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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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320「自己紹介(1)」

 少し崩れた石造りの部屋の中で、たき火を中心にしてみんな向き合っている。


 クロは食事の準備、アイは念のため外の警戒で外れているので、居るのはオレ達6人だけだ。

 屋根も天井も半ば崩れ落ちて無いので、見上げると巨大な朧月を見る事ができる。


 部屋の中は、崩れたとはいえ四方を壁で囲まれているし、シズさんの幻影の魔法の一種で外からは見えないようにもされているので、魔法の明かりを加えてかなり明るい。


「腹ぺこなタクミには悪いけど、食事の前に軽く自己紹介いいかな?」


 オレの言葉に、全員がそれぞれ仕草や短い言葉で賛成してくれた。

 手に手にお茶を入れたカップを持っているが、隣の厨房ではクロがシチューを作ってるので夕食はもう少し先だ。

 言葉の最後にタクミに視線を向けると、オレの言葉を受けてタクミが持っていたカップを置いて立ち上がる。


「初めまして。じゃない人もいるけど、タクミです。こっちではどう名乗ろうかとか色々考えてただけど、顔見知りもいるのでこのままいきます。

 えーっと、これ以上話すと学校での自己紹介みたいになりそうなんだけど、もう必要ないかな」


「ええ。ショウの友達でいいのよね」


「部活とバイト仲間ですね」


「あと、『アナザー』の事でオレに付きまとっていたから、みんなの事とこっちでのオレが関わった事はかなり知ってるんで、あんまり話さなくてもいいよ」


 オレの言葉にハルカさんが、眉を少しひそめる。それを見つつ言葉を足す。


「ただ、タクミに話してる内容は個人情報は抜いてるし、もちろんだけど込み入った事は話してないから」


「じゃあ、私の事は名前も知らないって事でいいの?」


 言いながら、ゆっくりとそして小さく首を傾げる。


「はい。おおよその能力とか何をしたかはともかく、美人の神官戦士てだけです」


 タクミの『美人』をあえて強調した言葉に、ハルカさんが笑みを浮かべる。その笑みは社交辞令的なものだけど、個人情報が話されてない事への安堵が含まれていた。

 てか、美人な事を全く否定しないのは、いつもながらちょっと感心してしまう。


「じゃあ始めましてね。ハルカです。ルカで通してるけど、親しい人はハルカって呼ぶわ。よろしくね、タクミ君」


「はい。よろしくお願いします」


「で、ショウの彼女さんだよ」


 ボクっ娘がいきなり爆弾を放り込んできた。

 シズさん以外は、「いきなり言うか」と大なり小なり一様に驚いている。

 そしてタクミがオレへ説明しろと視線を向けてくる。

 

