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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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317「玲奈のカミングアウト」

 始業式の諸々が終わり教室を出ると、タクミが待っていた。

 部室に行くまでに話そうということだろう。


「よっ」


「よう。で、部活どうする?」


 とりあえず聞いてみた。


「ボクとしては、ショウに色々話を聞いて欲しいんだけど、新学期初日だし顔くらい出すのが筋だよな」


「だな。じゃあ、部活は早めに切り上げて、昼飯食いながら話そうか」


「おう。今は懐もあったかいし、ボクが奢るよ。もちろん、天沢さんもね」


「えっ? わ、私はいいよ。自分で出すから」


「行くのはオーケーなんだな」


 一応確認しておくと強めに頷いた。


「うん。私も元宮君に話さないといけない事があるの」


 すぐにピンときた。玲奈はボクっ娘のことを話す気だ。

 玲奈には、スマホのメッセージでタクミの召喚は伝えてあるので、いよいよ話すべき時が来たってところだろう。


「天沢さんがボクに? この流れってことは向こうの事だよな」


「うん。ちょっとややこしい話なんだけど、出来れば今日中に話できるかな?」


「それは全然オーケーだけど、オレの事と一緒でいいのか?」


「うん。むしろその方がいいの」


 タクミは少し困惑しているが、玲奈は強い調子で言葉を重ねる。


「了解。じゃあ、部活はなる早で切り上げよう」


 その後少し話をしてから部室に入ると意外に多くの人がいた。

 部員以外の『アナザー』信者がいるので、何を目的にしているのかは明白だ。流石に学外の人は居ないが、オレが顔を出すなり一斉に注目を集めた。

 「来た来た」「待ってたぞ」「空から追撃戦ってマジか?」などなど口々に聞いて来る。


「あの、話をするのは明後日ですよね」


「そうだが、少しくらい話出来ないか?」


「いいかな?」


 念のためタクミと玲奈に視線を送ると、タクミは小さく肩を竦め、玲奈は小さく苦笑いで返した。


「昼食べる約束あるんで、それまでなら」


「おう、済まないな。それじゃ時間もないし、すぐに始めよう」


 相変わらず精力的な鈴木副部長の音頭取りで、イレギュラーの講演会が始まった。

 何の準備もしてなかったが、もう慣れたものなので、思ったより短い時間で無難に話せた。

 それよりも、質問の方が多くて思ったより長時間となってしまった。


 事がノヴァでの事件なので、こっちにも出回っている情報が多く、しかも相変わらず不正確な情報も多かったからだ。

 当事者が現場から伝えた情報と思えるものは少なく、質問の中には少なく無い数の明らかなフェイクもあった。

 その訂正の方が時間を取ったほどだ。




「あー、やっと腹が落ち着いたよ」


 昼飯を平らげた後、思わずこぼれた言葉だ。

 隣で玲奈がクスクスと笑っているけど、玲奈もタクミも食べている間は殆ど会話をしていなかったのだから、笑われるのはちょっと心外な気がしないでもない。


 場所は、学校から少し離れた駅の反対側にある個人経営の定食屋。

 オレ達のバイト先に行く事も考えたが、電車移動だと少し歩くので断念した。

 しかしここは、体育会系の学生がよく来る店で、学生には割引があるというありがたい店でもある。

 そして昼の時間より少し外れた時間に、3人でテーブルを囲んでいる。


「それと、オレからできるアドバイスは、こんなとこかな」


「ありがとう、ショウ」


「おう、ありがたがれ。オレなんて初日は予備知識ゼロだったから、いきなりゴブリンの群れに喧嘩売って酷い目にあった」


「でもお陰で可愛い女子に助けてもらえたんだろ」


「それは結果論だ。ていうか、あのまま逃げ続けてたら、格好悪いところ見せずに出逢えてた可能性もあったんだよなあ」


「そりゃ間が悪かったな」


「まったくだ。タクミはそんな事ないようにな」


「悲しいかな大丈夫だ。今いる場所は、助けてくれる可愛い女子はまずいないだろうからな」


