表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

189/402

307「ノヴァトキオ」

 その日は、久しぶりに平穏な一日だった。


 結局みんなで同じ部屋で寝たが、野営と思えば緊張感も無いし、女子達も恥ずかしかったりもしない。

 だから、起きるとすでにボクっ娘が活動開始しているのもいつも通りだし、今朝は久しぶりにハルカさんと剣の稽古もした。

 ただそこに悠里やホランさん達も加わって、かなり激しく打ち合う事になった。


 そして良い汗かいて朝風呂を浴び、クロとスミレさんの作った朝食をタップリ平らげると行動を開始する。

 と言っても、今日の予定にトラブルや戦闘はない。


 遠く北の方では、魔の大樹海が燃え盛っていて黒煙が噴き上がっているが、ノヴァの軍からも評議会からも取り立てて緊急の連絡はなかった。

 一度翼龍が飛んで来たが、使者が会議の結果を伝えに来ただけだった。


 そして、ノヴァ評議会と市民軍のオレ達とエルブルス警備隊への評価は、シズさんから見てほぼ予想通りで、必要十分な要素を満たしていた。

 オレ的には評価され過ぎているように思ったほどだけど、物的なものを伴わない名誉的な評価ばかりなので、色をつけたんだろうというのがシズさんとハルカさんの感想だ。


 それでいて『ダブル』からも嫉妬されない程度なので、かなり考えてくれているらしい。

 そして、向こうも金銭などの褒美を与えないで済むのなら、それに越した事はないとでも考えての事だ。

 こっちは面倒や厄介ごとが避けられればいいので、ある意味WINWINの筈だ。


 というか、実のところ一番のお宝である悪魔ゼノの中核だったキューブ状の魔導器はくすねてあるし、ゼノが持っていたかなりの業物の魔法の剣などの装備もせしめてある。

 昨日の空からの殲滅戦の戦果は基本ノヴァに渡しているが、目端の利く仲間と家臣の一部は、戦場跡に転がっていた魔導器と高価な魔石の幾つかを手に入れている。



 そういう事もあるので、こちらは気にせずに今日一日を満喫する事にした。


 今日の予定は、ノヴァトキオ市街での買い物とオレ達だけの祝勝会だ。

 買い物は、旅に必要な物の買い増しと、今日の祝勝会の為の食材が主で、それほど買いたいものあるわけでもない。

 それでも、ノヴァでしか手に入らない保存の利く食材と特殊な魔法の触媒、それにオレと悠里の教材のゲットは重要だった。


 買い出しには、オレ達5人とキューブが2体、それに一旦家に戻るリョウさんだ。

 他に飛龍が2騎も出て、獣人も乗せたうえで買い出しの荷物運びの予定だった。


 余裕があればノヴァ市内の観光旅行に洒落込みたいところだけど、いつでも来られるのだから慌ただしく回る必要もない。

 家臣の人達もノヴァには何度か買い物に来ているので、今更見て回るほどでもないそうだ。


