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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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325「友の決断(2)」

「誰が白血球なの?」


 そこに皮肉まじりな涼やかな声が響いてきた。

 隣のテーブルで女子会中のハルカさんだ。

 魔力の多い『ダブル』の五感は普通の人よりかなり高性能になるので、喧騒の中でも隣のテーブルの会話が聞こえるのも普通のことだ。


 少し半目状態のハルカさんは、オレにとってはなじみのある表情だけど、他の男子諸君には慣れないものらしく誤摩化し笑いで応対している。

 しかしそれは悪手でしかない。

 彼女の表情はさらに悪化している。


「あ、アハハハ、ただの揶揄だよ。で、ハルカさんには、神殿から何か話しはきてないの?」


 怯まないジョージさんの果敢な応対に、ハルカさんは呆気なく表情を引っ込めた。

 まあ、本気でないのは分かっていたけど、根が真面目なので質問に答えるのを優先しただけだろう。


「ここの神殿にはまだこっちから行ってないし、フラフラしてる巡察官にわざわざ説明しに来たりしないわ。

 それよりハーケンの神殿は動いてないの? この辺だと規模も大きくて騎士団も多少は駐留してるから、動いてないとおかしいんだけど」


「さあ、その辺は俺達も神殿関係者じゃないし、ここのギルドで神殿に所属しているやつもいないしな」


「それに国の上と連絡取れないって噂だけで、交易とかは普通に動いてるし、あの国の都に害は及んでないらしいわ」


「ランバルトに入った『ダブル』もいるけど、アンデッドを見たって話は聞きません。ハルカさん達が『ダブル』では初見なくらいです」


 テーブルの向こう側の女子組も会話に入ってきた。

 しかしシズさんは静かにお酒を飲むだけで、何も語ろうとはしない。

 まあ、シズさんの過去を思えば、因果応報くらいにしか思ってないだろう。何しろランバルトは、ノール王国を一番激しく攻撃した国だ。


 年少組の二人は、敢えて小難しい話に加わろうとはせず、二人で他の話題で盛り上がっている。

 かくいうオレも、こっちに来たばかりのタクミがいる事もあって、積極的に面倒ごとに加わりたいとは思わない。

 そして小難しい話をしている人達も、大なり小なり面倒ごとに関わるべきじゃないという表情だ。

 代表してマリアさんが軽く肩を竦める。


「と、私達が何かを話したところで、大きな問題はこの世界の人達に任せるしかないのよね。それにアンデッドがらみは、冒険者ギルドは神殿との取り決めで頼まれない限り請け負わない事になってるし」


「『ダブル』のアンデッド嫌いは、連中も知ってるからな」


 とはジョージさんの言葉だ。さらにレンさんがオレとハルカさんの顔を交互に見る。


「そう言えば、ショウとハルカさんは前にアンデッド退治したんだっけ?」


「3日前ほど前にも少しね」


「100体以上のアンデッドを少しとか言わないだろ。で、あの時は?」


 ジョージさんの混ぜっ返しを受けつつ、少し記憶を思い返す。


「あの時は神殿じゃなくて、アクセルさんから国の依頼の形でしたね」


「フリーズスキャルブの大神殿にも神殿騎士団っていたよな」


「ええ、100人以上駐屯してるわ。けど、それが動き出す前に、迅速にケリを付けたってだけよ」


「あのキラキラ騎士様って、やっぱ有能なんだな」


 ハルカさんの話に、ジョージさんだけでなく皆感心している。


「今は一家を立てて男爵になってるわよ」


「対外的にってやつでは、ウルズで『魔女の亡霊』を退治した英雄だもんな」


「もう懐かしく感じるな」


 レンさんの言葉で、悠里とタクミ以外が懐かしげな表情や雰囲気になる。

 そしてタクミと顔が合って思い直す。

 今は感傷に浸るのはともかく、シズさんが何かを言わない限りシズさんのかたきの国がどうなろうと構わない。

 それより今は、タクミの事を考えないといけない。

 少し思案してから、少し誘導を試みる事にした。


「あれから一月半くらいしか経ってないですけどね。それより、ギルドは本当にアンデッドに関わっちゃダメなんですね」


「ええそうよ。少なくとも冒険者ギルドの名は出せないし、アンデッド退治でお金も取れないわね」


 マリアさんの言葉なら確実だろう。そしてもう一人。


「で、ハルカさんも手は出せないんだよな」


「ええ。不意に出くわすか、私が関わりある大神殿から要請でもされない限りね。

 それに私の関わっているノヴァトキオとフリズスキャールブの大神殿は、私の大巡礼の後援をしてる事になるから、亡者は現地の神殿騎士団に任せて早く次の聖地に行けってところでしょうね」


「それじゃあ、予定通り『帝国』にあるっていう空皇の聖地に行く方がいいんだな」


「え、ええ。……どうしたの?」


 オレの少し強引な話の持って行き方に、ハルカさんが首を傾げる。

 ここはちゃんと言っておいた方が良さそうだ。


「いやさあ、いつも周りの状況に振り回されてるから、確認しておきたくなって。それにタクミをアンデッド退治に巻き込めないだろ」


「ボクは気にしなくていいよ。ボクはしばらく、ショウ達と別行動をしてもいいかなって考えているし」


「そうなのか? 遠慮すんなよ」


「遠慮じゃないよ。まずは身の丈にあった事をしたいんだ。ここならボクと同じビギナーも沢山居るし、ギルドで訓練もできるからな。それに、最初にしっかり基礎を積んでおきたいってのはあるんだよ」


