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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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323「スパルタ・レベリング(2)」

 その後の戦闘は、オレにとってはたいした事は無かった。

 魔物は上級のゴブリンとホブゴブリンがせいぜいだ。

 追い立てる際に使ったマジックミサイルで既に数も半数程に減っていたので、タクミが必死に目の前の敵を倒して行くのに合わせて、タクミに襲いかかろうとする余分な魔物を中心に倒していく。

 オレに向かってくるのは、この際ついででしかない。


 戦いが終わる頃には、ハルカさんとシズさんもそれぞれオレ達の左右の斜め前から姿を見せて、互いの視線でこの辺りにこれ以上魔物がいないことを確認し合う。

 そしてオレ達がお膳立てを整えたタクミだけど、タクミが最後に相手にしたリーダーのエルダー・ゴブリンを何とか倒すと、その場に槍を支えにしつつも座り込んでいた。息もかなり荒い。


「お疲れさん。やるじゃん」


 労いと士気の鼓舞も兼ねてサムズアップする。


「そ、そうか? 必死だった」


「最後のエルダーゴブリンは確かCランクだし、それを無傷で一人で倒したんだから、タクミはCかそれ以上って事だな」


「最初からCランクは少ないんだっけ?」


 少し期待を込めた視線が、オレだけでなくみんなに注がれる。


「ええ、前兆夢で粘ったって聞いたけど、その甲斐があったんだと思うわ」


「そうだな。だが、まだ座っていてはダメだぞ」


「まだ何かあるんですか、シズさん?」


「魔物はCランクくらいから、体内に魔石が形成される。自分で倒したのならその戦果を得ないとな」


 シズさんは意外にスパルタに見えるけど、自分基準で言っているだけで当人に厳しい事を言っている気はない。

 その辺は、ハルカさんにも当てはまる。二人とも優秀なわけだと、こういうところからも納得させられる。


 それはともかく、最近は龍や悪魔相手くらいじゃないと魔石集めしなくなっていたが、これも魔物と戦う醍醐味の一つだ。

 是非ともタクミには体験してもらいたいとオレも思う。


「一人で立てるか?」


「ああ、大丈夫だ。けど、ショウの言った通り、刺す時はちょっと気持ち悪いな」


 そう言いつつ、槍を持っていない手を少し見つめている。

 その気持ちはよく分かる。今でも慣れただけで気持ちのいいものじゃない。


「ちょっとか? オレ最初のとき吐きそうになったぞ」


「そういやそう言ってたな。流石ショウだな」


「だろ。それに比べたら大したもんだよ」


「さんきゅ。じゃ、解体といきますか」


 と、既に魔力の拡散を伝えるもやが上がりつつある大柄のゴブリンに向かうタクミだったが、上空からの声が無慈悲に響いた。


「大きな群れ見つけたーっ! みんなライムに乗るか手足に掴まってーっ! 遅れたら逃げられるーっ!」


 そう言えば妹様は、竜人や獣人という人より戦闘力の高い種族の、しかも戦闘職から諸々を叩き込まれていた。

 今まで普通に横に並んでいたので気にもしてなかったが、戦闘時はかなりの脳筋キャラと化している。


 しかも、こと戦闘に関する限り、ビギナー相手でも容赦ないらしい。

 これはタクミに少し同情したくなる。

 けど、超えれば短期間で強くなる道も見えると思い直し、タクミの肩を叩いてサムズアップした。




「で、ボクがお使いに行っている間に、パワーレベリングしたのはともかく、1日に5回も魔物の群れと戦わせたの?」


 ハーケンから戻るなり、ボクっ娘が呆れ気味に言葉を返して来た。


(うん。呆れるのは尤もだよな)