 それ以外だと、ハルカさんが見た目総合病院なノヴァの大神殿で聖魔タカシという聖人に会って、形だけの報告を行う予定だ。

 それとハルカさんは、他にも家を任せている人など、友人に報告を兼ねて会う予定だった。だから単独行動となる。


 冒険者ギルドの方は、Sランク認定とかされたら面倒を押し付けられそうなので、形だけの挨拶状を送っておいて今回はスルーの予定だ。


 他は、本来ならノヴァの魔法大学に行く予定だったが、レイ博士のお陰でここで手に入れられる情報はだいたい入手してしまったので、結局行かない事になった。


 ただ行かないもう一つの理由は、レイ博士がシズさんを知っている古株が大学などに何人か居ると教えてくれたからでもある。

 獣人になっているのを見つかったら、誤摩化したり説明などが諸々面倒だからだ。



 そして軽くひとっ飛びで、レイ博士の館からノヴァの飛行場へとたどり着く。

 空軍はまだ魔の森の砦の方なので、比較的閑散としている。

 前線の詳細も伝わっていないと見えて、オレ達に注目する人も少ない。声をかけてくるような人もいない。

 思ったより気楽に買い物は出来そうだった。


「それじゃあ、買い物はお願いね」


 ハルカさんが、みんなに向かい合う形で小さく手を振っている。


「本当に神殿は付き添わなくて大丈夫か?」


「クロを借りてくから、外聞上の体裁は十分よ」


「そっか。クロ、護衛は任せるぞ」


「ハッ、お任せ下さい我が主」


 ハルカさんはそう言うと、いつも通り恭しく一礼したクロを連れて一人で行ってしまった。

 ハルカさんと別行動が珍しいので、軽い違和感を覚えそうだ。


「なに? ハルカさんと離ればなれになって寂しい? 強引に付いて行けば」


「見知った街だし、一人になりたい時もあるだろ」


「お、意外に大人な言葉だな」


 妙な表情でもしていたのだろう。早速、ボクっ娘とシズさんに弄られてしまった。

 悠里も半目でジトーッと見て来る。そんなに、寂しそうな表情でもしてたんだろうか。

 だからここは、多少なりとも切り返しておくべきかと思ったところで、降り立ってから少し離れた場所にいたリョウさんが声をかけてきた。


「あの、僕は一度家に戻ります」


「あ、はい。それじゃあ、時間までにここに」


「ええ。当座の荷物持ち出したら、ここで待っています。それじゃあ失礼します」


 何かに急かさせるように、早足で行ってしまった。

 どうにも、心に火がついたって感じがする。


「リョウさん、やる気満々だねー」


「昨日の夕方会った時とは印象が違うな」


「レイ博士のもとでパワーレベリングと魔法の勉強ですからね」


 いつもなら、オレが関わった事にはハルカさんの突っ込みがある。それがないのがちょっと新鮮な気がする以上に、こんなところにまでハルカさんの存在が大きい事を再認識させられる。


