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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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315「新学期始動(1)」

 ハーケンの街の冒険者ギルドの宿直室で丸まって寝て起きたら、例のごとくいつものオレの部屋だ。


 しかし自然に起きたのではない。枕元でスマホのコールが続いている。

 起きる時間かと思って手に取ると、電話のアイコンとタクミの文字。隅っこに見える時間は、まだ朝の5時過ぎ。

 あと30分は寝たいところだけど、鳴り続けているので渋々コールに応える。

 そして大声が飛び出してきた。


「来た! いや行った! えっと、この場合どう言ったらいいんだろ!」


「……落ち着け。深呼吸でもしろ。それから話してくれ」


「あ、ああ、そうだな、悪い」


 コールの時点で察しは付いたが、早朝から騒がしいことこの上ない。

 て言うか、向こうにスマホがあれば、その場で鳴らしていたに違いないテンションだ。スマホの向こうでは、本当に深呼吸する音が聞こえてくる。


「で、どこに出てきた?」


「察しがいいな」


「この状況だと、それしかないだろ。で、どこだ?」


「全然分からない。でも、言われた通りに行動したぞ」


 言われた通りとは、まずは周辺状況の把握だ。

 なるべく見晴らしのいい場所に出て街道を目指す。できれば集落へ向かう。盗賊や傭兵など危険な奴ら以外の人と接触して、場所を問いただす。

 ここまでできれば、あとはこっちが探しに行って拾えば終わりだ。


 さあ、どこだろう。

 ハーケンが見えている場所なら大当たりだけど、それなら昨日の次点で冒険者ギルドなりに駆け込んでいるだろう。

 次点として、アースガルズなら当たり。オレとハルカさん、特にハルカさんはあの国の南部の地理に明るい。

 ハーケンに近いランバルト王国でも、ハーケンから近い分こっちが楽だ。


 ハズレは、言わずと知れた旧ノール王国。

 それでもアクセルさんが領地をもらったりしているので、人の住んでいる辺り、特に東部だとオレ達でも地理がある程度分かるので探しやすい。


「どんな所だ?」


「朝にどこかの原っぱに出て、周りには何もなし。とにかく目に付いた木の少ない丘を目指した。で、丘の上からの景色が最悪のパターンだった」


「荒廃した大地ってやつか」


「ああ。多分だけど、ショウ達が7月前半にうろついてた辺りじゃないかな。畑は荒れ放題だし、見つけた道なりにたどり着いた村は廃墟だった」


 あの辺りならそうだろう。タクミの言う通り、ひと月程前によく見た景色だ。


「人は?」


「全然。逆に魔力の気配ってやつ? 首筋がゾワゾワする感じがしたから、言われた通り逃げた」


「うん。まずは定石通りだな。で、今はどこで寝てる?」


 言いながらベッドから起きて、机の上のパソコンの電源を入れ、そして引き出しからメモ用のノートを出す。

 ノートには、自作のあの辺りの地図もある。


「別の廃村の中にある、多少まともな建物の中。多分神殿跡だと思う」


「それは賢明な判断だ、ってやつだな」


「そりゃどうも。で、これからどうすればいい?」


 そこで少し思案する。空から探せばいいだけだから、してもらうことは少ない。

 そこで、机の上に開いていた地図を覗き込む。


「ノール王国辺りなら、空から半日で着く。だから、昼から狼煙を上げられれないか。できるだけ目立つ感じで」


「狼煙か。あ、そうそう発火の魔法は使えるぞ」


「あ、いいなあ。オレ今勉強中。って、それはともかく、火起こしの心配がいらないなら、尚更狼煙を上げてくれ。そしたら空から探しやすい」


「それはいいが、敵というか魔物をおびき寄せないか?」


「できるだけタクミが周りを見やすい場所でやればいいじゃないか。できれば、退路も確保する感じで」


「簡単に言ってくれるなよ。まだ右も左も分からないのに」


 口調からは、いつもの余裕が感じられない。

 とはいえ、今オレが出来るのはアドバイスくらいだ。


「それで装備とか足りないものは?」


「取り敢えず食い物持ってきてくれ。向こうのボクは、今腹ペコで寝てるよ」


「リョーカイ。沢山持って行くよ。あと、装備は?」


 言いながら、パソコンの装備等の情報をまとめたメモのファイルを開く。

 同時にノートも、武装等を簡単に描いたものを広げる。オレの直筆なので絵は酷いものだけど、それでも情報提供には役立つ筈だ。


「前兆夢通り。槍と短剣。防具は鎖帷子に、分厚いブーツとグラブ。兜はなし。あとは服と手ぬぐいと革の水筒。財布の中に色んな銀貨が100枚ほど」


 タクミの言葉を、パソコンとノートの情報を追っていく。


「だいたい初期装備だな。魔導器マギーアアイテムは?」


「槍がマジックアイテムぽい」


「分からないのか?」


「専門知識ないし、比較するものが手持ちの短剣くらいだから、鉄と違うかなって感じ」


「黒光りしてないか?」


「うん、してる。だからそう思ったんだけど」


「そっか。まあ、今日1日あるし、あとは学校でいいか?」


 そこで少し間があった。

 早朝という事で、多少は引け目があるのだろう。

 オレ話したから少しは冷静なったらしい。

 そう、どっちにしろ今晩寝るまで何も変化はないのだ。ゲームじゃないから、今からログインというわけにもいかない。


「おう。部活は?」


「話す日じゃないけど、バイトも夕方からだし顔出すよ」


「了解。じゃあ部室で」


「おう」



 タクミとの電話が終わると、電話しながら部屋の中で日課の準備を進めていたので、そのまま昨日の『アナザー・スカイ』の記録をしていく。

 ここ数日は書く事も少なくただの旅行記だったが、今日はマリアさんたちとも会ったので多少は記録することもがある。

 それでも短時間で書き終わると、ちょうど扉の外に気配を感じた。


「入るなら、入ってこいよ」


「うん」


 小さな声と共に扉が開き、少し遠慮がちに悠里が入ってきた。


「おはよう。どうした朝から?」


「おはよ」


 それ以後何も話さず、そのまま扉の側で突っ立っている。


「とりあえず扉閉めろ。あと、突っ立ってないで座れよ」


「うん」


 何かオレの言うがままに動き、そのままオレのベッドに腰掛ける。

 いつもと違って大人しい。何となく察してはやれるので、ここはお兄ちゃんしてやるべきだろう。


「向こうの事なら気にすんな。今はギルドの宿直室で寝てる」


「それはハルカさんから聞いた」


「そっか。じゃあ、ちゃんと二人と話したか」


「うん。二人に謝られた」


「悠里は謝ったか?」


「うん。それと……ごめん」


 ちゃんと謝れるのは、悠里のいいところだ。と、身びいきに思う。


「別にオレに謝ることないだろ。オレも、最近ちょっと調子乗ってたところあるし」


「けど、やっぱり3人の問題だし。お兄ちゃんが2人に話して3人が納得してるなら、私がとやかく言うの、やっぱおかしいし」


「けどさ、人の気持ちはそれこそ人それぞれだし、オレも逆の立場だったら一言くらい言いたくなってたと思うぞ」


「お前の考えとか聞いてないっての」


 取り敢えず言うだけ言ったので、気持ちも落ち着いたようだ。

 言うなり立ち上がり、そのまま部屋を出て行った。

 「やれやれ」というのが、朝から立て続けに濃い応対をさせられたオレの心境だ。


 しかしその日の濃いイベントは、まだまだ序の口だった。


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