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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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136「キーアイテム?(1)」

 ついに連中の本当の目的が出てきた。

 そしてこちらには、それなりの好条件が提示されているので断り辛い。

 一瞬目配せした後、ハルカさんが口を開いた。


「分かりました。しかし空での戦いは、空士レナ個人の戦いと言えますので包み隠さずお話させていただきました。

 ですが、ウルズ王宮での『魔女の亡霊』の鎮魂は、アースガルズ王国から神殿、そして私が依頼を受けて行ったもの。神殿並びにアースガルズ王国の許しなく、多くを語る事ができない事をお許し願います」


「なるほど、確かにおっしゃる通りです。では、話せるところのみで構いませんので、お教え願えないでしょうか。

 我々としても、非公式にせざるを得ないとはいえ、多くの者が『魔女の亡霊』に倒されております故」


「はい。……あなた方の同胞の多くは、強力な亡者達の剣と『魔女の亡霊』の強大な炎の魔法によって倒されました。また、一部誤解と齟齬があり、私どもに向かってきた者らを討取っています」


 オレ達が『帝国』兵とやりあったと言っても、エリート官僚の表情は全く変化はない。

 ポーカーフェイスを装っているのか、既に調べが付いているのかの、どちらかだろう。

 それに事が動いている間、あれほど秘密の保持に拘っていたのに、もうそんな雰囲気はまるでない。


「そうでしたか。神殿並びに神官に対するあってはならない非礼、その者らに代わり深く謝罪させていただきます」


「あの場での混乱は、我々も当事者ですのでよく存じています。致し方なのなかった面もありましたので、『帝国』と神殿の関係が悪化する事はないでしょう」


「寛大なお言葉、痛み入ります。それで、王宮地下で朽ち果てていた巨大な石巨人について、何かご存じですか?」


(もうそこまで調べているって事は、知らないことの方が少ないんじゃないのか?)


「あの石巨人は、『魔女の亡霊』の本体が操り襲いかかってきたので、我々が破壊しました。そしてあの中に潜んでいた『魔女の亡霊』本体を討ち取り、その後私の手で鎮魂を致しました」


「それは素晴らしい。それで、『魔女の亡霊』の本体とは一体何だったのでしょうか」


 そこで探るような雰囲気が強くなる。これが一番聞きたいことなのだろう。

 あえて聞きたいという雰囲気を出すことで、それをこちらに知らせているように思えた。


 しかしハルカさんは、あっさりと口にした。

 恐らく「真実」を話すことで、シズさんの安全を少しでも確保しようとしたのではないだろうか。


「……あの遺跡に安置もしくは封じられていた、魔導器の水晶球が本体であろうと私どもは見ております。しかしその水晶球は戦争によって酷く歪んだ魔力、つまり『魔女の亡霊』に侵されておりました。

 そして、アースガルズ王国の魔導騎士アクセル卿の手によって破壊され、私がその水晶球から解き放たれた『魔女の亡霊』の魂を鎮めています。

 この件については、すでに総大神殿、アースガルズ王国にも報告しております。いずれ神殿などからの発表がある事でしょう」


 全てはアクセルさんと決めた話だ。そして私が鎮めたの辺りで、ハルカさんが少し大げさに自身を指差すように胸元に手をやる。

 ちょっと芝居がかっているが、この世界での偉い人同士の外交としての会話はこんなものらしい。


「では、あの遺跡の奥には岩巨人とその水晶球があったのみですか?」


「すべてをお答えできませんが、岩巨人を動かすための魔力を供給する魔石が多数あっただけでした」


「そうでしたか。いや、本当にありがとうございます。お話できかねるような内容までお教えいただき、感謝の念にたえません」


「いえ、これであそこで倒れた者達が、少しでも浮かばれればと思います」


「誠に慈悲深きお言葉、重ねて感謝いたします。ところで、あの岩巨人を倒すほどのお力をお持ちの方なら、皆様の力がお強いだけでなく、さぞ素晴らしい武具をお持ちなのでしょう。

