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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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310「祝勝会」

 そして気分を変えて祝勝会。

 大量の魔物は一掃されたし、みんな活躍したし、何より身内に犠牲がなかったのでオレから見れば完全勝利だ。

 ノヴァからの報償はオレの独断で辞退したが、気にしてる人は誰もいない。


 それでも評価を正しくしてもらうという点が気になるが、既にその知らせも受けている。

 この後の事については、レイ博士に万が一の際の抗議だけ依頼しておいた。


 祝勝会はオレ達とエルブルスの警備隊の救援隊、それにレイ博士達だけ。ほぼ内輪だけなので、和気あいあいとした雰囲気だ。

 オレのへたくそな乾杯の音頭取りも、ご愛嬌といったところだ。



「それでは本格的に飲み食いをする前に、皆の評価を領主より発表して頂く」


 すっかり軍師ポジションなシズさんの言葉で、オレが臨時あつらえの壇上へと上げられる。

 手にはここ数日みんなとも相談しながら決めた評価が書かれている。


「えーっと、改めて皆さんご苦労様でした。そしてノヴァ救援に参加してくれて、ありがとうございました」


 「そんな前置きいらねーぞー!」とか黄色い声のヤジが起きる。既にかなり飲んでいる悠里だ。

 人の事は全然言えないが、こっちでの飲酒についてちょっと考えた方がいい気がしてしまう光景だ。


「まあ、そういう声もあるので、さっそく発表します。けど、オレは領主で評価する側で、前の領主でもあるハルカさんも評価からは外してます」


「いやいや、敵の大将討ち取った二人を外すとかあり得ねえだろ」


 ホランさんの発言だけど、はやし立てじゃなくてかなり本気の言葉だ。

 他の人たちも、これには頷く人が少なくない。


「かもしれませんが、評価する側とされる側はちゃんと分けておくのが筋だと思います。それに領地や領主としては、ノヴァの方から十分に評価を受けてますよ」


 「まあ、そういう事ならな」などと言いつつ、ホランさんや他の人達も引き下がった。

 そうして発表していったが、正直なところみんな同じ感謝と評価をあげたいくらいだけど、こういうところは緩急が必要らしい。

 獣人や竜人、特に竜人にとって、役割とか名誉は重要なのだ。


 一番手柄は、警備隊では炎龍を駆るガトウさん。

 オレ達の仲間内では、ゼノとの戦いでも一通り活躍した悠里となった。

 また敢闘賞は、制空権獲得に活躍したレナにあげた。


 悠里への高い評価は、領主の妹という事と、敵大将を倒したオレとハルカさんの代わりというところもあるし、エルブルスの警備隊に属してもいるからだ。

 それに、活躍した中で一番角が立たないというのも大きい。


 一方、ボクっ娘への評価は、なんだかんだ言って、龍と巨鷲は関係が今ひとつ疎遠という点を酌んでの事だ。

 もう、こうした小さなところでも『政治的配慮』ってやつが必要とは思いも寄らず、悩んで着る時は胃がキリキリしそうだった。


 そしてちょっと意外だったのがレイ博士だった。

 「暇つぶしに作った」と言って、エルブルス辺境伯領としての全員分の従軍章、各報償の勲章を作ってくれていた。

 誰かが頼んで作ったのではなく、本当に博士が一人、いやスミレさんも協力して作ったものだ。


 これには頭を下げるより他無く、家臣のみんなからは分配物品の褒美よりも好評だった。

 今後の事も考えて、追加発注までさせてもらったほどだ。


 そして、今回ノヴァよりも博士個人に世話になった事も有るので、功労賞を贈る事で多少なりとも報いさせてもらった。

 そして報償の一部として、エルブルス領への居住権と名誉お抱え魔導士の位を遠回しに求められたので、それも謹んで贈らせてもらった。


 もっとも、博士が勲章を作った一番の理由は、「戦争での功績なのだから、勲章が付き物であろう」というややオタク的な観点からだった。

