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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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138「再告白(1)」

 翌朝、豪華すぎる部屋のせいか、あまり眠れなかった。

 それ以前に、その間の現実世界とのギャップに少し戸惑った。


 『夢』を見るようになった頃は、野営だったり泊まったところが粗末すぎたりというギャップはあったが、こっちの方が精神的にギャップが大きかった。アクセルさんの館くらいがギリだ。

 どうやらオレは、セレブな生活は向かないらしい。


 現実では、いよいよ夏休みがスタートしたが、『夢』の向こうと違って何事もない。

 シズさんにはまだ家庭教師の件を話していないし、バイトの話は明後日なので、夏休み初日は丸一日夏休みの宿題に取り込んだ。

 何しろこの夏は、リアルでもかなり忙しくなりそうだから、先に進めておいた方が良い筈だからだ。



 そして『夢』のこちら側でも忙しくなりそうだと思ったせいか、結局二度寝は出来そうになかった。

 結局、部屋のベッドでゴロゴロしているのもなんなので、中央の豪華なリビングでくつろぐことにした。

 そこなら置きっ放しの無駄に豪華な軽食や飲み物もある。


 外はすでに薄明るいが、ハーケンも十分高緯度なせいなだけで、まだ3時か4時くらいだろう。

 当然リビングには誰もいないので、一人で飲食物を持ち出してぼーっと過ごす。

 こういう時間も、なかなかいいものだ。


 そうしておそらく30分も過ごしていると、扉の一つが開いた。


「えっ?」


 扉を開けて絶句してるのは、借り物の豪華なシルクのネグリジェ姿に髪を大雑把にまとめた就寝スタイルのハルカさんだ。


「よっ、おはよー」


 最初どこか眠たげだったが雰囲気も一瞬の事で、一度目を見開くとすぐにオレの顔をジト目の視線で射抜いてきた。


「おはよー、じゃないわよ。なんでもう起きてるの?」


「目が覚めたけど、二度寝できそうになかったから」


「そう言って、早朝からお酒でも飲んでるんじゃないでしょうね」


「さすがにそれはないって。お湯湧かしてあるから、コーヒーでも飲むか?」


 そう言ってカップを掲げる。

 陶磁器なのだけど、この世界では高価で珍しいものだ。


「……その前にお花摘み、って言葉を繕うどころじゃないわね」


 ブツブツと文句を言いつつ、オレを半ばスルーしてお手洗いへと消えていく。

 全体が独立した部屋なので、この世界では珍しく部屋の中に洗面所やお手洗い、簡易の湯浴み処まで据えられている。

 ついでに言えば簡易キッチンもあり、簡易マジックアイテムの力で簡単な調理すらできてしまう。


 豪華ホテルのロイヤルスイートな内装なのに、どこか別荘やコテージなどを連想させる。

 なんでもこれは、『ダブル』の文化が影響したものらしい。


 そう言えば、この屋敷の使用人も黒服に純白エプロンのメイドスタイルだった。

 オタク御用達の執事とメイドは、オクシデントを順調に侵食しているようだ。


 しょーもない事を思いつつ、ハルカさんの分のコーヒーやお菓子を準備していると、彼女が髪など身なりをかなり整えて戻ってきた。

 なんだか夜明けのコーヒーな気分だ。


「コーヒー入れといたぞー」


「寝させない気満々ね」


 やっぱり半目で見てくる。

 しかし歩みは、さっきと違って部屋の中央のオレの方に向く。


「あっ、まだ寝るんだたっらどうぞ。コーヒーはオレが飲んどくし」


「……もう寝る気分じゃないわ」


 少し不機嫌顔でテーブルの対面に置いたカップを取り、オレが座っているロングソファーのすぐ横に座る。

 そんな間近に座られると思ってなかったので、内心少し焦ってしまう。


 何しろ今の彼女は、手触りサラサラな高級シルクの夏用ネグリジェ一枚な上に、そのネグリジェの首元というか胸元が艶かしく覗いているからだ。

 間近で絹が擦れる音も、どこか艶かしく聞こえる。

 もっとも、彼女は自分の姿など気にした風もなく、オレが入れたコーヒーに静かに口をつける。


「美味しい。いい豆ね。出るとき少し分けてもらおうかしら」


「苦すぎないか?」


「プッ。この良さが分からないなんて、まだまだお子様ね」


「コーヒーは嫌いじゃないけど、この世界ってミルクはまだ普及しんてないんだな」


「街でミルク飲むには何かの技術がいるから、なかなか広まらないんじゃなかったかしら。まあお子様は、砂糖だけで我慢なさい」


