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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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333「新人教育(2)」

 ハルカさんも、今はオレと似たような模擬戦用の剣を持っている。

 そして最初は女相手とか小馬鹿にする寸前だったガキンチョを、少し調子に乗せてから叩きのめすという容赦ない実地教育を施していた。

 ちょっと懐かしくなりそうな情景だ。


 もっとも、少し離れた場所では、ボクっ娘が他の女子に弓を教えながらも「あーあ」って表情を浮かべている。


 意外にまともなのは悠里で、女の子の魔法戦士の卵にうまく稽古をつけている。

 なんとなく、剣道部の時の稽古を思い起こす感じで、オレも少し参考にしようとすら思えるほどだった。


 シズさんは、タクミの連れだった男女1人ずつだけでなく、他のビギナーも合わせて5人ほどをまとめて、魔法の基礎について実地で教えている。

 家庭教師をしているだけあって手慣れているが、やはりというべきか少し厳し目だ。


 それでも、生徒がついていけないという程ではない。出来るギリギリを見極めて教えている。

 オレの勉強を見るのと、その辺が似ていた。

 シズさんが本当に厳しいのは、自分基準で見てしまいがちな実戦だけのようだ。


 そして、オレとハルカさんの稽古相手がへばってしまったので、二人をしばらく休憩させて、半ば暇つぶしにハルカさんと稽古する事にした。



「ショウって、やっぱり少し変だったのね」


 軽く剣を交えながらなので、ついでに雑談にも興じる。

 軽くなのは、あまり場所が取れないので、激しく移動しながら打ちあうには空間が足りないせいだ。


「藪から棒に何だよ」


「だって、ショウは私の稽古や実戦訓練にも、普通についてきたじゃない」


「ついてきたっていうか、あんなもんだとしか、思わなかったせいだと思う」


「スパルタだって、言いたいの?!」


 今の一撃はかなり鋭い。こっちに来るようになった頃のオレだったら、まず避けられなかった。


「そうは思わないけど、比較対象がないから、ついてくしかないだろ」


「まあそうだけど、そのせいで私、鬼軍曹とか言われてるのよ」


「今まで、誰かを教えたり、しなかったのか?!」


 うまい具合にハルカさんを誘えたので、さっきのお返しを叩き込む。けど織り込み済みだったらしく、剣で巧く逸らされる。

 やっぱり経験と技量が違う。


「昔はむしろ、教わった方ね。だから、剣筋は、しっかりしてるでしょ!」


 そしてそのまま綺麗な軌道を描いて、反撃の一撃がオレに突き出される。


「それは、アクセルさんとも、稽古して、思った。ていうか、『ダブル』は、見ていて、我流が多い、気が、するな!」


「よく、見てる、じゃない。さすが、元剣道部!」


 オレの基礎を踏まえた正面からの剣戟を、彼女も正面から受けて立つ。

 そしてそのまま、ガンガンと剣をぶつけ合う。


「そんなんじゃないよ。多分だけど、見本になる人が、良かったんだよ!」


「アクセルがっ?!」


「ハルカさんが、だよっ!」


 そこで「ガキンっ!」と音がして、両者の剣が途中で折れてしまう。

 そしてさらに「キンっ!」と、数メートル先の空間で音がする。ハルカさんが事前に張っておいた、広めの防殻の魔法の内側に当たったのだ。



「二人の時間は終わった? てか、まわりドン引きだよ」


 横でオレ達と同じように悠里と稽古していたボクっ娘が、またもや「やれやれモード」でうんざりげに声をかけてきた。


「? 邪魔にならないように、防殻張って中で軽く稽古してただけなのに」


「うん。ガチじゃないぞ」


 二人の言葉に、ボクっ娘が軽くため息をつく。


「普通、稽古でそこまでしないよ。金網デスマッチみたいなことして、狭いところでガンガン動き回ってるから、何が起きてるか分からない人もいたと思うよ、ねえ」