 そして博士がゴーレム以外の物を作った事でフと頭に浮かんだので、宴会で横に座った時に聞いてみた。



「あの、博士ってゴーレム以外何が作れますか?」


「ん? まあこの世界の魔導器なら、ランクの低いものならたいてい作れるぞ。しかも吾輩の属性は月、星、地だから、相性グンバツだ。

 とはいえ吾輩は、素材やアクセサリーの大本はあんまり作れんぞ。それとあの勲章も、申し訳程度だけど一応魔導器だ。

 それに伝統的にマジックアイテムに関わる魔法使いの事は錬金術と言われるが、金属精錬とかより魔導器作りが技術系魔導士の基本だからな」


「飛行船は詳しいですか?」


「多少ならな。ただ、浮遊石自体と蒸気機関を載せてるヤツは、吾輩の領分ではないな」


「じゃあダメかー」


「ん、なんだ? もしかして飛行船があるのか?」


 オレの諦め発言に、博士がむしろ食いついて来た。

 そしてもととも話のネタとして振っただけなので、そのまま続ける事にした。


「うちの領地に、燃料切れで動けない飛行船があるんですよ」


「ホホウ。どんなヤツだ?」


「浮遊石の胴体が二つ横並びで繋がっていて、飛龍が載せられます。けど、整備してる矮人ドワーフ曰く、動かすには魔石とエタノールが一杯必要みたいで」


「何の話だ?」


 矮人という単語が気になったのか、少し離れていたラルドさんが、見た目素面でノシノシとやって来る。

 やっぱりドワーフなので酒は強いらしい。


「シーナの飛行場の脇に置いてある飛行船です」


 オレの言葉にラルドさんが深く頷く。


「ああ、フェンデルらが弄ってるやつか。博士が何とかしてくれるのか?」


「そうだな。……何とか出来なくも無いぞ」


 少し考えた末というより、ややもったいぶった口ぶりだ。

 口調だけでなく姿勢とか諸々が、ある種のオーラを放っている。

 ここは突っ込まないと失礼だろう。


「何か手があるんですね」


 その言葉に、博士もよくぞ聞いてくれたという雰囲気だ。


「事が動力であるのなら、吾輩が開発した新型動力装置を据え付ければ、それなりの大型船でも飛行生物なしに動かせる筈だ」


「筈ってことは、現物はないんですか?」


「いや、ある。だが、海を進む船に載せた事があるだけで、飛行船に乗せた事がない。それに現物はここにもあるが、エルブルスまで運ぶとなると相応に面倒だぞ」


「工房の一角にあったやつだな。帰りの飛龍7体で運べないか?」


 ラルドさんも乗り気だ。流石ドワーフ。技術大好き人間だ。

 それに博士が少し考え込む。


「浮遊石の結晶を使えば、多少ばらせば、いける、かな?」


「なら決まりじゃな」


 気がついたらラルドさんが話を仕切っている。

 技術的なことになると、ドワーフは本当に目がない。


「じゃあ、お願いできませんか? 諸々の代金は十分お支払いしますから」


「う、うむ、吾輩も樹海での戦闘が沈静化したらしばらく暇になるから、暇潰しついでにしてはらなくは、ない、かも、しれない」


「是非お願いします」


「俺からも頼む。面白そうだ」


 ここは押しの一手だ。博士も頼まれたいと顔に書いてある。


「ま、まあ、そこまで言われては断れんな。吾輩に任せるが良いぞ。だが、色々いじくり回すかもしれんから、文句は言わんでくれよ」


「言いませんよ。それと、諸々弄るんだったら、出来ればヴァイスも乗れるようにしておいてください」


「飛龍を積むタイプの船なら、それくらい楽勝だ。よし、任された!」


「よろしくお願いします。一応先々で便りは出しますが、東の方に巡礼する時に使えたら凄く嬉しいです」


「うむ。こっちも経過を伝えるようにしよう」


 思った以上にうまくいった。それに博士もウッキウキな感じだ。

 そしてその後も、レイ博士のテンションは高かった。というより、レイ博士と知り合ってから大抵はテンション高いので、オレから見るとこれでノーマルモードに思えている。けどそれだと、常時躁状態なちょっと危ない人に思えなくもない。