 そういう彼女も、自分のカップに惜しげもなく砂糖を投入している。

 さらに砂糖たっぷりのお菓子を魅力的なお口に投入したあと、少し口をモゴモゴさせつつ「あっ」と声を出した。


「そうそう、レナはもう少し前に起きて、ヴァイスの様子を飛行場まで見に行ってる筈よ」


「それを知ってるってことは、もう二度寝した後だった?」


「ううん。寝る前に話を聞いてただけ。夜明け前に見に行くって」


「そういえば、寝る前にオレ以外で少し話してたんだっけか」


「女子だけの会話も必要なのよ。拗ねない拗ねない」


 言いつつ、人差し指でオレの頬をグリグリと押してくる。

 ウルズの一件が終わってから、彼女の方からこうしたスキンシップが一段と増えていた。


「拗ねないけど、ちょっと疎外感は感じるかも。……じゃあ飛行場で合流?」


「ううん。朝食までには戻るって。それとシズは低血圧だから、ギリギリまで起きてこないでしょうね。オマケに夜型人間だから、毎朝起こすの大変なのよ」


「そういえば、そんな事言ってたな。けど、不思議だな。そんなところまで、あっちの当人に合わせなくてもいいだろうに」


「本当そうね。無駄に同じよね」


 そこで会話が途切れた。

 その沈黙で、つい彼女を意識してしまう。

 今までの話だと、この部屋には朝まで起きないシズさんがいるだけで、事実上二人っきりと言うことになるからだ。


 そう思ったのを見透かされたようで、こっちを見てニヤリと笑いかけてくる彼女の顔があった。

 顔がかなり近い上に、少し覗き込めば彼女の魅惑の谷間が拝めるほどだ。


「今、エロオヤジ的発想してたでしょ」


「オヤジはないだろ。エロではあるけど」


「紳士を気取るなら、エロは否定しなさいよ」


 オレの返しに、少し呆れた口調の返事があった。表情も、演技で呆れた感じになっている。


「いやオレは、ハルカさんの従者であって紳士じゃないぞ」


「それどころか、もうすぐ守護騎士になるのよね。ちゃんと心得とか勉強しといてね」


 言葉と共に、彼女はしみじみとした口調とともに背もたれに体を預ける。寝巻き一枚なので、そうしたちょっとした動きや仕草も、自然と意識してしまう。

 けど、それ以上に言葉の方が重かった。


「ちょっとプレッシャーかも。守護騎士って何か面倒くさいことあるのか?」


「私個人の守護騎士だから、大抵は今まで通りで構わないわよ。儀式とかでは、それらしい服装や鎧にはしてもらうけど。あっ、非武装時の正装も必要になるのね」


「お金かかりそうだなー」


「まあ、今日で随分お金持ちなるから余裕でしょう。それにしても、守護騎士になるというのに、考えることがお金の事ってのも情けないわね」


 その言葉には、アハハと誤魔化し笑いするいかない。

 けど逆に、それではと思う気持ちがにわかに沸き立ってきた。


「それもそうだな。……じゃあさ、改めて告っていい?」


「いや、そこは騎士の礼とか忠誠の儀をしたいとか言うものでしょ」


 オレの中ば唐突な言葉に対しても、予想通り半目で冷静なツッコミだ。

 しかしオレは、不思議とそこで引き下がろうという気は起きなかった。


「オレにとっては、どれも似た様なもんだよ。全部ひっくるめて、みたいなもんだし。けどまあ、せっかくのリクエストだし多少は格好つけようか」


 そう言って一度立ち上がると、彼女の眼の前で片膝をついて姿勢を正す。

 それにつられて彼女も椅子から立ち上がり、オレの正面に位置する。

 そしてしばらく上下から見つめ合う。


「ハルカさん、大好きです。付き合ってください」


「……忠誠を誓う風に格好つけておいて、結局言うことはそれ?」


「だから、今のオレにとって、これが全部だって。なんなら夫婦の誓いをしてもいいくらいだ」


「その発想はお子様すぎ。それにかなりキモい」


 そう言いながらも、彼女が右手を差し出す。

 表情もからかう感じではない。


「手の甲って挨拶だよな」


「敬愛を現すって言うわね。指なら賞賛ね。じゃ、今はこれで我慢しなさい。この部屋は『帝国』の人に監視されているかもしれないから、エロいことも出来ないでしょ」


 言葉の後半の部分は、腰をかがめてオレの耳元で囁いた。

 こっちの方が十分にエロい。屈んできたせいで、胸元がモロに見えている。

 しかも最後に、彼女の柔らかい唇が耳に触れる。

 さらにそこから小さく甘噛みしてきたので、一気に心拍数が跳ね上がった。

 気持ちを静めるため、耳へのキスって何の意味があるんだろうと、どうでもいいことが頭の中を駆け巡ったほどだ。


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