 試用期間中も終わったのだから、もう少ししっかりしないといけない。

 まあ、もう一人の試用期間中が終わったばかりのヤツは、平常運転の能天気なままだ。


「パワーレベリングねー。私もしたら効果あるかな?」


「ユーリはまだ試用期間抜けたばかりだし、結構あるんじゃないかな?」


「タクミを探す間は残っててもいいぞ」


「えっ、いや、言ってみただけだっての。あの博士の家に一人で居残りとか最悪」


 露骨に嫌そうな顔をする。


「そこまで嫌がらなくてもいいだろ」


 レイ博士も嫌われたもんだ。オタクの兄であるオレのせいかもしれないと思うと、ほんの少し申し訳ない。

 しかし、スミレさんの格好が一番の原因なのは間違いない。あれをすんなり受け入れたリョウさんも、自分で言う以上にオタクに違いない。


 と、そんな事を思っている場合でもない。

 見送ってばかりでなく、オレ達も動き出さないといけないのだ。


「で、何もなければ買い物だけど、シズさんとレナは個人的に行きたいところはないですか? 買い物だけなら、オレと悠里でしときますよ」


「ボクにとっては、ここはたま〜に立ち寄る街ってだけだよ」


 ボクっ娘は言いつつ、ノヴァの景色を眺める様にゆっくりと首を巡らせる。


「私は3年以上離れていたからな。もう昔の知り合いは殆ど居ないよ。それに今の私は別人というか、このなりだからな」


 そう言ってシズさんが、お約束とばかりに耳をピコピコと動かす。そしてそのまま言葉を続ける。


「それより、ショウは観光はいいのか? 短時間で行ける場所くらい案内出来ると思うぞ」


「向こうでの話のネタくらいにはなるけど、ノヴァはいつでも来れるから観光はまたの機会でいいですよ」


「ユーリは?」


「私は何回か買い物ついでに遊びに来てるし、旅に必要な物を買う方を優先したい」


「それじゃあ、買い物に行こうか。色んな便利アイテムと、ショウと悠里の教材も買わないといけないしな。アイ、護衛と荷物持ちは任せるよ」


「お任せ下さいシズ様」


 アイが恭しくそして僅かに金属音をさせながら一礼すると、ボクっ娘が右腕を元気に振り上げる。


「じゃ、買い物に行こうかー!」




 そうして街の中心へと繰り出したが、街の賑わいはハーケンやアクアレジーナと同じくらいだけど、人種の多さが違っている。

 しかも一部には、人型や馬型のゴーレムが荷物運びなどに労働に従事している。

 しかも一度だけ、蒸気で動く車と機関車の中間のような乗り物までが動いているのを見かけた。

 また自転車が走っていたり、どこか懐かしい雰囲気のリアカーも結構見かけた。

 雰囲気的には、明治時代の日本の街っぽいのかもしれない。


 町並みもどこか現実世界の日本を思わせるデザインと雰囲気で、明らかに鉄筋コンクリートな建造物も少なくない。

 近世ヨーロッパ風、いわゆるなんちゃってヨーロッパと現代社会が、中途半端に混ざった感じがノヴァトキオだ。


 しかも中央広場の北の方には、黒塗りのせいで魔王の城のような某遊園地そっくりのお城がそびえていたり、森林公園の向こうには某映画の魔法学園に出てくるお城そっくりの魔法大学が見えたりと、アミューズメントパークっぽさもある。

 他にも、遺跡を再生したローマ帝国を思わせるコロシアムや野外劇場など見どころは多い。探せば他にも色々ある。

 この街に住んでいたら、確かにここでの生活がゲームっぽく感じるかもしれない。


 ただ、街の風下にあたる一角は別だ。

 煙突が沢山天を目指していて、そこから絶えることなく煙が立ち上っている。昔の記録映像で見た事のある、産業革命の頃の工業地帯の情景とよく似ている。


 この世界の基準で言えば桁外れに便利な生活を支える為の様々な製品の多くが、そこで作られてた。

 しかもそれだけでなく、便利で安価な工業製品のかなりはオクシデント中に輸出され、ノヴァに莫大な富をもたらしていると言う。


 ノヴァトキオは、今はまだ都市国家に毛が生えた程度の小国だけど、オクシデント世界ではいずれ世界に覇を唱えると言われる最大の理由だ。

 そしてその工業区画は、高い壁に囲まれている。


 一般的には無駄に巨大な軍事力というか、大国並みの数の魔力持ち、つまり『ダブル』の戦闘力からいずれ大国になると言われている事になっている。

 けど本当の力の根源は、こうして『ダブル』が持ち込んだ新規な技術と、それが生み出す製品にあるのだそうだ。

 蒸気で動く船などは、そうした力の象徴としてすごく注目されているらしいし、鉄道の敷設計画も既に進んでいる。


 更に言えば、革新的な農業技術によって、人口に比して比較にならないほど農業生産力があり、食料は他と比較にならないくらい多彩で豊富だ。

 その上、医療技術、公衆衛生技術、都市部での上下水道の完備等で、死亡率が異常に低いなどなど、現代技術によるアドバンテージは数えきれないそうだ。


 そのアドバンテージの一つとなる子供や解放奴隷への義務教育や基礎教育も、この世界にはない概念なので、諸外国がノヴァへの不気味な視線を向ける原因の一つになっていたりもする。

 多くがこの世界の常識から外れているので、諸外国からしたら国丸ごとで怪しげな儀式でもしているように見えるらしい。

 それでいてノヴァは、海と魔物の領域で人の国、人が多く住む領域と隔てられているので、この世界の国は手をだせない。


 もっとも『ダブル』のほとんどは、この世界で少しでも楽な生活、便利な生活をしつつ気楽に冒険や旅行がしたいだけで、世界とかどうでも良いと考えている。

 オレもその考えには大賛成だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