 タクミの堅実な言葉に、みんなウンウンと頷いている。

 旅は賑やかな方がいいが、いざと言う時のパーティー内の戦力がアンバランス過ぎるのも考えものだというのは、確かにオレにも理解はできた。

 全てを代弁してジョージさんが口にした。


「それがいいと思うぞ。兄弟達は、どっかネジが外れた強さだからな」


「それはよく分かりました。ショウ達にはこの3日ほど色々してもらってホント悪いんだけど、あれがひと月も続いたら、少し手加減してもらっても心身共に持たないよ」


 タクミの苦笑がちなごもっともな言葉に、オレ達は頭を下げるより他ない。シズさんまでが、ボクっ娘に「ホラ」と脇を小突かれて苦笑している。

 ただ、雰囲気がちょっと湿っぽい感じになったので、ボクっ娘がオレとハルカさんに視線を向けて小さくニヤリと笑う。話の出汁にするよって事だ。 


「でもさ、ハルカさんはビギナーのショウを連れ回したんだけど、この辺の事は何か考えなかったの?」


「ええ。偶然拾っただけだから、最初はどこかの村で分かれるつもりだったもの」


「えーっ、それ酷くない?」


 周りが半ば愛想笑いで笑顔になる。

 そしてその笑顔のまま、ハルカさんがオレの額を突く。


「最初は弱っちかったのに文句言わないの」


「でも方針替えたんだ」


 ボクっ娘が、興味深げにハルカさんに視線を向けている。

 ジョークの続きというには、意外に熱がこもっている。


「何しろこの無鉄砲さでしょう。危なっかしくて。それに思った以上に役に立ってくれてたから、このまま育てるのもいいかもって」


「育ち過ぎだろ」


「子犬を拾ったと思ったら狼だったってオチだな」


 ジョージさんとレンさんが突っ込む。そこにボクっ娘が畳み掛けて来る。


「なんだか、ペットブリーダーみたいだね」


「みたいなものよ。餌付けして笑顔を向ければ頑張ってくれたもの」


「だってさ。何か一言は?」


「せめて師匠と弟子くらいに思ってて欲しかった」


 わざとガックリ項を垂れるオレに、周りからは好意的な笑い声が響く。

 まあ、悠里はケラケラと大声で笑ってるけど。

 そして一通り笑い終わってから、そこで顔を上げてタクミを見る。


「ま、こんな扱いで良ければ、一緒に来るか?」


「ありがとう。けどそれは、ボクがもう少し強くなってからだな」


 タクミが笑いながら小さく手を横に振る。

 その言葉を受けて、ジョージさんがパンと大きく両手を叩く。


「よしっ! じゃあ今からメンバー探しだな。タクミ、保護者の付き添いはいるか?」


「それじゃあ、他のみんなへの紹介だけお願いします」


「おうっ。みんなー聞いてくれ! さっき紹介したタクミだけどな、お試しでもいいからどこかのパーティーに入りたいんだとさ。順番に回ってくから、フィーリングとか確認し合ってくれないか」


「と言ってるが、ここに居るビギナー連中は実戦未経験も多いし、まだパーティーもまともに組んでないから、気楽に行ってこい」


「ハイ。ありがとうございます」


 レンさんのアドバイスで、タクミが立ち上がりテーブルを離れようとする。


「タクミ」


「ん?」


「待ってるぞ」


「ああ。すぐに追いつくよ」


 そう言ってグータッチして、その場を分かれた。

 そうしてタクミの後ろ姿を見送ったが、よくよく考えればこうした情景が本来の『ビギナー』の始まりなんだろう。

 そういう意味では、一人で戦って死にかけたところを偶然ハルカさんに助けられたオレは、かなりイレギュラーと言える。

 何となくそれを確かめる気になった。


「普通の始まりってこんな感じ?」


 ハルカさんと同じテーブルからは、悠里も興味深げな表情を向けてきている。

 そう言えば悠里も、オレとは違う状況ながらイレギュラーな環境で過ごして来たのだ。


「そうね。回収の時のトラブルを除けば、こんなもんじゃないかしら」


「ハルカさんも?」


「私は男子が群がってきて、ドン引きだったわ」


 思い出したのだろう、本当に嫌そうな表情を浮かべる。

 この表情は向けられたくない。


「そりゃ災難だったな」


「ええ、ホントに。中身は中学生なのに、見た目は今と大して変わらないでしょう。もう、本当にトラウマものだったわよ」


 本当に嫌そう&げんなりした顔と声だ。

 ハルカさんが、男性と距離を置いたり恋愛に対して少し独特な感覚な理由を、初めて知った気がした。

 しかも隣では、シズさんも肩を竦めている。どうやら似たようなものだったらしい。

 今更だけど、美人も色々大変なようだ。


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