331「『帝国』商館再び(2)」
「あの。それって、ボク達が倒した竜騎兵の騎士じゃないかな」
「確かに遺体が回収されていない竜騎士はいますが、その根拠は?」
エリート官僚が、顔を体の向きごとボクっ娘に向ける。
おそらく最初から、ボクっ娘から話を引き出すつもりだったんじゃないだろうか。
「前に、飛龍の方は腐龍になって人に襲いかかっているけど、人の方は亡者としていなかったみたいだから」
「なるほど」
「うん。それでね、2騎は湖に落ちたし、2人ってのも合ってるし、方角的にもウルズの南西で合ってるんだ」
「そして湖に落ちてる以上、我々は回収不可能だった筈だと」
「うん。ボクも落ちる途中までしか見てないけど、高度もあったし、あそこは岸から相当離れていたから、とても助かるとは思えないんだ」
「なるほど、よく分かりました。確かに彼らは帰投しておりませんし、我々との予測とも一致しています。他に、何か御座いませんか?」
そこでオレとハルカさん、ボクっ娘が顔を見合わせる。
オレ達が『帝国』の兵隊と戦ったのは、空中戦以外では2回。そのうち1回は王都内だけど、そこは『帝国』も十分探しているし、オレ達が立てた墓を見落とすとは思えない。
そうなると、もう一つの可能性はボクっ娘を助けた時だ。しかし『帝国』兵は、死体を残して戻ったりもしていない。
そしてその戦いも『帝国』は承知しているだろう。
だとすると、こちらから話せる事はない。
代表してハルカさんが首を横に振ると、エリート官僚が了解したと首を縦に振った。『帝国』の方が、誰が死んだかは知っているんだから、当事者への確認と言ったところだったのだろう。
しかし「ご協力ありがとうございます」との言葉の後にさらに続きがあった。
「では次に、4日前その現場近くで青い飛龍と白い巨鷲を見たと言う報告を受けているのですが、何をしていたのか出来ればお話を伺いたく思うのですが」
アララ、どこかで誰かに見られていたらしい。
けど後ろ暗いところもないので、ハルカさんがすぐにも言葉を返す。
「友人が迷い込んでしまったので、救援に赴いていました」
「なるほど。確かに皆様のご同郷の方が、このところあの辺りで活動されていたとも聞き及んでおります。それと同じだったと」
「そうです」
「では、あの辺りの魔物の鎮定も?」
そこまで見ていた、もしくは情報を手に入れていると言う事は、相当あそこに関心があるのだろう。
「ハイ。目にした以上、神官として見過ごす事も出来ません」
「そうでしたか。では亡者は?」
「一度、村一つ分と思われる集団に遭遇しました」
「やはりランバルトの近くでしょうか」
「はい。ですが『帝国』兵の亡者は見ておりません」
「なるほど、なるほど」とエリート官僚が頷く。そしてその次に、爆弾を放り投げてきた。
「では、『魔女』は?」
その言葉に「は?」「えっ?」と思わずそれぞれが口にしてしまう。
そしてその反応を見つつ、エリート官僚が言葉を続ける。
僅かながら、こちらへの精神的奇襲に成功したとでも言いたげに思えたのは気のせいじゃないだろう。
そしてこれこそが、聞きたい事の本命なのだ。
「亡者の中に『魔女』の姿、半透明なので恐らく亡者の姿を見たという噂があるのですが、何かご存知の事はありませんか?」
エリート官僚がさらに言葉を足す。
それに対して、悠里は知識としてしか知らないから良いとして、他のみんなは簡単に言葉を返せないでいた。
それでもハルカさんが、小さく深呼吸して相手を見据える。
「全く存じ上げませんでした。それは事実なのですか?」
「はい。あくまで噂、ですが」
「どこで? 荒野で亡者の群れを率いているなどでしょうか?」
「いいえ。目撃された場所は、ランバルト王国の都、バルドルの王宮です」
ノール王国にとって、そして魔女フレイアにとっての一番の仇敵が存在する場所だ。
確かにそこで見たと言うなら、相手がオレたちの世界での幽霊などなら納得してしまいそうだ。けどここは、魔力に溢れる異世界。亡者、幽霊などが実在する世界だ。
色々と可能性が考えられる。
そしてハルカさんは亡者の専門家なので、その言葉を受けて少し考えを巡らせてから、再び口を開いた。
「『魔女の亡霊』を見たというだけで、『魔女の亡霊』は具体的な行動には出ていないのですか?」
「ランバルト王国からは、何の話も出てきておりません。見たというのも、あくまで噂」
「そうですか。しかし『魔女の亡霊』は、確かに打ち滅ぼしました。もし『魔女』の姿をした亡者が居たと言うのなら、倒した時に拡散した『魔女の亡霊』の断片や残留思念かもしれません」
「『魔女の亡霊』を倒されたルカ殿のお言葉に、安堵いたしました。それに、ノール王国を最も激しく攻撃したのがランバルト王国です。無念の想いなどが、姿となったのかもしれません」
「その程度であれば良いのですが。それと関わりがあるかどうかは分からないのですが、ランバルトから亡者が溢れたという話が近隣諸国や都市に伝わってきていないという話を聞きました。何かご存知ありませんか?」
「いいえ、ランバルト王国と我が『帝国』は国交がありません。なればこそ、こうして皆様にお話を伺っている次第です」
こちらが色々と話をしたので自分たちの誠意の証として少しだけ内情を見せました、というわけだ。
こうして何度か側で聞いていると、そんな事が少しずつだけど分かる様になってきた。
面倒くさいとしか思わないが、内心の奥底で同じ様に思っている筈のハルカさんは、前よりもビジネススタイルとでも言うべき態度のまま会話を続ける。
「そうでしたか。あまりお力になれず申し訳ありません」
「いえ。十分なお話をお聞きできました。これより後は、本国への出立まで当館にご滞在ください。以前お使いいただいたお部屋をご用意させていただきます」
「はい、ありがとうございます。早速、今宿泊している場所より、従者に荷物など運ばせましょう」
そこでハルカさんが少し冷めたお茶を口に含むことで、ようやく堅苦しい話もお開きとなった。