 しかし、お小言を言われた他の3人は、ちょっと意外もしくは心外と言いたげな表情だ。

 振り回されたタクミは、その言葉を聞くまでは気力で立っていたが、その場で「えーっ」とすら言えない程の疲労具合でへたり込んだ。


 そしてさらに何かを言おうとしたボクっ娘は、全員を見渡して小さくため息を付く。


「ボクがブレーキ役とかキャラじゃないんだけど、もっと加減してあげなきゃ」


「け、けどレナ、エルブルスじゃあこんな感じだったよ」


「それどこの海兵隊? って聞きたくなるけど、ユーリの育った場所は獣人と竜人の里だったね」


「そ、そうだよ。私はこれでもヌルいって思ってたし」


 悠里の言葉に、ガトウさんとホランさんのいい笑顔が目に浮かぶ。

 そう思ったのはボクっ娘も同じようだ。


「もしかして、ハルカさんがスパルタ気味なのも、エルブルスで鍛えたからとか?」


「いいえ。私的にはこんなものとしか。ショウも普通に付いて来れてたし」


「私も、訓練や練習はともかく、実戦でこの程度は普通だと思っていた」


 二人とも心外だと言いたげだけど、ボクっ娘には別の意見があるようだ。


「二人とも、昔のお仲間はよく付いて来れたね」


 ボクっ娘の呆れ気味の言葉に、二人が少し思案げな表情を浮かべる。どうだったか思い出しているのだろうけど、そういえば的な表情をほぼ同時に浮かべる。

 それを見て、ボクっ娘が再び小さく溜息を付く。


「思い当たることがあるんだね。なんだか、ハルカさんにチャラ男が寄って来ないのと、格好いい女の子のお友達が多いのが納得だよ」


 そしてへたり込んでいるタクミの側まで歩くと、ペタンとしゃがみ込む。


「タクミン、聞いての通りみんな悪気はないんだ。ショウは単にスパルタに慣れてて鈍感なだけだし」


「あ、ありがとう。でも、ショウに出来てボクに出来ないとかない筈だし、大丈夫。うん、大丈夫」


 顔を上げたタクミだけど、確かに心身共に疲れ果てたといった表情だ。


「大丈夫じゃないでしょ。無理は禁物だよ。それでドロップアウトって事もあるんだから」


「そうなんだ」


 とは、オレの口から思わず漏れた言葉だ。

 タクミだけじゃなくて、他の3人も知らなかったという表情を浮かべている。

 その後はタクミへの平謝りと、今後気をつけようという話になり、次の寝床を求めて移動することにする。


 時間的にはアクセルさんの領地のランドールまで行けなくもなかったが、タクミにもう数日冒険的な体験をさせてあげたいというのと、悠里が夕方前に魔物の大きな群れを見つけた事もあり、昨日と同じ場所での滞在という事になった。


 アクセルさんには逢いたいが、分かれてまだひと月程だし、そこまで懐かしむ必要もないだろう。

 それでもこっちでの一日一日が濃厚なので、もう随分逢っていない気がしていた。



「なにエモッてるの?」


 野営する廃村の神殿の側で、何となく夕陽を見ているといつの間にかハルカさんが側に来ていた。

 タクミは一人で動くのも必要だという事で、別の廃屋で薪に使う木材を調達中だ。他のみんなは、相棒の相手をしたり、魔法結界を施し直したりしている。


 また、クロは周囲の警戒に出してあるので、今日の夕食当番はオレとハルカさんだ。

 そしてオレは、井戸で水を調達するべく外を出たところで立ち止まっていたので、ハルカさんが声をかけてきたという状況なだけだ。


「アクセルさんと分かれてまだひと月程なのに、随分会ってない気がして」


「近くまで来てるとはいえ、まずは目の前の友達の事を考えなさいよ」


 と言って、人差し指でオレの額を軽く小突く。

 このところ、オレを小突くのがハルカさんの癖の様になりつつある気がする。


「タクミは側にいるし、あっちでも毎日会えるけど、確かにもうちょっと考えてやらないとな」


「そうよ。ま、私もダメダメだったけど」


 そう言ってつく溜息は、少し大きめだ。


「オレはハルカさんがダメダメって思った事無いんだけどな」


「そりゃどうも。けど、レナの言う通りだと思うわ」


「タクミなら大丈夫と思うけど、そういう楽観がダメなんだな」


 こういう楽観視もあるのだと、二人して苦笑いするしかない。


「ま、そういう事ね。それより、早く水の追加お願いね。あと、向こうで鍛えた料理の腕は期待してもいいの?」


「ファミレスの調理って言っても、半分出来ている材料を機械で焼いたり温めたりばっかりで、それすらまだあんまりさせてもらえてないよ。ハルカさんに仕込まれた時の方が、よっぽどちゃんとしてるって」


「なら、私直伝の味を見てあげるわ」


「うわっ、ハードル高っ。ちゃんと見ててくれよ」


「はいはい。口より体動かす。最近、クロのおかげで怠け者になってるでしょ」


 ハルカさんの言葉に急かされて動きを再開させたのだけど、やっぱり彼女はスパルタ気味だと再認識させられた。


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