318「友の合流(1)」
翌日の昼から、旧ノール王国の上空を飛んでいた。
ヴァイスにはライダーのボクっ娘以外にオレとハルカさんが、悠里のライムにはシズさんと護衛のキューブゴーレムのアイが乗っている。
クロはオレの懐で、新たなオレンジ色のキューブも、未だ何の反応も見せないけどハルカさんが持ち歩いている。
そして二手に分かれて探しているので、今はそれぞれ単騎で空の上だ。
「丘から海が見えたってことは、やっぱりランバルト王国寄りかしら」
「その辺はオレよりハルカさんが詳しいから、判断は任せるよ」
「それ以上の情報はないのよね」
「うん。朝言った通り。ただ人のいない荒廃した場所だから、ランバルト王国やオレ達の知っているノール王国の東の方じゃないと思う」
「そうよね」
「まあ、狼煙あげてくれるんなら、のんびり飛びながら待つしかないねー」
一番前からゴーグルを被ったボクっ娘が、ややのんびりした口調で会話に加わる。
こっちとしては、飛行コースや高度もボクっ娘に頼っている状況なので、空の専門家の意見には従うより他ない。
それに飛行コースも、廃村から廃村を道沿いに飛ぶようにしているので、焦らずともいつかビンゴする筈だった。
しかもこっちは、ゆっくり飛ぶとはいえかなりの速度で飛行しているので、野営覚悟ならノール王国の荒廃した地域のほぼ全てをカバーできる。
「けど空が靄ってて、煙が発見しにくいわね」
「これは誤算だったかな」
「北の空は、こういう天気もけっこうあるんだけどね。タクミ君の運は今ひとつなのかも」
「そういや、曇りの日が多かったな」
言葉にした通り、靄ががっていて見通しがいいとは言えない。
それでも雨や深い曇りでないだけマシだ。北の大地は、総じて晴れの日が少ない。
「まあ、タクミがこれを見越して何か考えてくれればいいけどな」
「と言っても、濃い黒煙を上げるようにするか、建物くらいの大きなものを激しい勢いで燃やすかってとこね」
「だね。けど、そろそろ合流時間だよ」
ボクっ娘の言う通り、斜め前方から近づいて来る飛行物体があった。
蒼い鱗を持つドラゴン、悠里のライムで間違いない。
両者互いに接近するので、すぐにも落ち合ってゆっくりとした平行飛行に移る。
「その様子だと収穫無しか?」
「見りゃ分かるだろって言いたいけど、飛馬乗りに会った」
「飛馬乗り?」
「アースガルズ王国の警備隊だった」
「私の姿を知っていたので、多少話も聞けたよ」
「何か分かりましたか?」
そう聞くと、二人は少し深刻そうな表情を浮かべる。
そして口を開いたのはシズさんだ。
「南のランバルト王国の一部で、亡者が溢れているらしい」
「亡者? どこから?」
ハルカさんの声が厳し目だ。
「前の戦争の取りこぼしじゃないかと見ているらしいが、アースガルズには情報が入ってないそうだ」
「それで境界線の辺りを見張ってるんだってさ」
「ハーケンでもそんな話無かったわよね」
「マリアさん達も言ってなかったよね」
亡者が溢れたという話は、オレが出現して二週間くらいの時の事件を思い出す。
しかし、あれから2ヶ月半も経っている。ノール王国がらみのアンデッドが、今更溢れたりするのだろうか。
そうして考えていると、前に座るハルカさんがこっちに顔を向けてきたが、判らないという表情だ。
「考えていても仕方がない。元宮君の言う通りの場所なら、もう少し海寄りを重点的に探してみないか?」
同じ事を考えていたのか、シズさんが明確な言葉で提案してきた。それに異存はなく、こっちの3人もほぼ同時に頷く。
そして再び分かれて空からの捜索を続けたが、徐々に太陽の傾きが大きくなっていった。
夏至の頃はいつ沈むのかと思った事もある太陽だけど、9月になると6時台には日没を迎える。
そして既に大陽は地平線に近づいているので、午後5時を回っているのは確実だ。
(タクミには悪いが、そろそろ野営の事を考えないとな)
そう思った時だった。
「見て! 右前方に火の手が見えるよ!」
「とにかく行ってみよう!」
「そうね。タクミ君じゃなくても、あの火は誰かを呼んでるものよ」
ボクっ娘の鋭い声と、戦闘モードに入った猛禽類のような視線と指差した先に、確かに火が見える。
更に言えば、その炎から立ち上る煙も見る事ができた。
探している時にハルカさんが何となく言っていたが、タクミは黒煙よりも大きな火で見つけてもらう方法を採用したのだろうか。
