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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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321「自己紹介(2)」

「それと、これはショウから聞いたんですが、この世界に長い間留まるにはこの世界の為になる知識や技術か、何か公的な意味を持つ目的があった方がいいって。

 でもボク自身には、この世界を満喫したいって以外にないし、この世界の為になる知識や技術があるわけでもないので、まずはショウの手伝いが出来ればって考えてたんです」


 その言葉に、それぞれがそれぞれの顔を交互に見合う。そしてオレに視線が注がれる。

 それを決めさせろというわけだ。

 しかしそこは空気を読める男、タクミは少し考える表情を浮かべた後、少し伏せていた顔をあげた。


「……そっか。いきなりで色々話を聞くのも失礼だよな」


「それはオレ以外のそれぞれが決める事だけど、多分けっこう大変だと思うぞ。実際、結果的に手がかりらしいものを手に入れるのに、死にそうになった事も一回や二回じゃないからな」


「そっちに話を振られると、ボクには選択肢は一つしか無いよ。さっきの話じゃないけど、夕方の戦闘見ても今のボクが足手まといなのはよく分かったから」


「そんなに思ってたのと違ってたか?」


「空を飛んで来たのは想定内だったけど、いきなり飛び降りて見た目からして強そうなモンスターを一撃で次々に倒していくのなんて見たら、今のボクとの違いくらい分かるって。ハリウッド映画かアニメをリアルで見てる気分だったよ」


 そう言うと、タクミは大きく肩をすくめる。表情は少しおどけているが、冗談ではなく本気の言葉のようだ。

 それには頭をかくしかない。


「そっか。そんなに違ってるんだな」


「荒事ばっかりだから、感覚が麻痺してるのよ」


 ハルカさんの苦笑混じりの言葉に、みんなが苦笑なり首を縦に振るなりで賛同を示した。


「ショウの話からそんな気はしてた。他の向こうで見る話とかに、ショウくらい激しいものは滅多に見ないしな」


「けどさ、今は大巡礼で世界中の聖地に行く事と、ちょっと特殊な魔導器を調べる事が目的だから、荒事というか戦闘をこっちから仕掛けにいく気はないんだけどな」


「ノヴァに行く時も、そのつもりが戦争に巻き込まれたんだよねー」


「あれは不可抗力だろ」


「それを言うなら、既にその不可抗力に巻き込まれいるんじゃないか?」


「あの亡者の群れは、1日2日で出現したものじゃないものね」


 シズさんの言葉に、ハルカさんがかなり深刻そうな表情を浮かべる。

 けどボクっ娘は、そのハルカさんに顔を向けつつ口にした。


「アンデッドは問題だけど、それはこの地の神殿組織か、さらに上位の組織がする事だよね。ハルカさんは神殿の名のもとに大巡礼してるから、下手に手を出しちゃダメだよ」


 ボクっ娘は、神殿で郵便屋のアルバイトをしていると言うだけあって神殿のルールも詳しい。

 それに元気キャラだけど、意外にシビアな面も持っている。


 しかしそれまでの一見能天気な表情からの変化に、タクミだけじゃなくて悠里も少し意外そうな表情をしている。

そしてその事はハルカさんも分かっている筈で、実際少し溜息と言えるように息を吐く。


「そうよね。事がノヴァやアースガルズならともかく、簡単に手を出せないわよね。ご免なさいね、変な事を言って」


「それは私の方だ。だが、神殿も面倒なんだな」


「そりゃあオクシデント最大の組織だもの。自由の利く疾風の騎士や神殿巡察官でも、限界があるのよ。まあ、面倒も背負わなくていいんだけど」


 話が少し重い方向にいっているが、やはり一番我慢出来なくなったのはボクっ娘だった。

 悠里も同じように思っている感じだけど、それをすぐに言葉や行動にできるのがボクっ娘の良いところだ。


「ま、面倒な話は後回しにして、今はタクミ君の歓迎しようよ。いい匂いもしてきたし」


「そうね。けど、本格的な歓迎会はハーケンに戻ってからでいいんじゃないかしら」


「そ、そうですよね。タクミさんみたいに新しくこっちに来た人も沢山いるみたいだし、顔合わせとかも歓迎会ですればいいと思います。ハァ」


 悠里の言葉の最後は盛大な安堵の溜め息だ。

 アンデッドの話を思いの外緊張して話を聞いていたらしく、やっと言いたい事が言えたといった感じだ。けどそれで、周りも和やかな空気になった。

 こういう天然イノセンスは、お子様の特権だ。


「ホントそうだな。それじゃあ、タクミ君のお腹も鳴りっ放しな事だし、まずは夕食にしよう」


「という訳だクロ」


「はい。皆様大変お待たせ致しました。夕餉をお持ちいたしました」


 少し前から入るタイミングを見計らっていたクロが、鍋を抱えて入って来た。


(そう言えば、最初の頃以外に野営飯って作ってないし、タクミにもそういう事を体験させてやりたいな)