 コップに水を足しつつ、タクミへのレクチャーを締めくくる。ついでに、二人のコップにも水を足す。

 朝の電話以上に話す事は意外に少なく、タクミ自身も少し拍子抜けしている。

 しかし玲奈の方は、オレの言葉に少し体をこわばらせる。

 自分が話す番が来たからだ。



「じゃ、じゃあ、次は私の話いいかな?」


「うん。でも何があるんだ? 全然見当付かないんだけど」


 本当に分からないと言う風に首をかしげている。


「向こうでみんなに会えば分かるよ。それでなんだけど、こないだの私の髪型覚えてる?」


「そりゃもちろん。最初はちょっと意外な感じがしたけど、ああいう格好いい髪型も似合うんだね」


 タクミの褒め言葉に、玲奈が思わず顔を赤らめる。

 タクミのコミュ強も善し悪しだ。


「そ、そう? じゃなくてね、あっちに行ったら、あの髪型の女の子がいるの」


「ん? つまり天沢さんは、こいつかシズさんからその髪型の事を聞いていて合わせてみた、とか?」


 話が噛み合っているようで噛み合っていない。まあ、タクミ的にはそういう答えになるだろう。

 だから思わず苦笑してしまう。


「なんだよショウ、何か言いたい事でも?」


「それはレナから聞いてくれ」


「という訳だけど、何があるんだ?」


「あっちに、私と瓜二つの人がいるの。ショウ君達と一緒に」


 玲奈が真剣な表情をして、少し強い語調で真実を告げる。


「マジっ? えっ? それは天沢さんの親族の誰か? それとも向こうの人で他人のそら似とか?」


「どっちも外れ。あのね、信じてもらえないとは思うけど、私、解離性障害、いわゆる二重人格なの」


 タクミが頭にクエスチョンマークを浮かべて、口をポカンと開けている。


「し、信じられないと思うけど、向こうでだけ全然違う人格なの。けどね、向こうにはもう一つの私の体があるわけでしょ。

 だから、どんどん二人と言うか二つの人格が離れている感じだから、殆ど別人みたいになっているの」


 ちょっと早口で話していくのでオタクっぽい。ていうか、ボクっ娘の持つ知識から考えて、玲奈も十分オタクだった。

 それに、髪型だけでこれだけ印象が変わるわけはなく、玲奈自身の内面の変化もあるのだろう。

 けどせっかくの真実は、タクミには届いていないようだ。


「うん。全然分からない。悪いけど、何その痛い設定って突っ込みたくなるくらい」


「まあ、最初はそう思うよな」


「ショウは全部分かってるのか?」


「そりゃあね。けど、向こうでの初対面の時は、似たような反応した」


 ありのまま伝えてやったが、まだ信じようとはしてない。担ごうとしていると思っているんだろうか。

 なら別の手だ。


「実はな、合宿のときはその人格が入れ替わってたんだけど、何か感じなかったか?」


「……ちょっと浮かれているかなと思いはしたけど」


「たまにボクって言ってただろ」


「ああ。でもそれは、天沢さんが子どもの頃にボクって主語だったって」


「それが違うんだよ。それに仕草とか雰囲気が時々違ってただろ」


 横で玲奈がウンウンと強く頷いてる。

 そうすると、タクミの顔に徐々に理解が広がっていく。


「言われてみるとそう思えてくるけど……えっ、マジなの? マジで二重人格の片方の人格を持った天沢さんが、『ダブル』として向こうに居るって事?」


「うん。そうなの」


 玲奈がさらに力強く頷き、強い視線をタクミに向ける。

 それにタクミも思わず強く見返している。

 そんなに見つめ合わないで欲しい、とちょっと思うのは嫉妬心だろうか。


「……とりあえず保留でいい? 出逢えば分かるんだよな」


 やや絞り出すようなタクミの声は、まだ理解が追いついていない感じだ。


「うん。それでいいよ」


「オレと同じような反応するんだな」


「他に反応のしようがないだろ。ていうかさあ、天沢さんも『ダブル』だったんだあ」


 タクミが大きく溜息を吐くように言葉を吐き出す。

 実際、顔を天井に向けてため色々な感情が籠った溜息もついていた。


「向こうには、数日しか行った事ないけどね」


 玲奈が苦笑気味に笑う。それでだろうか、タクミも精神的に少し復活してきた。


