時以上に満員御礼となっていた。

 オレたちの装備を整える時間が必要だったこともあって、人が集まる余裕があったからだろう。

 魔力も、仲間との相談という時間を作った時に、全部返してもらった。


 そしてオレの側のセコンドには、女子3人組が控えている。加えて何かあった場合に備えて、ハルカさんが治癒を買って出ていた。

 もっともハルカさんは「騒動起こしやがって」という感じで、ずーっとジト目でオレを見ている。

 後の二人は、面白い見せ物でも見物する雰囲気だ。


「両者いいですか? 本来決闘のような事は認められていないので、公式の記録にはあくまで模擬戦としての記録しか残りません。

 また実剣を使用しているので急所攻撃は厳禁とし、必ず寸止めしてください。急所を少しでも傷つけたら、その時点で傷つけた側を負けとします。また、お互い戦士職だけなので、一応魔法も禁止します。それと違反者には重い罰金を課しますので注意して下さい」


「怪我は?」


「この場に高位の治癒職もいますので、その場で治せる程度なら不問とします。両者もそれを了承してください」


「分かりました」


「わかった」


 さっきの試験官の人の最低限といった感じの説明が終わると、両者相対する。向こうは3人横並び。

 こっちは1人。オレは両手剣に対して、向こうは向かって右側から細身の剣、剣+盾、両手槍と全員が装備が違う。

 魔法を使う為の媒体は持っていないので、魔法戦士でもないようだ。


(対人戦か)