「私もちょっとしてみたい。アトラクションみたいだし」


「……兄妹だねえ」


 妹様のやや斜め上な言葉に、ボクっ娘がさらに小さく溜息をつく。

 ここ数日、ボクっ娘のこういう姿をよく見ている気がする。


「えっ? そこでそう言う? ちょっと嫌なんだけど」


「アハハ、ごめんね。ま、なんにせよ、ボク達は人目のあるところで、あんまり稽古とかしない方が良いかもね」


 ボクっ娘のまとめの言葉のあと周りを見てみると、確かに周りで稽古していた人たちがオレ達に引いていた。

 タクミも例外じゃない。ガキンチョは、ドン引きしてる。

 けどタクミの復活は早かった。数日前に、野外でオレたちの戦闘を見ていたおかげかもしれない。


「どうやったら、そんな事ができるんだ?」


「そうだな、タクミの言葉を借りればクンフー次第だな」


「そんな簡単に片付けんなよ」


 そこで少し考えるが、考えるほどの事でもなかった。


「簡単だけど簡単じゃないんだよ。前も言ったけど、心と体がしっくり馴染むような感覚になれば、自然とBランクくらいになるらしいぞ。オレもそうだったし」


「そんな抽象的に言われてもなあ。他にないのか?」


「と言われても、実戦回数こなして魔力稼いで地道に稽古するってくらいだな」


 言葉の最後に、何もない両手を剣を持つ仕草で空振りしてみる。


「作業ゲームみたいに簡単に言うよな」


「けど、マジそれだけだ。それにオレ、魔力総量は運良く増えたけど、技量がまだまだなのは自覚あるから稽古してるわけだし」


「ハルカさんも?」


 オレと話しても無駄って感じで、タクミが首ごとハルカさんに向いて問いかける。


「私の場合、接近戦で格上の敵を想定した稽古相手に、ショウのバカ力が丁度良いからかしら」


 何だかオレがモンスターか、でなければトンデモナイ怪力の持ち主みたいだ。いや、単に魔力総量的に、オレ以外に釣り合う相手がいないからだろう。多分。


「あと、ボクから補足するけど、ルカさんは一流の剣の使い手だからね。追いつきたかったら、年単位で鍛錬を積み重ねないとダメだよ」


「だよなあ。動きに無駄がなくて綺麗だもんな」


 ウンウンと思わず何度も頷いてしまう。

 そこにクールな視線で、正しいけど少し厳しめのコメントがくる。


「そうね。ショウは、まだまだ力まかせだものね」


「ハイハイ、いちゃつかない」


「いちゃついてない。素直に褒めてるんだ。オレももっと無駄のない動きがしたいし」


「だってさ。分かった? 強くなる秘訣は、向上心とたゆまぬ努力ってやつだよ」


 ボクっ娘が、周りの人たちに語りかけるように話をまとめると、その場にいた殆どの人が溜息のような納得の声をあげた。

 ビギナーだけでなく、オレよりもずっとベテランの筈の『ダブル』までが似たような反応なのは、逆にこっちが引いてしまう。

 しかし、「ガチだ」とか小言で言われてるので、ハルカさんやシズさんが例外な証拠なのだろう。


 ただオレから見たら、『ダブル』の多くがヌルいってことになってしまう。

 まあ、軽めの冒険や魔物退治をストレス発散くらいにしか考えてないなら、それで十分なんだろうけど。


 しかし、タクミが真剣な態度と視線だったのは、オレとしては少し救われた気分だし、気分も良くなれた。


(うん。タクミにはどんどん稽古つけてやろう)


「ショウ、そんないい笑顔するなよ。怖いって」


 真剣な表情に、少し引いた表情が浮かんでいた。

 ここは安心させてやるべきだろう。


「大丈夫、任せろ。時間は幾らでもあるから」


「全然大丈夫に聞こえないって。まあ、邪神大陸から戻るまでに、足手まといにならないように鍛えとくよ」


 うん。さすがタクミだ。


「おう。楽しみにしてる」


「……ショウって、こっちだと本当に脳筋だな」


「そ、そうか?」


 思わず「解せぬ」と言いそうになった。

 ちょっと気をつけよう。


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