「二重人格だと、全然向こうの事を感じられたりしないのか?」


「うん。一時的に入れ替わって向こうに突然行くまで、意識した事もなかったよ。それに、自分が二重人格だったって事も、つい最近まで知らなかったし」


「今は知ってるんだ。医学的にそういうこと出来たっけ?」


「向こうのレナは最初から分かってたし、こっちの事も全部知ってたみたいだ」


「私も入れ替わっていた数日だけは分かったよ。今はもう無理だけど」


 タクミは感心はしているが、まだ半信半疑な感じだ。


「へーっ。そんな事があるんだな。で、向こうで数日行ってたってのが、合宿の間だけだと」


「うん、そうなの。凄く大変だった」


「ショウにつき合わされたら、そりゃ大変だろうな」


「言ったな。大変な目に遭わせるぞ。ていうか、大抵はトラブルが向こうから来るんだけどな」


 そこで三人とも短く笑う。

 そして一旦真顔に戻る。


「まあ、レナの事だけじゃなくて、まだ話してない事もあるから、向こうで落ち合ったら覚悟しといてくれ」


「了解。と言っても、何をどう覚悟すればいいやら」


「そうだなあ……とりあえず、オレはタクミから一発所望するかも」


 オレの言葉に二人がキョトンとする。

 しかしすぐに理解したタクミは、ニヤリと笑みを浮かべる。タクミは、言いたい事を分かってくれるやつだ。

 分かった上で軽口を返してくれる。


「何を? ボクはゲイじゃないぞ」


「そうじゃないよ。キツいパンチ一発くれって事」


「なんだそりゃ。それでボクがチャラにしないといけない事があるのか?」


「タクミが寛容な事を祈ってるよ」


「どうかな。でもまあ、ボクの面倒事じゃなきゃいいよ。今の向こうのボクは、廃墟での野宿だけで一杯一杯だ」


「それもそうか。すぐに迎えに行くよ」


「うん、そこは頼むわ」


 そんなオレ達を、玲奈が少し目を細めて見ていた。

 そう言えば、髪型を変えた辺りから、目の開け方も変わっているのに今更気づかされた。

 それでもボクっ娘とは雰囲気とかが違っている。雰囲気一つで違ってくるものなのだと、妙に感心してしまう。

 しかし今は、その優しげな表情に突っ込みを入れるべきだろう。


「何かついてる?」


「ううん。ちょっと羨ましいなあって。私、友達いないから」


「そんな事ないだろ。まあクラスは今からかもだけど、文芸部はけっこう話したりしてるだろ」


「部室で少し話すだけで、親しいって言える友達はいないよ」


 ゲイネタを振って笑いの一つも取ろうかと思ったが、予想外に重い話になってしまった。


「性格と趣味の両方が合う人って、なかなか出逢えないからな」


「タクミでもそうなのか?」


「当たり前だろ。ボクを何だと思ってるんだ。歩み寄ったり間合いを読んだりとか、けっこうしんどいぞ」


「面倒くさいじゃなくて、しんどいのか」


 意外な言葉だ。オレにはまだ少し理解できそうにない。


「そうさ。ボクはショウの方が羨ましいんだけど」


「えっ? 今のオレ、クラスでほぼボッチだぞ」


「それを平然と受け入れてるメンタルが、だよ」


「そうか? けど体育とかペアやグループ作るときボッチだと、それこそしんどいぞ」


 玲奈が「分かる」と強く頷いてる。けど、出来ればこんな事で共感はしたくないものだ。

 そんなオレ達を見て、タクミが納得げに一人頷く。


「……お二人さんって、結構似た者同士なんだよな」


「そ、そう?」


「タクミが言うなら、そうなんだろうなあ」


「そうだよ。ま、ボクも二人みたいになりたいんで、『夢』の向こうにお互いのフィーリングピッタリな可愛いエルフの美少女がいる事を願ってるよ」


 話を強引にまとめようという言葉だけど、その間違った知識は否定してやらなければいけない。


「あの世界のエルフって、他の種族が魔力を受けて年月かけて変化した連中だから、美女は居ても美少女は居ないと思うぞ」


「どうしてそう夢を壊すんだよー」


「「夢ではない、『ここも』現実なのだ」だからだよ」


 タクミのオチを否定したのに、オレがオチを付けてしまった。


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