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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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139「再告白(2)」

「はい、おしまい」


 オレが内心混乱している横で彼女は素早く椅子に座り直し、コーヒーカップに澄まし顔で口をつける。

 それを見てオレも椅子に座り直して、コーヒーを口にする。その間、心拍数を鎮めるために、小さく深く深呼吸するのも忘れない。


「……ハルカさんの方がエロいんじゃないのか?」


「けど、嬉しかったでしょ」


 横目で見てくるが、口元は勝利の笑みを小さく浮かべている。


「嬉しいけど」


「けど?」


「返事もらえてない」


 オレに向けた顔は、忘れてたといった風だけど、敢えてなのは明らかだ。

 拗ねた顔を向けたオレに、自然と彼女が苦笑する。


「冗談よ。けど、もう少しムードのある時に告白してよ」


「結構いい感じだと思ったんだけどなあ」


「……ぶっちゃけ、もうちょっと待って。今はエロい関係になってる場合じゃないと思うから」


 オレの甘えた声に、申し訳なさそうな返事をされては、ここは折れるしかなさそうだ。


「まあ確かに。けど、告白オーケーイコールエロってのは、間違いだと思うぞ」


「なんだ、プラトニックな関係をご希望?」


「そうだなー。ショジョだーって騒ぐくらいのお子様相手だしなー」


「なっ! こんなところで言うことないでしょ!」


 半分腰を浮かせて、こちらを睨みつけきた。

 ただその姿勢だと胸元がよく見えてしまい、オレにとってのご褒美でしかなかった。


「まあまあ。オレはダブルドーテーだから、オレの方がお子様だよ」


 ダブルドーテーとは、『ダブル』男子にとっての泣くに泣けない現状を現す言葉だ。

 それを知っている彼女の顔が緩む。


「プッ。ダブルドーテーって言葉、久しぶりに聞いたわ。まあ、それに免じて今は許してあげる。けど、二度と言わないでね」


「了解、了解。けどさー、返事はいつまで待てばいいんだ? マジ悩むぞ」


 言いながら、思わず前のテーブルに突っ伏してしまう。

 そしてそのまま、斜め下から彼女を見上げる。


「そうねー、せめて正式に守護騎士になってからね。とりあえず、今日神殿行って、最初の手続きとかしましょう」


「オーケー、マム」


「フフッ。その返事、なんだか久しぶりに聞いた気がする」




 その後は、とりあえず昨日の夜に3人で少し話していたことを聞いて、さらに二人で今日の予定を立てていった。


「早朝から真面目だねー。それともエロいことしながらだったとか?」


「だったら、良かったんだけどな。で、どうだ、今のスケジュールで?」


「いいんじゃないか。だが私は、神殿、冒険者ギルドにあまり近づかない方が良い気もするんだが」


「どっちも大丈夫よ。神殿では私の従者だし、冒険者ギルドはこっちの世界の人の登録者もそれなりにいるし」


「獣人はあまり聞いたことがないんだが」


 シズさんが少し懸念顔だ。けどハルカさんの表情は、至ってノーマルでしかない。


「あらそう? 知り合いにいるわよ。だから大丈夫。しかもここは自由都市だから、差別とかもないだろうし」


「そっちはそれでいいとして、ここの神殿はハルカさんが入っても聖杯とかが光ったりしないんだよな」


「ここの神殿は自由都市からの寄付で建物は立派だけど、大神殿じゃないわ。何度か来たけど、聖杯がないのも覚えてる」


「オーケー。じゃ順番は、お金をもらったら預けにギルドへ。ついでに登録。その次に神殿だな。それで時間に余裕があれば、魔導師協会に魔石の売却と、さらに諸々の買い物ってことで」


「「「はーい」」」


 その日の朝食は『帝国』の大食堂で食べたが、同席できない事を詫びるメッセージだけで、さすがにおっさんもエリート官僚も同席したりはしなかった。

 しかし別のメッセージには、朝食後にアイテムの買い取り代金の引き渡しを伝えるものもあった。



「ドシャリ」


 そんな擬音のような音が、応接間中に静かに重々しく響いた。

 魔法の布で作られた皮袋自体は、エリート貴族の部下が押してきたワゴンに載っていたが、「中をご確認ください」との言葉に応じて、まずは思ったより小さな袋の紐を解いて中を確認する。


 しかし枚数を確認するのは骨なので、同じワゴンの下には大きな天秤と重りのセットがあった。それを部下の人が豪華な机の上に置くと、片方に金貨入りの袋、もう片方に重りを載せていく。