「レイ博士って、いつもこんな感じなんですか?」


「こんな感じとは?」


 男がかわいく首をかしげても、可愛くもなんともない。

 見た目若くても、オッサンともなれば尚更だ。


「テンション高めだし、自分で言うよりも社交的に見えるんですが」


「人の顔を正面から見るのは苦手だけどねー」


 別の輪で話していたボクっ娘が、横からすかさず突っ込んできた。


「レナ、言ってやるなよ。陰キャとしては、結構ハードル高いんだから」


「実感こもってるわね」


 同じく横からハルカさんにシミジミ言われてしまうが、この三ヶ月ほどのオレを見てきたハルカさんだからこその言葉だ。


「オレも陰キャな方だし、経験あるから」


「とても見えんぞ。吾輩から見れば、自分は陽キャでしかない。オタクで陽キャは卑怯ですらあるぞ」


 アハハと空笑い的に返すが、オレが陽キャに見えるならみんなのお陰だ。特にハルカさんには頭が上がらない。

 少し離れた場所では、悠里が家臣のみんなと陽気に騒いでいるが、陽キャってのはああいうのを言うのだと思う。


「って、オレの話じゃないでしょ。博士の事聞いてたのに」


 そうして話を戻すと、自然とレイ博士に周囲の視線が集まり、博士は視線を意識しつつ俯いてしまう。

 それでも視線が逸れないので、仕方なくブツブツと言葉を口にした。


「こ、こんなに賑やかなのは凄く久しぶりなのだ。それに、若い自分らに暖かく輪の中に入れてもらえているのが、年甲斐もなく嬉しいのだ。悪いか!」


 最後は半ば開き直りの逆切れだ。

 けど、周りの雰囲気はそれなりに温かい。趣味趣向は多少アレだけど、職人肌で真面目な人柄なので今の発言も受け入れられているようだ。


「そうやっていつも素直なら、もっと友達増えるんじゃないの?」


 ボクっ娘の言葉ももっともに思える。


「いや、吾輩もういい年だからな。そもそも交流する場とかに行っても、陰キャやオタクという以前に浮くだけなのだ。

 しかも、こっちでの知り合いも徐々に少なくなって、たまーに顔見知りのオッサン同士でチビチビと寂しく飲むくらいなのだよ。ノヴァのアキバ通りも、様変わりしたしなあ」


「なんだか身につまされる話だねー」


 いや、まったく。そんなおっさんにはなるまいと、ヒシと心に誓いそうになるほど博士からはマイナスのオーラすら感じる。

 だからだろう。ハルカさんが仕方ないといった感じで口を開いた。


「けど、私達とは秘密も共有してるし、かなり込み入った関係だと思うわよ」


「そうだよな。オレ的には、レイ博士も仲間、って目上の人に失礼で……」


「いや、全然構わんぞ! 吾輩のようなオッサンを仲間に迎えてくれるとか、もう涙が溢れそうだ!」


「いや、言ってる側から溢れてるし」


 ボクっ娘が突っ込むまでもなく、本当に号泣レベルで泣いてしまっている。

 そこまで仲間と言った事を喜ばれるとは思わなかったが、こんな単純だと詐欺師に騙されそうで危うく思えてしまう。

 隣のハルカさんを見ると、彼女も同じ様に思ったらしく苦笑している。

 それに少し引いていた。


 その当人は、やってきたスミレさんに「皆様の前で汚らしい顔を晒さないで下さい」と言われつつも、涙とか諸々を拭き取ってもらっている。

 こうして見れば、案外いい主従関係だ。


 そんなやりとりもあったが、その日の宴会は深夜遅くまで続いた。


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