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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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332「新人教育(1)」

「何コレ。マジヤバい。ヤバすぎだろ……」


「だよな。みんなも、最初はそう思った」


 部屋に案内された時点で、悠里が絶句していた。

 しかも、こっちの言葉じゃなくて日本語なので、案内した人は何を言ってるのか理解できてない。

 色んな意味で、みんなも苦笑気味だ。


 『帝国』商館での堅苦しい話も終わり、アイと主にオレが荷物運びとなって『帝国』商館のヴェルサイユな感じすらするゲストルームへと移動してきた。

 移動の時に元に戻したのを見られても面倒なので、振動してアピールして来たクロはキューブのままだ。


 そして以前泊まった場所は、悠里が加わっても部屋数、ベッド数とも十分に余裕があるので、女子は2人ずつ、オレは1人の部屋割りだ。

 悠里はハルカさんと相部屋なので納得の配置だろう。

 そして一人で部屋に荷物を置きに来た時点で、やっぱりタクミを旅に誘おうかと思ってしまいそうになる。


 それはともかく、『帝国』商館をしばらくの滞在場所にするとしても、別に外出禁止とかではない。

 出入りの際に一応断りだけいれて、好き勝手に動く事にする。

 そしてこの日の午後も、断りをしてから予定通り街の大広場へと出向いた。

 昼にまた、タクミとタクミとパーティーを組む予定のビギナーの人たちと、広場で合流することになっていたからだ。




 中央広場に到着すると、既にタクミ達がテーブルの一角に陣取っていた。そしてこちらを見つけると、すぐにも近づいて来てくれる。

 

「『帝国』の商館って、えらく立派な建物なんだな」


 感心というより呆れた感じのコメント。

 けど本当に立派なのは、あの中にこそある。


「中はもっと凄いぞ」


「やっぱり、オクシデント最大の国だからか?」


「うん。飲み食いするとき、汚したらどうしようって緊張するレベルで凄い」


「なるほどなあ。そういう情報は、ショウ以外から出て来た事無いから、ちょっと興味あるな」


 タクミから呼び水とも言える一言があったので、ちょっと押してみることにした。


「なら、一緒に泊まりにくるか? オレ達を飛行船で『帝国」まで送ってくれるから、あそこに泊まる事になったんだ」


「マジか。でも、ボクはいいよ。分不相応過ぎるって。それよりも、ご指導ご鞭撻よろしくお願いしますってヤツなんだけど」


 それにオレだけでなく、みんなが軽く頷く。

 タクミの側にいるビギナーの4人は、期待の視線を注いできている。どうにもオレのタクミへの一言が、いらぬ期待を抱かせてしまったようだ。


 そこでハルカさんが一回だけ軽く手を「パンっ!」と叩いて、みんなの注目を集める。


「あのね、私達は教えられる時間に限りがあるし、冒険者ギルドとして教える訳じゃないの。その点はご免なさいね」


「それと、ボクらはあんまり参考にならないよ」


「空飛ぶもんね。けど、私も地下迷宮とか行ってみたいなー」


 確かにエルブルスにダンジョンはなさそうだけど、まともなダンジョンはオレも行ったことないのに贅沢な要求だ。


「じゃあ、ユーリも教わる側になる? 冒険や旅の基本とか結構知らないみたいだし」


「それは私達が後々教えればいいだろう。ユーリちゃんとタクミ君達では、もう技量と場数、それに魔力総量が違い過ぎる」


 シズさんの魔力総量という言葉で、主にタクミの視線がオレに注がれた。

 そしてハルカさん達も、自然オレへと視線を向ける。


「ショウも参考にはしないでね。かなりイレギュラーな成長してるから」


「でも、ルカさんが短期間で鍛えたって聞きましたが?」


 タクミから話を聞いていたのか、ビギナーの男子Aが少し羨ましげな視線をオレに向ける。

 他のビギナー3人も期待を込めた視線だ。


「ええ、そうよ。魔物の多いところで活動中に拾ってそのままね。ギルドに登録したのは出現から二ヶ月くらい経ってたわ」


「その間に色んな魔物を倒したって」


「私が言うのもなんだけど、彼の真似は止めた方がいいわ。命が幾つあっても足りないから」


「じゃあ、皆さんに付いて行ったりとかは無理なんですか?」


 期待と不安と言った感じで、男子Aが問い掛けてきた。

 それにハルカさんが向き、真剣な表情を向ける。


「少し厳しい言い方になるけど、みんなくらいの能力や技量、それに経験だと、死にに行くようなものよ。とても危険な邪神大陸に行く予定だから、私達もビギナーを守る余裕はないの」