 金貨は貴重な「皇帝貨エンペリアルコイン」。

 魔法金属の貨幣「翼金フェザーゴールド」と共に、オクシデントに流通する最高価値の貨幣だ。


 普通の金貨1枚が、現代の価格で10万円から13万円ほどと言われるが、「皇帝貨」はその10倍の価値がある。

 大きさ(重さ)は4倍なのだけど、中核にごく微量の魔金オリハルコンが含まれおり、魔法で鑑定できて偽造が極めて難しいとされている。


 しかも魔法での簡単な鑑定が可能で、金の純度も24金、つまりほぼ100%と言う高品質を誇っている。

 大金鉱とオリハルコンの鉱山を有する『帝国』だから鋳造可能な、世界で最も信用度の高い貨幣だ。

 しかも貨幣価値は『帝国』が保証している。


 そして書類に示された枚数分の重さぴったりで、天秤が均衡する。

 その後さらに袋から全て取り出して、1枚1枚数を確認する。1枚100万円以上する貨幣なら、当然だろう。

 そしてそれだけの価値がある大きな金貨が、優に200枚は並んでいる。警備会社の人を警護に欲しいくらいだ。


「間違いございませんか」


「はい、書類通りです」


 ハルカさんが紙面を見ながら答える。

 その顔には、少し驚きが浮かんでいる。


「魔導師殿は、魔法で確認されても構いませんが」


「獣人とて、それほど礼儀知らずではありませんよ」


「これは失礼を申し上げました」


 涼しい顔で答えるシズさんに、エリート官僚が頭を下げた。

 態度はまともというか誠意がこもっている気がするが、この辺りは演技か本気かはオレには分からない。


「それにしても、目録を見ると情報料が随分と高いようですが」


 紙面から顔を上げたハルカさんが問いかける。


「それだけの価値があると判断致しました。我が『帝国』にとっては、まさに千金の価値でございます」


 昨日の夜の後半から、エリート官僚の態度は大きく変わったままだった。

 それほどの価値があの浮遊石なり情報にあったのだろうが、それだけに『帝国』の秘密にこれ以上深入りしてはいけないと思えた。

 そしてその思いは3人とも同じで、すぐにもハルカさんが「沈黙の約」の魔法を求める。


「それでは書類の内容を確かめ、書類にサインの後、血判をお願いします」


「色んな魔法契約はしたけど、ボクも沈黙は初めてだね」


「色々あるのか?」


「魔法のある世界だからね。破ると呪われちゃうよー」


「さすがに呪いはございません。今回は、書類に書かれた内容を不用意に言葉にできないよう魂に刻まれます。当人が話したつもりでも、口が動けど言葉にならず、といった風になります」


「内容はその通りだが、この書類は強制力の強いものだな」


 シズさんもハルカさんと一緒に書類内容を確かめているが、確かに裏にも表にもかなり複雑な魔法陣が描かれている。裏表ということは、第2列、セカンド・スペルということだ。


「それだけ我が『帝国』にとって重要な案件だとお考えください」


「書類上に書かれた場所や状況以外なら、特に問題はないわよ」


「ルカ様も同じ様な契約をされたことがあるですか?」


「神殿も相応に秘密は必要ですからね。従者たちにも、いずれそうした機会があるでしょう」


「心します」


 そんなことを話しているうちに契約も済み、書類は厳重に保管される。これを燃やすなり破棄すると、魔法も無効化してしまうからだ。

 ワゴンに載せられた書類が運ばれていくのを見送りつつ、再びエリート官僚が口を開いた。


「皆様、お手数をおかけしました。これにて全て終了という事でよろしいでしょうか」


「構いません。この度は、色々とお世話をお掛けしました」


「とんでもありません。我が『帝国』にとって、極めて有意義にございました」


「部下たちの最後を聞けたこと、其方らには感謝の言葉しかない」


 エリート官僚も顎髭のオッサンも、それぞれ真摯しんしに頭を下げる。

 国を背負う人になるだろうから基本的には演技なのだろうが、幾分かは当人達の感情も含まれていると思いたいところだ。


「それで皆様の今後のご予定は? 引き続きハーケンの街にご滞在されるのでしたら、その間は全て我が商館をお使いください。

 また、今後もお立ち寄りの時には、是非お声がけください。最大限のおもてなしをさせていただきます」


「ありがとうございます。ですが、そこまでご厚情に甘えるわけにはまいりません。神々に仕える者として、手厚すぎる歓待は時として魂の毒となってしまいます」


「これは浅慮な事を申しました。ご容赦ください。ですが『帝国』は、受けた恩は決して忘れません。出来る限りお力添えをさせていただきます。

 また、皆様へのご助力、歓迎は、今後『帝国』の影響が及ぶ全ての場所に及ぶ事を、頭の隅に留め置いてくださいますように」


 エリート官僚の人が慇懃に頭をさげる。

 お辞儀一つで、態度が昨日とはかなり違った印象を受ける。


「ありがとうございます。『帝国』のご厚情、お言葉、心に刻みつけましょう」


「はい。それで直近のご予定はどのように?」


「冒険者組合と神殿、魔導師協会と順に向かう予定です。全ての用事が済めばすぐにもハーケンを発つ予定ですので、これ以上ご好意に甘える必要もございませんでしょう」


「分かりました。それでは皆様がお発ちになるまで、巨鷲のお世話をさせていただきたく思いますが、いかがでしょうか?」


「世話係の人、すごく腕がいいよね。ボクからもお願いしてもいいかな?」


「もちろんです。レナ殿の言葉を伝えれば、馬丁たちもなお一層励むことでしょう」


 態度が良くなったとはいえ、おっさんの笑顔はそんなに見たいものじゃなかった。


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