 誠に失礼を承知でお願い申し上げるのですが、後学のために遠目からでも拝見することはできましょうか?」


「……触れたり魔法で鑑定しないのであれば」


 ハルカさんの言葉と視線を受けて、オレとシズさんで中身を出していく。

 オレを含めてみんなの感情としては、これで『帝国』との関係を終わらせるため、致し方なしといったところだった。


 袋に入れてあったのは主にハルカさんの武具とオレの剣、レナの弓になる。

 ヴァイスにだけ載せる戦闘用装備は、アクセルさんの屋敷に置いてあった。


 また、短剣や軽装の鎧はそのまま身につけているし、装飾品系は多くが身につけているので意外に少ない。

 そして袋の中には大量の魔石があるが、それは面倒なので出さないでいたが、できれば見たいなーという目線を向けられてしまう。


「残りは龍石か魔石だから、特に見せるようなものでもないですよ」


「そうでしたか。その袋の上で独りでに動いているものがあったので、つい関心を向けてしまいました。申し訳ありません」


 なるほど、浮遊石を入れた小箱が袋の中でフヨフヨと勝手に動いていたようだ。そこで、これぐらいならと袋に手を突っ込んで取り出して見せる。


「この箱の中に、古い浮遊石の結晶があるだけですよ。見ますか?」


「願わくば是非に。我が国が浮遊大陸に存在するのは周知ですが、そのため浮遊石にはとりわけ強い関心がございます」


 浮遊石の結晶という言葉にすごく反応する。なんだか、このエリート官僚の生の感情に初めて触れた気がした。

 そして、もしかして『帝国』の本来の探し物ってこう言うものなんじゃないかって思えた。

 そこで、一芝居うってもいいかもと思った。

 一瞬だけ視線を向けたシズさんも、目線でゴーサインを出してくれていた。


「これと魔石の幾つかが、あそこの地下にあったものなんですよ」


 ゴロゴロと魔石、龍石も出して、袋の中のものをすべて出してしまう。

 これ以上何か隠し持っていると思われても、後で面倒がありそうだと思えたからだ。

 それに石に関心を向けさせて、オレの大根役者ぶりを少しでも誤魔化すためでもある。


「それを見せていただけるとは、ありがとうございます」


「いえ。それより、これをお近づきの印に差し上げます。構いませんよね、ルカ様」


「ええ、元々どこかで売る予定でしたからね」


「お譲りいただいて構わないのですか?」


「どうぞ。オレ達にはあんまり価値のないものです。価値の分かる人が持つ方がいいでしょ」


 そう言って小箱を差し出すと、少し探るような目線を向けてきた。こう言う目線は好きじゃない。

 そう思ったところで、シズさんの一言がエリート様に突き刺さった。


「ショウ、浮遊石の結晶は物によっては非常に高い価値を持つ。それは所有者の意思に関係なく魔力を吸収して浮力を増すものなので、単に希少なだけでなくかなり高価だ。箱の方も、恐らく魔力を遮断しておく為の魔導器だろう。いいのか?」


「そのような高価な品を、無償でお譲りいただくことはできません。ここは是非買い取らせていただけないでしょうか」


「そうですね。けど、それならまずはちゃんと調べてください」


「確かにその通りですね。それでは失礼致します」


 エリート官僚と鑑定の魔法使いが慎重に箱の中の浮遊石を取り出し、そして魔法使いの手が触れた時点で、さっきと同じように淡く輝き、周りごと浮き上がろうとする。

 そして調べている二人に、かなりの驚きの表情が現れた。

 今まで沈黙して事態を見守っていたおっさんも、表情が驚きに変わっている。


 魔法使いは、石に触れるのをすぐにやめて箱に戻したが、今度はその場でひそひそ話を始めてしまう。

 偉い将軍や大国の商館の人間が、交渉相手のいる場でするようなことではないだろう。

 けど行わなくてはならないのだから、余程の事が起きたのだ。


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