 「な、言ったろ」とはタクミの言。

 恐らく昨日、ビギナーの皆さんに聞かれていて、一方的に淡い期待を抱いたといったところだろう。

 オレと視線が合ったタクミが苦笑気味なので多分間違いない。

 しかしそこで男子Bが不穏当な発言をした。


「チェッ。お前と一緒なら、つえーパーティーと組めると思ったのになぁ」


 タクミに向けたすごくガキっぽい言い草だけど、多分中身が見た目より若い、というか中学生くらいなのだろう。

 よく見れば少し落ち着きがないし、ハルカさん達に色目を向けてないと思えるので、多分中身がオレ以上に子供だ。


 こういう外見と中身が違うと分かる状況に出くわすと、確かにゲームっぽくもある。

 そして当然と言うべきか、場の空気が少し冷めた。

 そして案の定というべきか、ハルカさんが小さく溜息を付く。お説教タイムだ。

 

「あのね、この世界には、遊ぶために喚ばれるわけじゃないの。それで、暮らしていく事自体が最初の目的になるわ。冒険に出て魔物を倒すのも、一番の目的は日々の糧を得るため。全部が自由だけど、自由はタダじゃないって事は忘れないでね」


「皆さんもそうだったんですか?」


「ええ。私も最初は能天気にゲームみたいだって思ってたから、しっぺ返しも一杯あったわ」


 言葉の最後の苦笑で、全体の雰囲気が少し和らいだ。

 それに思った程きつい言葉はなかったので、オレも内心ホッとした。

 しかし、そのすぐ後にハルカさんが「いい笑顔」を見せる。


「だから、あなた達が少しでもそんな事にならないように、時間の許す限り教えてあげる。嫌だって人は、この場で決めてね」



 色々とこの世界を甘く見ていたビギナー達にとっては、死刑宣告にも感じるかもしれない宣言だ。

 その証拠に、タクミが少しひきつった笑いを浮かべている。


 けど、他のビギナーは真実を知らないので、断る者はいなかった。

 だからそれから数日間は、ハーケンでビギナー達を鍛える訓練に勤しむ事になる。


 主な場所は、冒険者ギルドの裏にある模擬戦場。

 能力の判定以外であまり使われないので、裏庭を含めて訓練場も兼ねているが、今はギビナーが沢山増えたのでかなり盛況だ。

 そしてその一角でオレ達は、タクミとその仲間達の訓練を短期間請け負ったのだけど、開始したその日のうちに注目されていた。



「し、死ぬって!」


「いや、死ぬ訳ないだろ。加減してるし、急所と顔面狙ってないし、それに寸止めだろ」


 思わず腰に空いた手を当ててしまう。


「拾ってもらった平原でもそうだったけど、稽古なのにマジすぎだろ」


「そりゃあ真剣にしないと意味ないだろ。オレは最初の頃、毎日切り傷だらけにされてたぞ。こんなの可愛いもんだ」


 うん。非常に説得力のある言葉だ。

 治癒魔法がない世界だったら、オレは今頃生きていなかったかもしれない。ハルカさんも、治癒魔法があるから遠慮がなかっただけだろう、とは思う。


 オレが少し遠い目をしそうになっていたが、タクミは目力で全力否定していた。

 しかも隣からも非常に強い視線を感じた。

 そちらを向くと、ハルカさんが何か言いたげにこっちを半目で見ている。


 彼女の前には、不穏当な事を言った男子BのガキンチョがKOされていた。

 相変わらずの平常運転なハルカさんの姿にオレも安心する。


「……フーン。そんな風に思ってたんだ」


「まあ、剣道の稽古でも当ててなんぼだし、あんなもんだと思ってた。けど、オレの中途半端な剣筋だと、かするだけでも当てたらマズいだろ」


 と言っても、今持っているのは稽古用に借りたノーマルサイズの刃の無いなまくらソードだ。

 オレの馬鹿力だと、加減しないと剣が痛むというものだ。


 ギルドでは、木刀や木剣で稽古する場合もあるが、『ダブル』は最初からかなりの技術を体が知っているので、基礎的な訓練に使うような道具の段階はすっ飛ばすのが普通だ。

 実戦スタイルは『ダブル』の基本らしい。


長い間、お付き合いいただき、ありがとうございました。

超長編を完結させるという目的もあり書いてきましたが、何とか書ききることができました。

これも読んでくださった皆様のお陰です。

この場を借りて、御礼申し上げます。

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