 オレにとって嫌な思い出が少し蘇ったが、肝が据わってきているのか特に大きな感情の乱れはない。

 それでも目を閉じて一度深呼吸し、精神を集中させる。


 そして「よーい、始めッ!」の言葉が終わると同時に、地面を蹴って一気に飛ぶように前に駆け出した。

 もちろんだけど、一瞬だけでも相手に一対一を強要するためだ。


 3人組はそれぞれBランクらしいが、動きはハルカさんやアクセルさんはもちろん、さっきの試験官以下だった。

 オレが前より魔力が増えて強くなったせいかもしれないが、相手がBランクとは思えなかった。


 取りあえず、一番動きが早そうな右側の軽装備の男に飛ぶように間合いを詰めると、そのまま相手が構えた剣にこっちの新しい剣を思いっきり横薙ぎで振り込む。


 相手は辛うじて剣で反応できただけだったので、剣ごと体を弾き飛ばしてしまう。

 しかもこっちの剣圧には耐えられず、剣を手から離してしまっていた。

 一対一なら、そのまま一本取りに行くところだ。


 次にそのままもう一歩踏み込みつつ、さらに横に回り込み、今度は真ん中のリーダー格に打ち込む。

 けど、さすがに反応して、オレから見て右側の盾をかざしたので、そのまま力任せに剣を叩きつけた。


 相手が盾を持つ戦いは、ハルカさんとアクセルさんとの稽古で慣れていたので、その時と同じように盾に向け半ば安心しつつ思いっきりいった。

 盾ごと吹き飛ばしてやろうと思ったからだ。

 ただし動き以外で魔力は乗せていない。


 けどそれでもやりすぎで、鋼鉄製と見ていた盾を真っ二つに叩き割るだけでなく、保持していた腕の手首より少し下あたりを、盾の一部とともに切り飛ばしてしまう。

 ハルカさんやアクセルさんの盾と比べて貧弱すぎたのは誤算だった。

 盾が無ければ、胴体もバッサリいっていたことだろう。


 それでも致命傷じゃないので気にはせず、そいつをさらに蹴飛ばして退かせると左側の3人目に向かう。

 しかしその時点で、実質的な勝負が付いていることを悟った。

 重そうな鎧と両手槍を持つ3人目の瞳が怯えていたからだ。

 とはいえ降参もしていないので、相手の腰の定まらない牽制の突きに合わせる形で間合いを取りなおす。


 その間一人目は、慌てて剣を取りに行こうとしていたが、二人目は腕を押さえて呆然としている。

 見れば視界の端っこで、ギルドの救護員とハルカさんが動き始めていた。切り飛ばしてもすぐなら、簡単にくっつけられるからだ。魔法まじ便利。

 そう思って小さく笑うと、組み合う前に3人目が両手を上げてしまう。

 笑みが誤解されたらしい。

 そんなに怖かい笑い方だったんだろうか。


「さ、サレンダー。参った」


「……分かりました。一応実戦形式なんで、武器を置いてください」


「あ、ああ」


 オレの言葉に従って、3人目が両手持ちの槍を手から離し、槍が「カラン」と地面に転がって実質的に試合終了だ。

 1人目は、武器を拾ったところで呆気にとられているが、2人目の惨状を見てもう一度武器を手放している。

 左手をなくしたリーダーも、二人が降伏したのを見て右手の武器を手放した。



「終了。勝者青!」


 青はオレのことだ。

 模擬戦という名の決闘がアッという間に終わったので、ギャラリーは少しばかり拍子抜けしている。

 反応も今ひとつのようで、ブーイングしている人までいる。見世物じゃないっての。

 そこに飄々としたシズさんとボクっ娘が近づいてきた。


「乙カレー。やっぱり勝負にならなかったねー」


「思ったより場慣れしているな」


「対人戦は、実戦もそれなりにしてますからね」


 そんな言葉を交わしつつ、ハルカさんの方に3人で向かう。

 リーダー格の治癒はすぐ終ったらしく、くっついた左手をゆっくりと動かしたりしている。


「すぐに接合したので違和感など最小限の筈ですが、左手の完治には2、3日猶予をみてください」


「あ、ああ。助かった」


 そうしたやり取りに、ギャラリーが少しざわついている。


「すげー、一瞬でくっつけちまったぞ」


「けど、あの人あいつの連れだから、マッチポンプっぽいよな」


 ハルカさんは、自分の言葉が終わるとすぐに立ち上がり、オレたちの方に近づいてきた。

 背後のやや嫌味な言葉にも無反応だったが、オレに対しては違っていた。半目の視線を投げつけて来る。


「なに騒ぎ大きくしてるのよ。私に面倒までかけさせて」


「ごめん。けど、あいつらに謝るなんてできなかった」


 素直に頭を下げる。

 それでも機嫌は完全には治らないので、地道にご機嫌をとるしかなさそうだ。


「だよねー。でも、これが5人相手だったらAランク認定だったのに、残念だね」


「ギルドのランクは、別に拘りないからいいよ」


「最初の頃はけっこう拘ってたくせに」


 やっぱり、チクチクと言葉で突いてくる。

 もう力なく笑うしかない。


「少しでも早くハルカさんに追いつきたかっただけだよ」


「はいはい、そう言う事にしておいてあげるわ」


「それより一応ギャラリーに応えたらどうなんだ? ショウが勝ったんだからな」


 そう言われて周りを見渡すと、まだほとんど残っていた。

 流石にこれは何か言ったおいた方がいいのかもと思える。ギャラリーもそれを期待している様子だ。

 

「皆様、ご迷惑おかけしました。若輩者ですが、今後とも宜しくお願いします」


 そう言ってそれぞれの方角に頭を30度ほど下げる。

 そうするとぱらぱらと拍手があり、「実力隠すなよー」、「めっちゃ強いじゃん」や「こっちこそよろしくなー」などと言葉をかけてもらえた。


 ノール王国でも思ったが、『ダブル』の多くは思ったよりサバサバしている。

 まあ、「このハーレム野郎!」や「チートじゃねーのか」、「いや、これってばチーレムだろ」などというやっかみ半分な言葉もあったけど、それも冗談と分かる否定的な声色じゃなかった。


 そして最後に、まだ残っていた3人組にも少し深めのお辞儀をする。

 けどこれは、オレ的には試合終了の際のお辞儀であり、謝罪のつもりは一切なかった。

 3人組も、好意的な視線は向けて来ていないのだからお互い様だろう。


「結局頭下げてるじゃない」


「これは試合への礼儀でしてるだけだよ」


 頭を上げたところでハルカさんに答える。


「剣道の試合みたいにか?」


「そうです。それ以上の気持ちはありません」


「意外に強情だね」


「お子様なだけでしょ。さ、あとは、ここで買えるもの買って、お金預けたら、神殿に行きましょう」


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