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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第4部

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305「シズさんの秘密(1)」

 シズさんが玲奈とオレを順番に見つめ、そして話し始めた。


「妙なところを見られたので、誤解されないよう一通り話すよ。ただ、私の家の者には内緒で頼む」


「はい」


「勿論です。ていうかオレ、シズさんの家族とほぼ面識ないですけど」


 そう、オレは遠くで会釈したくらいでか、シズさんの家族は知らない。

 神社で神主姿の男性に軽く会釈したくらいだ。

 そしてその言葉に、シズさんが小さく頷く。


「それもそうだな。なら、そのままの方が今は有難いかな」


「それで?」


「ああ。玲奈の話は、私が個人的に玲奈の家庭教師をしている話が、家族が誰かと雑談している間に漏れて、それが巡り巡って氏子が経営している学習塾に伝わったんだ。

 何しろ私は良い学校に行っているから、居るだけで宣伝になるからな」


 後半の口調は冗談半分の口調だけど、皮肉も混ざっていた。


「それじゃあ」


「うん。行くわけない。これ以上縛られるのは御免だ」


 オレ達もつられて頷いてしまったが、これで玲奈の懸念は消えたわけだ。

 しかし今日の一件がある。二人の視線を受けて、再びシズさんが口を開く。


「それで、玲奈は昔から知っているが、私は10歳の頃に街でスカウトされて、それからファッションモデルの仕事をしているんだ。

 小学5年くらいから一気に背が伸びて、自分で言い切るがこの見た目だ。自分なりに努力もしたお陰で、高校生の頃には相応に人気もあったんだ」


「私、載ってる雑誌いっぱい持ってます」


「玲奈は私のファンだもんな」


 二人が同時にニコリと笑みを浮かべる。テーブルを隔ててなければ、軽く抱き合っても不思議ないくらいの雰囲気だ。

 いつ見ても、こういうところは、ちょっと百合っぽい。


「それじゃあ、今日もモデル会社で打ち合わせとかですか?」


「ああ、そうだ。ただ、高三の冬くらいからは、受験ということで仕事をほぼ止めてもらっていたんだ。

 そこに来て向こうでのゴタゴタで、精神的にモデルが出来る状況ではなかった。

 合格発表後は、有難いことに事務所から再三復帰の声をかけられていたが、正直どうでもよかった程だ」


「そりゃあ、そうですよね」


 平凡な返答しかできないのが少し不甲斐ない雰囲気を一瞬滲ませる。しかしそれも一瞬だった。


「うん。だが、ショウやみんなのお陰で、7月半ばに悪夢からも解放された」


「だから復帰しようと?」


「ああ。ちょうど解放された次の日にマネージャーから連絡があったんだが、あんまりにも気分が良いから思わずオーケーの返事を、な」


 シズさんの本気の苦笑だ。それでも絵になるから美人は得だ。


「けど、シズさん的には凄く良い事ですよね。家の方で問題が?」


「氏子からクレームがあったんだ。モデルなんて浮いた事をせず、塾の講師の誘いがあるんだからそっちをしろ、とな」


「だから内緒でモデルの仕事をしてたんですね」


「ああ。今日も友達と遊んでいる事になっている。まあ、念のため口裏合わせしてくれる友達も、同じ事務所のモデルや女優だがな」


 美人は注目を集めやすいと言われる。そのうえ飛び抜けて頭も良いとなれば、厄介事が向こうからやって来やすいのだろう。

 オレには縁のない話だけど、シズさんならさもありなんと納得させられる。

 しかし話には続きがるようで、「ああ、それと」と続く。


「家庭教師の方は、ショウと悠里ちゃんも抱えていたお陰で、無事断ることが出来そうなんだ。だから、今後も続けさせてもらえると、私としてはとても助かるんだが」


「それはオレ達からすれば願ったり叶ったりです。悠里なんて、嬉しくて踊り出しますよ」


「それは良かった。それで、ショウは踊ってくれないのか?」


 シズさんの態度が少し砕けてきた。話すことを話して、気分がリラックスしてきたんだろう。

 表情にも会った時よりも余裕が伺える。


「踊ったら悠里の罵倒が飛んできますよ」


「それは迂闊に出来ないな」


「マジでマジで。それで、モデルの方は?」


「もう先月末頃から撮影もしているから、雑誌に載るのはもう直ぐ出る来月号からだ。だが、簡単にバレることも無いだろう。だいたい、氏子の年寄り連中が手に取るような雑誌でもないしな」


「なら、そっちは安心ですね」


「ああ。ところで、今日この後は?」


 自分のことを言い終えリラックスしたシズさんの興味深げな表情に、玲奈と二人で顔を見合わせる。


「なんだショウ、ノープランなのか?」


 軽く失望した表情を浮かべるが、もちろん演技だ。と思いたい。


「ていうか、ほぼ消化し終えたところです。それにもう4時半だから、そろそろ帰る事考えないと、ですし」


「健全なんだな」


「あ、当たり前です! 私たちまだ高一ですよ」


 玲奈が顔を赤くして抗議している。今日からは横顔でも髪が邪魔をしてないので、表情が伺いやすい。


「アハハハ、そうだったな。むしろこれくらいが普通か。だが、もう少しくらい冒険してもいいんじゃないのか。高一の夏休みも残り後少しだ」


「煽っても、酒の肴になるような話題は提供しませんからね」


「こっちではまだ酒は飲んでないんだが?」


「そうなんですか? 向こうじゃ飲まないと眠れないとか言ってるのに」


「そうなの、ショウ君?」


 玲奈がシズさんじゃなくてオレに聞いてくるあたり、少なくともこの件に関しては、はぐらかされるか本当の事は話してもらえないのだろう。

 まあ、どうでもいいと言えば、どうでもいい話だ。


 シズさんは、オレと玲奈の反応を面白げに見ているが、からかうのはここまでのようだ。

 玲奈への誤魔化し笑いも、半ばお約束でしているだけだ。


「アハハハ、馬脚が現れないうちに退散させてもらうよ。今日はデートなのに、本当に悪かったな。いや、ごめんなさい。せめてもの罪滅ぼしに、ここの払いだけでもさせてもらうよ」


「え、あ、はい」


「えーっと、いいお店に誘ってもらってありがとうございました」


「お礼を言うのは私の方だよショウ」


 そう言って静かに去った。

 姿勢や歩き方が綺麗だと思っていたが、モデルをしている影響だったのだ。


 と、シズさんの余韻に浸っていても仕方がない。

 それに彼女を前にして、他の女の人の事を考えるとか失礼極まりない。


 もっとも、シズさんの姿を憧れ目線で追いかけているのは、どちらかと言うと玲奈の方だった。

 そんな彼女の横顔を見つつ気を取り直す。


「この後どうする?」


「そ、そうだね。……この後は、本当にノープラン?」


 その言葉には、誤摩化し笑いをするしかない。


「格好付けたいけど、生憎ね。色々調べたけど、他は背伸びしたプランばっかりだから、オレがおバカなところを晒すだけになると思うし」


「アハハ、大丈夫だよ。私なんて、男の子とデートなんて初めてだし、凄く楽しかった」


「過去形にしないでくれよ。一応まだ終わってないんだし」


「そ、そうだね。じゃあ、何しよっか」


「そうんだなあ、短時間で出来ること……この近くの大きな公園にでも行こうか」


「そういえば有名な公園があったね」


 それで決まり、もうしばらくカフェで過ごした後、ゆっくりと歩きながら大きな公園へと向かう。

 季節はようやく残暑になりつつあるので、夕方の5時にもなると気温も少し下がってきている。


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