300「ノヴァの飛行場にて(2)」
「むさ苦しい面々と話すのが面倒くさかっただけよ。疲れてるし」
どうやら違ったようだ。他の3人も首を縦に振る。
確かに全員お疲れモードだ。
そして人目も気にしなくていい場所を歩いていたので、歩きながらダラダラと話し始める。
「あの人達、体育会系ですよね」
「それに軍隊って男社会だから、火竜公女さんとか尊敬するよー」
飛行組の半ば呆れた感じのコメントに、ハルカさんが小さく苦笑する。
「男爵婦人は強いイケメンが大好きだから、好きで軍に居るのよ」
「そう言えば、ショウにも軽くちょっかいかけていたな」
シズさんの言葉で、話がすぐに逸れていく。
どうやらオレの弄りタイムらしい。
「ショウは彼女の好みじゃないわよ」
「どうかな。少なくとも強さは十分だろ」
「で、お兄ちゃんは、ああいうタイプどうなの?」
一瞬でオレの好みに話題が変わっている。
とは言えオレを弄るのは、緊張から解放された上での会話という事だ。
「ああいう、グイグイ来すぎるタイプは苦手。オレ、陽キャじゃないし」
「自分で言うかなあ。まあ、もう一人の天沢さんの以前の情報だと陰キャだったと思うけど、今はそうでもないでしょ」
「そうよね。さっきでも普通にショウから話せてたし」
「何かあれば口を挟もうかと思っていたが、必要なかったしな」
「何にせよ、余計な事は全部断ってくれて助かったわ。今は早く博士の館に戻って、ゆっくりお風呂に入りたいもの」
「「さんせー」」
という女子勢の言葉通りレイ博士の館にすぐにも戻うとしたが、飛行場の片隅に顔見知りを見つけた。
「あっ!」
「えっ? 何?」
「ちょっと待ってて。知り合いを見つけたから!」
「え? うん」
怪訝な顔のみんなを残して、ダッシュでその人の元に向かう。
間違いない山田さんだ。
オレが近づいたところで、向こうも気づいた。驚いているみたいだけど、これは手間が省けたというものだ。
「こんにちは。いや、こっちでは初めましてですね」
「こ、こんにちは。つき、いやショウさん」
思った以上に驚いている。
引いてなければいいけどと思いつつ、言葉を探す。
「はい。あ、なんてお呼びすれば?」
「リョウです」
「じゃあ、リョウさん。今から行けますか?」
「昨日言ってた紹介の事?」
「そうです。こうして見かけたのも何かの縁ですし、早くてダメってこともないと思って」
「分かった。でも今は、スケブと財布くらいしかないんだけど」
そう言ってトートバックを軽く掲げる。
確かに軽装だ。
「大丈夫です。レイ博士の館は、旅館みたいにたいていの物は揃ってますから」
「と言う訳で、よろしくお願いします」
山田さん改めリョウさんが、みんなの前でかなり深く頭を下げる。少し顔を赤らめているが、初対面で緊張しているのだろう。
山田さんの出で立ちは、ルネッサンス時代の絵描きと現代のチノパンルックを足して二で割った感じなので、見た目で『ダブル』と分かるタイプだ。
そしてみんなも、それぞれ簡単な挨拶を交わす。
「絵描きさんかー。オタクな絵もオーケー?」
「む、向こうでは藝大生です。オタクっぽい絵はちょっと苦手ですね」
「それなら、ショウの言う通り実在するものを描き出すのに向いてるな」
「どっちにも記憶以外持ち込めないものね。けど、どこで知り合ったの?」
女性陣もそれなりに興味はあるらしい。
まあ、否定的な雰囲気は低いので、連れて行って大丈夫だろう。
「あ、それは、」
「ぼ、僕がショウさんの部活が作った『アナザー・スカイ』のサイトを見て、その情報を話しているってツテで聞いて、ショウさんの学校まで押し掛けたんですよ」
リョウさんに、オレのセリフと取られてしまった。
しかしリョウさんの視線は、レナに多めに注がれている。どこかで釘を刺すべきだろう。
「じゃあ、私達の事も?」
「ショウさんが、みんなに話しているレベルでは存じてます。本当に会えるなんて、まだちょっと夢を見てるみたいです」
「ここは『夢』の向こうだけどねー」
「あ、アハハハ、そうですよね」
悠里は少し離れた場所で聞いているのみだけど、思ったよりみんな受け入れてくれて良かった。
しかし悠里は、突然の新顔に戸惑ったりしてるのかもしれない。何しろまだ中三の子どもだ。一応声をかけた方がいいだろう。
そう思って、さりげなく二人で話せる状況を作った。
「悠里、どうした?」
「何でもない。てかさ、全然陰キャじゃないじゃん」
「リョウさんがか? 失礼だぞ」
「ちげーよ。このクソ!」
何故かご機嫌斜めのようだが、その後リョウさんとも普通に話していたので、悠里がリョウさんに何か思っていたりしたのでなかったようだ。
そしてライムとヴァイスに分かれて、レイ博士の館へと戻った。