「キツいパンチ一発くれって言った意味が少しは分かったか?」


「前々から少し思ってたけどな。で、殴ればいいか?」


「一応話し聞いてからにしてくれ。パンチの意味が違ってくる」


「それもそうか」


「あの、どうしてタクミ君がショウを殴るのか聞いていい?」


 ハルカさんは、自分も当事者だという目線だ。

 これはまずオレが話すべきだろう。


「タクミ、オレはこっちでハルカさんとつき合ってて、向こうでは天沢玲奈とつき合ってる。この点で言い訳する事はない」


「で、それを両者認めてるって事か。ボクはショウが下衆なのを糾弾して殴ればいいんだろうけど、どうなってるんだ?」


「それは、私が向こうでショウに逢えないからなの。理由はちょっと秘密にさせてもらいたいのだけど」


「海外在住とかなんでしょう。それは構いませんが、どうして?」


 ある種自己完結なタクミの疑いもしない言葉に、心の痛みを感じるかどうかの事がなければ、普通はそういう風に考えるかと逆に少し感心した。


「ショウを、互いの場所で別の彼女を作ったり浮気させないためだよ。もう一人の天沢さんは、ボクがこの体に居座ってるせいで、こっちでショウに逢えないからね」


 ボクっ娘が、もう一人の当事者の代役として代弁する。口調はいつも通りだけど、表情は真面目だ。

 それに対してタクミは、ボクっ娘、ハルカさん、そしてオレへと視線を動かしていく。


「……分かった。でも、可愛い彼女二人もとかちょーウザイから、一発殴らせろ。それでボクは以後何も言わない」


「おーけー。けど、向こうでやってくれ。こっちだとタクミのパンチは多分効かないから、有り難みが無い」


「手加減無しでも効かないのか?」


 言われてみて、最近力の差を図ってない事に気づく。

 魔力のない人への対処もあるので、ここは多少なりとも把握しておきたいところだ。


「魔力総量が違い過ぎるからな。今のオレとタクミじゃあ……どのくらい差があるかな? ゾウと人くらい?」


「それくらい自分で把握しときなさいよ」


 分からないから聞いたのに、ハルカさんに呆れられた。

 いや、ここに居るタクミ以外は、『ダブル』基準でのSランクばかりだ。オレが知らなくてもみんな知ってると思って聞いたのだから、確かに呆れられるのかも。


 しかしそれぞれも能力やタクミとの差を考えると、簡単に答えは出ないようだ。

 みんなどう答えようかと思ったが、最初に口を開いたのはやはりシズさんだった。


「『ダブル』が作った基準も曖昧だから一概には言えないが、ランクが1つ違うと5人分もしくは5倍の強さの開きがあると規定している。

 ショウがSでタクミ君はC程度なので、125倍の差という事になるな。けどこんな数字を聞いたところで、よく分からないだろう」


 タクミが頷くし、オレを含めてみんなも頷いてしまう。

 みんなも、自分の腕力とかあまり分かってないのだろう。


「だからタクミ君は、兵士5人かオーガを相手に出来る。ショウは600人ほどの兵士と互角に戦える、くらいに思うしかないな。単純な筋力などは、もう感覚的に気を付けていくしかない」


「けどオレ、こないだ魔物の群れの100人斬りで、半分も倒せずにほぼ戦闘不能でしたよ」


「いや、あの中に強い魔物も沢山いたじゃん。魔法もバンバン飛んでたし。ちょーバカじゃないの?」


 状況を見ていた悠里が、容赦のない一言を浴びせてくる。

 いつもの事だけど、悠里を守る為でもあったんだから、流石にもうちょっと言葉を選んでほしいと思う。

 けどその言葉にタクミが笑う。


「ショウは相変わらず無謀だな。で、そのショウと仲が良さそうなんだけど?」


「イヤ、ナイナイ、ありえない。私はこいつの妹の悠里です。よろしくお願いします」


 タクミの誘導を慌てて否定してから、悠里がぺこりと頭を下げる。こういうところは躾が行き届いている。


「うん。初めまして。妹さんがいたんだな」


「言った事なかったっけ?」


「初耳だ。まあ、ボクも家族の事とか話した事はないけどさ」


 そう言えば、オレはタクミの事を殆ど何も知らない。タクミも同じだし、学校の友達だと話す機会でもないと知る事もないのは普通の事なので気にもならない。


「そうか。まあ、そういう事だ。ちなみにオレ、こいつの召還に巻き込まれてこっちに来られたみたいなんだ」


「へーっ、そういう事もあるんだな」


「ああ。だから前兆夢が無かったみたいなんだよ」


 そう言って肩を竦めた。


「なるほどねえ。ショウは最初からトラブルに好かれてたんだな」


「好かれたくないっての。まあ、お陰でハルカさんに出逢えたんだけどな」


「はいはい、のろけてないで続けよう。って、ボクってどこまで言えばいいのかな?」


「天沢さんから一通り。でも、ボクを担いでるんじゃないんだよね」


「そう思う?」


 そこでタクミが、ボクっ娘に真剣な眼差しを返しつつ少し考え込む。

 ボクっ娘の方はやや挑戦的な表情だ。

 そして数秒後、タクミが軽く両手を上げる。


「雰囲気は違う気はするけど、正直分からない。向こうでも天沢さんに言ったけど、保留でいいかな?」


「全然オーケーだよ。ぶっちゃけボクら自身でも、よく分かってない事が多いしね」


「それじゃあ、最後は私になるが、私の自己紹介は必要かな?」


 ボクっ娘から引き継いで、シズさんが敢えて耳と尻尾を動かしながら話しかける。

 それを改めて見たタクミは、まだ不思議そうな表情が残っていた。


「はい。正直すげー驚いてますけど、むしろショウの話との矛盾が少し埋まりました」


「それは何より。まあ、このなりについて話すには、ちょっと込み入っているので簡単には話せないんだがな」


 シズさんが、耳をぴこぴこと動かしておどけた表情を浮かべる。

 それにタクミは苦笑するも、すぐに真面目な表情に戻った。


「全然構いません。ところで、皆さんがショウと一緒に行動しているのは、何か目的があるって事でいいんでしょうか?」


「どうしてそう思うのかしら?」


 ハルカさんが、少し探るような表情でタクミを見る。

 タクミもそれを正面から受けるが、見つめ合うというより根比べな感じがする。

 そして根負けしたのはタクミだった。


「その、ショウが何か目的があって行動してるっぽいというのを、何となく感じているからなんです。

 ただショウは、ボクには具体的な事は何も話してません。それでも、何か手伝えればって気持ちはあるんです」


 そこで一度言葉を切って、全員を見渡す。


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