そう思いつつ周囲の地形を確かめると、少し離れた場所に小さな山ほどの丘があって、そこからなら南に広がる海が見えるだろう。
それを確認して、タクミが居る確信が強まる。
少し近づくと、廃村の中の建物の一つが激しく燃えているのが見えた。これだけ火が大きければ、確かに遠くからでも見える訳だ。
さらによく見ると、既に何件かが燃え尽きた感じで黒いシミになっているので、根気強く1軒ずつ燃やしていったようだ。
ただ、様子が少しおかしい。
その廃村の周囲で動いている「もの」が1人ではないからだ。多数、いや沢山と言っていい数だ。
「あのさ、あれって、あれだよね」
「ええ、亡者ね」
ボクっ娘が言葉を濁したのに、ハルカさんは容赦なく現実を口にする。
「タクミ、もうゾンビになったのかなあ」
「縁起でもない事言わないの」
「そうだよ。とにかく急ぐよ!」
やおらボクっ娘がヴァイスの速度を上げる。戦闘速度というやつで、魔力の薄い膜で包まれていても強い風を感じる事ができる。
そしてあと少しというところで、亡者の群れを薙ぎ払う現象が目に飛び込んで来た。
カマイタチ状の竜巻が一線上に放出され、骸骨を中心とした亡者の群れをなぎ倒す。
「魔法だ!」
「あれは魔法剣よ」
「行くよ、二人とも!」
「ああっ! 低空でよろしく!」
「また紐無しバンジーかあ。ショウと一緒だと、いつもこうね」
「いや、今回の原因はオレじゃなくてタクミだろ」
ハルカさんがやれやれと言った感じで、またがった姿勢から膝付き姿勢に変化させる。
オレも同様に、ヴァイスから飛び降りる準備だ。
口では愚痴を言っているハルカさんだけど、やる気は満々だ。
しかしそれを、ボクっ娘が視線で止める。
「最初の通過はヴァイスの風圧でガイコツの群れを吹き飛ばすから、二回目の通過で飛び降りてね!」
「最初はダメか?!」
「それは止めて。ヴァイスが迷惑するから」
振り向きつつの横顔ながら、マジ顔&マジ声で否定された。
「り、了解。じゃ、一発目はよろしく!」
「はいよ。じゃ少しスピード出すから、捕まっててよ!」
言うなり加速を始め、一気に低空に降りて地表すれすれを飛行する。
そして間近になって分かったが、逃げる人とそれを追いかける大勢の元人もしくは元動物がいる。
ほとんどは骨だけなのが、せめてもの救いだろう。
そして逃げている人のシルエットは、確かに見覚えを感じるものだ。
「初戦がアンデッドの群れとか、タクミはオレより運が悪いな」
そんな呟きは近くのハルカさんには聞こえたらしく、非難がましい視線を向けられた。
しかしそれも一瞬で、ヴァイスが地表すれすれを轟々と地表を風圧で吹き飛ばしながら通過する。
と言っても、ソニックバスターではない。単に凄い速度で凄い低空を通過しただけだ。
どれほど低空かと言えば、足で大きめのスケルトンを次々に突き飛ばしているくらいだ。
その間オレは、逃げている人に全神経を集中させる。
そしてその姿を確認する前から、サムズアップで通り過ぎた。
この体の動体視力だと特に問題なく捉えられたが、こっちに来たばかりで体が全然なじんでいないであろうタクミがこっちを捉えたかは疑問も有るが、ついでに笑みも浮かべておいてやる。
そしてヴァイスが短い旋回でくるりと空で踵を返すと、「それじゃお先に!」とドヤ顔でハルカさんが先に飛び降りる。
防御全開の輝く鎧姿で白く大きな鳥から飛び降りて行く様は、何やら神話の1ページを彷彿とさせると言えば言い過ぎだろうが、それでもファンタジー的情景だ。
タクミ一人にサービスし過ぎだろうとは思うが、そのすぐ後にオレも飛び降りたので、ハルカさんの演出は台無しかもしれない。
演出なしのオレは、色々な骨が合わさって巨大な前衛芸術と化している骨のアンデッドの親玉みたいなやつを狙って飛び降りる。
以前見た事もあるボーンゴーレムとでも呼ぶべき化け物だけど、今では大した魔力に感じないし、見てくれの不気味さとかは気にしたら負けだ。
飛び降りる際に、そのまま速度を利用してまっ二つに切り裂いていく。もちろん、魔力相殺を乗せてある。
だからだろう、斬ると同時にバラバラになっていった。
そして着地した後も、当たるを幸いに骨だけのアンデッドを砕いていく。
とはいえ、独特の臭いと砕く時の感覚は慣れるものではない。