 クロにシチューを入れた木皿をもらいつつ思ったが、思えばハルカさんと二人で旅をしていた頃とは大違いだ。

 タクミを迎え入れて、仲間も6人にも増えた。


 空で移動している時点で大きく違っているけど、タクミは最初からこれだとちょっとぬる過ぎるから、鍛えるなら少し考えた方がいいかもと思える。

 けど、別の認識の差について、寝る前にタクミに指摘されてしまう事となった。




「えっと、全員一緒に寝るのか?」


「ああ。野営の不寝番は、基本クロとアイがしてくれるからな」


「ゴーレムだから寝なくていいってのは分かるけど、言いたいのはそうじゃないって」


「やっぱり、アンデッドが気になるのかしら?」


 タクミとオレの問答に、ハルカさんも首を傾げる。

 少し酒の入っているシズさんは、ボクっ娘を抱き枕にしてさっそく横になっていて、悠里もハルカさんの側に寄り添おうと移動中だ。

 それをオレとタクミが、たき火を挟んだ対面から見ている。


 厨房は使える程度に無事だったけど、暖炉のある部屋が確保出来なかったので、これは受け入れざるを得ないだろう。

 そんな事を思いつつ、タクミの考えを推論しつつ口を開く。


「無事な家や部屋を探してそこで寝るか?」


「それは止めた方がいいわよ。ここは半壊してるとは言え神殿だから、建物も丈夫だし魔物除けの魔法の効果も高いのよ」


「いや、その辺はみなさん信頼してますけど、男女一緒に寝るわけですよね」


「一塊で寝るのは野営の鉄則だぞ。離れて寝るとか不用心だろ」


「でも、男子と女子だろ」


 ああ、そういう事を言いたいのか。と、オレも他のみんなも合点がいった。

 そしてシズさんが苦笑する。


「まあ、ビギナーあるあるだな」


「私、もう慣れました」


「気持ちは分からなくはないけど、慣れるしかないわよね」


「それにタクミンは、可愛い女子が側で寝てても悪さはしないよね」


 4人がそれぞれの反応を示す。そしてオレも、タクミの肩に手を置いて顔も向ける。


「これもみんなから信頼を得るための試練だと思え。でなきゃ、ハーケンでお別れだ」


 オレの言葉に、タクミがしばらくオレをマジマジと見つめる。


「……。ショウって実は凄いヤツ? それとも朴念仁?」


「朴念仁じゃないよね。彼女が二人いて、エロい事もしてるんだし」


 こういう時ボクっ娘は、ほぼ必ず爆弾を放り込んでくる。

 面白がっての事なのは分かるけど、それだけじゃないのも垣間見えるので、ちょっと考えさせられてしまいそうになる。


「ショウはヘタレなんだから、レナが期待する程の事はしてないわよ」


「またまたー。って、今はタクミンの話しか。一緒は無理そう?」


「い、いや、ボクは全然自制できるけど、みんなはいいんだね」


 その言葉を受けて、女性陣は互いに顔を向け合う。

 そしてハルカさんが、代表してタクミに向き合う。


「じゃあ、今夜は交替で夜番してみる? 少しは一緒に寝る意味とか分かると思うんだけど」


「確かに体験しないと分かり辛い事はあるだろうな」


「じゃ決まりだね。6人だし3組に分かれる?」


「ですね。じゃあ、男二人と……」


 そこで女子4人が、それぞれ目線を交わす。

 朝の弱いシズさんと超早起きなボクっ娘が別になるので、組み合わせは決まったようなものだ。


「私とレナ。シズとユーリちゃんでいいかしら」


「最初の番は私にしてくれ」


「ショウとタクミンは、体験の為にも真ん中ね」


「りょーかい。いいよな」


「あ、ああ、分かった」


 ポンポンと決まる状況に、タクミが少し尻込みしていたが、男女同衾という状況自体は野営の夜番で流されてしまった。

 まあ、野営の夜番は、確かに冒険の醍醐味の一つだ。タクミに体験させて悪い事はないだろう。


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